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ある生き物とある生き物の会話 その19

「世の中の人間が一番求めてるものってなんだと思う?」
「一番?お金?」
「それもだろうけど、一番じゃない」
「じゃあ愛」
「うん、それも正解」
「一番って言ったのに」
「もっと大きく括れると思うんだよ。つまり、正解は共感だ。愛だって、完全に一方通行な愛を受けても気持ち悪いんだ。人は、愛し合いたいんだよ。他にも」
「SNSでいいねされたいとか」
「シンプルに話を聞いてわかるよと言って欲しいとか」
「褒められたいとか」
「うん、それも共感だと思う。褒められるっていうのは、良いものに対する基準が合致したということだ」
「承認欲求だね」
「でも、承認したくないこともある」
「できないものは仕方ないんじゃない?」
「それがそうでもない。その場で、そうだね、わかるよ、君は頑張ってるって言えば済むのに、何故か言いたくないことがある。言えば全部丸く収まるのに」
「本心と違うことを言うのは気持ちの良いものではないよ」
「そもそも共感に対して躊躇いがある人もいる」
「そうかな?」
「場合によるんだ。その人は褒められるのは嬉しくても、例えば、なるべく愚痴を言いたくないとか。愚痴を言う人も嫌い。でも気持ちを共有することは確かに負担の軽減になる」
「わかっていても嫌なものは嫌と。どっちがいいんだろうね」
「さぁね」
「ああ、だから」
「?」
「いや。なんでも」

(だから彼女は、共感を空想の中に求めるのか)

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太陽に恋する月の話 その1

「ねぇ、ねえったら、ねぇ、地球ってばっ」
「聞こえてるって、なんだよもう」
「うさぎが寝ちゃったのよ、お話ししましょう」
「仕方ないな」
「見て。ほら、今日も太陽がとっても綺麗」
「君は本当に太陽が好きだね」
「ええ、あんなにかっこよくて、明るくて、暖かい星はないわ」
「無いなんてことはないよ。他の太陽みたいな星が僕らから遠くにあるだけさ」
「私達が感じられる場所にないなら、もうそれは存在しないみたいなものよ」
「違うと思うけどなぁ。それに、もし君が水星の近くに住んでたら、熱いとか言って太陽を嫌ってるかもよ」
「そうかもしれないけど、でもとにかく今は太陽が好きなのよ」
「そう」
「お話しできないかしら」
「流石に遠いからね」
「ねえ、あなたの中にいる生き物達、何か私が太陽とお話できる手段作ってないの?」
「ないよ。というか、僕らの存在を認識してないのに作れるわけないだろ」
「もう、役立たず」
「しらないよ」
「叫んだら聞こえるかしら、おーい、たーいようー!」
「聞こえないよ。何か伝えたいなら伝言を頼むことだね」
「誰に?」
「金星に。金星から水星に、水星から太陽に」
「面倒ね…まぁでも仕方ないわ。とりあえず金星を気長に待ちましょうか」