いつかの時代、この世界は異界からの侵略者“インバーダ”によって脅かされていた。
街を破壊し人々の命を奪うインバーダによって絶滅の危機に瀕していた人類は、決戦兵器を開発する。
その名も、“モンストルム”。
人間を基に作られた、一見すると人間のコドモと変わらない姿をしたその兵器は、幻獣の名を持ち自らの意志で巨大な怪物の姿に変身する能力を有していた。
しかし、変身後の姿の恐ろしさや精神が不安定になると暴走する危険性から、人々に恐れられている一面もある。
それでも彼らは人類の最後の希望であることに変わりなかった。
『こちらヘリ、目標はクララドル市中心部に向かって侵攻中、モンストルムの追加派遣願います』
『こちら本部、“ゲーリュオーン”をそちらに向かわせる、それまで持ちこたえてくれ』
『こちらヘリ、了解』
クララドル市インバーダ対策課、通称CIMSの本部では、そんな通信が飛び交う。
『こちら本部、“ゲーリュオーン”、通信は聞いたな?』
「ああ」
長い茶髪を高い位置で束ねた”ゲーリュオーン“が、街中を槍片手に駆け抜けながら答える。
ゲーリュオーンが走る街中は、人々がすでに避難してすでにもぬけの殻だ。
「敵は市の中心部に向かって進撃中、対応に当たっている他のメンバーだけじゃ抑えきれないから自分を派遣した、それで合ってるか?」
ゲーリュオーンがそう聞くと、本部にいる司令は察しがよくてよろしいと返す。
『頼んだぞ、ゲーリュオーン』
司令はそう言って通信を終えた。
「…言われなくとも」
ゲーリュオーンはそう呟いて突然立ち止まる。
目の前にはこちらに向かって進む巨大な異形の怪物がいた。
「€_=]$;”*{!|^}><^‼︎」
異形の怪物ことインバーダはゲーリュオーンに気付くと立ち止まって、威嚇するように唸った。
「…お出ましか」
ゲーリュオーンはそう呟いてインバーダの目を見ると、右手に持つ槍を投げ捨てた。
そしてこう呟いた。
「…変身」
変わりたかった。
変われなかった。
忘れたかった思い出と生きていた。
忘れられない思い出に生きていた。
ずっとあの横顔が目に焼きついていた。
またその横顔を眺めたいと思っていた。
髪を切った。
「長い髪、似合うね」を断ち切りたかった。
首もとに涼しさを感じた。
夏なのにな、と思った。
私のことを覚えているかなんて
そんなことすら忘れてしまおうと思った。
そして前を向いた。
着信が来る。
『ごめん、また寝坊した
待ってて』
くすっ、と一人で笑う。
今年の夏こそいい夏にしてやる。
私はこの恋に生きたいのだ。
いや、決めた。この恋に生きてやる。
鼓動がうるさい胸に手を当てる。
玄関で服装を整えて、鏡の中の私に言う。
「変身!」
私は大きな溜息を吐く。
自分を創造した作者のせいで、やれ「量子力学」だの「なんとかの猫」だの小難しい事ばかり口にしなければいけないから。ほら、もう名称を一つ忘れた。
あとは「インテリ」という言葉を使わないでほしい。私にはとても荷が重く、おまけに全く似合わない。
黒髪 + 眼鏡 + なんかクールな雰囲気 = インテリ少女
そんな都合の良い方程式があるわけないでしょ!
うん、よし……こうなったら変身しよう。
今度は何になろうかな?恋愛ノベルによくいるモテヒロイン?名家の生まれの悪役令嬢?いっそ振り切って、戦隊モノの黒幕とかも面白そう!
少女はウキウキと想像を膨らませながらこう叫んだ。
「変身!」
件の映像を見せると、嫁が「これって本当にドイツの映像なのよね?映像に映り込んでしまってる現地の人があげている歓声は英語に似ているけど英語じゃない他の言語なんだけど、背景の花火は日本のものそのままで合成っぽいんだけど…特に、スタートのヒューって音,海外の花火では鳴らないイメージなんだけど…でも、何か変ね。もし本当ならどうしてドイツで日本の花火が上がってるの?」と訊いてきたので「それは、世界的に見ても有名な日本人街のあるDüsseldorf (デュッセルドルフ)で行われているJapan Tag(ヤーパンターク)だね。
名前の意味は『日本の日』で、日本とドイツの文化交流で大きな役割を果たしているお祭りで,その中でも1番人気がこの花火なんだ。俺達はすぐ船で海外行くし,向こうに着いたら日本は夏で花火シーズンだけど現地のを見るには早すぎて見らんないはずだから今年は花火諦めてたんだけど、まさかこれが数時間前にあったとはな」と返すと嫁が「花火っていつ見ても綺麗やね」と言っているので「普通に見れば綺麗かもしれないけど…俺からすれば愛しの嫁の方がもっと綺麗だから、ドイツにいる人には申し訳ないけどこの花火の魅力、俺にはわかんないや」と正直にコメントする。
そしたら、嫁が照れ隠しのためかアッパーで俺を小突いてきた。
かつては女性や老人もいるこの街に容赦なく降り注いだ炎の花は,平和の証として敵味方の区別なく,またかつての同盟国であり技術や文化も共有しあった国とは2度と途絶えることのない友好の証として年に一度、その姿を見せて今も世界中を虜にしている。
そして、その花火を見ている若者2人を乗せた気動車は,武蔵野台地を駆け抜ける。
俺達を乗せた高崎行き気動車が高麗川を出てすぐ、スマホに一件の通知が届く。
その通知はあのロンドンの幼馴染からの動画付きのメッセージで「おはよう。まだ僕はヨーロッパにいるよ。日本はもう午後かな。実は、君が何年も前にイギリスまで来てくれた後ヨーロッパを旅行した当時の行程全て再現できてその後個人的にヨーロッパを周遊しているんだけど、昨夜ドイツのとある街で年に一度のお祭りがあって,そのクライマックスのイベントの映像が撮れたので送るね」と書いてあった。
まず俺がその動画を確認すると、「日本の夏の風物詩であるが,夏には南太平洋のどこかを船で航行しておりいて見られないもので,海外と日本では文化が異なり、国によっては安全上の観点から法律で市販や使用そのものが禁止されていたり,夏では無くて何かのお祭りか国の独立記念日,あるいは年の瀬のクライマックスにしか見られないのだが渡航先では時期が合わなくて今年は見られないはずのもの」が映っていた。
それを見て、俺は思わず頬を緩めており、次の瞬間嫁が「何があったの?」と訊いてきたので「ロンドン行ったのは覚えてるだろ?その時に一緒だった俺の幼馴染がドイツで昨夜、まぁ向こうの時間だから数時間前に撮ったという映像なんだ。
にしても、もうこんな時期なのか」と言ってその映像を見せると嫁が「これ、日本じゃないのに日本みたい」と言って笑っている。
「ぁー……増えてきたねぇ、新型」
ドローンのカメラが映す映像に苦笑しながら、明晶は光の力を回復する薬剤を一口吸った。
映像を出力したモニタには、数日前に彼女が潜むトタン小屋を襲撃したものと同タイプのカゲの姿が多く見られていた。
「せっかくだし、名前でもつけてあげようかな。ちょっとは愛着も……いや湧いちゃ駄目なんだけど」
ケラケラと笑っていると、部屋の外から荒々しい足音が近付いてきた。
「んー、何だい親友、今日は随分と激しいエントリーじゃないか。そんなにワタシに会いたかったのk」
「プロフ! 輝士拾った!」
「はぁん?」
怒鳴りながら部屋に入ってきた吉代の肩には、気絶した輝士の少年が担がれていた。
「……何その子? まだ若いね、15歳くらい?」
「知らん。それよりちょっとマズいことになってんだ」
吉代が床に下ろしたその少年の右腕はカゲに浸蝕され、新型の触手のように異形化していた。
「うわぁ……カゲに堕ちかけてる」
「光の力を使い果たしてるんだ。これ、どうにかできないか?」
「…………」
顎に手を当てて考え込む明晶の背後で、ドローンのカメラ映像が途切れ砂嵐に変わった。ドローン機体そのものが、カゲに撃墜され破損したのだ。
「プロフ?」
「……いやね。まあ道はあるよ、親友。君の特別強い光の力に中てられて、彼の身体を浸蝕するカゲもノロマになってるんだ。これは僥倖だったね」
言いながら、明晶は床下収納を開き、その中に隠していた鍵付きの箱を滑車で取り出した。
「……実を言うと、カゲに染まった肉体を治療する方法はちょっと思いついてないんだ、悔しいけど。だから、カゲに堕ちた部分をまるっと『斬り落とす』」
箱を開くと同時に、冷気が白い霧となって漏れ出す。その中から明晶が取り出したのは、無数の小型機械や配線が繋げられた、刃渡り30㎝、全長1mはあろうかという巨大な外科用メスだった。
「あ、露夏」
手に持つお盆の上にティーセットを載せたコドモは、露夏の姿を見とめるとそう呼びかける。
「来てたんだ」
エプロン姿のコドモの言葉に、露夏はよーかすみと手を振る。
「やっぱ外は暑いな」
「今日は猛暑日だってね」
かすみと呼ばれたコドモはテーブルの上にお盆を置きながら露夏と会話を交わす。
「露夏もなんか飲み物いる?」
「あーじゃあオレンジジュースちょうだい」
露夏がそう言ってかすみはオレンジジュースねと返した時、バタバタと階段を駆け上がる音の後物置の扉がばたんと開いた。
「!」
そこには金髪に角の生えたコドモが立っていた。
「…どうしたのきーちゃ」
「みんな聞いて聞いて!」
金髪に角のコドモは興奮気味に言う。
「今度、隣街で“はなびたいかい”があるんだって!」
みんなで行こうよ!と金髪のコドモは飛び跳ねる。
「やあ相棒。ちょっと助けてくれるかな?」
勢い良く足元に転がってきた水呼に求められ、亮晟は無言で彼女の身体を持ち上げた。
「どうした?」
「やー、あの子にちょっと絡まれてね?」
「ほう」
亮晟が見上げた先には、異形の腕と顎を具えた月がにたにたと笑いながら近付いてきていた。
「……お前何したんだ相棒」
「そう言わないでよ。君の相棒を胸張って名乗れるようになりたくてさ、私もそこそこ頑張ってたんだよ?」
「へえ」
「まぁー……その結果ちょっとだけ人の身を外れちゃったよね」
「それで、“総大将”に目を付けられたと」
「ははは。まー私は女王様に後見されてるし? いざとなったら助けてもらえるんだけどね? あんな小さい子に危険な目に遭ってほしく無いじゃん?」
「……だからフリーの俺に相手しろと?」
「そゆこと。ほらほら相棒、いっちょカッコよく決めちゃってよ」
水呼が亮晟の背中に隠れ、月の方を指差した。彼我の距離は既に5mを切っている。
「んぉー? “モンスター”やんけ。怪獣はまだ喰った事無かったからなァ……ちょぉーっとバカシ味見させて?」
「……やってみろ。『病霞』、来ませい。『装竜』……変身」
遅延して品川止まりになっているサンライズエクスプレスを横目に六郷川を渡り,川崎に着いて乗り換えのために東海道線から降りた。
「この電車だと…東神奈川で乗れるのは横浜線快速か。そして、町田で乗り換えれば淵野辺は何とかなるな」そう呟きながら俺は後続の京浜東北線普通磯子行きに乗り込んだ。
一方その頃、嫁を乗せた東海道線普通電車は京浜急行快特と両者一歩も譲らぬ並走バトルをしていて間もなく新子安を通過する頃だろう。
その後、嫁は桜木町,関内,茅ヶ崎の順に俺たち夫婦の両方に課された発車メロディ録音のタスクをこなしてゆきもう海老名に着いたそうだが一方の俺はというと,そのタスクをこなすために既に淵野辺に着いていたが、こちらが録音できないほど短く切られる為ここで合計30分も時間を無駄にしてしまい、ようやくまともに録音できて各駅停車に乗り換えて橋本に着いたら向かい側のホームの相模線から降りて来たという嫁が合流して来た。
そして、八王子で嫁にも件のうどんを奢り2人で八高線出発の5分前に出る中央線快速で立川に行き,かなりギリギリのタイミングで青梅行きの各駅停車に乗り換えて拝島で降り、乗り換えた八高線の電車が箱根ヶ崎のあたりに差し掛かったから在日アメリカ軍の心臓部とも言える横田飛行場から練習機が連続で離陸するのが見えた。
そして、高麗川に着いた。
高崎までの気動車の旅が間もなくスタートするが、まさか時期外れの花火の映像が見られるとはこの時はまだ予想もしていなかった。
横須賀・総武快速線の列車が発着する地下ホームに下りたは良いものの東京湾周辺の強風により京葉線と内房線がどちらも運転見合わせになり,また佐倉での安全確認の影響で成田方面にも抜けられず、更に8時1分発君津行きも途中の千葉止まりになるという旨のアナウンスを聞き頭を抱えるが、時間がもったいないのでひとまずコンコースに戻ってプランを練り直す。
今の所行ける選択肢は2つで,まずは上野東京ライン常磐線直通の電車で一気に友部まで行き,そこから小山,高崎と出て八王子に抜けるルート,もう一つは東海道線で川崎・東神奈川経由の横浜線ルートないし茅ヶ崎経由の相模線に乗り換えて橋本、八王子経由で高崎から小山に出て小山から湘南新宿ラインに乗り換えるルートだ。
嫁も同じ考えだったのか、上野東京ラインへの乗り換えに便利な新幹線乗り換え改札の前に立っている俺を見つけるなり駆け寄って来て「あなたも知ってる通り選択肢2つあるけど、一緒に行こ?」と提案してきた。
「そうだな…でも、この必須のチェックポイントどうするよ…この調整は厳しいぞ」と呟き返すしか無く暫く考えているとどうやらもう京葉ホームとの往復の間に調べてくれていたのか「それなら、私は桜木町と関内のチェックポイント通って茅ヶ崎経由ね。あなたは淵野辺行ってチェック受けた後八王子でマストイートって書いてあるうどん食べたら豊田でも録って立川経由で拝島行ってくれる?私は八王子に着いたらすぐに出る八高線に乗ると八高線の本数は少ないから私のヤツと拝島で合流できるよ」と嫁が言ってくれたので「つまり、その先は高崎,小山,友部、我孫子、北千住、日暮里、赤羽、新宿というルートかな」と確認すると嫁が無言で頷く。
「そうだ!念の為駅弁2食分買い込んだけど食べるか?」と訊くと「それなら、グリーンで食べればちょうど良いかも」と返ってきたので思わず「そうだな。でも、時間の関係でたまたま目の前に出てた人気の高いヤツしか買えなかったから俺は自腹チャージせんと帰りしんどくなるべ」と自虐的に笑うと「グリーンは私が出すから安心して」と返ってきたが「Suicaで2人分は物理的に無理な筈や」と笑って返し、東海道線ホームの上の券売機で即行チャージしてすぐにやってきた熱海行きに乗り込むと偶然にも平屋で並びの座席が空いていたので天井にICカードをかざして座るとすぐに発車して一路、西に向かう。