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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 24.ヴァンパイア ㉘

「わっ」
わたしはその人とぶつからないように身体をよじったことで足がもつれてしまい、そのまま地面に尻もちをついてしまう。
幸い相手は転ばなかったが、全速力で走ってきたわたしに驚いて、だ、大丈夫⁈と心配してくれた。
「へ、平気です…」
わたしはすぐに立ち上がりつつその人に謝る。
高校生くらいと思しきその男の人は、ならよかっ…と安心したように言いかけた。
しかし最後まで言い切らず、彼はわたしが元来た方を見やる。
「…」
彼は何かを感じたかのように路地の奥を凝視していた。
わたしはそれが気になったが、ヴァンピレスに追われているのでとにかくその場をあとにしようとする。
その時だった。
「…こっち‼」
わたしとぶつかった男の人が、わたしの右腕をバッと掴んで駅の方に向けて走り出した。
びっくりする程の強い力に引っ張られて、わたしは何が何だか分からないまま駆け出す。
これから何が起きるのかさっぱり分からないまま、わたしは夕闇の中を走り抜けていった。

〈24.ヴァンパイア おわり〉

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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 24.ヴァンパイア ㉗

「貴女がわらわの提案に乗らないのなら、無理矢理にでも受け入れてもらうわ」
そう言って、彼女は右手に白い鞭を出す。
そしてそれを静かに振り上げた。
…マズい、そう思ったわたしは咄嗟に横にある路地に飛び込み、そのまま細い道を走り出す。
しかしヴァンピレスは待ちなさい!と叫んでわたしを追いかけ始めた。
わたしはとにかく、暗くなり始めた路地裏をひたすら駆けていく。
ひと気のない細道はひどく不気味で、時間帯も相まってあまり走っているのは気分がよくない。
だがとにかくわたしは逃げなくてはならない。
だってこの状況は、明らかにヴァンピレスがわたしの記憶を奪いに来ているからだ。
”記憶”と言ってもどこからどこまでのものが奪われるか分からないが、ネロ達との楽しかった思い出を奪われたくはない。
それにこの忙しい時期に記憶をなくすのはまっぴらごめんである。
そう思いながら、わたしはひたすら路地裏を駆け、人の多い駅前の方を目指した。
この街でも人通りが多い方である寿々谷駅前まで行けば、人目につくということでヴァンピレスも追って来れないだろうし、攻撃もしづらいだろう。
そう思いつつ駅前に近い細い通りへ繋がる角を曲がった所で、わたしは角から出てきた人とぶつかりそうになった。

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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 24.ヴァンパイア ㉖

「彼らが貴女の事を大切に思っていなくとも、彼らを信じるのね」
ヴァンピレスはそう言ってうつむく。
それに対し、わたしは…違うよと返した。
「これは、わたしの意思なの」
わたしにとってネロ達は、大事な友達だから、とわたしは力強く言う。
「だから、あの子達から離れない」
こういうのは、自分がどう思うかが大切だってあの子達に教えて…とわたしは言いかけた。
しかしその言葉は、ヴァンピレスの黙りなさい‼という怒号に遮られる。
「貴女は、貴女は…わらわの言う事に従ってればいいのよ‼」
わらわと一緒なら、貴女はもう困らずに済むのに…‼とヴァンピレスは震え声で続けた。
わたしは呆然と彼女を見ていた。
「どうして、どうして、どうして…‼」
ヴァンピレスはばたばたと地団駄を踏み、頭をかきむしる。
そして不意に…もういいわ、と顔を上げた。

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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 24.ヴァンパイア ㉕

「じゃあ聞くわ…貴女、わらわと手を組まない⁇」
ヴァンピレスはそう言って首を傾げる。
わたしは自分の答えをどんな風に告げるか少し迷っていたが、わたしに回答を促すように目を向けるヴァンピレスに気圧されたのと、さっきネロ達と話した内容に背中を押されたのとで、わたしは思い切ってこう言った。
「ごめんなさい」
わたしはあなたと手を組めない、とわたしは言い切る。
ヴァンピレスは…なぜ?と顔から笑顔を消して尋ねる。
わたしはそのまま続けた。
「だって、あなたと手を組んだら、もしかするとネロ達に危害があるかもしれないでしょ⁇」
「まぁそうかもしれないけれど…でも、必ずしもそうなるとは限らないわよ?」
わたしの言葉をヴァンピレスは否定するが、わたしはそれでも、と言う。
「わたしは、あの子達や、その仲間達が傷つく可能性があるのなら、わたしはあなたの提案を受け入れられない」
…だって!とわたしは語気を強めた。
「ネロ達は、わたしの大切な友達だから」
わたしははっきりと言い切る。
ヴァンピレスは傾げていた首を元に戻しつつ…そう、と呟いた。

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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 24.ヴァンパイア ㉔

「んじゃ、また今度ねー」
「まったな~」
ネロと耀平はそう手を振り合い、黎と師郎も手をちょっと挙げてそれぞれの変えるべき方向へと歩いていく。
わたしも、じゃあまた、と言って駅を背に大通りへと向かっていった。
辺りはそれなりに暗くなっているので、わたしは足早に通りを進んでいく。
夕方故か人通りの少ない通りを、わたしは無言で歩いていった。
だがわたしはふと足を止める。
…というのも、横道から目の前に1人の少女がふらりと現れたからだった。
「ご機嫌よう」
白いワンピースに白いタイツ、白いファーコートと白づくめの格好に、ツインテールで赤黒い瞳の少女…ヴァンピレスは、ミニワンピースの裾を軽く持ち上げ挨拶をする。
わたしはごくりと唾を飲み込んだ。
「貴女、この前の”提案”は忘れていないわよね?」
ヴァンピレスはわたしの顔を覗き込みつつ尋ねる。
わたしは怖いのを我慢して、もちろんと答える。
それを聞いてヴァンピレスはにんまりと笑った。

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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 24.ヴァンパイア ㉓

「とにかく、自分の意思によるって所だな」
おれ達的には、と耀平は手元のメロンフロートを一口飲んだ。
わたしは思わず黙り込む。
自分の意思、か…
それなら、わたしの意思は”これ”しかない。
「みんな、ありがとうね」
思わずそう呟くわたしを見て、ネロ、耀平、黎、師郎は不思議そうな顔をした。
それに気付いて、わたしは慌てて、あ、なんでもないよ!とごまかす。
それを聞いた彼らは、すぐにまた他愛のない会話に戻った。


そんなこんなで、わたし達はフードコートでおやつを食べ終えた後にまたショッピングモールをぶらぶらした。
そして夕方になったので。ショッピングモールをあとにして、いつものように寿々谷駅前で解散することにしたのである。

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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 24.ヴァンパイア ㉒

「俺達みたいな頻度で会っているっていうなら、友達を優先するかもしれないが…」
人による、って奴かねと師郎は呟く。
わたしは人による…?と反復した。
「そう、相手にもよる」
ソイツが自分にとって大事な存在であるかどうかが問題だな、と師郎は続ける。
「世の中には友達っていっても、ちょっと一緒にいるのがメンドいな~って奴もいるし、ずっと一緒にいたいって奴もいるだろ?」
だから自分にとってその友達が大事な奴かっていうのが重要なんだ、と師郎はテーブルに肘をつくのをやめてイスに座り直した。
「え~師郎珍しく良い事言うじゃーん」
不意にネロがそう言ったので、師郎は笑いながら、なんだよ普段はもっとテキトーだって言うのか?と彼女に言い返す。
「俺はこれでもこのメンツの中で一番年上なんだぞ⁇」
「それそんな関係ないでしょ~?」
そこの一般人は置いといて、ボク達は過去の異能力の持ち主の記憶を引き継いでいるんだしー、とネロは師郎に対し口を尖らせた。
師郎はそうだなと笑う。
と、話がひと段落した所で、耀平がわたしの方を見やって、ま、師郎の言う通りだと言った。
「友達を優先するか、自分を優先するかは、その友達が自分にとってどういうものか次第だ」
耀平はわたしの目を見ながら続ける。

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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 24.ヴァンパイア ㉑

「友達って言っても、色んな種類がいるじゃん?」
ズッ友とか、たまに話す程度、とかさーと耀平は笑った。
「とにかくどういう友達かにもよるな」
その提案は、と耀平はテーブルに肘をついた。
わたしはつい、うーんと唸る。
どういう友達か、そこまで考えていなかった。
でもこの場合、ネロ達の事はどういう友達と言えばいいのだろう?
「…で、その友達とやらはどういうのを前提にしているんだ?」
耀平が続けざまに聞いてきたので、わたしはハッとしてえ、えーとと答える。
「定期的に会って連んでる、くらいの仲…?」
「なんだそりゃ」
わたしの言葉に耀平は拍子抜けした。
わたしはご、ごめんあやふやで…と謝る。
すると師郎が…いや、それはいいんだけどもと口を開いた。
「定期的に会う程度なぁ…」
難しいな、と師郎は頬杖をついた。
「定期的に会うって言っても、その期間にもよる気がするぜ」
なぁ?と師郎が隣に座る黎に目を向ける。
黎はチョコレートのかかったオールドファッションのドーナツを食べつつうなずいた。

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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 24.ヴァンパイア ⑳

「あのさ、例えばの話なんだけど…もし誰かに、自分が得をするけど友達が損をするような提案をされたら、その提案って受ける?」
例えばの話として挙げたが、ヴァンピレスからの提案の話をオブラートに包んだだけでのことである。
ヴァンピレスがどこかで見ていたらマズいかもしれないが、それでも”例えば”の話だし、ネロ達には本当の話だって言っていないからきっと大丈夫だ。
まぁ、ネロ達が訝しまないかが心配だが…
「うーん、例え話か」
ネロは腕を組んでそうこぼす。
「それ、提案の内容がどういうのかにもよらない?」
ネロがそう尋ねるので、わたしは、だから例え話だよと付け足した。
「とにかく自分には利益が出るけど、友達にはどう考えても出ない…みたいな」
「ふーん」
耀平はメロンフロートのカップの中身をストローで吸い上げながら呟く。
「その友達が、どういう友達かにもよらない⁇」
耀平がストローから口を離しつつ言ったので、わたしは、ど、どういう事?と聞き返した。
すると耀平は、いや、さーと続ける。

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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 24.ヴァンパイア ⑲

「普段なら、こう…ガンガンおれ達の輪に溶け込もうとするのにさ、今日は全然じゃん⁇」
何か変だなーって、と耀平はネロと一緒に頼んだメロンフロートのアイス部分をスプーンですくった。
わたしはそ、そう…?と首を傾げてみせたが、今度はここで師郎が、まぁそうだよな、と会話に入ってくる。
「さっきゲーセンにいた時から気になってたけど、お前さん、今日は妙に大人しいし」
その上周りも気にしてるし、何かあったのか?と師郎はわたしの目を見た。
ネロも黎もわたしの方を見ているし、何だかその場の雰囲気がわたしに”話したら?”といった感じになっていく。
わたしは、ヴァンピレスとのあの件を話すべきか迷った。
話したらネロ達は助けてくれるかもしれないが、いつもどこからともなく現れるヴァンピレスが、どこからこの様子を監視しているか分からない。
どうしたら…とわたしは思ったが、このまま場を微妙な雰囲気にしておけない。
だからわたしは、あえてこう話すことにした。