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Flowering Dolly:魂震わす作り物の音 その⑦

まず片足を地面に下ろす。その足を軸に回転し、ビーストの生体ミサイルが完全に貫通するより早く、背後のケーパのことを強く突き飛ばす。直後、身体に突き刺さっていたミサイルたちが一斉に爆発しながら私の全身を貫き破壊する。
「あぐぅ…………っ!」
急所は生きてる。けど、両脚は捥げたし、左腕も使えなくなったし、お腹にも結構な大穴が開いた。大分ピンチかもしれない。時間をかければ治せるけど、ケーパがいるのに時間をかけてる余裕なんて無い。
「っ……けーちゃん!」
「ぐぇっ……けほっ……な、何だよ?」
「ごめん、ちょっと守れそうにない! 逃げて! 私だけなら死なないから!」
「わ、分かった! 悪い、死なないでくれよ!」
「そこは大丈夫……」
近くじゃヤツの破片の回収作業が進んでたはずだから、多分すぐに増援は来るはず。幸運なことに右腕はまだ使えるし、既に回復効果は効き始めている。最低限両脚さえ使えるようになれば問題無い。
ビーストの方を見ると、次の生体ミサイルの発射準備態勢を整えていた。
「……さあ来い」
再びミサイルが発射される。まず瞬間移動し、1発を拳で叩き落とす。再び転移し、別のミサイルを打ち払う。再び繰り返す。再び。1回ごとに手が少しずつ壊れていくけど、問題無い。あいつに、ケーパにさえ当たらなければ、それで良い。

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五行怪異世巡『きさらぎ駅』 その④

乗降口の扉が開き、外には寂れた無人駅のホームが見える。しかし、到着のアナウンスは一向に聞こえてこない。
「……メイさん、これ」
「おかしいよね」
「…………」
「…………」
扉が再び閉まる直前、2人は素早く通り抜け、ホームに降りた。
「〈五行会〉を率いる者として」
「このオカルト、やっつけないわけにはいけないね!」
2人の背後で、電車が走り出す。その気配を感じながら、2人はまず周囲の探索から始めることに決め、揃ってホームの上を歩き回った。
15分近くかけて慎重に探索した結果、古いベンチ、真っ白な時刻表、文字が掠れて読めなくなった駅名表示、空の屑籠以外には何も見つからなかった。
「怪しいものは何にもないね?」
「そうですね……そういえばここ、どこなんでしょう?」
青葉の疑問に、白神はポケットからスマートフォンを取り出し、地図アプリを起動した。
「……駄目だぁ、電波が来てないみたい」
「そうですか」
「どうする? アオバちゃん。外、出てみよっか?」
「…………いえ、どうでしょう。危険な気もします」
「でも、ここじゃ状況は動かないよ?」
「……ふむ」
青葉は白神の手を引いて、改札口の方に向かった。
「メイさん、何か見えますか?」
「見えない。真っ暗だ」
「照らしてみたら……」
そう言われ、白神はスマートフォンのライトの光をそちらに向けた。しかし、目立ったものは特に見られない。
「…………」
「…………」
「「出るか」」
同時に口にし、2人は無人の改札口を出た。

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Flowering Dolly:アダウチシャッフル その①

ビーストの出現に市民が逃げ惑う中、少女はただ1人、怪物に向けて迷い無く突き進んでいた。
「……チッ、『あれ』じゃないのか。まあ良いや」
少女は肩に担いでいた片手剣を、九頭竜のような外見のビーストに突き付けた。
「どうせビーストには変わりないんだ。人類の敵が。ブチ殺してやる!」
手の中の小さな球体を地面に叩きつける。すると、そこから白煙が広がり、辺りを覆い隠した。その中に紛れて、少女はビーストの背後に回り、斬りつけようとする。その横合いから、ビーストの首の一つが彼女を轢き飛ばした。少女はそれを剣で受け、辛うじて受け身を取る。
「くそっ……重い。流石に全方位警戒してるか……」
肩掛け鞄から手榴弾を取り出し、離れた場所に投擲する。ビーストがそちらに注意を向ける気配を感じながら、それとは反対側に回り込み、再び斬りつける。その攻撃は見事、ビーストの胴体に命中したものの、厚く硬い鱗に阻まれ、有効打とはならなかった。
「クソ、硬った……あっまずっ」
脇腹にビーストの尾が叩きつけられ、弾き飛ばされる。直接的なダメージに加え、建物の壁に全身を強く打ち付け、衝撃で呼吸が止まる。
(っ…………クソッ、身体が動かない…………痛覚が邪魔だな……)
ビーストがにじり寄ってくるのを、流血で潰れかけた目で睨み返しながら、少女は力の入らない腕を地面につき、立ち上がろうと苦心する。
ビーストの首の1つが少女に向けて伸びてきたその時、彼女の背中を何者かが軽く叩いた。ビーストの攻撃が命中する直前、少女の身体は数m離れた地点に瞬間移動していた。
「…………やっ……と、来たか……遅いんだよ……」
「あなたがせっかち過ぎるだけですぅー。まったく、勝手に私の武器持っていったでしょ」
言い返しながら少女を助け起こしたのは、彼女とおおよそ同じ体格の、紅白の防寒着に身を包んだ緑髪のドーリィだった。
「まあ良いや……ビーストだ。私追い求めていたヤツとは違うけど、せっかくだから」
少女の差し出した右手に、ドーリィが左手を叩き合わせる。
「手ぇ貸せ、相棒」
「手といわず、いくらでも。キリちゃん」

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Flowering Dolly:猛獣狩りに行こう その②

朝7時過ぎ、役場に出勤してきた若い男性職員がふと見上げると、見慣れたドーリィが2階の対ビースト対策課に当たる窓に貼り付いてじっとしているのが目に入った。
「………………おーい」
男性に声を掛けられ、ハルパは首だけを回して顔を見下ろした。男性が役場の鍵を掲げ持っていることに気付き、即座に地面に飛び降りる。衝撃を殺すために大きく身体を曲げた姿勢のまま、男性を黙って見上げると、男性は溜め息を吐いて正面玄関を開錠し、中に入っていった。ハルパもその後に続き、2階の『対ビースト対策課』と書かれた扉の前に座り込み、先刻パン屋の女性にもらった堅パンを眺め始めた。
30分ほどして、ハルパの前に1人の少女が現れた。そちらに片目だけを回して姿を確認すると、少女は肩を跳ねさせて数歩後退し、扉に後頭部を打ち付けた。
「び、びっくりした……ハルパちゃん何してるの?」
ハルパは首を傾げ、手の中のパンを高々と掲げてみせた。
「……え、パン? なんで? 食べないの?」
「…………」
ニタリと笑うハルパに困惑しながらも、少女は短距離転移で扉の内側に入り、内側から鍵を開けた。
「と、取り敢えずハルパちゃんも入ったら?」
ハルパは緩慢な動作で立ち上がり、1歩大股に室内に進み入った。
部屋の隅に立てかけられていた折り畳み椅子を開き、その上に膝を抱えて座るハルパに、少女は恐る恐る声を掛ける。
「ハルパちゃん?」
「……?」
ハルパは牙を剥き出しにした笑顔を少女に向けて首を傾げる。
「いやこわぁ……は、ハルパちゃん、パンが何なのかは知ってるんだよね?」
少女の言葉にハルパは持っていた今まさに眺めていたパンを見つめ直し、こきん、と首を鳴らし、徐にそれを2つに千切って片方を少女に差し出した。

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Flowering Dolly:Bamboo Surprise その③

そのビーストは、崩れかけの尖塔に狙いを定め、更に加速する。素早く駆け上がり、頂上で全周に注意を払う。ソレは眼球を持たない代わりに、皮膚全体が視覚に相当する情報を取り入れている。『皮膚全体』が目であるに等しいその感覚能力と、その情報量に耐え得る処理能力を最大限活用し、僅かな不信の動作も見逃すまいと注意を払う。更に並行して、ソレの脳の一部は敵対存在の分析を続けていた。
少女がこれまで、ソレに攻撃を放ったのは初撃含めて3回。アプローチの総数が32度であるのに対して1割にも満たない、極めて低い頻度である。
それら1つ1つの事例を鮮明に想起しながら、パターンを探す。
出現場所、出現位置、脅かす言い回し、構え。決して多くは無いサンプル数を反芻しながら約1分。不意に、彼の取り込む視覚情報に動きが確認された。
自身の立つ尖塔の下を見ると、件の少女がとぼとぼとした足取りで入り口をくぐるところだった。ビーストの全身に、緊張が走る。右手の拳を強く握り、尾は脱力しながらも鞭のように俊敏にしならせ、攻撃の準備を整える。
視覚を研ぎ澄ませ、引き続き周囲を監視していると、ソレの背後、尖塔の屋根の端に、幼い手の指がかかるのが見えた。
瞬間、刺突とも呼べるほどの速度で尾による『点』の打撃を放ち、手の周囲の建材ごと吹き飛ばす。破片が飛び散り、手は支えを失い落下していく。
その時、そのビーストの視覚能力は、飛ぶ破片の中に不自然な物体を発見した。
『指』。人間の手のそれに近い形状ではあるものの、先程交戦していた少女のものとするにはやや長すぎるそれ。この場に存在するにはやや不自然すぎるそれ。その理由を解き明かそうとするソレの『視界』に、空間の僅かな歪みが映った。その起点は、例の『指』。そしてそこから、桃色のテディベアを抱えた少女が現れた。

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Flowering Dolly:魂震わす作り物の音 その⑥

ヤツが家の残骸からのっそりと這い出してくる。まずは軽いドロップキックを仕掛けて、一度反発で数m距離を取り、向こうの動きを見る。契約なしの私には大したことはできないから、あまり不用意なことはできないけど……。
ヤツのことを注意して見ていると、さっき生えてきた両腕の表面がうぞうぞと動き、瞼が開くように複数個の穴が開いた。中身は眼球じゃない、むしろ……。
「ッ⁉」
咄嗟に背後、ケーパのいる場所を確認する。今いるのは、私の真後ろ約20m。問題無いはず。首と心臓を腕で庇った直後、その『目』の中身が、ミサイルのように一斉に射出された。
生体ミサイルは滅茶苦茶な弾道で大体こっちに飛んできている。弾速はなかなかのものだけど、直線軌道じゃないから回避する余裕は十分…………
「……なっ……!」
ミサイルのうちいくつかは、私の横や上を通過していった。この先にいるものといえば。
「けーちゃん!」
あいつの目の前に瞬間移動し、身体で受け止めた。
けど、受けてみて分かった。これは駄目だ。
威力が、貫通力が高すぎる。
体内を、まるで何の障害も無いかのように掘り進む感触。それでも着弾の瞬間の衝撃で、体内で破裂する感触。それらが加速した走馬灯の思考にスローモーションのように襲ってくる。
せっかく私が盾になったのに、これじゃまるで無意味じゃないか。それどころか、爆発のせいで受けなかった時以上に守りにくくなってしまっている。
こうなると、多少の無理でもするしか無い。

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Flowering Dolly:猛獣狩りに行こう その①

ある朝ハルパが目覚めると、屋根の上を寝床にしていた家屋の隣家が燃え崩れていた。熟睡中だったためにそうなった経緯の分からないハルパはそちらへ意識を割くことを止め、一つ欠伸をしてから大きく伸びをして、手の中に1本の黒槍を生成した。“ドーリィ”である彼女の固有武器である。
魔法によって穂先を鉤爪状に変形させ、伸長・変形によって数m下方の地面を掴み、収縮の勢いを利用して地面に下り立つ。武器を一度消し、まだ人通りの無い早朝の通りを何とは無しに歩いていると、1つの建物の扉が開き、ふくよかな中年女性が現れた。
「あらぁ、ハルパちゃん、おはよう」
女性に挨拶され、ハルパは鋭い牙の並ぶ口をニタリと歪め、細い首をかくん、と傾げてみせた。ともすれば不気味とも捉えられるその仕草も、彼女をよく知る町の人間にとっては可愛らしい彼女なりの挨拶である。女性は柔らかく笑い、1度屋内に引き返してからバスケットを1つ提げてハルパの前に戻って来た。
「………………?」
背中を大きく丸めてバスケットに顔を近付け、匂いを嗅ごうと鼻をひくつかせるハルパに、女性はその中身を差し出した。
「ハルパちゃん、お腹空いてない? 朝ご飯はしっかり食べないと力出ないんだから、しっかりお食べ。これはあげるから」
女性が差し出したのは、ドライフルーツの練り込まれたやや堅い出来のパンだった。ハルパは呆然としてそれを受け取り、しばらく様々な角度から眺めてから、女性に深々と頭を下げて彼女と別れた。
そのまま通りを歩き続け、立ち止まったのは、町役場の前だった。時間帯のために施錠された扉を何度か乱暴に叩き、誰も出てこないことに気付いたハルパは、小首を傾げて数秒思案し、壁面の僅かな凹凸を手掛かりに登攀を開始した。