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雪が、落ちてゆく。

                   ゆ       こ
                    き      の
                     が     ゆ
                     ひ     き
                     と     が
                    ひ      お
                   ら       ち
                           き
                           る
                 ゆ         ま
                き          え
                が          に
                ふ
           あ     た
           な      ひ
           た       ら
           に
           あ
           い         ゆ
           し         き
           て         が
           る        み
           と       ひ
                  ら     つ
                        た
                        え
               ゆ        ら
               き        れ
               が        る
                よ       だ
                 ん      ろ
                  ひ     う
                   ら    か



                あ    わ
                な  と た
                た    し

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LOST MEMORIES ⅡCⅤⅩ

瑛瑠が痛いと言っても離してと言っても、英人は無視。道行く人に変な目で見られたくもないので、終いには大人しくついていくしかなくて。
そして英人は、ある家の前で立ち止まる。もちろん、瑛瑠の家ではない。
そこでやっと、強く捕まれていた腕が解放された。
「ここは……?」
恐る恐る尋ねると、あからさまに不機嫌そうな声で、家,と一言。
それは、見ればわかる。文脈上、どうやら英人の家らしいけれど。
なぜ自分が英人の家の前にいるのかがわからない。怒りに触れたために連れ込もうとしているのだろうか。英人に限ってそれはないと思うけれど。
そんなことを考えていると、怒りを含んだ低い声で、こんなことを言ってきた。
「ふざけたことを言うな。」
「……何のことですか。」
英人は、見たことのない眼をしている。瑛瑠は、思わず怯んだ。
「君に対して思わせ振りな態度をとったことはこれまでに1度もない。守ると誓ったのは勢いじゃない。昔も今も、君だから守るんだ。
共有者でしかないなんてふざけたことは言うな。長谷川も、歌名も、君のことも、これっきりの関係で終わらせるつもりはない。
君がもし本気でそう考えているのなら、それは馬鹿だ。」

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古時計

始め、時計が一つあった。
古びた時計は奥深い音を響かせ時を刻む。
 こつ……こつ……こつ……
ゆったりと心地よい低音が時を忘れさせる。
秒針は廻り、永遠のような時が過ぎていく。
ここで一人物思いに耽るのが私のお気に入りの時間であった。

いくらかが経って、時計は二つになっていた。
シンプルなデザインの新しい時計。
 こつ……こつ……こつ……
 かっ、かっ、かっ、かっ
古びた時計が遅いのか、新しい時計が早いのか。
ステップの異なるダンスを、しかし二つは楽しそうに踊っている。
二つの弾き出す音色は、珈琲の香りと混ざり合って消えていった。

また幾許かが経ち、時計は天を埋め尽くすほどであった。
無限の蒼穹に連なる時計たちはみな同時に秒針を刻み、万軍の行進のような大音響を打ち鳴らす。
 カチ、カチ、カチ、カチ
 ピッ、ピッ、ピッ、ピッ
 タッ、タッ、タッ、タッ
 ゴン、ゴン、ゴン、ゴン
 カッ、カッ、カッ、カッ
 こつ……こつ……こつ……
ひとつだけ違うテンポの音がかすかに聞こえる。
奥深く、ゆったりとした声音。
あの古びた時計は独り寂しそうに時を刻んでいた。


幾星霜の時を経て、古びた時計はいなくなった。
あの古びた時計は長年の時が狂わせた歯車が調節され、今は万の時計とともに何千何万とも知れぬ回数の針を叩くばかりであった。
古びた時計は、もう自らのテンポを忘れてしまったのだ。

白銀の老人は古びた時計を見つけると、哀しそうにその縁を撫でた。
もう私の時計はいなくなってしまったのだ、と。

0

Trick

「Trick or treat!!」
君は背後からそういって脅かした。
突然のことに僕は思わず声を上げて驚く。
そんな僕の反応を見て、彼女はけたけたと笑う。
「あはは、キミ、反応最高!Trickの方はようやく成功ね……ん、お菓子、くれないと悪戯しちゃうよ?」
無邪気に笑っていた君は、急に悪戯っぽい笑みを浮かべてこちらに手を伸ばした。悪戯と一緒にお菓子ももらうつもりらしい。
Trick "and" Treatは反則だよと心の中で呟きながらも、お菓子は持っていなかったので自販機からジュースを買ってあげることにした。
「お、気が利くじゃん。さんきゅ」
と言いながら、彼女は買ったばかりのジュースのふたを開けて、二、三口飲んだ。

僕がこの一連の流れの中で言葉を発さなかったのは、別に何も彼女に思うところがあるとかいう訳ではなかった。実に久しぶりに見る顔だな、と思っていたからである。もう会わないと思っていた人が目の前に現れたというだけで、まして下心を持っていたとか言う色恋の話は論外である。絶対に。

僕の意味ありげな視線に気づいた彼女は何か勘違いしたようで、
「あ、もしかして私の仮装見れなくて残念だった? 」
と言って自分の服を見下ろした。着ていたのは普段着である。
ようやく口を開いた僕は「そうだね、少し残念かな」と答えた。
彼女はふふ、と笑うと、来年はするかもねと言った。


因みに言えば、僕は後ろから脅されても声を出すほどには驚かない。僕が驚いたのは彼女がそこにいたという事実ただ一つである。
彼女が帰っていく時にもう一度確認してみたが、やっぱり彼女の向こう側が透けて見えた。
ハロウィンだからってことかなぁと、僕は去年亡くなった同級生のことを思い出し、心の中でもう一度手を合わせた。

空のペットボトルが、ゴミ箱にひとつ捨てられていた。