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白と黒と青き星〜第3話 帰還〜

【目標沈黙、侵食、群発共に確認されません。これより避難民の帰宅整理に移る】
『了解。輝士班2名帰還します』
【了解。出口4.5番を開放します。そこから出撃ルート4.5番で帰還してください】
『了解』
2人は揃えてそう言い、通信を切った。
「帰ったら…どうせ説教だな」
「だよね〜…」
指定された出口に向かいながらのんびりと話す。
「まぁ怒られるの大半お前だけどな」
「なんでよ!手こずったのも最後連携やめて勝手したのもあんたじゃん!」
「よく言うよ、放っから俺を風穴としか扱わなかったくせに」
「それは…」
自覚はあったようで少しホッとしている。
「でも!最後のセリフはいらなかったかなー」
「うるせぇ!」
自分でも突発的に出た癖のようなものでそれなりに後悔してたのでいらなかったと言われると耳が痛い。
「あ、でも私このままライブだ!」
美空は用事を思い出して笑顔になった。
「じゃあ説教は1人ずつ、つまり時間で怒られる量はわかるな」
パッと出た笑顔が一瞬で曇る様は滑稽だ。
「説教を中断してライブに行けば…」
「やめとけよ、ライブも大事な仕事だろ、みーたん?」
高田美空は光の力をアイドルにも使う。
愛称は[みーたん]
元来のスタイルと戦績も相まってかなりの人気だ。
「出口だ、ちゃんとライブ行けよ?」
ジョーはそう言い残して止まることなく出口に入った。
「わかってるよ、私だって行きたくないわけじゃないし…」
美空ももう言い返す相手がいないとわかりながらも言ってから出口に入った。
「おかえり、お疲れ様」
「お疲れ様、ナイスコンビネーション!」
出撃ルートを抜けた先で迎えてくれたのは2人の同期だ。
・津上利樹(つがみとしき)
・大幡有日菜(おおはたゆいな)

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白と黒と青き星 〜第2話 戦闘〜バディ編

「美空!お前何のつもりだ!」
飛んできたクナイは駆け巡った思考の中から1つの答えだけを指し示した。
「まぁ確証があったわけじゃないけどね」
クナイに遅れて本人が笑いながら降りてくる。
「でもデコイの可能性は高いと踏んでた。だから俺に本体を譲った。違うか?」
徐々に回復するカゲの体や触手に斬撃を入れながら問い詰める。
「半分正解、でももう半分はほんとにジョーじゃなきゃ本体に太刀打ちできないって思ったからだよ」
全く都合のいい言い方だ。実際俺の刀型P.A.ですら傷をつけるのが精一杯だったから結果的には正解だけど…でも今そんなことは問題じゃない。
「なぁ、お前ならコアの位置がわかるんだろ?」
「だからわかるわけじゃないって!見当はつくけど…」
「俺よりわかるならそれでいい、交代だ」
「はぁ?聞いてなかったの?私のP.A.じゃ歯が立たないんだってば!」
「お前はコアを打て、それ以外は俺が諸々やってやる」
お互い投げやりな言い方をするが、その真意は伝わっている。バディとは極めて不思議な関係だ。
「無理言って…まぁジョーが言うなら信じられるけど」
美空はクナイでカゲの体を抉っていく。ジョーはその傷を維持し、攻撃を全て捌く。
【初めからこれが出ればいいのだが…】
隊長はその様子を賞賛しながらも少し頭を抱える。
「あった!」
隊長のそんな感情を余所に美空はクナイがコアに当たった感覚に声を上げた。
「ぅりゃーー!」
ダークコアとP.A.がぶつかり甲高い音が響く。コアへの衝撃にカゲの体が反応し、硬直する。
「ダメ…硬い…」
クナイが刺さったまでは良いがそれより奥に進まない。美空が助けを求めるように後ろを覗く。そこに、彼の姿はなかった。
「ジョー?ねぇ!」
辺りを見回すが彼の姿は見えない。
「上だ、バーカ!」
美空は死角からの声に驚き上を見た。
「どけっ!押し込んでやる!」
美空は彼の姿を目で追いながらクナイから手を離し、後ろに後ずさりする。
「ダァーー!」
ジョーの繰り出した足先は見事にクナイを捉え、先程までよりも深く差し込む。ダークコアの中心に到達した瞬間コアが砕け、その破片が爆散した。融解するカゲの体に足を取られ尻もちをついた美空に
「ラストは貰った」
ジョーはそう言ってサムズアップを見せた。

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白と黒と青き星 〜第2話 戦闘〜五代ジョー編

校長から高田美空への説教はジョーの元にも届く。
「あいつ…またやったのかよ…」
大型のカゲに乱斬りを浴びせるその手が止まりそうな程力が抜ける。しかし呆れながらもそれが彼女なりの合図だというのもジョーにはわかっていた。
「俺もそろそろちゃんとやるか…」
袈裟斬りで大きな傷をカゲに刻み、その反動を使って後ろへ飛び間合いを取る。これが彼なりの必殺技への儀式だ。鞘こそないが納刀に等しい逆手持ちでP.A.を持ち無行の位で呼吸を整える。
スーッ…ハァー…
“相手は中長距離攻撃が主体で近接戦もその応用に過ぎない。加えて触手も向きがあり他生物同様に上からの攻撃には必ず隙がある。残るはコアの位置だけど…”
…タッ…タッ…
小さいが確実に近づく足音。
「行くか」
そう呟いて走り出す。迫る触手を捌き、時に切りながら空中へ飛び上がる。触手の届かない高さまで飛んだところで姿勢を整える。落下が始まる。触手の迫る速度は先程までの比では無い。
「アァーー!」
P.A.は完璧なタイミングで振り下ろされ、次々に触手を切っていく。そのまま刃は本体を捉える。先程の乱斬りとは違い確実に刃が入る感覚。刻んだ傷が開き、さらに深いところまで刃が入っていく。進むほどにコアらしきものがはっきりとした点になっていく。しかし、当然コア付近は固く、刃の勢いも抑えられていく。
“もう少し…届け…”
その意志が止まり始めた刃を進める。刃先から今までと違う何かがジョーに伝わる。
“届いた…!”
カゲの体に足を突き刺し、体勢を取る。
“回復する前に打つ!!”
再び大きくP.A.を持ち上げる。
「ぅらぁーーー!」
彼の最も得意な斬り方で振り下ろす。
間違いない手応えでコアが真っ二つに割れ爆散する。しかしどこか様子がおかしい。
“おかしい…コアを破壊すれば体が融解するはず…”
「まさかデコイ…!?」
一瞬で考えうる全ての可能性が頭を駆け巡る。
「さすがバディ、私の期待通りだよ!」
背後から軽薄とさえ取れる愛嬌全開の声とクナイが飛んでくる。そのクナイは俺の肩口を掠め、カゲの体に突き刺さった。
「美空!お前何のつもりだ!」

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白と黒と青き星 〜第2話 戦闘〜高田美空編

地下に張り巡らされた出撃ルートを通り
指定された2.3番出口から2人は地上に参上する。
目の前には大型テネブリス。その異質な存在感は圧巻だ。
「これが今回の獲物ねぇ」
「映像見とけよ、共有されてたろ」
大型のカゲを前にしても2人のやり取りは変わらない。
しかしその目はきちんと臨戦態勢だ。相手の出方に気を配り、しかし緊張や気後れする様子もなく隙がない。
『輝士班2名より、これより攻撃を開始する』
報告などの事務作業は相変わらず一言一句ズレがない。
【了解。詳細情報を通達します】
その通信を聞きながら、2人は目を合わせ、口角を上げる。
『全開放』
2人は光の力を全開放し、走り出す。
その走力は常人のそれではなく、100m以上あるカゲとの距離を3秒もなく詰める。
【目標は全長14mで大型に分類。特定の形状を維持せず種族は不明。コアの露出も確認されません。本体の攻撃は主に触手による中長距離攻撃、近接戦は不明。侵食分身の攻撃は…】
走りながら2人は詳細情報と自分達の視覚情報を照らし合わせる。
『了解』
「んじゃ、私はまずこの厄介な侵食くんの数を減らしますか」
「なら俺は本体ってことか」
「さすがバディ、でっかい風穴期待してるよ〜」
そう言いながら2人は各々に別れ、それぞれの目標に向かってその武器を振るった。
高田美空はクナイを駆使して無数の侵食分身(カゲの侵食によってカゲ化した存在)を次々に倒していく。その姿はまるでステージで踊っているアイドルのようにさえ見える。それほどに綺麗に、的確に相手のコアを突いていく。
「ここでファンサ!」
背後のカゲに向かってクナイを投げる。
しかしカゲもバカではなく、その距離があればコアへの命中を外すことだってできる。
「あ!しまった!外した!」
クナイはカゲの体を掠めてそのまま飛んでいく。
そのためカゲは姿勢を変えず美空に迫ってくる。
「…なんてね」
飛んでいったように見えたクナイは方向を変え、カゲのコアを背後から貫いた。そのまま宙を舞うクナイが周囲のカゲを一掃。帰ってきたクナイを掴み、
「千の偽り万の嘘、これも私の武器だよ」
そう言ってクナイに口付けする。
【美空ぁ!!!!】
「うひぃ…」
当然こんな戦い方では校長からお叱りの通信が入る。
「あいつ…またやったのかよ…」

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鏡界輝譚スパークラー 白と黒と青き星〜第1話 出撃〜後編

「2人とも、いけるな?」
出撃準備室に校長もとい澁谷分隊長の声が響く。
「俺はもちろんいけるよ、まぁ遅刻女はどうか知らないけど」
「うるさいなぁ、ライブだったんだってば!」
世にいう学生男女のノリだ、何故か男女というのはイジり合うことでしかコミユニケーションを取れない。しかしこんな学生に頼らなければならないというのもまたこの地球の不思議な現実だ。
【本部システム、作戦第2フェーズへの切り替え完了しました】
通信越しに聞こえる本部隊員の報告が聞こえる。
「了解。という訳だ、2人とも出撃準備だ」
その言葉を受け2人は目つきを変え、目を合わせ、タイミングを合わせて首に提げたチップのスイッチを入れる。
『解放』
このチップはSTIの学生証であると同時にスパークラーの光の力を制御するものだ。スイッチを入れるとその光の力が解放される。
2人はチップのついたそのネックレスを外し、チップを用意されたP.A.に挿入する。するとP.A.にある画面に
[AA0X02 Log in] [AA0X03 Log in]
とそれぞれ表示され、
一方は日本刀程もある刀身の刀型、
もう一方は苦無(くない)型
に形を変える。
【AA0X02、AA0X03、2名のログイン確認しました。ルート2.3番開放します】
通信の音が聞こえるが、2人は反応1つせず、変形したP.A.を素振りしている。
『AA0X02 五代ジョー、AA0X03 高田美空、両名出撃準備完了。出撃ルート確認しました』
訓練の時間に言い慣れているため、口を揃えるのは自然とできる。
【了解。出口2.3番開放します!】
「頼んだぞ2人とも」
2人に聞こえるかギリギリの音量で呟く。
「行くぞ」「行こっか」
2人も互いの目を見て合図する。

『出撃!』

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白と黒と青き星 〜第1話 出撃〜前編

STI校内、そして防災庁特定特殊生物対策班の施設内に警報が鳴り響き、対策本部は警報と共に電源が入る。
「東鏡都瀬田谷区に大型デネブリスの出現を確認。政府より緊急事態宣言発令に伴うプラン11要求!」
「了解。瀬田谷区全域の河川及び公道にフォトンウォール展開、住民避難を開始します。」
「陸自班、空挺班は東鏡I.Cを中心に第1種戦闘配置!」
指示を出す澁谷分隊長は私たちの通う東鏡第1分校澁谷校の校長でもある鳴海晃司。かつてスパークラーとして第1線で活躍したエースだった男だ。今もその戦術眼は衰えることを知らない。
【空挺班より報告します。目標は現在双子田万川駅周辺を侵攻中。幸い侵食は国道246号線、都道11号線に囲まれた範囲内で抑えられています】
「その範囲なら住民避難完了しています」
通信と本部隊員の声が次々に飛び交う。
【澁谷分隊、全隊員配置完了。目標捕捉しました。】
「了解。総員、飽和攻撃体勢に移れ!」
隊長はその全てを聞き逃すことなく、的確な指示を出す。
【『了解』】
【空挺班、攻撃準備完了。いつでも打てます】
【同じく陸自班、いつでも打てます】
「GPS誘導弾発射準備完了。いつでも打てます」
さすがに特殊自衛隊。行動は迅速で乱れがない。
「住民避難完了のため、政府の承認は省略。飽和攻撃開始。打てぃ!」
隊長のその合図で発射、着弾の轟音が鳴り響く。
先程まで見えていたモニターはその爆撃の衝撃のためか、それを防ぐためか映像が途切れている。
その轟音は数秒間続き、その間も本部は忙しなく誰かしらが動いているが音は掻き消される。
その中で隊長は何か言伝を受け、少し口角が上がる。
「飽和攻撃終了。モニター、復旧します」
そのモニターに映ったのは爆発によって先程までとは少し形状が変化したデネブリスの姿があった。しかし本部の面々に動揺する様子はなかった。
「実弾、光弾共に全弾命中。目標のコアに損傷、認められません」
「結構。第2フェーズ移行への時間は稼げた」
そう言うと通信をアナウンスに切り替える。
「全隊員に告ぐ、これより作戦を第2フェーズに移行する。総員、配置に着け!」
隊長は再び通信をSTI校内の出撃準備室に切り替え、問いかける。
「2人とも、いけるな?」