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鏡像編年史

鍵だ。
いや、サイズからしても形状からしても、とてもどこかの扉を開けるには適さなそうな物体ではあるんだけれども、それでも第一印象を強いて述べるなら、鍵だ。そんな感じの物体が、路上に転がっていた。
下校途中、普段なら道路に落ちてるものなんか見向きもしないし、拾うなんてあり得ない。
けれど、その物体はあまりにも魅力的過ぎた。引っ張られるようにそれに近付いていく。屈んで、その物体に手を伸ばす。あと少しで手が触れる、というところで、背後で甲高い音が聞こえた。
はっとして振り返ると、少し怖い雰囲気の若い男性が、自転車に跨って私を睨みつけていた。慌てて道の端に避ける。
自転車が通り過ぎたところで、改めて鍵の方に向き直ると、鍵は既に消えていた。いや、周囲を見回すと、少し離れたところに移動していた。
動いた?何かに運ばれたのか、意思でも……、いや、それはいくら何でも馬鹿な考えか。
しかし、ますます気になってきた。駆け寄っていって、そのまま拾い上げる。
金メッキの剥がれた古ぼけたその物体は、それでも魅力的に日光を反射していた。
これは良いものを拾った。宝物にでもしてやろうとポケットに鍵を入れようとしたその時だった。
「ミラークロニクル」
声が聞こえた。

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無幻の月-戒放-

埠頭までの直線距離自体は比較的近かったが少し寄り道することにした。魔力のテストのためだ。
通行人数人に思い付く限りの呪文をかけてみたが確かに制限は外れており、どんな魔法でも自在に行使できるようになっていた。
ふむ...考察は正しかった...なら...
桜改めサクラは気配を消して今度こそ埠頭まで行くことにした。

埠頭は既に地獄の門と化していた。哭羅はファントムに怒ったように何か指示を出している。多分、私を探しているのだろう。
そんな時、一体のファントムが哭羅へ反乱した。だが触れるより前に喰われてしまった。
「(まぁ...一体ならこんなものか)」
無感動に海に向かってサクラが呪文を唱えると海が沸き立ち始める。
「甦れ亡者よ!私がお前たちの新たな主人だ!」
サクラの切り伏せたファントムが海から哭羅めがけて突撃する。
哭羅はもちろん、周りのファントムたちも何が起きたのか理解できなかったようで動きが止まるがすぐに応戦を始める。
しかしこの一瞬が命取りで皆防戦一方だった。
「...散れ!」
サクラが一瞬ずらして突撃し、魔力で巨大化させた鎌を振り下ろす。
傀儡ごとファントムは全滅させたが、哭羅に対しては腕と足を持っていったものの避けられてしまった。
これだけ斬れれば十分だろう...
哭羅の真上まで上昇し、鎌を天に掲げて呪文を唱える。
同時に哭羅も咆哮と共にサクラへ手を伸ばす。
「届くまい...己の部下と共に砕け散れ!」
先ほど全滅させたファントムの傀儡が哭羅の足をつかむ。
無慈悲に振り下ろされた鎌は空の亀裂ごと哭羅を斬り裂いた。

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無幻の月-宿痾-

「哭羅(コクラ)...そんなものまで出てくるなんてねぇ...」
桜は戦場から少し離れたところにワープさせられてた。
「賢者...なぜ助ける...」
「緊急事態なんでね。本来はこんなことはしないけど哭羅が出てきちゃったからねぇ...絶対にキミにはヤツを倒してもらいたい」
コクラ...あのでかいヤツのことか?
「だからキミの腕は魔術的に繋げさせてもらった」
なるほど、まだ変身状態なのはそういうことか
「賢者、二つ聞かせろ」
「なんだい?今さら降りるとかは無しだよ?」
「一つ、コクラとか言うあの怪物はなんだ、あれを放置すると何が起こる」
「あれはファントムの上位種。いわば支配者、王様みたいなものだ。この世界では...なんだっけ...あーそうそう、ダゴンって呼ばれてる」
ダゴン...昔何かで読んだな...どっかの宗教の神様だったか?なるほど、それであんなに強いわけだ
「そして、あれを放っておくとこちらの世界がメチャクチャになる」
さした影響は無さそうだな
「では二つ、私があの指輪を取り込んだらどうなる」
一緒にワープさせられた右腕を手に取りながら言う。
これは前々から考えていたことだ
取り込めれば恐らく指輪のリミッターを外せる
もっともこれが危険な賭けなのがわからないほど私も馬鹿ではないのだが
「...あなた正気?」
いつも飄々してた大賢者の顔が険しくなる。
「正気だ。お前が私の前に現れた時と同じくらいにはには」
「...そもそもマジックアイテムの力にその肉体が耐えきれない。仮にそこをクリアしたとしてもキミは常に変身状態でいるここと同じになる。人の精神がそれに耐えられるはずがない」
「なるほど...面白い!」
聞き終わった後、指ごと指輪を飲み込んだ。
体内で力が駆け巡る。耐えきれないというのは納得だった。
だが...これなら...
暴れだしそうな魔力を精神力でねじ伏せる。
それはもう、人に非らざる魔なる者だった。
「あなた...何を...!?」
「...いい気分だ...」
「この魔力...ファントム!?まさかあなた、アレも取り込んだの!?」
どうやら、あれは禁じ手だったらしい
持ってかれた右腕を魔術で生やし、焦る大賢者を尻目に再び戦場へ飛び去った。

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無幻の月-幻夢-

第三埠頭、あの賢者と初めて会った場所の近くだ
一日探してみたが、どうもここが町で一番気配が強い
午後八時丁度、空が割れた
開戦である

確かに尋常じゃない数だった
しかも人型、獣型、不定形のオールスターメンツだった
こうでなくては面白くない
桜が飛び立つ、それを見てファントムも速度を上げる。両者が激突し、大鎌を振るう。一撃で真下の海はファントムの亡骸で染まった。
「もっと...強いのはいないのかぁ!」
斥候達を蹂躙し、彼女が叫ぶ。
後続は見えるが、今倒したのと同レベルのファントムだろう。
彼女は今、快楽の果てにいる。
再び大鎌を構えて彼女は突き進む、その裂け目の奥底に悪夢としか形容できない怪物がいるとも知らずに。

異変に気づいたのは第三陣を迎え撃つその最中だった。
「(出てくる数が減った...?私の感じた気配はもっとあったぞ...?)」
そんな風に思った時にはもう遅かった。
天を裂き、同族を喰らいながら現れたのは人と西洋竜を掛け合わせたキメラとしか表現できない四足歩行の巨大な怪物だった。
「お前が亡霊共のボスか」
怪物の咆哮と共に全てが震える。
そして...
「うっ...なっ...」
知覚できなかった
人間が考えるよりも早く、体を動かすよりも早く怪物は桜の右腕を軽々と吹き飛ばした

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無幻の月-閑静-

あれから一週間、気付いたことが二つ。一つ、あの賢者から貰った指輪の力にはある程度の制限が付けられているようだ。倒したモノを傀儡にできる、だかそれはあの鎌で倒さねば行使できない。
まったく、うまいこと細工しやがって。
二つ、あの賢者の警告していた精神の摩耗はあまりデメリットにはならないこと。倒したファントムを食べればそこら辺は解決するようだ。しかもそれなりにうまいときた。でも普通、あんなものを食べろと言うのは普通の人には酷だろうしあの警告は正しいのだろう。

学校も早々に切り上げ、今日の狩場を探すことにした。これはあの日からの日課になっている
この一週間で何人かの魔法使いとも会った
しかし、全員潰してやった
弱すぎて話にもならないレベルだった
語る気すら失せる程度には
あの賢者は何が目的であんなのを...
ふと後ろに気配を感じ振り向くとあの大賢者がいた。
「派手にやってるみたいだねぇ桜ちゃん。でも少し休んだらどうだい?戦いずくめじゃないか」
「...それは私の勝手だろう?それとその桜ちゃんをやめろ」
「えー、かわいいのにぃ...まぁいいや、今日来たのはキミに警告するためだ」
この期に及んで何をまた
そんな風に思っていたが、次の一言でそんな考えの全てが吹き飛んだ
「ファントムが大群を率いてこちらの世界に向かっている。標的は、キミだ」
「...」
「キミはヤツらを狩り過ぎたようだ、ファントムはキミを種の存続を賭けて全力で向かってくるだろう」
狩り過ぎだと?たかだかザコ数十体で?
全く馬鹿馬鹿しい
だが、無尽蔵に狩れるのは魅力的だ
「それはいつ来る」
「明日だねぇ」
「面白い...!」
こんなに沸き立つのは久しぶりだ
「...まったく、キミは本当に面白いよ...」
帰ろうとする私の後ろでそんなようなことが聞こえた気がしたが、すぐに気にしするのをやめた

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無幻の月-契約- 後編

「うーん、それだけなら望みとしては薄いなぁ...具体的には何と」
こいつ、察しが悪いな
「あの亡霊とだ」
「は?えっ今なんと」
「あの亡霊を狩りたい」
「ちょいちょい、願いはこの一回だけだよ?それでもいいの?」
「くどい!確かに願いは言ったぞ、早くそのマジックアイテムとかいうのをよこせ!」
「なっ...!まぁキミがそれでいいのならいいのだけど」
賢者が何かを唱えると指輪が右の中指に現れた
「これがそのアイテムか」
「強く念じて変身するといい。ヤツらもそれで覚醒を悟り、敵対する」
言われた通りに「変身」と念じてみる。
そしてそこに立っていたのは
「おい賢者、これは魔法少女って風貌じゃないよな。どちらかといえば死神の方がしっくり来るぞ」
黒いローブを纏い、大鎌を携えた桜がそこにいた
「望みがあれだからねぇ...まぁそうなるよね...さっ、来るよ!」
覚醒を察したファントムが凄まじい形相で突進してくる。
が、それをひらりとかわした上で腹に刃を突き立てる。
「...」
そのまま反対側に力一杯叩きつけた。ファントムは痛がる動作こそしたが直後に沈黙した。
なるほど、これはいい...癖になりそうだ
「なかなかセンスもいいようだね」
かくして、大賢者の生み出した魔法使いの中で最も危険な魔法少女が誕生した。

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無幻の月-契約- 前編

やけに月明かりが強い夜だった。
やはり血というものはいい、生きてる実感が湧く。
とりあえず、「これ」を処理しなくてはな...選定に不備はないはずだが見つかるのは厄介だ...
そんなことを考えていた時だ、大賢者とかいうヤツが現れたのは

「ほう、面白い話だ」
「だからどうだい?朧木 桜(オボロギ サクラ)ちゃん、キミの望みを言ってみなさい?」
はて、私は名前なんて言ったか?それにしても自分の名など久々に聞いたな
「まずは真偽だ...そのファントムというのはどこにいる」
「ありゃ、珍しいねぇそっちを聞くの?まぁいいか、ヤツなら...」
大賢者が指差したのはさっき己の浴びた血の海だった。
「...どこだ」
「そうだった、普通の人には見えないんだった!...それならためしにこれを握りしめてみて」
拳大の石が手渡された。そうしてさっきのところに目線を戻す。
「あれは遊撃手ってところかな?キミが覚醒するのを待っている」
「...なるほど、亡霊(ファントム)というだけのことはある...」
そこにいたのは翼の生えた人型の怪物だった
「ならばいいだろう、お前を信用することにする...して一つ聞きたい」
「なんだい?」
「願いというのは必ず必要なものか?」
「それはどういうことだい?」
「そのままの意味だ」
「全く不思議な子だなぁ君は。確かに私は言ったはずだよ?アイテムはあくまで願いの対価だ」
そういえばそんなことを聞いた気はする...ある種、快感とは恐ろしいものだ。
...まてよ?こいつらなら人間を相手取るより楽しいか?ふむ、試してみる価値はあるな。
「私を戦わせろ」

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魔法譚 〜とりあえず企画概要

突然ですが知ってる人はこんばんは、そして初めての人ははじめまして。
テトモンよ永遠に!改め、“魔法の伝道師”大賢者の代弁者です。
突然ですが企画です。
タイトルは「魔法譚」(読み:まほうたん)
現代の魔法使い達の戦いと日常を皆さんと一緒に描いてもらおうという企画になっています。

世界観は、我々が住むこの世界とほとんど変わらない世界。
文明が発達し、魔法なんて非科学なものの存在がほぼ否定された世界で、“魔法の伝道師”「大賢者」は、魔法を扱う素質を持つコドモ達に願いを叶えるための“マジックアイテム”を与えて回っている。
そして、「大賢者」にマジックアイテムを渡された人々、“魔法使い”は、魔法使いを狩るバケモノ“ファントム”と人知れず戦いながら、日々を過ごしていた…

こんな感じです。
こういう世界観で、いろんな人たちに詩や小説を作って楽しんで欲しい、というのが今回のキモです。

お次は企画の開催期間&参加方法です。
開催期間:7月7日21時〜7月10日24時
参加方法は自分が作った作品に、「魔法譚」のタグをくっつけるだけでOK!

企画は初めてで自信がないって人でも大丈夫です!
自分も企画を作るの初めてだし…
設定もまだまだだし…

とりあえず、今回はここまで!
細かい用語設定はまた今度!

企画「魔法譚」は7月7日21時より開始‼︎