表示件数
0

厄祓い荒正し Ep.1:でぃすがいず その①

割れた床板の下に手を突っ込んで、しばらく床下を探る。目的の感触が触れ、すぐにそれを床の上まで持ち上げた。
「……見つけた」
お目当ての品、この神社がまだズタボロ廃神社じゃ無かった頃にお神酒として奉納された、半升入りの清酒の瓶。瓶・中身共に状態良しと目視で確認し、栓を開ける。
端の欠けた猪口を2枚、床の上に並べる。1枚を目の前に、もう1枚を、まるで誰かと対面しているかのように奥に。
お神酒をそれぞれの猪口に注いでいく。奥の猪口、こちらの猪口の順番で。瓶には再び封をして、また床下に隠す。
それから、またお神酒の前に胡坐で座り、こちらの猪口を取り上げ、中身を一息に飲み干した。
日本酒特有の気持ち悪い甘味と喉を焼く感触に思わず顔を顰めたが、我慢して飲み込み、猪口を床にタン、と置き、あちらの酒器を見る。
「……やっと出てきた」
あちらの酒器を持ち上げ、中身を吞むでも無くしげしげと見つめている異形の怪物……この神社の御祭神に、溜め息を吐いた。
「良ィーい酒だァ……旨かったべや?」
「無理な味だった」
「ウッソだァー。だってこんなン、香りだけで旨ェだろーがよィ」
「ならさっさと吞んでくださいます? せっかく神様呼ぶために苦手なの我慢したんですから」
「ウイウイ」
細長く節くれだった指3本で摘んでいた酒器を口元に持っていき、神様はすい、とお神酒を飲み下した。
「ッ…………はァー……! やッぱ旨ェなァ、人間サマが神社に納める酒はよォ」
「あれが旨いぃ? 理解できない……」
この神様は、いつも人間のことを指す時に、『人間サマ』と“様”付けで呼んでいる。神様なんだから、もっと偉そうにしても良さそうなものなのに。以前それについて尋ねた時はたしか……。

2
1

CHILDish Monstrum:或る離島の業務日誌 その⑧

「じゃね、おじさん。もう帰っていいよ。私はおじさんの魔剣作るから」
魔剣? 作る? キュクロプスの能力に関係することなのだろうか。これから関わっていく以上、知っておいた方が良いだろう。この機に尋ねることにする。
「魔剣? 君の能力か?」
「ん。私の能力、『魔剣の鍛造』。島のみんなも全員持ってるよ。おじいちゃんにもあげたの。たくさん」
「悪いけど、私は剣なんか使った事……」
「別に、剣になるとは限らないよ」
「『魔剣』なのに、かい?」
「ん」
微妙に話が飲み込めない。首を傾げていると、キュクロプスが話を続けた。
「『魔剣』っていうのは、別に剣だけじゃない。武器でも何でも無いこともある。分かりやすく言うなら、『魔法のアイテム』みたいなもの。その辺のモンストルムの特殊能力にも負けない不思議な力を持った道具類。その人専用の最高の相棒。それを私は『魔剣』って呼んでる」
説明しながら、キュクロプスは『作業場』に続いている方の扉に向かっていた。
「次、いつ来るの? 私、3日は作業場から出てこないよ」
「あ、ああ……それじゃあ、3日後の12時頃、また来よう」
「ん。じゃね、おじさん」
最後にこちらに手を振って、キュクロプスは作業場への二重扉をくぐり、あちらへ籠ってしまった。

0

CHILDish Monstrum あとがき

どうも、テトモンよ永遠に!です。
昨日をもちまして、企画「CHILDish Monstrum」は無事に終了いたしました。
今回も案の定参加者が少なかったのですが、最終盤に滑り込み参加する方が出てきたりしたので根気良く待つのが1番かなと思いました。
という訳で、毎度恒例の企画の裏話をば。

今回の企画は、去年のニコニコ超会議開催中にニコニコ生放送で一挙放送されていたアニメ「ダーリンインザフランキス」というアニメを観ていた時に思いついたものです。
件のアニメの後半でとあるキャラクターが「僕たちは君たち人間と違って優れた存在だから」みたいなことを言っていて、この場面を観た瞬間に「人間が作った、人間より優れた人外たちが人間を守るために戦う話」を思いつき、この企画の原型である物語ができました。
しかし、最初はこの物語を自分の中で色々展開させていましたのですが、その内忙しくなったり他の空想に走ったりして気付いたら放置するようになってしまいました。
それから時間が流れて去年の12月上旬、ふと学校帰りに「あの話を企画として昇華しちゃえばいいんじゃね?」となり、他に思いついた企画と共に企画アンケートをここに投稿、この企画に1番票が入ったので年明け早々に始めて今に至ります。

アンケートで4票も入ってたので4人くらいは参加者が出てくれるんじゃないかと踏んでいましたが、そうはいかなかったので企画って相変わらず難しいな〜と思いました。
でも某ナニガシさんがめっちゃ楽しんでたみたいなのでよかったです!
本当にありがとう!

長々と書いてしまいましたが、今回はこの辺で。
次は企画アンケートで2番目に票が入った企画「Daemonium Bellum RE」を3月に開催します!
今度は天使と悪魔が大暴れする企画なので、皆さん楽しみにしててくださいね〜
遅刻投稿も待ってます!
では、テトモンよ永遠に!でした〜

0

CHILDish Monstrum:或る離島の業務日誌 その⑦

時々考えるように虚空に目を泳がせながら、キュクロプスは2分ほどかけてメモを完成させたようだった。
「これくーださい」
メモ帳のページを破り、こちらに差し出してくる。ページを受け取り、内容を確かめる。
『牛革3頭分、鋼鉄400㎏、合成ゴムロール10m、プラスチック75㎏、和紙1m四方、アルミニウム10㎏、銅線200m、インバーダの硬質な外皮または甲殻用意できるだけ、インバーダの羽毛用意できるだけ、インバーダの爪または牙用意できるだけ、米5㎏、鶏胸肉300g程度、キャベツ1玉、醤油1L、食器用洗剤1本、歯ブラシ2本、ペット用ウサギ1羽』
後ろの方は食品や日用品だ。1人でこんな場所に暮らしているわけだから、生活支援に必要なのは分かる。しかし、前半の大量の素材の要求は、キュクロプス1人の需要にしてはあまりに多すぎる。まるで工場か業者の発注ではないか。
1度、自分の手帳を確認する。

・キュクロプスが欲しがった物は可能な限り提供すること
・特に工業素材やインバーダの遺骸は絶対に入手すること
・ペットの要求は断ること(長期間作業にかかりきりになることが多いキュクロプスには面倒を見られない)

「……ウサギ以外は次来た時に」
「ざんねん」

0
0

指定席 #2

三両目、一番前のドアから電車に乗る。
この時間はどの席にもいつも同じ人が座っている。
不思議なものだな、と思いながらもいつもの『自分の席』に座る。
四人掛けシートの通路側。進行方向と反対側の席。この席は正直、少し座りづらい。それでもこれまで守り抜いてきた、俺の特等席だ。

最近学校の先生はやたらと話を「将来」に繋げたがる。この勉強が将来何に役立つか、を教えてくれるのではなく、「提出期限を守れていない人が多いけれど、もしそれが大学や会社に出す書類の時でも、同じように期限を守らないのですか?」とか。それが間違っているとも、否定したいとも思っていない。
でもあまりぴんとこないのだ。将来のことを考えようとしても、自分が「今」に夢中になりすぎているからだ。
起きて、学校で朝練をして、授業で寝て、昼休みは昼練で午後の授業も寝る。そして放課後は部活。気づけばずっと、この生活を送っていた。俺には部活しかなかった。進路指導のための学年集会の後に皆が将来のことを話している時も、俺はその横で愛想笑いを浮かべながら(今日のシュートはなかなか良かった)とか(明日は久しぶりに走るだけの日にしよう)とかを考えるだけで、目の前のことに精一杯になっていた。
電車に揺られながら、考える。
俺って何になりたいんだろう……。

車内放送が駅に到着したことを告げる。隣の席の女子が慌てて立ち上がる。彼女が降りやすいように、なるべく足を折りたたむ。向かいでも会社員の男性が同じようにしている。これもいつものことだ。


もうすぐ俺の学校の最寄り駅に着く。
今日も部活のことだけを考えていたい、と思う。


「自分」の中の悩みが、「俺」には気づかれないように。



【悠 Matsuno Yu】
高校二年生
バスケットボール部員
大学のことを考えるのが嫌

1
0
0

CHILDish Monstrum:CRALADOLE おまけ 2

「CHILDish Monstrum:CRALADOLE」のおまけ…というか設定集、その2です。

・デルピュネー DELPYNE
身長:162cm
特殊能力:バリアの展開
使用武器:盾(本編未登場)
一人称:私
とある都市“クララドル”に配備されているモンストルム。
心優しく世話焼き、ビーシーと仲良し。
先代のクララドル市のモンストルム部隊が壊滅した後に作られ、クララドル市のインバーダ対策課に所属することになった。
長髪で青緑色のパーカーを着ている。
怪物態は(本編未登場だが)下半身がヘビになった女巨人。

・ビーシー BIXI(贔屓)
身長:150cm
特殊能力:怪力
使用武器:ハンマー(本編未登場)
一人称:ビィ
とある都市“クララドル”に配備されているモンストルム。
気弱だが仲間思い、デルピュネーと仲良し。
先代のクララドル市のモンストルム部隊が壊滅した後に作られ、クララドル市のインバーダ対策課に所属することになった。
二つ結びで茶色のパーカーを着ている。
怪物態は巨大な亀。
あだ名は“ビィ”。

・羽岡 Haoka
身長:175cm
一人称:わたし
とある都市“クララドル”のインバーダ対策課の職員。
クララドル市に配備されているインバーダたちの世話や外出時の監視などが担当業務。
真面目で業務や上からの指示に忠実。
個性豊かなクララドル市のモンストルムたちに手を焼いている。