表示件数
1

This is the way.[Ahnest]5

「これがそれだよ」
 そう言ってガルタはその封筒をアーネストに手渡した。いぶかしげに眺める。すると、その封筒の封印に気がついた。
「ガルタさん、この封印って......」
「ああ。王都の紋章だ」
「王都?!」
 永世トルフレア王国王都ケンティライム。世界で最も優れた街とされる。アーネストはトルフレアに来て三年あまりだが、まだケンティライムには行ったことがなかった。
「だからお前が、連行されるような何かやばい事でもしたんじゃないかと思ってだな...」
「余計なお世話です」
 とは言ったものの、一体何の件か全く覚えがない。アーネストは少し不安になってきた。僕の知らない間に何かとんでもないことをしでかしてやしないだろうか。まだトルフレアの法律はマスターしてないからな...。いや、そんなことはない。もしそうだったとしても、そんな大したことではない。しかし王都の兵が来たとなると...。
「とにかく、帰って読んでみることにします」
「ああ、そうするといい。気を付けろよ」
「はい。ありがとうございます。」
 
不安と若干の好奇心を手に、アーネストは下宿へ帰った。この手紙が、彼の運命を大きく変えることになるとは、彼に知るよしもなかった。

0

This is the way.[Ahnest]4

 [ガルタのパン屋]の営業時間も終わって、明日の準備をしている頃。
「アーネスト、ちょっと来い」
 不意に、ガルタに呼ばれた。朝の遅刻の件だろうか。またこってり絞られんだろうなあ、等と考えながら、厨房の奥にある小部屋に入る。
「...何でしょう、ガルタさん」
「今朝はどうして遅れた。珍しいじゃないか、いつも俺より先にここに来るのによ」
「すいません」
「怒ってる訳じゃない。理由を聞いておきたいと思ってな」
「はあ...それが、夢を見たんでして」
「夢、なあ」
「ええ、ひどい夢でした」
 ガルタはなぜか訳知り顔のようである。気のせいか?
「どんな夢だった」
「それが全く覚えてないんです。ひどく恐ろしい夢だったことはしっかり覚えてるんですが」
「ふん...そうか。まあそんなことはもうどうでもいい。それよりお前......何かしたのか?」
 アーネストは首をかしげた。ガルタは何の話をしてるんだ?全く見当もつかない。一体なんのことだろう。
「どういう意味ですか、僕がなんかしましたか?」
「いやな、昨日のことなんだ。お前が帰ったあと、俺はまだ暫く仕込みを続けていたんだ。したら、突然ドアが開いて、数人の兵士が入ってきたんだ」
「!」
「そりゃあ驚いたよ。もうとっくに店は閉めていたから、何のようですか、と聞いたんだ」
 ガルタのことだ、きっとそんな穏便に訊ねたのではないだろう。アーネストはそう思った。
「そしたら、その兵士たちはお互いに顔を見合わせて、うちの一人がこう言ったんだ」

『アーネスト・イナイグム・アレフはいるか。』

 アーネストは怪訝な顔をした。なんだそれは?フルネームで訊いた、と言うことは、たぶん僕の知り合いじゃない。
「怪しいと思うだろ?俺も何がなんだかわからなかった。で、もちろん俺はいない、と答えた。するとその兵士はこの手紙を寄越したんだ」
 そう言うとガルタは一通の手紙を取り出した。

0

This is the way.[Ahnest]3

ガチャッ、バタン!!!
「おはようございますッ!!!」
「全くお早くねえわッ、何しとったんじゃ貴様ァ!!!」
「すっすいません!!!」
「このクソ忙しい日に寝坊たぁいい度胸だ、それなりの覚悟あるんだろうなあ!!!」
「すいません、ガルタさん!!!」
「もういいからさっさと着替えんか!」

 [ガルタのパン屋]はいつも賑やかだ。ダルケニアにあったパン屋はみんなおおらかでふくよかでなんか、こう、フワッとしたパン屋特有の香りがあったのだが、ガルタはそれとは全く違った。ゴリッゴリのムッキムキなのである。短く刈り上げたごま塩の髪、そのガタイには全く似合わないエプロンをつけて、アーネストや他の店員に始終怒号を飛ばしている。
 なんでそんなパン屋で働いているのかというと、ガルタのパンは、それはそれは美味しいのだ。歯で弾けるようなバゲット、口の中でほどけていくクロワッサン、あり得ないほど甘いバターロール。
 別にアーネストはパン屋になりたいわけでもなんでもないのだが、なぜかここで働きたい!と思えたのだった。
「オーブン止まったぞ、さっさと開けんか!!!」
「なんだその切り方は、肉でも切ってるつもりか!向かいの肉屋にでも行ってこい!!!」
「とろとろしてんじゃねえよこのノロマ!!!」
「そんなんはいいから手を動かせ手を!!!」
「アーネスト!!!」
 とはいっても、思った通りではあるが相当に厳しかった。なんでこんなことやってんだろ、といいたくなるときもあったが、それが妙に楽しくもあった。別にマゾヒストではない。

3

This is the way.[Ahnest]2

「......はあッ!!!」
 ガバッ!と、アーネストは突かれたように跳ね起きた。荒い息だ。全速力で100メタ走った時だって、こんなに汗ビッショリになったことはない。
「...はあ。また夢か...」
 このところこんな夢ばかり見る。しかし、どんな夢だったか、ハッキリとはいつも思い出せない。つい昨日のおいしかった晩御飯がなんだったか思い出せないみたいに、凄く悪い恐ろしい夢だったことは覚えているのだが、その情景が思い出せないのだった。
 アーネストは布団から出ると、
「うぅっ、さっみい!」
 ブルリと身を震わせた。ケヤキの月もじき終わりだから当然と言えば当然だ。窓際まで歩いていくと、サッと両のカーテンを引いた。朝の光がシャラリと部屋に差し込む。
「うーん、いい朝!...あれ?」
 ふと気づいた。いつもより人通りが多い。こんな時間におかしいな...。今日は何の日だったかな。いや、それとも...。
「まさか...」
 アーネストはドアのちょうど真上の壁に掛かっている時計に目をやった。

 8時40分。

「......?!」
 もう一度時計をよおく見た。やっぱり8時40分。アーネストは青ざめた。なんでこんな時間なんだ...!
 のんびり「いい朝!」なんて言っている場合ではない。アーネストは慌てて支度を始めた。昨日枕元に今日着る服を置いていたことも忘れて大騒ぎだ。見る間に彼の部屋に足の踏み場はなくなった。
 支度を終えると、アーネストは転がるように階段を駆け下りた。そこで気づく。
「あっ、そうだ奥さんいないんだった...!」
 アーネストの下宿の奥さんは昨日からバヴェイルに観光に行っているのだ。それをすっかり忘れていた。
『留守の間よろしくね。私がいないからって、朝ごはん抜かしちゃダメよ?』
 ごめん奥さん。早々に守れなかったよ。明日はちゃんとするから...。そう一人で呟くと、ミルクを一杯だけ飲んで、大通りへ飛び出した。

3

This is the way.[prologue]4

ーーダルケニア国 ネウヨルクーー


「キャス、帰ったよ!」
「どうしたの、あなた。今日はえらくご機嫌ですこと」
「ほら、見ろよ!アーネストから手紙だ!」
「まあ!あの子、やっと手紙を書いたのね!それで、なんて書いてあったの?」
「まだ開けてないんだ。今読むよ。どれ...」

 ―――父さん、母さん、ウィル、元気ですか。僕がトルフレアに来てからすっかり年月が経ってしまいました。時が過ぎるのは本当に早いものです。暫く手紙を書かなかったことを許してね。忘れてたってのは、まあ、それもあるんだけど(ごめんよ)、何もかもが新しいことばかりで、そりゃもう大変だったんだ。最近になってやっと落ち着いたって感じかな。とにかく、ここには新しいものがいっぱいさ。
 今は僕の下宿の数百メタ先にあるパン屋で仮働きさせてもらってます。仮働きといっても、ダルクよりずっとお給料がもらえるんだ。まあ、そのぶん物価は高いんだけれども。と言うことで少しだけどお金を送ります。こっちに来るときにはいろんなものを用意してもらったからね。僕のできることをしなくっちゃ。これで何か美味しいものでも食べてください。
 じいちゃんとばあちゃんによろしく。あとリタにもよろしく言ってください。風の噂でダルクの人がトルフレアに来る予定があると聞きました。誰が来るんだろう。会えることを楽しみにしています。
              アーネスト


「元気にやってるみたいだ。安心したよ」
「そうみたいね。それにこんなにお金を送ってきて。やっぱり王国は違うのねえ」
「アーネストも頑張ってるんだ。俺もがんばんねえとな」
「そうね......新しい家族もできることだし」
「うん、そうだ.........何だって?!」
「なんかおかしいなと思ってお医者様に見てもらったの。そしたら......」



「...............」

0

This is the way.[prologue]3

「......良くない知らせだ」
「.........!」
「今すぐに対処せねば。守衛長!!!」
「   何でしょう、閣下!」
「城の警備を警戒体制その三に置け。夜間はそれの一・五倍だ」
「承りました、閣下!」
「陛下、その三と言えば、最大級の警戒ではありませんか。一体何が......」
「その名を聞けばあなたもわかろう。」
「.........?」
「......"ゼノ"が、現れた」
「.........!」
「ゼノの予言は知っておるな」
「もちろんです。子供の頃に叩き込まれますから。」

 必ずや人は彼を知る
 盾の城の夜も更ければ
 奇妙な声(ゼノ)は高らかに笑う
 朝は来るのだと高らかに笑う

「しかし、伝説だと思っていました。実在するとは...」
「予言はいつだって伝説のように語られる。ゼノはその最たる例だ。しかし、私もまだ先のことだと思っていた」
「アランビルの予言がその実不真だとは...」
「あなたはアランビルの予言が外れたことを知っているのか?」
「.........」
「彼女がする予言は占星術などのまやかしではない、神託そのものだ。これを無下になどできるものか」
「...では......?」
「あなたの配下に間諜がいただろう、エルムとアベデだったか」
「はい、陛下」
「彼らをトルフレアにやれ。ゼノを探すのだ、今すぐに!」
「わかりました、陛下。すぐにやりましょう。」




「ゼノ、か。百三十年ぶりに、それも一人ではない、か。これは面白いことになりそうだ」