行き先
あるところに若い旅人がいました。旅人は同じく旅をしている老人に会いました。
「あのー」
「なんだい」
「行きたいところがあるんですけど、えっと、『コトダマノサキハフ国』です。知りませんか?」
「知っているが、その名前で呼んで良いものか…」
「何処にあるんですか、教えてください」
「この大陸を渡れば海がある。そこから船に乗って東へ進め。だがその国はもう無いよ。」
「…どういうことですか?何処か他の国に侵略されたんですか?」
「いや、違う。国土もちゃんとある。だがあの国にはもう言霊を信じる者がほとんど居なくなっちまったのさ。代わりにいるのは悪口を吐き、それがどういった結果をもたらすのか朝露ほども考えないやつらばかりだ。それでも行くかい?」「……わからなくなってきました。ですが何故そんなにその国のことを?」
「またえらく知りたがりな人だねえ。まあいいさ。
私は逃げてきたんだよ。その国から」