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『ある中性子分子のすれ違い』上

「これ、借りてたやつ!ありがと!」
 明るい調子で観月は、一冊の本を突き出した。
「うわっ!びっくりした……なんだいきなり。っていうかいつの間にうちのクラスに来てんだよ」
 椅子から飛び上がると、紫陽はため息をついて前に向き直る。
「さっき!
 昨日部屋掃除してたら出てきたんだよね、その本。ずっと借りっぱなしでごめん」
 さして悪びれる様子でもなく、何でもない事のように言い放った。
「ふぅん。そういや貸してたっけか。忘れてた、そんな本」
「そんな本って……これ、絶対汚すなよって、めちゃくちゃ釘刺されたの覚えてるんだけど」
 少しむっとしたように観月は言う。
「俺は覚えてないよ」
 嘘である。感想を聞きたくてうずうずしていたことなど、紫陽に言えるはずもない。
「って、そういうことは覚えてるんだな。借りたことは忘れてたくせに」
 観月は、最初に見せた明るい声から一転し、完全にむくれてしまった。
「なんなの。丁寧に丁寧に扱って、そんなに大切な本ならってすごくしっかり読んだのに」
 本を机に置き、言葉を落とす。
「もっと大切にしてあげなよ」
 いつものやり取りのはずが、完全に良くない流れになっていることに紫陽はやっと気づいた。
「なんだ、『掃除してたら出てきた』って言ったじゃないか」
 だが、引かない。
「大切にしろだなんて、よく言えたもんだな」
 依然前を向いたまま、紫陽は言う。

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元人間は吸血鬼(仮)になりました。#3.5

雨月視点


静かにピアノを弾き続ける涼香。本当に何も覚えてないんだ。あんなに必死であの四人のことを守ろうとしてたのに。人間ってやわだなあ。誰かに守ってもらわないと行けないなんて。
きっと私にも、人間だった頃があったんだろうけど、何も覚えてない。何も分からない。なにかを守る理由が。守るものも、守られることもなかったから。愛されなかった。ただそれだけ。分かりきってる事。だから、きっとその、憎しみで、私は、死んでから、キョンシーなんかになったしまったんだろう。
こんなに醜い見た目じゃ、ここでも誰にも愛されない。でも、風花が教えてくれた。怪物は、同族には優しいってこと。
だから、できることなら、二度と人間は見たくない。
涼香は、愛されたのかな。愛されてたか。あの四人に。悔しいな。あの四人に教えてやりたい。「怪物になってから、お前らのことなんか、涼香は忘れたよ」って。
きっと、あの四人は、笑って許すんだろう。悔しい。私だって、愛されたかった。
どうしようもなく悔しい。
きっと私は、涼香に嫉妬してるんだ。こんなに醜い感情を持っているから、愛されないんだ。
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はい!皆さん!お久しぶりです!
イカとにゃんこです!覚えてる人いますかー⁈
覚えてる人はレスください!
実は、部活を辞めたり、勉強したり、ベース弾いたり(おい!)で忙しかったので書き込みできませんでした。(苦しい言い訳)
これからもよろしくです!(急だな!)

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よしなし

「子どもはピーマンが嫌いである。少なくとも食べていきなり好きになった人はいないだろう。なぜなら子どもの腸内にはまだ野菜のアルカロイドを分解する菌が育っていないからである。野菜の苦味は毒素と考えてよい。もちろん野菜を食べることで育つ。母乳の影響もあるだろうが。
 子どもに好き嫌いをしてはいけないというが、そもそも日本人の腸はピーマンなど外来の野菜を分解するのに向いていない。ピーマンやほうれん草が嫌いな子どもがいても蕪が嫌いな子どもはあまりいないだろう。トマトも野生種に近いような酸味の強い種が敬遠され甘い物が志向されてきたのは日本人に合うからである。
 ピーマンのような凶暴な文化を取り入れなければ大人になれないのが現代社会である。メタファーとしてのピーマンを、わたしは食べることができたのだろうか」
「おじさん、急いでるから早くしてくれる?」



「はーい。今日は最近、SNSで話題になっているパン屋さんに来ていまーす。……こちらのあんパンは一〇円。こちらのクロワッサンは五円。どうしてこんなにお安いんですかぁ?」
 レポーターがマイクを向けると、感情移入を拒絶する爬虫類の目で店主は言った。
「腐ってるんです」



「人類だってバクテリアから進化したものだ。バクテリアにだって意思はある。人間の意思はバクテリアの延長だ。それを自動機械ととらえるかどうとらえるかは自分しだい。バクテリアの記憶も脳の記憶も筋細胞などの記憶も同じものなのだ」
「君がそのバクテリアなのだ」
 だそうだ。


 久しぶりに銀座に出た。老舗デパートのレストランでフレンチを食べた。料理を写真に撮り、インスタにアップした。
 冷たいものが飲みたくなったのでコーヒーショップに入った。学生時代の友だちから、ラインが来ていた。結婚するのだそうだ。適当なスタンプを送っておいた。
 父からラインが来ていた。スルーした。
 ワンピースを買った。帰宅してから、インスタにアップした。いいねがたくさんついた。
 バスグッズを並べて撮影し、インスタにアップした。
 髪を乾かし、ネイルを落としながら動画を見ていたら眠くなった。寝不足が続いていたので、早めに寝ることにした。
 ベッドに入り、朝から一言も発していないことに気づいた。

5

或秘密結社入口会話仲間不仲間見極合言葉(馬鹿長)

「こちらは創業何年になるんですか」
「今年でちょうど、三百年になります」
「ご主人は何代目ですか」
「初代です」
「iPhoneのパスワードは」
「3150、さいこお です」
「好きな音楽は」
「椎名林檎一択」
「本当に?」
「坂本慎太郎とチバユウスケ」
「きゅうり好きですか」
「アレルギーです」
「トマトは?」
「今ポケットの中に」
「今何時?」
「マクロファージ」
「ここはどこ?」
「南ブータン村」
「色即是空」
「不規則に食う」
「空即是色」
「食う得レシピ」
「一切合切全ては空」
「実際問題食えれば食う」
「…せーのっ」
「「お父さんいつもありがとう」」
「からの?」
「「アミノ酸+オリゴ糖」」
「海!」
「川!」
「齋藤!」
「飛鳥!」
「かわ!」
「いい!」
「写真集買った?」
「買いました!」
「どこで?」
「もちろん!」
「「Amazonで!」」
「…」
「…」
「スパイナンバーを言え」
「3928です」
「本当は?」
「7です」
「いいだろう。入れ」
「あの…ホントにこれって必要ですかね?」
「しょうがないよ。上の命令だもん。」
「ですよね。お疲れ様です」
「今度飲み行くか」
「良いですね。」
「…!」
ーーーーーーーーーバキュンーーーーーーーーー
「結構情報漏れてるな…。あと少しで入られるところだった。」
情報管理が大切な時代ですね。と、マダムは笑った。

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Heterochromia of Iris [3]

 魂の抜けたような顔で、少女は遊園地の前に差し掛かった。依然としてうだるような暑さは変わらない。むしろアスファルトからの照り返しが余計に強くなった気がする。それでもエントランス前のピエロは涼しい顔で(まあ着ぐるみだからそれはそうなのだが)風船を配っている。
 近づくにつれて、ピエロの様子がわかってきた。悲しげな表情に派手な服装。だいぶんとくたびれ、みすぼらしい有り様ではあるが、少なくとも汚いだとかそういう風ではなかった。赤や緑、黄色などの風船をもって、入園するしないに関わらず、手当たり次第子供たちに配っている。
 風船を受け取った子供たちは、それはそれは嬉しそうに「ピエロさんありがとう!」なんて言っているから、少女の頬は知らぬ間に緩んでしまっていた。
 ────私も貰おうかな。
 普段は無論風船なんて興味ない少女であったが、なぜかこのときはそんなことを思ったりした。
 やはり足取りだけは魂の抜けたようで、フラフラとそのピエロに近づく。そんな少女にピエロも気づいたようで、こちらを向き、にっこりと微笑んだ────ように見えた。何しろ着ぐるみだから表情なんてわからない。ずっとその悲しげな表情は変わらないままだ。
 少女がピエロの目の前に立つと、ピエロは残り三つ持っていた風船のうちの一つ───赤色だった───を、今までと同じように少女に向かって差し出した。少女はそれを受けとると、やはり他の子供たちと同じように「ありがとう」と言おうとしたが、なんだか突然気恥ずかしくなってうつむき、なにも言わなかった。
 と、その時である。パアンと大きな音が頭上で鳴った。あまり大きかったので、周囲にいた人は驚いて皆少女の方を凄まじい勢いで振り返った。無論驚いたのは少女も同じである。
 目を大きく見開いた少女は、身じろぎひとつしなかった。そんな少女を訝しく思い、ピエロがそっとその顔を覗きこんだ。
 半ば放心状態の少女の目がピエロの目と合った瞬間、ついさっき割れた風船の音と同じ音が、右目の奥で鳴った気がした。



 そこからのことを、少女はあまり覚えていない。気がついたときには目の前でピエロがグッタリと横たわり、少女は左手に封筒型の紙袋をもってカプセルをコリコリと咀嚼していた。
 少女───霧崎あかねの右目の瞳は、真っ赤に染まっていた。

[完]

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Heterochromia of Iris [2]

 病院を出る。暑い。さっきまで冷房のよく効いた室内にいたもんだから余計に暑い。むしろ病院を『出てきた』というより、でっかい電子レンジの中に『入ってきた』と言った方が正しいかもしれない。暑い。熱い。セミよ鳴くな。余計に気温が上がる。松岡修造はセミの血を引いているのかもしれない。さすがテラジュールの男だ。こんな暑い日にはアイスが食べたくなる。それもとろけるアイスクリームみたいなベトベトするようなヤツじゃなくて、後ろにでっかく「氷菓」って書いてあるヤツ。そう、例えばガリ○リ君とか。赤城乳業はすごいと思う。チャレンジ精神とか。いやもう社名言ったら伏せ字した意味なくなるよな。
 暑さを紛らわそうと、少女の頭は無理にフル回転して、その結果余計に暑くなる。早く家に帰りたいのに、家路を行く足取りは一歩ごとに重くゆっくりになっていく。
 駅までの道のりには、小さな遊園地があった。少女は往路の途中ひどく興味を惹かれ、寄り道していきたい欲に駆られながらも予約があるので素通りしたのだが、この暑さの中遊園地なんて見ても、何の好奇心も湧かない。むしろ嫌悪感さえ覚える。その要因の一つは、入り口でこれまた暑そうなピエロの着ぐるみを着て風船を配る、一人のスタッフだったりもした。

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Heterochromia of Iris [1]

「虹彩異色症......私が?」
 少女は思わず横の窓に自分の顔を映してみた。どちらの目も、紛れもない黒だ。
「ええ、そうなんです」医者が言った。
「確かに見た目には分かりにくいかもしれませんが、確かに虹彩異色症と同じ症状が出ているんですよ。昨日、耳鼻科にいらしったんでしたっけ」
「ええ、まあ......」
 そう。少女は昨日、近頃右の耳が聞こえづらいので、検査を受けようと耳鼻科に赴いたのだが、幾つか検査を受けた後、
────ここじゃあ十分な検査ができないようですから、いい病院を紹介いたしますから、是非そこにお行きなさい────
 と、この内科病院を紹介されたので、今日来てみたのである。
「その右耳の聴覚障害も、虹彩異色症の影響のようなんです。あなたには、若干ですが斜視の傾向も見られますし」
「で、これは治るんでしょうか......」
「うーん、今のところ治療法は存在しませんが、日常生活にさほど影響は与えないと思います。今違和感を感じてらっしゃるのも、左右の差が強まってきただけで、聴力そのものは不自由と言うものではなかったですよ。むしろ左耳が良すぎるくらいです」
「そうですか......」
 じゃあなんともないのか。少女は安心したような、拍子抜けしたような、何とも言えない感情に苛まれていた。
「念のため、お薬出しときますね」
 そういうと医者は、おもむろに処方箋を出してきた。
「何の薬でしょうか」
「えっとですね、これは、安定剤です」
 ..................安定剤?
「どうして安定剤なんかを」
「あ、不必要なら服用しなくっても結構ですよ。まあ、念のため、というやつです」
「......はあ」
 言われるままに少女は処方箋を受けとると、
「ありがとうございましたー」
 診察室を出て、受付で支払いのために名前が呼ばれるのを待った。

1

元人間は吸血鬼(仮)になりました。#⒊25

風花視点


え?話数が中途半端だって?
しょうがねえだろ。読んできゃ、わかるから。

涼香を連れてきてから、数時間後。
あの後一人で人間界に行って、涼香のそばにいた奴らに聞いてきた。
どうせ、斬りかかってきたり、即座に銃で撃たれると思っていた。

しかし、現実はそうじゃなかった。
美月とかいうやつは、襲いかかってきたが、結月ってやつが止めてくれたおかげで怪我せずに済んだ。その後に、結月と二人で話をした。

「涼香は?変わってないよな?」
そう聞かれた。少しだけ悲しそうな顔で。
前にも見たことがある、この表情。人間らしい、
その表情。
「多分、この世界でのことは、忘れてる。
思い出すことはできるが、そうそう思い出さない。」
そう答えると、
「じゃあさ、せめて、そっちの世界に、ピアノっていう楽器があるなら、弾かせてあげてくれねえか。」そんなことを言い出した。

「良いぜ。おんぼろピアノ倉庫から出してやるよ。」そう笑えば、結月も吹っ切れたように、
「よろしくな!」と言って笑った。




そんなことが二人の知らない間にあった。
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No music No life の次の曲が決まっていません!
皆さん一緒に考えてください!
宜しくお願いします!

この作品の略称も考えてください!

イカとにゃんこ

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