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過去

君がいるだけで良かった。
君が笑ったら全て成功だった。
進路とか、将来とか、夢とか、
君がいればなんとでもなる気がした。
君がいれば僕はなんでもできた。
君のためなら死ねた。
でも君の顔を見るため、
君の声を聴くため、
君を笑わせるため、
君を愛するため生きていた。

君はモテたし、
僕は変人として有名だった。
君に彼氏ができた時も、
僕は君の友達だった。
卒業式のツーショット、
僕は携帯を持ってなかった。
僕は君の携帯にまだいるのかな。

中3から喋る機会も減った。
高校に入って僕は、
夏の空を見上げて、
冬に白い息を吐いて笑う君を、
顔くしゃくしゃにして笑う君を、
僕は1人思い出す。

毎日2人で帰った帰り道、
君から誘ったのに、
一度も意識してなかったじゃないか。

夜、
家を抜け出して
街灯の下で聞いたポルカのリスミーが、
僕をタイムスリップさせる。

女の子に告白されたこともあった。
友達とたくさん遊んだ。
馬鹿もした。
受験も成功した。
君が、
君だけが、
部活後に駐輪場で待ってる君が、
街灯の下で笑う君が、
ありがとう、またねって言いながら、
家に入っていく君が、
君だけが、
君だけがいないから、
この4年間、
僕の毎日に色はなかった。
このまま色がつかないかも知れない。

どうしてくれるんだよ。
君のせいで生涯独身だよ。








愛してた。
他人の恋愛が全部子供の遊びに見えるくらい
自分がなにをしでかすか怖いくらい
愛してた。


愛してる。
好きだ。
ありがとう、またね。

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LOST MEMORIES ⅤⅩⅤ

瑛瑠はどうしたらいいのかわからなかった。
撫でられた頭に少し触れる。先のチャールズの表情が頭から離れない。
傷つけたのはどの言葉だろう。皮肉めいて放った言葉ばかりで、思い当たる節しかない。しかし、なぜ傷ついたのかに思い当たる節は全くない。
ひとり気まずくなり、切り出す。
「私、部屋に戻るね。」
できるだけ、明るい声を出すように努めたが、それができていたかはわからない。
「はい。お疲れ様でした。」
チャールズは至って普通だった。
部屋に戻るなりベッドに倒れこむ。しばらくはぼーっとしていた。
さっきのは何だったんだろう。
ちらつくサミットの存在と、自分の人間界送り。付き人には、一連のことが知らされているようであった。
任せると言われた視察。そもそもなぜ自分なのだろう。パプリエールは、王の一人娘である。唯一の継承者。もし何かあっては大問題である。
今までの護衛ありきの生活にうんざりもしていたが、こう急に自由になってしまうと、追放されたような寂しさや悲しさがある。たとえ、イニシエーションだとしても。
だからこそ、共有者をはやく見つけたかったのも事実で。チャールズはまだ考えなくていいと言ってはいたが、心の安定に、瑛瑠が欲しているのである。ただ、並外れたアンテナがないぶん、それが難しいだろうことも予想できているのだが。
唯一の心の拠り所であるチャールズとも、今は居にくい。あれでは、どこに地雷があるかわからない。
「やだ……」
思わず出たそれは、静かに部屋に吸い込まれた。

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ご注文はいかが

甘ったるいくらいの
何かが欲しい

辛いだの
酸っぱいだの
いらないの

生クリームにハチミツにお砂糖に
胃がもたれるくらいの
甘ったるさ

一つ注文いいですか

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思いつき

ふと考える。


足がなくなったっていいや
僕が車椅子になったら
みんな僕のことを大切に扱って
僕のことを知らなかった人も
僕を知らないではいられないだろうな

声がなくなったっていいや
僕が話せなくなったら
無駄な意見を求められることも
ふと君を傷つけることもなくなる
それだけでいいんだ

目がなくなったっていいや
僕がなにも見えなくなったら
世界の惨劇も醜さも
君が落とした涙さえも
僕は見ないですむんだ

でもこの両手だけは
失いたくないな
こんな詩を書くために
僕のギターを弾くために
君に触れるために

ふと思うんだ。

2

LOST MEMORIES ⅤⅩⅣ

「ごちそうさまでした。」
ハーブティーの入っていたカップを少し前に押す。
「んー、長かった!」
やっと解放されたというように伸びる。チャールズも少し疲れたように微笑った。
「ほんと、ひやひやしました。相変わらず鋭いんですから。」
また、だ。
瑛瑠は冷ややかな目を向ける。
「あのねえ、チャールズ。昨日から聞いていれば、私に対して随分と知った物言いをするじゃない?私の質問覚えている?初めましてか聞いたときに、もちろんって答えたのは誰?
そこまで分かりやすく言われちゃ嫌だよ、私はあなたのことを知らないのに。
いつ会ったの、私たち。」

また、かわされると思ったのに。
また、笑って流されると思ったのに。

切ないような寂しいような哀しいような、そんな表情。
言葉がでない。
反応に遅れる。
チャールズはそのまま切なげに寂しげに哀しげに微笑んで、瑛瑠の頭をくしゃっと撫でた。
「どうして……」
「はい、ちょっと休憩しましょう。
なかなかの長時間をよく座っていられましたね。」
今度はちゃんとかわされた。チャールズが立ち上がり、二人分のカップを持つ。
昼食のまま放置されてた食器を洗い始めた。
――傷つけた?

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砂上の楼閣/glory lonly,hurt me

外部干渉不可の絶対領域

そこは不落要塞か、

それとも絶壁の孤城なのか。

外から見なければどうかわからぬ。

遠く雷、響いた音に
何も知らずに、目を背けるの。

近く春蕾、開いた色の
その名前さえ、知らずにいるの。

いるのは一人、
ただ独り。
しかし身を縮めこめている私には、
そのスペースの狭ささえ気付かないの。

外に誰一人いないことさえ知らずに、
私は静かに怯えているの。

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衝突

自分より辛い生活を送ってる人なんて、この世に星の数ほど居る。
わかってるけど、わかりきれない。
まるで天使と悪魔みたいに、理性と感情がぶつかりあってる。
俺は、それを解決する術を知らない。

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なつがきました…

腕に薮蚊の跡がついたから、今日から此処は夏に変わりました。
べたべたと甘いサイダーを買って、エアコンで冷やした車に乗って、眩しい両眼にはサングラス。
腕時計のかたちに焼ける左手も、きっと同じ夏なんて二度と来る筈もないのに、「また夏だ」なんてぼやいて今日もおやすみ

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LOST MEMORIES ⅤⅩⅢ

困惑する瑛瑠に、チャールズは優しく言う。
「今のところ急ぐ必要はありません。そもそも、期間は長くて1年。今日は1日目。何もなければそれに越したことはありませんし。
今は漠然としていますが、何かにあったったとき、きっとお嬢さまなら気付くはずです。これが求められている情報なのだと。
ですから、それまでは祝 瑛瑠としての生活を送ってください。」
瑛瑠は微笑む。飲み込めた。チャールズは、瑛瑠の采配でいいと言ったのだ。
「じゃあ、イニシエーションの内容については、個人的に行っていきます。そして、私の判断で、責任をもって行動します。だから、あなたはあくまで付き人。」
だから、私の勝手にさせてね?
続かない言葉を目で確認する。
「はい、お嬢さま。」
うやうやしくお辞儀をするチャールズの振る舞いは、位の高い人のそれであった。

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LOST MEMORIES ⅤⅩⅡ

「ヴァンパイアの彼が優秀だということを、あれだけのやりとりで知らしめられましたよね?
評価において、性格や過程は対象外。実力を相手に見せておくに越したことはありません。」
黙って聞く瑛瑠に、チャールズは少し表情を和らげた。
「お嬢さまは、私が見込んだちゃんとした力はあります。そこに関してはあまり気負わないでくださいね。」
また、そういう言い方をする。
「共有者は考えなくても良いですが、視察についてお話ししますね。」
ようやく、こちらへ送り込まれた表面上の1個目の目的だ。
チャールズは表情を変えずに言う。
「お嬢さま、"視察"の意味とは何ですか。」
不意討ちすぎる。が、瑛瑠は少し考えるようにしてから答えた。
「実状を知るために実際にその場に行くこと。」
付け加えてチャールズが言う。
「何らかの判断を下す目的で。」
何らかの、とは。
「ヒントはこれくらいですかね。」
優しく微笑んだ。
「イニシエーションはお嬢さまのものですから、采配はお任せしますよ。」

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LOST MEMORIES ⅤⅩⅠ

「ですから、お嬢さまは当初の目的を遂行するだけで良いのです。
人間界の視察と情報共有。」
軌道修正。名目はイニシエーションである。
「予想はしていましたが、ここまで話すことになるとは。」
ひとつ息をつく。
瑛瑠は冷めきったハーブティーに口をつけた。
「何も説明してくれないからよ。」
入れ直しましょうか,というチャールズの言葉に首を横に振って応え、言い訳するように言った。
「まだ、何かある?」
残りを飲み干して、瑛瑠は尋ねた。
「いえ、明日の確認くらいでしたよ。夕食の時にしようと思っていたのですが、どうしますか?一度、休憩を入れます?」
瑛瑠は横に首を振る。
休憩を入れたからといって何をするわけでもない。だとしたら、そのままの頭で話を聞いたほうが効率がいいというものだ。
「聞かせて。」
チャールズは頷いた。
「それでは、明日の確認をします。引き続き、魔力持ちを探すことと人間に馴染むことに重きをおいてください。
それと平行して、当初の目的も、少しずつ触れていきましょう。しかし、とりあえずは情報共有については考えなくても良いです。魔力持ちを見つけなければ始まりませんし、相手を見定めて共有者は選ぶべきですから。」
チャールズは瑛瑠を見つめる。
「それと同時に、お嬢さまも相手から見定められているということを忘れないでください。」

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七月七日

 むかし、某大手企業の重役の娘で、織女という、まあまあ美しい娘がいた。
 織女の母は、織女の兄には甘かったが、織女には厳しかった。織女は厳しい母から一刻も早く逃れたかったので、大学二年のとき、法学部の牽牛という男と結婚した。牽牛の実家は織女の家より格上だったから親も文句は言えなかった。それに織女はすでに身ごもっていた。
 息子の太郎(覚えやすい名前にしたのは将来政治家にしようという考えがあってのことだろう)が小学校に入学するころ、大学時代の友人から、出版社の仕事をしてみないかと持ちかけられた。悪くない条件だったし、織女は幼少期から社会で自己実現したいと考えていたのでやってみたいと思った。牽牛に相談すると、猛反対された。牽牛の家は伝統的な金持ち。牽牛は、女性は家庭を守るもの。女性が家庭を守らなかったら家族は崩壊する。家族の幸せが持続的な成長につながる。家族が幸せだから財界は安泰なのである。といった考えにどっぷりつかっていたから、織女の考えが理解できなかった。
 この件をきっかけに、夫婦関係はぎくしゃくし始めた。ある日、太郎の教育方針をめぐって姑と大喧嘩した織女は怒りにまかせ太郎を連れ、実家に戻った。
 織女と牽牛は、それから間もなく離婚した。太郎の親権は織女が獲得した。牽牛とは、年に一度、太郎の誕生日の七月七日に会う取り決めになっている。