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ただの魔女 その④

「……なんで…………どうして、こんなことを?」
彼女が尋ねてきた。
「『こんなこと』って?」
「私達、仲間じゃないですか……なんで、同じ“魔法少女”に」
ありったけの殺意と敵意、呪詛を込めて奴を睨みつける。肩の辺りを重点的に見つめ続け、右の鎖骨を粉砕する。
「っ……⁉」
「ぎっ……ふ、ざ……けるなよ…………!」
『実害』を与える程の呪術となるとこっちの負担も大きい。両の眼球が焼けるように痛むけど、そんなの関係無い。今はこの舐め腐った“魔法少女”をブチ殺すのが先だ。
「うぅ、なんで……」
取り落とした短槍を拾い上げようと膝をついた奴に接近し、その顎を蹴り上げる。
仰向けに倒れ込んだ奴の身体の上に腰を下ろし、喉に手をかける。これで命は握った。
「やっぱりそうだ……」
奴が何か言い始めた。
「あなたは私達を『殺したい』わけじゃない」
再び睨む。奴の左眼が弾け飛んだ。こちらの両目からも生温い液体が溢れ出してきているけど構わない。けどこいつを殺す前に、これだけは言っておかなくちゃならない。
「良いか! 私もお前も、所詮は悪魔に魂売り渡した“魔女”でしかないんだよ! 飽くまで本質は『邪悪』だ!」
「なっ……! 違う! ヌイさんは、魔法少女は……!」
「黙れェッ!」
奴のもう片目も潰す。こっちも左眼が見えなくなったけど問題無い。
「ただの子供に甘言吐いて死地に送り込む人外が、悪魔じゃなくて何だってんだ! ……そのくせお前ら、何を名乗って……『魔法少女』、だと……? 正義の味方にでもなったつもりか⁉」
奴の首を掴む力が自然と強まる。
「私は自分の意思で悪魔と繋がった。その『悪性』を誇りにもしている! 自ら選んだ道への『責任』であり『義務』だからだ! それをお前ら……“魔女”の身で自分の邪悪に目を背けてんじゃあないぞ!」
奴の首を捩じ切る勢いで手に力を込めた。けど、その瞬間、奴は姿を消した。また転移の術だ。

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ロジカル・シンキング その⑧

「あ、ヒオちゃんやっほ。……可愛い衣装だね?」
「ん、フウリ」
ヘイローは自身の魔法によって頭上の光輪を操作し、崩落する建物から逃げ遅れた一般人を守っていた。
「突然で悪いんだけど、ヒオちゃん。助けて? ちょっと今動けそうに無いんだけど……私の魔法、火力あり過ぎて巻き込んじゃいそうだし……」
「分かった。こっちは任せてフウリは怪物の方を片付けて」
「うん。いくら私でもヘイロー無しで怪物とは戦えなかったから……じゃ、まず避難路を作ってくれる? そしたら攻撃用に使えるようになるから」
「了解」
ヒオ、もといアリストテレスが手を翳すと、その手の中に魔力の塊が光球となって出現した。
光球を、退路を阻む炎に投げ込み、続いてもう一つ光球を生成する。そちらの光球はゆっくりと彼女自身と一般市民たちを飲み込むように膨張し、彼らが完全に取り込まれたタイミングで、事前に火の中に投げられていた光球が炸裂し、炎の中に道ができた。
「はい皆さん、あの『避難路』が消えないうちに早く逃げてください。大丈夫、全員通り抜けるのにかかる3倍くらいは維持できるので」
一般市民はよろよろと順番にその通路を通って火の外へ逃げ出していった。完全に避難が完了するのを確認してから、指を鳴らして避難路を形成していた力場を消滅させる。
(……よし。今のところきちんと使えてる。そうだ、早くフウリの手伝いに行かなきゃ)
再び光球を生成する。
「〈Parameters〉」
アリストテレスの目の前に、光のウィンドウが出現する。
(『魔法』とは、『魔力』というエネルギーを別のエネルギーに変換する技術。熱と音は……別にいらないかな。射程も少し削って……下げた分を威力と貫通力に乗せる)
各パラメータを操作し終えたところで、光球は小さな塊となってアリストテレスの掌の上に落ちた。
先端のすぼまったおおよそ円筒形のそれを、腰のホルスターから取り出したリボルバー・ハンドガンの回転弾倉に込める。
「〈Preset : Crush Bullet〉」

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ただの魔女 その③

再び戦地へ視線を戻す。ゴーレムはまだ手探りを続けていたので、やめさせる。
さぁ、俯瞰できているこの状況を活かして探さなきゃ。『さっき倒した魔法少女』と、『それを逃がした奴』。
ゴーレムは適当に暴れさせながら、辺りに注意を払う。
ふと、首筋に嫌な寒気みたいなものが走った。反射的に身を伏せると、頭上を何かが高速で通り過ぎた。
「……誰?」
振り向いて、私に攻撃してきた奴を見る。さっき倒した魔法少女とどことなく似た感じの衣装を着た女の子が、短槍を構えていた。
「あぁ……また“魔法少女”か。アレの仲間かな。よく私が犯人って分かったね。あのヌイグルミにチクられたかな」
小型ゴーレムを私と魔法少女の間に移動させ、棘状に変形させて攻撃する。
彼女は回避するでも無く、後退するでも無く、『突撃』してきた。そしてゴーレムの棘が命中する直前、彼女の姿が消えて目の前の景色が僅かに変化した。
「……いや違う!」
ゴーレムの棘が私の背中に直撃する。セーフティが作用してすぐに崩れたけど、これで私の武器は無くなった。
背後から放たれた槍の刺突を身を捩って躱し、彼女の方を見る。
「私とあんたの位置を入れ替えたんだ。これも魔法なの? 不思議な術使うねぇ……ん?」
突き出された槍をよく見てみると、穂先じゃなく石突の方がこちらに向いていた。つまり、こいつは私を殺す気が無いってこと?
……彼女が短槍を下ろした。

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Side:Law in Black Market 世界観

舞台は近未来の世界。自律ロボットもサイボーグも多分いる。
約200年前、人類は滅亡の危機に瀕した。理由は不明。紙媒体の資料はポスト・アポカリプスにおいて『燃料』として消えてしまったから。デジタル・デバイスは生きているが、重要な情報は大部分が厳重に保管・秘匿されているため、真相を知る人間は少ない。
人類は世界各地のメトロポリスの高層建造物群を利用し、上へ上へと逃げるように移住していった。やがて彼らはそれぞれの役割に応じて、そのスカイ・スクレイパー群に3層に住み分けるようになる。
地表から100m以上の上層〈アッパーヤード〉。総人口の約2割、主に有力者や権力者が住み、デジタル・メモリを利用した情報・記録の保存と各スカイ・スクレイパー群の統治を目的としたエリア。
〈アッパーヤード〉より下、地表から40m以上の〈グラウンド〉。建造物の隙間に橋を渡すように増築された『地表』が総面積の約7割を占める、一般市民の居住区。
そして、〈ブラックマーケット〉。正確な規模や面積は一切不明で、地表から〈グラウンド〉や〈アッパーヤード〉の高さにまで食い込んでいることすらある、人格や思想故に民衆から『あぶれざるを得なかった』ドロップアウター達が最後に辿り着く危険地帯。
〈ブラックマーケット〉の領域内において上層の『法』は適用されず、ただ『商品価値』を示せる限り生を許されるという『掟』だけで回っている。『価値』を失った人間は、最後に残った『肉体』と『生命』を『価値』が分かる人間に『活用』されることになる。

物語の主な舞台は〈ブラックマーケット〉。ドロップアウター共が己の『価値』を武器に現世の地獄を生き抜く、そんな歴史の端にも引っかからないような、ちっぽけなお話。