「瑛瑠、付き合ってくれないか。」
帰り道、時はクリスマス。ケーキを囲む家族や甘やかな時間を過ごす恋人たち、かたやクリスマス商戦に追われたバイトとクリスマスなんていらないと追い込まれた受験生。
そんな喧騒に飲み込まれていた瑛瑠は、英人の言葉に応える。
「いいですよ、どこへいくんですか?」
薄暗い帰り道さえ光で彩られ、浮き足だった街並みを体現している。
ふっと笑った英人は、デートと一言。瑛瑠は呆れたようにため息を吐く。
「行き交うカップルのクリスマスムードにでもあてられたんですか。」
「横に何の申し分もない女がいて、見せつけたくないわけがないだろう。」
瑛瑠はじとっと横目で見てやる。その目を見て、肩を竦める英人。
そうして瑛瑠はふと思うら、
「たしかに、隣にイケメンを置いてクリスマスの街を闊歩できるのは光栄なことですね。」
すると、今度は英人が好戦的な目を瑛瑠に向け、艶やかに微笑む。
「お手をどうぞ、プリンセス。」
ダンスパーティーにおけるマニュアル通りのエスコートを演じられてしまったので、瑛瑠はその手をとる。
「ほんと、いい性格してますね、王子様。」
どちらともなくきゅっと握った手は、冬の帰り道にも関わらず、あたたかかった。
あたしの学校の冬休みは、昨日から始まった。
先生たちは、「冬休みが正念場だ」とかなんとか言ってたな。
もちろん、冬休みは、さすがのあたしでもがっちり勉強する。けど…
「…」
受験生で大変なのに、宿題を出す学校なんて、もうどうかしてんな~と思う。まぁどこも同じかもしれないけど。
おかげさまで、何も言えない。
「頑張らなきゃ…」
そう言って、あたしは机に突っ伏してた身を起こした。早いとこ片づけなきゃ。それで、受験勉強やんなきゃ…
やることが多い。それでもあたしはクリスマス当日、クリぼっちでないことを鼻にかけたいと思う。
今年も、12月25日は、クリスマスフェスに参戦できることが確定したのだ!
つい昨日、親との激しい戦いを制し、どうにか行くことができたのだ。
その分、今までで一番やったってぐらい、勉強しなさいって言われたけど。
まぁそのつもりだよ。だから12月中に宿題を片付けようとしてるんだけど。
今クラスのみんなは何をしてるんだろう? ふと思った。
今日は祝日だから、塾がある人は少なそうだけど…自習室とか、行ってる人はいるんだろうな。
冷ちゃんとかどうだろう。あの子塾は行ってないって言ってるから、家でせっせと頑張ってるのかな…?
やっぱし冷ちゃんはすごいな。さすが秀才と呼ばれるだけある。
あたしも負けないようにしなきゃ!
そう自分を奮い立たせたところで、スマホが鳴った。
「…?」
見ると、メッセージアプリに新着メッセージ。
「クリフェス、楽しみだなぁ~」
あたしも超楽しみ、みんなで会える瞬間を楽しみにしてるよ、とあたしは打ち込んだ。
しばらくして、また着信。
「そうだね鈴ちゃん! あと、お互い勉強頑張ろ
12/21に続けて書いていきます!
「なあ雪夜、ここどうなってんの?」
「あ~ここは~」
雪が降る街の片隅で、僕らはのんきに勉強会を開いていた。
たまたまそこらで会っただけなんだけど。
トウイチと北斗と僕とでは通ってる塾が違う。まあ住んでる場所が違うことが主な理由なんだけど。
…で、たまたまそれぞれの塾帰りにこのバス停で会って、トウイチがわからない理科の勉強を少し教えているだけ、という…
こんなクソ寒い中、しかも雪が降る中、トウイチがせっせと勉強しているのは、いろいろ彼は切羽詰まってるから。
意地でも第一志望に合格したいらしい。だから、彼らしくもなく、バスの待ち時間でも、勉強しているのだ。
それで僕らは勉強を教えたりしてるわけ。
「おお! サンキュー!」
「どうも」
トウイチの疑問は見事解決したようだ。
「なあトウイチ、なんで志望校、ああいうところに決めたんだ?」
ふと、北斗がトウイチに尋ねた。
「そもそも急に変えるとか、こっちとしては謎なんだけど」
「ああ」
トウイチが答える。
「最初はな、落ちたくないから、確実に受かるところにしたんだけど、」
トウイチはちょっと息継ぎをした。こっから先って、彼的には何となく言いづらいことなのかも。
「夢叶えたいな~って思って」
「おお~」
北斗は感嘆の声を上げた。
「かっこいい~ お前らしくないけど」
「おいおいおいおい、俺らしくないとかどういうことだぁ?」
二人の茶番が始まった。これを見られる機会は、あと何回あるんだろう?
僕はスマホをコートのポケットから引っ張り出した。
この前、フェスに行く許可が下りて、そのことを報告したとき、あのグループは大いに盛り上がった。
「おお~よかったな」
「やったー! 仲間だね!」
「私も行くこと確定。待ってろクリフェス!」
「頑張って親説得します。」
「がんば~」
こんな感じ。ちゃんと全員で集まれる、その可能性がちょっとでも高まるだけで、うれしかった。
「…あれぇゆっきー?」
「あ゛っ」
まさかのここで会いたくない人、文野霜菜登場。最近よく話してるからな…トウイチと北斗いる状態でこれってぇぇぇ…
「おっ、こ~れ~は~⁉」
あとの二人のこの盛り上がり様。僕はもはや新雪みたいに真っ白になったんだけど。
「ただいま~」
誰もいない家にこうしてただいまを言うのがイチゴの習慣だ。
パパとママは共働きだから、昼間はいない。兄弟姉妹もいないから、一番最初にこの家に帰ってくるのは、イチゴだ。
誰もいないリビングを通り抜け、自室に入った時、ふと姿見が目に留まった。
いつからこの家にあるのかわからない姿見にうつった自分を見て、イチゴはポツンとつぶやいた。
「この制服、悪くはないんだけどねぇ~」
茶色のセーラーブレザーを眺めつつ、あとこの制服を着るのは数か月もないんだよな…と思った。
(高校は、これ以上に可愛い制服の学校がいいな!)
心の中で、そんなことをつぶやいた。
そういえば、去年のこの時期も、姿見を眺めて考えたこと、あったよね?
そんなことが、イチゴの頭の中をよぎった。さて…なんだっけ…?
「あ!」
10秒ぐらいして、イチゴはちょっと慌てた様子でクローゼットを開いた。
(確かここにあったよね⁇)
もしかしたらなくしてるかもと不安になったけれど、ちゃんと探し物は出てきた。
「あったあった」
それはお気に入りのベレー帽。去年のフェスで身に着けたものだ。
当時ハマってしまったアイドルグループの子が、似たようなのを持ってたから、真似して買ったベレー帽。
実際にかぶる機会は少なかったけれど、数あるイチゴのお気に入りのひとつだ。
これを去年のフェスでかぶっていったとき、わりと混み合っていた会場で、うっかり落としちゃったんだよね…
落ちたのをすぐ拾ってくれたのは、そう…
そんなことを考えていると、思わず笑いそうになった。
あの子、そう、あの彼。メガネのあの子。
「また、会えるよねっ!」
そんな独り言をつぶやいてから、イチゴは立ち上がって、机の上のスマホを手に取った。
そして、帽子をかぶってから、パシッと一枚。
その写真を、あのグループLINEにあげた。こんな一言とともに。
「25日、これかぶっていくからね!」
思ったよりサクサク書けた…
明日はクリスマス。君にはもうパートナーがいるのだろうか。そうじゃないならまた会いたいな。西口の夜景も、イルミネーションも、独り占めはもう飽きた。
「メリークリスマス。」
また会ったとして、それ以上僕には言えないだろう。天使がいるのなら、この気持ちを届けて欲しい。どうしようもない僕の当面の願いごと。
この回を書くのを、ずっと楽しみにしてました… てなわけで本編スタート↓
「頼むっ! 一生のお願いだから!」
「ダメって言ったらダメでしょう?」
「そこを何とか…!」
もう5分くらい、この言い合いは続いている。いや言い合いというよりは懇願かもな。
クリスマスフェスに行きたいって、おれが切り出したのは、夕食後。もういい加減言わなきゃなって前々から思ってたし。そもそも、前から言ってた話なんだけど。
前に言ったとき―確かあれは2週間ぐらい前のこと―は、母さんが「ダメ」の一点張りで、おれは負けてしまった。理由としては、受験生だから。まぁそれは分かってるんだけど。
でも、「久しぶりに集まらないか?」とあのメンバーに聞いた本人だから、絶対に行きたい。
だからこそ、ここしばらく、どうしたら母さんを折れさせることができるか考えてきた。それがこの戦法。
「本っ当にお願いします! 勉強頑張るから! 紅林(おれの第一志望の学校)絶対受かるからさ!」
「だーめーでーす」
こうやって、全力で懇願して押し通す。必殺ゴリ押し作戦。
「第一、会場まで遠いでしょう? 電車賃どうするのよ」
「そこは自腹で!」
「もう…いい加減あきらめなさいよ。参太には、私みたいになってほしくないのよ!」
「そんなの…!」
どちらも譲らない。そもそもどちらも譲るつもりはない。
どっちかが折れるまでこの戦いは続く。
「お願いします!行かせてください! どうか、どうか…!」
「もう…」
母さんがため息をつきかけたその時、意外な人物が口を開いた。
「…別に、いいんじゃないか?」
「え」
親子そろって停止。声の主は、存在感がほぼ消えていた父さんだった。
「参太が行きたいっていうのなら、別にいいんじゃないか?」
「ちょっとあなた…」
母さんがさっきとちょっと違うため息をついた。
「ほら、勉強も頑張るっていうしさ、十分気持ちも伝わってきたし…」
「あなた、それでもいいの⁉」
「まあ、いいんじゃないか?」
あれ、この展開は…
「…参太、もう…好きになさい」
「え…」
「そのかわり絶対紅林学園合格するのよ!さもないとタダじゃ置かないからねぇ」
「母さん…!」
なんだかんだで、ゴリ押し作戦大成功! ありがとう、父さん、母さん。
今夜は月が低いぜ
クリスマス、なんていうもののせいで
誰も見てないけど
月が綺麗だぜ
さあ、輝く月の下で踊ろうぜ
俺は待ってるから
まだ2年生だし
叔父が言ってくれた
酔った父は明日になったら覚えてないだろう
まだなんてそんな言葉で逃げてはいけないの
わかっている
答えられなかった
「困ったことに一切おぼえてないんです。」
「じゃあ、実際に過去にあった出来事だという根拠は?」
続きは大体予想できていそうなふたりだが、あえて望は質問をなげかけたのだとわかる。確認を得るために。
だから、瑛瑠も誠意をもって答えなければならない。
「夢の中に出てきたエルーナというヴァンパイアが英人さんで、それを記憶していたんです。ですから、根拠は英人さんです。」
「だから、まずは英人くんに確かめておきたかったんだね。」
そう言う歌名は、瑛瑠と英人が前もって話を擦り合わせていたことに、多少なりとも疑問があったのかもしれないと、瑛瑠はその時には気付いた。望も例外ではなかったようで、納得したようにうなずいてくれる。ただ、そんなそぶりを今まで見せなかった彼らに、ありがたく思うべきなのか、言葉をぶつけてほしかったと思うべきなのかは、今の瑛瑠にはわからなかった。
「それって10年前の出来事だよね?」
不意に歌名が声色を変えて尋ねる。
「私、覚えてるかもしれない。」
なんにもない静寂の昼下がり
ぱちゃん
小さな水飛沫僕に浴びせて
綺麗な紅い尾翻した君の振り向き様
同じ紅の唇歪めて何か言おうとしたのかい
こんなに静かなのになにも届かないよ
僕の耳には遠くの人の嗤い声だけさ
僕を嗤ってる
君を嗤ってる
水面に残った泡沫に
反射したひとつの光
音もなく弾けて消えた
もうずっとこの湿っぽい真っ暗闇で
ずっとずっとずっと前から
君のこと待っているんだ
時間なんてとっくの昔に忘れちゃうくらい
ねえ
君は僕のことなんて忘れちゃったかな
ちっちゃい頃の思い出に閉じ込めたまま
寝るときも食べるときも一緒にいたけれど
いつのまにか大人になった君
僕はここでお留守番
君はいつ会いに来てくれるのかな
淋しくなんてないよ
君はちょっと向こうに行ってるだけ
いつか僕のこと迎えに来てくれるよね
いつか
いつか
いつか
いつだろう
でもあんまり放って置かないでね
待ち草臥れちゃうよ
いつでもいいから会いに来てよ
絶対置いてかないでね
たまには一緒に眠りたいの
ずっとここで待ってるから
君のこと
またぎゅっと抱きしめて
おなじ が ふたつ 集まれば
ふつう に なるかな
それじゃ、たりないかな
それは ただの
ぼくたちだけのふつう かな
雪の降り積もる街で
ひとりぼっちでツリーを見上げる
光がとても綺麗だわ。
涙を流している私を横目に人々は過ぎていく
違うのよ。一人だから泣いてるんじゃないのよ。
どんどん冷えていく空気に目を瞑る
瞑った目に眩しさを感じて
目を開けると暖かい光に包まれた
手を振って近づいてくる「彼」に笑顔を向ける
もう、待ってたのよ。
目元の涙はもう渇いていた
クリスマス
街はキラキラ リア充もキラキラ
座禅組はドロドロとしている
聖夜が街を照らす中
俺は1人でリア充を睨む
「まったく...あの時挑みかかるだけが能の満身創痍な少女がまさかここまでとは思わなかったよ...いい加減、その仮面をとったらどうだ茉梨」
「えっ...」
「やはり気づいていたか...声を変えたくらいじゃダメだったか」
「どう頑張っても戦うときにクセってもんが出てくるんだ。俺も昔、よくそれで怒られたっけな」
「ナイトローグが...茉梨先輩...?」
「ごめんね、こっちの方が動きやすかったから」
「そんな体で...何でこんな無茶を!」
「これが私の...覚悟だから」
「なるほどな、贖罪ってワケか」
「あの日、私はアイツに...イリスに体を乗っ取られて多くの人達を傷つけた」
「でも...」
「そして、私はもう長くない...だからせめて、子供達の未来を守る!」
「先輩が抱え込む必要はないのに...あの日の責任は私にもあります。だからもう...やめて...」
「ごめん、もう...決めたから」
「まって!」
「...行かせてやれ」
「どうしてですか、先生は...茉梨先輩を見殺しにしろと!?」
「違う。一度死んだからわかるんだ...命が燃え尽きる間際だけは、何でもできるって」
「それでも...」
「...変わらないな、お前も...」