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Modern ARTists:魔法少女彩能媛 その②

カミラが立ち去った後も呆然としていた、襲撃を受けた女子生徒の頭に、墨汁の塊のような黒い流体が飛び乗った。
「!?」
『ふむ……怪人がわざわざ狙ったのだから何かあるのではと思ったけど……極めて一般的な人間だな?』
脳内に直接響いてきたその声を、少女は流体のものだと直感した。
『おっと、挨拶が遅れたね。こんにちは、初めまして、ヒトエちゃん。ワタシのことは“ケリ”とでも呼んでくれ』
「なんで名前を!? と、とにかく、そのケリが一体、何の用……?」
『何があったか知らないが、どうも君には素質があるようだ。君には“怪人”を引き寄せる才能がある』
「え、さ、才能? でも、私、怪人なんて実物は今日初めて見たくらいだし、そんなの……」
『間違いなく、その才は「ある」。そんな君に、ワタシからプレゼントだ』
「ぷ、プレ……?」
『この“力”を受け入れれば、君は怪人たちから身を守れる。便利だろう?』
「それはたしかに…………?」
『君はただ、頷くだけで良い。恐れず受け入れろ。大丈夫、使い方は君の身体が覚えているから』
ケリの言葉に、少女ヒトエは恐る恐る頷いた。その瞬間、ケリの身体が弾け、流体が彼女の全身を包み込む。流体が彼女から離れ、元の塊に戻ると、ヒトエは元の体勢のまま、紅色のアーマーを纏っていた。
「な、何これ、鎧!?」
『そう出力されたのか。その力の名は【閑々子】。さぁ、行っておいで。まずは初陣に、君の仲間を救うんだ』
「え、わ、分かっぬまぁっ!?」
立ち上がり、駆け出そうとして、ヒトエは大きく姿勢を崩した。後方へと倒れる途中で不自然に動きが止まる。
「え、な、何なに」
ヒトエがどうにか目だけを動かして探ると、彼女のツインテールを覆うアーマーの先端が床に突き刺さっている。
「髪が刺さってる⁉ ちょ、学校壊しちゃったんだけど⁉」
『焦らないで。使い方は君自身がよく知っているはずだ。落ち着いて、力に身を任せて』
「うぅー……ていっ!」
ツインテールの装甲に手をかけ、姿勢を直す。その部分のアーマーが変形・パージし、彼女の手の中には1組の双剣が残った。
「お、おぉ……」
『もう使いこなせるね? それじゃ、行ってらっしゃい』

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Modern ARTists:魔法少女彩能媛 その①

教室の窓ガラスが、内側から爆ぜ砕ける。
終業式後のホームルームの時間、教室の1つが『爆発』した。その原因は、教室の中央で悠然と周囲を見回していた。
背丈は決して高くは無く、およそ1.6m程度。概ね少女のように見える『それ』は、しかし明らかに人外の存在であった。体表は暗紫色に染まり、両の側頭部からは黒く長い捻じれた角が生えている。腰から伸びる蝙蝠のそれのような皮膜の翼のためか、足下は僅かに床を離れ、ふよふよと上下している。鋼線のように細い尾をふわふわと振り回しながら、『それ』は楽しそうに周囲で怯えている生徒たちを品定めするように眺めていた。
「どーれーにーしーよーおーかーなー……」
『それ』が周りの生徒を1人1人指差しながら、歌うように呟く。
「……きーめた」
少女は宙を泳ぐように、1人の女子生徒に近付いた。右手の爪が長く鋭く変形し、女子生徒の喉元に触れる。
爪の先端が皮膚を突き破る直前、『それ』の鼻先に雪の結晶が舞い落ちた。
「にゃっ……?」
『それ』が周囲を見回すと、教室の入口に一人の少女が立っていた。
“白銀”という語を擬人化したかのようなその少女は、『それ』に向かって手を振ってみせた。
「はろー、怪人」
「……? はろぉー?」
『それ』も手を振り返す。
「あんた、名前は?」
「“カミラ”」
「へぇ。それじゃ、さよならカミラ」
少女が背中に隠していた特大筆を振るうと、白い流体が斬撃となってカミラに向かって行った。カミラはそれを回避し、一瞬で距離を詰める。
「……なまえは?」
「怪人に名乗る名前は持ち合わせてなくてね。あんたを殺す“力”の名だけ覚えて逝け」
少女が特大筆を振るうと、周囲に吹雪が舞い、カミラの視界を封じた。
「この力の名は……【雪城】」

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五行怪異世巡『覚』 その⑦

「む……鬱陶……しい!」
白神さんの振るった爪を、覚妖怪は飛び退いて回避した。
「うぅー……!」
白神さんが苛立たし気に唸っている。彼女の手元をよく見てみると、奇妙な形で固定されていた。五指を大きく広げ、人差し指と薬指だけを根元から垂直に近い角度で折り曲げている。
「もー怒った!」
そう言って、白神さんは自分を素早く捕まえ、所謂『お姫様抱っこ』の形で抱きかかえた。
「痺り死ね!」
白神さんの足下から電光が迸り、地面を伝って周囲全方向に駆け抜けていく。なるほど、これなら覚妖怪でも回避しようが無い。
『「これで仕留められる」、そう思ったな?』
覚妖怪が口を開いた。その意味を量りかねていると、妖怪は猿のような肉体を活かして手近な木を物凄い速度で登り始めた。電撃は妖怪を追うが、多くの枝葉が避雷針のように機能することで、覚妖怪まで電撃が届かない。更に悪いことに、頭上を隙間なく覆う樹の中に妖怪が姿を隠してしまい、どこにいるのか分からなくなってしまった。
「し、白神さん。これじゃあ」
「大丈夫、もう1回……!」
白神さんが片脚を持ち上げたところで、頭上を強風が吹き抜けた。直後、少し離れた地面に覚妖怪が着地する。
『…………ふむ。“風”の思考を読んだのは、初めてだな』
「あれっ、そいつは驚いたな。どうせ何百年も生きてんだろーに、初めてか? “鎌鼬”と喧嘩すんのは」
自分と白神さんを庇うように立ち塞がったのは、種枚さんの弟子、鎌鼬少年だった。

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五行怪異世巡『覚』 その⑥

白神さんはまだ、下で靴探しをしている。それなら、今自分の隣に現れたものは何だ?
恐る恐る、気配の方に目を向ける。そこには、人間ほどの大きさのサルがいた。
……いや、サルとも少し違う。大きすぎるというのはともかく、口元が不自然にニタニタと吊り上がっている。もしかして……。
『……お前は』
謎の動物が口を開いた。年寄りのようにしわがれた声で、『人間の言葉』がそこから漏れる。
『「もしかして、これが例の覚妖怪か」と考えているな?』
この文言。間違いない。昔話に出てきた妖怪と同じ言い回し。そして覚は。
『お前は今、「この妖怪に食われるかもしれない」と考えているな? ……正解だ』
覚が動き出そうとしたその時、白い影が自分と覚の間に割って入った。
「し、白神さん⁉」
「ごめん千葉さん、助けるのが遅れて! 大丈夫⁉」
「大じょ、うおわぁっ!?」
白神さんに抱きかかえられて、地面に下りる。覚もすぐに追ってきた。
『……ふむ、そちらの娘、どうやら人間ではないようだぞ、そこの人間。たしか、チバといったか?』
いやまあ、それは最初から知っているけども……。揺さぶりのつもりだろうか。
『む……つまらん。して、そちらの雷獣の娘よ。お前は次に、こう言おうとしているな?』
「『千葉さんを傷つけようとするなんて許せない。ぶっ殺してやる』!」
覚は白神さんの言葉にぴったり合わせた。白神さんはそれを気にする事無く、覚に突進する。
『ふむ、心を読まれてここまで動揺しないとは』
「それ、お前を、殺すのに、関係、ある、のっ!」
言い返しながら、白神さんは電光を纏った貫手を連続して放つ。しかし相手も流石は覚妖怪。悉く回避されてしまう。

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五行怪異世巡『覚』 その⑤

捜索を始めてから約30分。先ほどのイノシシの他にもタヌキ2匹、サル1匹、シカの足跡を発見したものの、肝心の覚妖怪の姿は未だ見つからない。
「見つかりませんね……」
「だねぇ。もっと山奥に入った方が良いのかな?」
「そうですねぇ……っとと」
白神さんに答えるのに意識を割かれ、足下が疎かになったのと同時に、土に足を滑らせて転びそうになった。手をつくより早く白神さんが抱き留めてくれたので、幸いにも無傷だ。
「千葉さん大丈夫? 疲れた?」
「いやまあ、はい……」
「じゃあちょっと休もうか。ほら、千葉さん」
白神さんが、自分に背中を向けてしゃがみ込む。
「おんぶしたげる」
「えっあっはい」
彼女の背中に掴まると、彼女はするすると手近な木に登り、ひときわ太く頑丈な枝に自分を座らせてくれた。
随分歩いたせいか、スニーカーの中にかいた汗が気持ち悪い。靴から踵を引き抜いて足をぶらぶらさせていると、うっかりその靴を下に落としてしまった。それは木の下に生えた雑草の中に入って見えなくなってしまう。
「ん、待ってて千葉さん。わたしが取ってくるよ」
「あ、ありがとうございます。すみません……」
白神さんはまたするすると木を降りて、靴探しを始めた。その背中を眺めていると、座っている大枝が、がさりと揺れた。