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6

ω

加速する日常に嫌気が差す若かりし日
虚無へ向かう旅路は複雑怪奇で
分岐点で間違い後戻りもできずに
急ぎ足で雑踏の中を歩いた
影に隠れた惨めさはどこからともなく現れ
あらゆる行動についての抑止力として
苦悩、絶望、諦観と嗚咽の種となる

自発的な交流をする程の自信は持てずに
目を瞑った事実が幾つかあった
それはきっと青春と形容される日々にて
犯した失敗が恐怖に結び付いたから
人のせいにしていたら成長はできないな
でも全部自分が背負い込むのも違うな
昔同じ眼をしたあの子が言った通りだ

僕の歌口ずさんでる君の幻影を見たんだ
泥濘に堕ちてこその人生
できなかった事 見つけきれなかった物
無垢な君の笑顔を守れなかった記憶が
僕を縛っていた呪いもいよいよ消えた
それでも肯定には程遠い
僕は僕のままで良かったか

煙臭いあの部屋 咄嗟についた嘘
一人また一人と離れていった
好き嫌いの境目が徐に消えていき
それがいつの日にかつまらなく思えて
自分とは何者か
曖昧な命題に妥協する人間を横目に生きた
そんな頑固さが吉と出たか凶と出たかは分からない

僕の歌口ずさんでる君の幻影を見たんだ
泥濘に堕ちてこその人生
当たって砕けた事 諦めて逃げた事
あの日立てた誓いを殺してしまった記憶が
僕を縛っていた呪いもいよいよ消えた
それでも肯定とは程遠い
僕は僕のままで良かったか

息を切らして雨の中駆け抜けた日々が
主観的には不規則に進む時間が
とちりながらも必死に紡いだ言葉が
分かり合えないと知りながら愛した心が
昨日までの生の集積が形作る
歪なんて言うのも憚られるそれは
自然な完璧が失敗を含むように
僕を否定した僕が織り込まれている

僕の歌口ずさんでる君の幻影を見たんだ
泥濘に堕ちてこその人生
いつか振り返ったときそう思えればいいが
無垢な君の笑顔を守れなかった記憶が
僕を縛っていた呪いもいよいよ消えた
それでも肯定とは程遠い
僕は僕のままで良かったか

2

ψ

具現化された悪意に触れる度僕は思うんだ
人間は自分が思う程高尚じゃないと
終末論は嫌いだよ でもこんな世界も愛せないよ
無垢な優しさが
足枷となるような場面を幾つも見た
僕は歌を歌ってた 誰かに届ける為じゃなく
いずれ何者かになってしまう
自分への供養としての歌
それは確かに深淵に突き落とされたあの日の僕を
もう一度手にしてみる動機として
美しく機能していた
それを笑うような奴にはいつかその報いが訪れる
そんなありきたりな道徳は
もう僕には必要ないんだ
喪失が流させた涙も 未だ風化しないトラウマも
全部糧にしてみせるから 全部歌にしてみせるから

世界が変わるのを待ってる 窓から外を眺めている
少年だった僕に告ぐ 武器を取り戦うべきは今
肯定される事は無いが美しいと形容される
人間の足掻くその様は数少ない愛せるものだ

洗い流す機会も無く誰もが多少の罪を背負う
それを糾弾する資格を
誰も持ってないのは自明だが
身の程知らずは何処からか
掃いて捨てる程に湧いて
心無い言葉はまるで頭上を飛ぶ弾道ミサイル
アルコールで安い眠りに誘われた弱い精神は
希望を未だ持っている 手放す事なく持っている
誓いを立てたあの場所は
コンビニへと様変わりして
虚しい気持ちになったからギターを握って抗った
投げつけられた物も多く 手では拭えない物も多く
大衆に異分子と見做されるような事も沢山あった
それでもまだ立ち上がるのは
それでもまだ戦えるのは
この苦しみと生きる意味が
無関係じゃないと思うから

その確信は楔である 僕を貫く楔である
少年だった僕に告ぐ 足元にひっそりあった影
色も形も多種多様な苦悩が集まる海辺にて
眺める落日は懐かしく数少ない愛せるものだ

流動的な価値観を意識せざるを得なくなって
それを後戻りの言い訳にしそうな自分を叱咤して
理解されないような機微や報われない擦れ違いは
ここで荼毘に付すとするよ この歌を墓標にするよ

どうにもならない日々の事 殴るに殴れない敵の事
研ぎ澄まされた眼光は痛みに隠れる一縷の望み
できない事はやらないけど使える物は全部使う
そうして辿り着いた自分は数少ない愛せるものだ