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魔法をあなたに その⑪

『ところで怪物クンよ?』
別に、本当にあのバケモノに呼びかけてるワケじゃあない。タダの独り言だ。
『さっさと叩き潰して他のヤツブッ壊そうと思ってたら、目の前のチビが思ったより粘る。ソンナ状況でテメエならどうする?』
怪物は不意に攻撃の手を止め、【フォーリーヴス】を放置して別のやつらを狙おうと歩き出した。瞬間、【フォーリーヴス】の展開した巨大な障壁が、結界のように怪物とアイツを取り囲みやがった。
『あの馬鹿、怪物を閉じ込めヤガッタ!?』
外側に被害を出さないタメか! 畜生め、コレで完全に一騎打ちになったってワケだ。
『……ッキヒヒ。けどなァ【フォーリーヴス】。コレはテメエにとって圧倒的不利だゼ。テメエの魔法がどンだけ強かろうがなァ、この戦いがテメエの“1発目”だからこそ、断言できる』
そうだ。ヤツには絶対的な弱点が1つだけある。ヤツがマトモに人間社会で生きてきたからこそ、断言できる“弱点”だ。
怪物の叩きつけを躱し、【フォーリーヴス】が大きく跳び上がった。跳躍は怪物の頭ほどの高さにまで届き、そのまま障壁刀を振るう。
『無理ダ』
【フォーリーヴス】。テメエの過去を100パー知ってるワケじゃあねェが、マトモな道徳教育を受けて育ってきているはずだろ。
『そしてェ! テメエがマトモな道徳を持っている以上! デケェ“動物”への攻撃には!』
ヤツの攻撃を、怪物は軽く仰け反って容易に躱した。そりゃそうだ。遅すぎる。
『必ず“躊躇”が入る』
怪物のカウンターの裏拳が見事に直撃し、【フォーリーヴス】は勢い良く地面に叩きつけられた。

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五行怪異世巡『きさらぎ駅』 その③

2人が入った車両には、他に乗客が4、5人ほど座席に座っていた。2人も乗降口の近くの席に座る。
程なくして、青葉がこくり、こくりと舟を漕ぎ始めた。
「……ねぇねぇアオバちゃん」
「…………はぃ?」
小声で問いかけられ、青葉も呟くように反応する。
「ずいぶん眠そうだね?」
「まあ…………はい……」
「夜更かしでもした?」
「昨日は別に……」
(他の日はしてることもあるのかなー)
考えているうちに、青葉は再び寝息を立て始めた。
「あらら、また寝ちゃった。子供は体力が切れるとすぐ寝ちゃうもんなー」
苦笑しながら、白神は青葉をつつき回す遊びを再開した。

「……ーぃ、おーいアオバちゃん」
どれほど経った頃か、白神に揺り起こされ、青葉は目を覚ました。
「ん……もう、着きました?」
「いやー? なんか変な感じ。でも、そろそろ停まりそうだよ?」
白神が指す先、車窓の外を見ると、日が暮れた後なのか既に真っ暗になっていた。
周囲を見回すと、車両内の人数は乗車直後とさほど変わってはおらず、どの乗客も座席に深く座り込んで居眠りをしているようだった。
「もうこんな時間ですか……わぁっ⁉」
まだ眠たげに目をこすっていた青葉が、突然座席から飛び出すように倒れた。
「え、アオバちゃん? そんなに揺れた?」
「いえ、そういうのじゃ……」
青葉が立ち上がろうとしたとき、電車が急ブレーキをかけて止まり、慣性で青葉は再び床上を転がった。

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Flowering Dolly:魂震わす作り物の音 その④

「えっ」
「危なかったぁ……私に感謝してよね」
「それはまあ毎度のことしまくってるけど……いやマジでありがとう」
「どーいたしまして。今日の晩御飯を豪華にすることで手を打とう」
「そのための台所が今削ぎ飛ばされたんだよ」
「そうだった」
取り敢えず抱えていた腕を離し、台所を破壊した憎き敵が何者なのか、それを確認することにする。
台所があったところを確認すると、巨大な『顎』が木材の破片を牙の隙間からはみ出させながら咀嚼していた。
「む……あの口の中に、私のご飯が…………!」
簡易魔法で身体強化を施し、思いっきりビーストの顎を殴りつける。ヤツは大きく仰け反り、家から少し離れてくれた。
「けーちゃん! アイツブッ飛ばそう!」
「いやそれには賛成だけど俺呼ぶか、普通?」
文句を言いながらも、あいつは隣に立ってくれた。2人で破壊された家の穴から外に出る。
ビーストの姿をよく見てみると、なるほど理解ができた。
「こいつ、多分さっきの襲撃の主犯だよ」
「は? 八つ裂きにされたんだろ?」
「まあ話を聞いてくださいよ」
目の前でのたうっているビーストは、頭部の上顎より上、両前脚、下半身全体を切断されて欠損しており、その切断面は焼き固められたように焦げ付いている。
「高熱の刃物で切り刻まれたみたいな見た目じゃない」
「たしかに……そういやさっきのニュースでやってたな。っつーかなんでこんなデケぇ塊が放っておかれてたんだよ」
「担当の子が雑な性格してたんじゃない? しかしあいつ、ダメージの回復のために何でも食べるつもりみたいだね」
「ああ……アリー、大丈夫か? ちゃんと契約してるドーリィが来るまで無理しない方が……」
あいつの言葉に、思わずため息が出る。勿論、籠った感情は呆れ一択。
「私がやる気ない時は無理に叩き起こすくせに、私がやる気出す時は無理するなとか変なこと言うんだから……」
ビーストが首をこちらに向けてきたので、身体強化で殴り飛ばし、距離をさらに広げる。

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五行怪異世巡『きさらぎ駅』 その②

ホームに設置されたベンチに並んで腰かけ、青葉と白神は世間話をしていた。
「……あ、そういえばアオバちゃん」
「何です?」
「今日はあのカタナ持ってないんだね?」
「持ってるわけ無いでしょう……電車に乗るのに」
「それもそっかー」
その時、人身事故によって電車が遅延する旨のアナウンスがホームに流れた。
「む……縁起が悪いですね」
「そうだねぇ……人が死んだり怪我したりするのは嫌だよ。……ん、何?」
青葉からじっと見つめられていることに気付き、白神が尋ねる。
「いえ……メイさん、結構人間に思い入れあるんだなぁ……って」
「そりゃあそうだよー。だってわたし、もう20年も人間として生きてたんだよ? ココロもカラダもすっかり人間さんだよぅ」
一度会話が途切れ、2人は電光掲示板に目をやった。電光掲示板に表示された次の電車の到着時刻の横には、15分の遅延と表示されている。
「まだ来ないねぇ……アオバちゃん?」
返事が無いために青葉を見ると、彼女は白神の腕にもたれかかり俯いた形で動きを止めていた。
「……寝てる? おーい、アオバちゃーん? 体力無いのかな?」
青葉をつついて遊んでいた白神がふと顔を上げると、いつの間にやって来たのか、電車がホームに停まっていた。
「わぁ、15分って意外とはやーい。ほらアオバちゃん、いくよー?」
青葉を揺り起こし、2人が車内に早足で入った直後、ドアが閉まり電車が動き出した。

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Flowering Dolly:魂震わす作り物の音 その③

あいつの家に先に入って食卓について数分、あいつも遅れて帰って来た。
「おかえりぃ」
「ただいまー……っと。ちょっと待っててな。っつーか揚げ物って地味にダルいんだよなぁ油の処理とか……」
台所で調理の準備を進めるあいつをしばらく眺めていたけど、暇になってきたので卓上のラジオの電源を入れることにした。
ちょうどオーケストラの音楽が終盤に入ったところで、それも終わると次の枠のニュース番組が始まった。それくらいのタイミングで、台所のあいつが包丁を操る音が聞こえてきた。
「…………けーちゃぁーん、さっきのビースト騒ぎのニュースやってるー」
「そうか。じゃあ音量上げてくれるか?」
「はいはい。……けど、アンタも物好きだねぇ。どうせ何もできないくせに」
「分かんねーだろ。もしかしたら俺と相性のいいドーリィがいるかもじゃん」
「無い無い」
あいつと笑い合い、ラジオの音量つまみを操作した。テーブルで聞いているには少しうるさいボリュームになったので、立ち上がって料理中のあいつにちょっかいを出しに行くことにした。
ラジオからは、刀身が燃えるナギナタを操るドーリィがビーストを八つ裂きにしてしまい、現在も破片の回収作業が続いているって話をアナウンサーが読み上げていた。
「武器かぁ……憧れちゃうなぁ……」
独り言を口にしつつ、あいつの脇の下から調理の様子を覗き見ると、あいつは付け合わせ用の葉物野菜を切っているところだった。何故か手が止まってるけど。
「どしたのけーちゃん。早く進めなよ」
「そうしたいのは山々なんだけどなー、フィスタがそこにいると危なくて進められないからなー」
あいつの脇腹を軽く小突いてから、台所を離れて窓から何とはなしに外を眺める。
住宅地のど真ん中だから、大した景色も見えないけれど、あの家々の向こう側では、今も倒したビーストの死骸処理が進んでいるんだろうか。
「私もビースト退治やりたーい」
「やりゃ良いだろ。別に最低限戦うくらいはできるんだろ?」
「武器とか派手な魔法つかって豪快に戦いたいのー」
「じゃあさっさとマスター探すんだな」
「ん……」
瞬間移動で台所に移動し、あいつを抱えて再び移動する。直後、台所周囲がまとめて『削り取られた』。

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魔法をあなたに その⑩

何ァーんか、話の流れがおかしくねェか? 今テメエは、人外領域の力と、ヤツの生殺与奪の権利を握っているんだぞ? オイラ手ずから態々用意した『名前』で、魂にも“復讐”を染み込ませて、ソレなのに。
「その後、ちゃんと話し合おう。だから……今は逃げて!」
「!」
イジメッ子が逃げ出しやがった。怪物が追おうとするが、そこに【フォーリーヴス】が立ち塞がりやがる。
『…………オイ。クソガキが…………おかしいだろ』
【フォーリーヴス】に向けて、怪物が前脚を叩きつける。長く太いそれの先端に具わった鋭い爪は、しかして【フォーリーヴス】が魔法によって展開した、エネルギーの障壁に阻まれ受け流された。
『ッ……! な、クソ……クソッ!』
今気付いた。あいつの出した「刀身」。ありゃァ「刃」じゃねェ。形状が違うだけの「障壁」だ。
『あンの女郎……! フッザけるなよ! 俺はテメエに“復讐者”の名を与えたンだぞ! ソレをテメエ、「四つ葉」なんて名前で、本気で自分が“幸運の象徴”にでもなったつもりか⁉ テメエ、名付け親への冒涜だぞ⁉ 侮辱罪ダ! ふざけやがって! 本気で善人のツモリか⁉ 相手はテメエを散々傷つけたゴミクズだ! 怪物被害で簡単に人が死ぬこのご時世で1人や2人死んだところで、誰も何も思わねえ木ッ端だ! 見捨てれば良い! 良いか! テメエ如きが善人ぶって何人救おうが何十人守ろうが! 人間の悪意は変わらず人間を傷つけ! 手の届かないどこかで必ず誰かが死ぬ! 魔法少女なんざ本質的にエゴイストでしかねェんだぞ! それをテメェ……! 心の底から善人でありたがってるってのかよ! フザけるな! オイラの計画が全部パァじゃねーか! 何のためにテメエを魔法少女にしたと思って……!』
オイラが喚いている間も、ヤツは、【フォーリーヴス】は障壁の魔法を駆使して、自分の数倍も目方のある化け物と互角に渡り合っている。あの女郎、マジに初陣かよ?

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Flowering Dolly:魂震わす作り物の音 その②

「ま、どうせお役所もすぐに適当なドーリィ派遣してくれるでしょ」
「いやABSSって別にそういう所じゃなくねーか?」
「けどドーリィならあそこにもいるじゃん。それで見ないふりはそれこそおかしいでしょ? あんたの理屈なんだけど」
「ぐ……いやまぁ…………」
遠くの方から破壊音が聞こえてくる。ビーストの仕業か、ようやく来たドーリィの仕事か分からないけど、少なくとも私の出る幕は無いってことだ。
「ほらけーちゃんも、只の人間がそんなピリピリしてないで、一緒にお昼寝でもしようよ。今日は気温も風もちょうど良いよ」
「いや別に……もう良いや。行かないならせっかくだから何か1曲やってくれよ」
「お代は?」
「飯作ってやる。良い鶏が手に入ったんだ」
「お、良いねぇ……揚げ物が良いな」
「了解」
交渉成立。ハンモックを吊るしていた木に立てかけておいたクラシックギターを足で引き寄せ、適当に弦の調整をしてから、思いつくままに爪弾く。今日はこんなのしか無いし、ボサノバっぽい雰囲気で雑に流していく。
ちょうど1曲終わったところで、破壊音も収まった。事態は無事に片付いたみたい。
「終わったみたいじゃん。良かった良かった……それじゃ、こっちも終わったから行こ? ご飯ご馳走してもらわなくちゃ」
「分かったよ」
家路につくあいつの後ろをついて行く。ふと、あいつが立ち止まってこっちに振り返った。
「どしたのけーちゃん?」
「いや、言っとかなきゃと思って」
「何を」
「アリー、今日の演奏も最高だった」
「…………知ってる」
あいつを追い越す勢いで足を速め、あいつの家へ向かった。

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魔法をあなたに その⑨

僅かに遅れてヤツに追いつくと、【フォーリーヴス】は怪物の目の前に立ち止まり、目を見開いて何かを凝視していた。怪物を、じゃねェな、どっちかってーと、その足下、の……。
(オイオイマジかよ!)
最高だ。怪物が今にも踏み潰そうとしていたのは、【フォーリーヴス】、いや、千代田ツバメを普段イジメてた主犯のガキじゃねえか!
『なァツバメちゃんよォ』
魂への囁きを、【フォーリーヴス】に差し向ける。直接ヤツの魂に触れることで、その「欲望」を剥き出しにさせる、生物学的標準技術だ。
『コイツはどうしたことか、最高のシチュエーションじゃねェか。目の前にはテメエを虐めてるクソガキが、化け物の手で殺されそうになっていやがる。喜べ、テメエの願いは叶うぜェ? しかも、テメエが手を汚す必要も無ェ』
「っ…………」
【フォーリーヴス】が硬直していると、ヤツが、あのイジメッ子がこっちに気付いた。
「なっ、千代田……!」
イジメッ子の目は如何にも「助けて><!」って言いたげだ。
『キヒヒ、テメエの願いを言えよ。イヤ、言う必要も無ェ。ただ願え。心の底に眠る願いを。己を取り巻く悪環境の終結を。何たってテメエの名は【フォーリーヴス】』
“幸運の四葉”? いいや違うね。 テメエのその名に与えた意味は、“復讐の白詰草”。
『名は体を表す』、テメエらの諺だ。体を表せよ。
復讐に堕ち、人道を外れたその瞬間! 昏く鈍く擦り減り切った魂は、最ッ高に上質の“魔力源”となる。
さあ。
さァ!
『サアァッ!』
ヤツが徐に歩き出した。それに応じて、手の中のブローチも輝きを放ち始める。
学校制服はやや和風の衣装に、学校鞄は刀身を持たない日本刀の柄に、陰気な黒髪は若草色のツインテールに、ヤツの姿が魔法少女のソレに変身する。
「………………ごめん」
ヤツがそう呟き、柄を握る手に力を込めると、そこに光の刀身が現れた。何だ、マサカ自らの手でヤるつもりか? 思ったヨカやるじゃねーの。
「色々、話したいけど……全部終わって、2人とも生きて帰って、その後」
『……ァン?』

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Flowering Dolly:魂震わす作り物の音 その①

「フィスタぁー! どこだー!」
私を呼ぶ声が、正確には『あいつが私を呼ぶときの名前』が聞こえる。
「………………」
寝ていたハンモックから身を起こし、あいつの姿を遠くに確認してから自分の身体を隠すようにぬいぐるみの山を崩し、だんまりを決め込む。
「フィスタぁー? おいフィスタ!」
声がだいぶ近付いてきた。多分もう何mも無い。
「やっぱりここにいたか……おいフィスタ、いるなら返事しろよな」
ぬいぐるみバリアが崩されて、光が差し込んできた。
「フィス……」
「だっかぁらあっ! そう呼ぶなっつってんでしょうがぁっ!」
不用心に覗き込んできたあいつの顎に蹴りを食らわせてやる。
「痛っ…………てえなぁフィスタてめえ!」
「私のことは『アリー』って呼べっつってんだろクソガキ!」
「てめえも外見はクソガキだろうが!」
いつものやり取りを済ませ、渋々ハンモックから抜け出す。
「それで? どうしたのさ」
「あぁ、ビーストが出たんだよ。“ドーリィ”の出番なんだろ?」
「そんなのお役所に任せとけば良いじゃん……」
「おま、せっかく“ドーリィ”の力があって、見ないふりするってのかよ」
「『力』っていってもねぇ……」
再びハンモックに仰向けに倒れ込み、掌を太陽に向ける。ちょうど私の方に向いた手の甲には、契約済みの紋様が…………。
「浮かんでれば、考えたんだけどねぇ……」