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視える世界を超えて エピソード6:月夜 その①

とある満月の夜、午前1時過ぎ。送電鉄塔の上に立ち、種枚は街並みをぼんやりと見下ろしていた。
「師匠ぉー、可愛い弟子が部活疲れでしんどい身体をおして来ましたよぉ」
突風と共に背後から聞こえてきた声に振り向くと、防寒着に身を包んだ鎌鼬が立っていた。
「ようやく来たか、馬鹿息子」
「だからせめて弟子と呼んでくれって……」
不意に夜風が吹いて来て、鎌鼬は思わず屈み込んだ。
「うわ寒っみい」
「ハハハ、無糖のホットコーヒーで良ければくれてやろう」
種枚が放り投げてきた缶を受け取ったものの、その冷たさに鎌鼬は缶を取り落としかけた。
「めっちゃ冷たいンスけど⁉」
「そりゃ私が1時間くらい前にカイロ代わりに買ったやつだからねェ」
「それはもうホットと呼んじゃいけないやつッスよ……」
缶をそのままコートのポケットに入れ、再び立ち上がる。
「なァ息子よ、見えるかい?」
隣に立った鎌鼬に、種枚は眼下に広がる街の一か所を指差した。
「中央駅ッスね。……あ、消えた」
営業終了に伴い施設が消灯され、夜闇に紛れるその瞬間だった。
「これでいよいよ、この街も眠る時間だ。ここから先は、人間の領域外だぜ。今のうちに始末できるだけ始末していくぞ」
「ッス。……けど、なんで俺も行かなきゃならないんです? 眠いンスけど……」
「あァー? お前放っておくとすぐ心ブッ壊れるだろーが。私が見張っといてやらなくっちゃな」
鎌鼬の頭を乱雑に撫で、種枚は鉄塔を飛び降りた。鎌鼬も苦笑し、髪を直しながら異能を発動し、種枚の後を追った。

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少年少女色彩都市 act 11

叶絵は和湯姉から受け取ったガラスペンを構えエベルソルに相対したまま動きを止めていた。
(……そういえば、空中に絵を描くってどうやるの? あの魔法陣みたいなのとか……そもそも、あれを倒すって、何を描けば良いの……?)
叶絵が実際にインプットしたリプリゼントルの戦闘状況のサンプルは極めて少ない。そこに慣れ親しんだ現代科学とかけ離れた戦闘技術と、非日常へのパニックが加わり、思うように手が動かない。
ふと、エベルソルが一切自分たちに攻撃してこないことに気付き、敵の方を見る。その頭部には、先ほどのリプリゼントルの少女が胡坐をかいて3人を、否、叶絵を見下ろしていた。
「……あ、私のことは気にしなくて良いよ。君たちの戦いには手を出さないから」
にかっ、と笑い、少女が叶絵に言う。
「けどそのお姉さんもひどいよねぇ。何も知らない女の子を無理くり戦場に引きずり出すなんて……君が何の才能も無い無産なら詰んでたよ、ねー?」
蛾のエベルソルに同意を促すが、エベルソルは何も反応せず脚をばたつかせるだけであった。
「……まぁ、せっかく才能と道具、両方あるんだ。頑張れ若者、くりえいてぃびてぃに任せて好きに暴れな」
少女にサムズアップを示され、叶絵は一度瞑目して深呼吸をしてから、再び目を開いた。
ガラスペンを目の前の虚空に置く。ペン先の溝を無から生み出されたインキが満たし、目の前に同心円と曲線が組み合わさったような魔法陣が、殆ど無意識的に描き出された。
意を決してそれを通り抜けると、寝間着姿から一変してピンクと白のパステルチックなワンピース風の衣装を纏った姿に変身していた。
更にガラスペンをエベルソルに向けると、空間を暗闇に塗り替えるようにどす黒いインキの奔流が周囲を覆い尽くす。
「うっわマガマガしー。どんな生き方してたら『可愛い』と『邪悪』があの同居の仕方するんだろうね? まあ新入りちゃんの『芸術』、見せてもらおうじゃないの」
けらけらと笑いながら、少女はエベルソルから飛び退いた。

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少年少女色彩都市 Act10

女性は叶絵と典礼に曖昧に微笑むと、懐からガラスペンを取り出す。蛾のエベルソルは耳をつんざくような奇声をあげてその無数の足を動かし、こちらにすごい勢いで迫ってきた。
「ひっ…」
後ずさる叶絵の腕を引いて、典礼が場を離れる。女性は幾何学模様を書きあげた。
「んと…和湯、くん?」
「典礼でいい。立って」
蛾は女性の書いた幾何学模様の盾に突っ込み、煩わしそうに暴れて、10秒と経たない内に盾を壊してしまった。女性は典礼たちのもとに駆け寄る。そのまま三人で逃げ出す。
「やっぱりだめ…昔はできたのに」
「え、あの」
混乱する叶絵が困った顔で女性を見つめると、彼女は寂し気に微笑んだ。
「私、リプリゼントルの才能が消えかけてるの。昔は典礼よりも強かったのに」
「ちょっと!余計なこと言うなよ!」
「だってあんた燃費悪いじゃない!すぐ疲れるし、一日に何回も変身できないでしょ」
両脇で姉弟喧嘩が始まってしまい、気まずくなって叶絵は俯いた。
「あ、そうだ!あなた、私のお古で良ければ使ってみない?」
「…えっ!?わた、私ですか!?」
「そう!得意なことはある?」
「得意なこと…」
叶絵の得意なこと。
「…絵、を描くこと…」
女性は満足気に笑った。

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少年少女色彩都市・某Edit. Agitation & Direction その④

ロキは大ホールを挟んだ反対側の戦場に駆け出し、タマモは一歩前に踏み出した。
「ヘイ、エベ公! こっから先はちょいと俺一人で相手させてもらおうか。防げるモンなら防いでみろや俺の弾幕!」
光弾の密度を上げ、一人エベルソルに対抗する。しかしタマモの弾幕は直接的な軌道であり、ロキのように多角的に群れを抑え込むことはできず、少しずつ範囲外からホールに近付く個体が出る。
「あ、オイ待てい! なんで無視した⁉ (F Word)! 5秒後を覚悟しろォ!」
一度、ホールに向かったエベルソルからは目を離し、前方の群れに集中する。
「畜生が、テメエら5秒で全滅しろッ!」
タマモの弾幕が一瞬、『減速』する。リズミカルに射出される光弾に対応していたエベルソルらの防御行動は空を切り、光弾ががら空きの急所を的確に貫通し、次々と撃破していく。
態勢の崩れた群れに、駄目押しに急加速させた光弾を更に叩き込み、宣言通り僅か5秒ほどで群れを全滅させた。その残骸の向こう約数十m、新たなエベルソルの大群が近付いてきているのが見えたが、そちらは放置して足下のカセットプレイヤー片手に、ホールに向かって行ったエベルソルに駆け寄る。
「ヘイ! 文明冒涜エベ野郎共! 何故俺を無視しやがった!」
エベルソル達はタマモの声を無視して僅かに音漏れする大ホールに向かっている。
「こンの分からず屋共が……! 絵具か音符の塊だけがテメエらにとっての『芸術』か……?」
足をさらに速め、1体のエベルソルに接近する。
「ちげェだろうがァ!」
そのままカセットプレイヤーを振り抜いて殴りつけ、その頭部を地面に沈めた。しかしエベルソルもすぐにタマモを睨み返す。
「よーやくこっち向いたな生ゴミ……」
再びカセットプレイヤーを振り上げ、重力加速度も乗せてエベルソルに叩きつける。
「良いか、無知無教養のエベルソル共! 『芸術』とは! 人間が生み出した、感情を震わせる全てだ! 語彙・論理・リズム・環境・あるもの全部使って、人心を動かす『扇動』は!」
まくし立てながら、ガラスペンで直径10㎝近くの大型光弾を複数描き。
「十分『芸術』だろうがアッ!」
超高速でエベルソルに叩き込む。防御のしようも無く全身あらゆる部位を撃ち抜かれ、エベルソルは一度痙攣してから動かなくなった。

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少年少女色彩都市・某Edit. Agitation & Direction その③

タマモの放つ弾幕が、正面から広範にエベルソルを捉え、回避しようと更に広がろうとする群れを、ロキの変化光弾が横からちくちくと突き、少しずつ一塊にまとめていく。
「……流石に180ぽっちじゃ対応されてくるな。200くらいに上げて良いか?」
「好きにして良いよ。私がタマモに合わせられないと思う?」
「あー……そうだな、信頼が足りなかった。じゃ、202くらいで」
タマモの放つ弾幕の間隔が更に早まる。それまで弾速に慣れて防御行動を取るようになっていたエベルソルらは、突然のリズムの変化に対応できず、再び被弾し始めた。
「…………ところで」
「何?」
「ここでタマモノマエの豆知識たーいむ」
「わーぱちぱちぱち」
「今、裏で聞こえてるこの破壊音ですが」
タマモの言葉の直後、ホールの裏から重量物が落下する重低音が響いた。
「ああ、【モデラー】ぬぼ子さんの」
「そうそうあの人。あの人がこの間出した動画見たか?」
「まだ見てなーい」
「そっかァ……あいやそれはどうでも良いんだが。あの人、攻撃のタイミングを中の演奏と合わせてるらしいぜ。何か、デカい打楽器と合わせてるんだと」
「ティンパニ?」
「いや俺あんま楽器とか知らねーし……」
「……器用だねぇ」
再び、落下音が聞こえてくる。音楽と異なるとはいえ芸術の才を持つ二人だったためか、その音を聞いた瞬間、同時に同じことを考えた。
((今、ズレたな))
「……ねぇ、タマモ?」
「分かってる。『頼む』なよ? 俺らはそういうのじゃねえだろ」
「うん。じゃあちょっと行ってくるから」
「うい任せろ。お前が帰ってくるまでくらいはもたせてやるよ」
「全部倒しても良いよ」

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少年少女色彩都市 Act 9

少女がヘドロのエベルソルを倒した頃、叶絵は倒れた肉塊エベルソルを前に少年と話していた。
「…えーと、つまり、リプリゼントルの力で作り出した特別なバイオリンを奏でることで、エベルソルに作用する特別な音波を出して倒した、と」
叶絵がそう言うと、少年はまぁそんな所と返す。
「どんな形であれ、エベルソルはリプリゼントルの“創造力”に弱いからね」
“創造力”で作り出したもので“創造力”を叩き込めば自然とエベルソルは倒れる、と少年は続ける。
「それにこのぼく、和湯 典礼(わゆ てんれい)のようなレベルになれば…」
少年がそう言いかけた所で、不意に彼は言葉を止める。何か気配を感じたのか少年は後ろを振り向いた。叶絵もつられて少年が見た方を見る。
見ると少年が先程倒したエベルソルの表皮に裂け目が入り、中から白い無数の脚を持つ蛾のような何かが姿を現した。
「なっ…!」
第二形態、だと…⁈と少年こと典礼は動揺する。蛾のようなエベルソルは翅を広げると口から火球を叶絵たちに吐き出した。
「⁈」
想定外の事態に2人は動けず、このままエベルソルの攻撃を喰らうかに思えた。しかし、2人の後ろから誰かが走ってくる音が聞こえたかと思うと、叶絵と典礼は後ろから押し倒されるように伏せさせられた。
「!」
無理やり伏せられた叶絵が顔を上げると、黒い背広姿の若い女が叶絵と典礼に覆い被さっていた。
「…あなたは」
叶絵は思わずそう呟くが、典礼は自分を突き倒した女を見て目を丸くする。
「姉さん⁈」

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厄祓い荒正し Ep.1:でぃすがいず その②

「イヤハヤ全く、人間サマの信仰心のお陰でこっちは力ァ貰ってンだ。どっちが偉いか、言うまでも無ェやね」
「どうしました突然に」
「イヤァー? 別にィー?」
「何か腹立たしいなこの御祭神……」
「ンな事よか、もう一杯くれねェかい?」
「駄目です。貴重なお神酒なんですから大事に呑まないと。ほら、せっかく出てきたんですから、仕事してもらいますよ」
「しゃーねェや。我が愛しき神僕に手ェ貸してやるかィ」
本殿を出ると、すっかり荒廃しきった神社の敷地の様子が目に飛び込んできた。何度見ても、この景色には気分が落ち込む。
崩れた石灯籠、倒れた狛犬、片方の柱が折れた鳥居、注連縄が千切れ縦に割けた神木。
「ッたく、何度見ても酷ェよなァー。神社は大事にするモンだって習わなかったのかねィ?」
「妖怪がそんな教育受けているわけは無いのです」
「そッかー……。さて、今日はどッから『直して』いこうかね?」
神様はゴキゴキと音を鳴らしながら首を伸ばし、辺りを見回し始めた。どうせ荒廃しきった風景しか見えないだろうに……。
「ごぶっ」
突然、神様が変な呻き声をあげて、伸ばした首が大きく反って頭を地面に打ち付けた。
「神様⁉」
「痛ッてェ……狙い撃たれたゼィ畜生めが」
「方角は」
「アッチ」
神様は北西の方を指差した。
「では、今日はあちらを『直して』いきましょう」
「オウ」