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理外の理に触れる者:海殺し その⑩

「よう、砂漠の。とりあえずこの状況どうにかしてくれ」
そいつに話しかけると、ようやく覚醒したようで急に慌て出した。
「え、ああ、ああッ⁉ 何だこの状況!」
「こっちが言いてえよ」
「とにかくその化け物どっかやってくれ!」
「ああうん」
駿竜を消し、砂漠の異能者の胸倉をつかむ。
「さあ、この砂漠をどうにかしろ。ここは温暖湿潤気候帯で今は真冬なんだよ」
言ってやると、そいつは目を泳がせながら答えた。
「い、いやな、実を言うと俺もよく分かってねえんだよ。この滅茶苦茶な力に目覚めたのが多分今日の朝、自覚したのはこの砂漠の中でも全く暑いなーとか日差し強っとか思わないなって思ったあたりからだから、今日の正午くらい。とりあえず家を出てみたら突然自分の周りに砂嵐が起きてさ、どうしようも無かったんだよ……」
「……なるほど、理解はできた。で、この状況、直せるのか、直せないのか」
「実を言うと……ちょっと厳しいかなって……」
「駿竜、来ませい」
あの怪獣を再び召喚し、砂漠の奴の首から上を口の中に収めさせる。別に噛みちぎらせようってわけじゃ無い。ただの脅しだ。
「……なあ怪獣。そいつ、もしかして異能の使い方に慣れていないんじゃあないのか?」
女王さまが話しかけてきた。
「ほら、今日発現したばっかりだって言っていたろう」
……そういえば。
「つーことはこの砂漠、このままになるのか」
「ああ……最悪なことに。本当に申し訳無いんだけど」
怪獣の口の中でそんな言い訳をするあたり、こいつ結構胆力あるな。
「……なァ怪獣。良い方法があるぞ?」
女王さまがいたずらっぽく後ろから声をかけてきた。
「何だ」
「怪獣、お前そいつを後見しろ」
「……はぁ?」

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理外の理に触れる者:海殺し その⑨

思うように動かせない身体をどうにか少しずつ捻って背後に目をやると、女王さまと似た見た目の中性的な少年が俺の背中に手を置いていた。
「彼女を攻撃しようって言うなら、ぼくは止めなくっちゃならない」
「な……何をした…………」
「わぁいミナト。紹介するよ、怪獣」
答えたのは女王さまの方だった。
「そいつが私の用事、っていうか探し人」
「へぇ……」
「私の恋人さ」
「そうかい……」
「まあ冗談なんだけど」
「ハッ倒すぞテメエ」
「ちょっとみっちゃーん? そいつ普通に動いてんだけどぉー?」
普通には動けてない。憎まれ口をたたくのが精いっぱいだ。
「しょうがないよ、ぼくは飽くまで干渉者だ。あらゆる時間は自然に流れたがる権利がある」
ミナトとやらの発言からして、こいつは『時間の干渉者』か。しかし、ただの干渉者に人ひとりの動きを止めるほどの力があるのか?
「ほら、喧嘩は良くないよ。今はその砂漠の異能者をどうにかしなきゃってところでしょう?」
ミナトの異能について考えていると、奴がそう言って俺から手を放した。身体の自由が急に戻り、反動でバランスを崩しそうになったところを駿竜の首にどうにか寄りかかる。
「ああクソ、そうだった……。駿竜」
指示を出し、まだ駿竜が咥えていた異能者を地面に落とした。その衝撃で意識を取り戻したようだ。

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理外の理に触れる者:海殺し その⑦

矢印を数十個辿りつつ歩いて1時間も経った頃だろうか。ようやく奴らを見つけた。あの女王さまに道連れ、その他知らない顔が何人か。その場の異様な雰囲気に馴染んでいる様子から、全員異能者なんだろう。
「ん、お前か怪獣。ご苦労だったな。良いもの乗ってるじゃないか」
砂が固まってできたパラソルの下で、水の塊をクッション代わりにして寝そべった女王さまがこっちに手を振ってきた。
「このや……この女郎……」
殴ってやろうかと拳を握りしめると、別方向からも話しかけられた。
「あ、おかえりー。何か頑張ってくれたみたいじゃない」
道連れも砂でできたデッキチェアに腰掛け、素足を地面からわき出す水に浸しながらこっちを見ている。とりあえず片手を挙げて応える。
「わん」
また別の声。こっちは聞き覚えがある。
「……その声、狼か」
「うん」
女王さまと同じか少し下くらいの年齢の、狼の耳と尻尾を生やした少女が、別の少女に捕まっている。
「さすがにあの竜巻は私じゃ破れなかったから助かった」
「そうかい」
「こっちはうちのお姫様。雪を降らせてた異能者」
そいつも会釈してきたのでこっちからも会釈で返す。
「何だよぅ、私にだけ邪険じゃないかぁ?」
女王さまがわざとらしくすねたように口をとがらせる。
「うるせえ。パシってきた奴に振り撒く愛想なんざ持ち合わせてねンだ」
ビビらせてやろうと火を吹こうと口から肺にかけて部分的に怪獣化し、牙を打ち合わせた時だった。
「駄目だよ、きみ」
誰かの手が背中に触れ、身体の動きが突然に止まった。

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理外の理に触れる者:蝶と鴉と猫 壱

ぱち、と目を覚ますと見慣れた天井が見える。
暫くの間そのままでいたが、やがて誰かの気配を感じて窓の方を見た。
「よぉ」
そこにはカラスが留まっていた。
「随分と寝てたみたいじゃないか」
そう言って、カラスはケタケタと笑う。
「…」
畳の上に寝転んでいる黒髪の人物は、静かに起き上がった。
部屋のゼンマイ時計を見ると、午後2時を指している。
「どうだいお前、よく眠れたかい?」
夢でも見てたのか?とカラスは笑いながら言う。
「…別に」
見てたとしても忘れてるよ、と黒髪の人物は素っ気なく答える。
「そうかね?」
お前がそう言う時は大体…とカラスが言いかけた所で、黒髪の人物は立ち上がった。
「…おっと、どこへ行くんだい?」
部屋の出入り口へ向かおうとする黒髪の人物を、カラスが引き留める。
「ちょっと散歩」
あんまりいい寝覚めじゃないから…と黒髪の人物は部屋から出ようとする。
「じゃあオレ様も連れてってくれよ、黒羽(くろは)」
お前1人じゃ心もとないだろ?とカラスが言うと、黒羽と呼ばれた人物は窓に一瞥もせずこう言った。
「好きにしたら」
カラスはその答えを聞くと、バササッと黒羽の肩に飛び乗った。
「へっへっへ」
やっぱりこの場所は落ち着くなぁとカラスは笑う。
黒羽はカラスがちゃんと肩の上に乗ったのを確認してから歩き出した。

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理外の理に触れる者:海殺し その⑦

歩き出そうとして、身体に力が入らなくなっていることに気付いた。流石に2度も怪獣化した後にあれを呼んだのはやり過ぎだったか。とりあえずその場に尻もちをつくように座り、体力の回復に専念することにする。それはそれとして、犯人も捕まえておかなくっちゃならない。
「『駿竜』、来ませい」
4本足で立つ、体長4mほどの翼の無いドラゴンが俺の前に駆けてきた。
「連れて来い」
さっきまで砂嵐があった場所を指して命ずると、駿竜は目にも留まらぬスピードでそっちに向かって駆けて行き、僅か数十秒で戻ってきた。口には異能者らしき俺と同世代くらいの少年を咥えている。どうやら気絶しているらしい。砂鯨の直撃でも受けたか? 生きてるってことはそれは無いか。
「よくやった」
駿竜に手招きして身を伏せさせ、背中の上に這い上がる。
「俺の足跡を辿れ。急がなくて良い。あの偉そうな女王さまに達成報告でもしてやろうじゃねえか」
俺の命令に頷き、駿竜が駆け出す。急がなくて良いと言ったのにその速度はなかなかのもので1回背中から転げ落ちたが、それで反省したようで、無事にのんびりと引き返すことができた。

足跡をたどってあの女王さまと出会った場所に向かうと、そこには誰もいなかった。あいつが呼んだ水の跡すら残っていない。
軽く周囲を探してみると、水でできた矢印が等間隔に浮いている。
「あンのチビ…………こっちから出向けってのか。駿竜、悪いがもう少し歩いてもらうぞ」
指示を出すと、駿竜は短く喉を鳴らし、矢印を辿って歩き出した。

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籠蝶造物茶会 あとがき

どうも、テトモンよ永遠に!です。
こちらは「籠蝶造物茶会」のあとがき…と言うかおまけです。
よかったらお付き合いください。

「造物茶会シリーズ」はぼくの高1の時の空想から生まれました。
ただ、元々は魔術が出てくるようなお話ではなく、人外達がいちゃいちゃ(笑)するようなお話でしたし、キャラクターもナツィとキヲンしかいませんでした(しかも当時は明確な名前がなかった)。
ただ空想の内容が少々えげつなく(お察しください)、空想している自分が辛くなってしまったために全然違うお話にしました。
それが「造物茶会シリーズ」の始まりです。
でも最初の内はキャラ名やそれぞれの設定がかなり違ったり、ナツィとセットなのはきーちゃんだったりしました。
この辺りは空想を続けている内に自分にとってよりしっくりくる方…現在の形へと変わっていきました。
ちなみにきーちゃんがナツィにくっ付いたりしているのは初期の名残りです(笑)

今回はこれくらいにしておきましょう。
いつになるか分からないけど、「造物茶会シリーズ」第3弾もお楽しみに。
また「ハブ ア ウィル」の新エピソードも絶賛制作中で、3月中の投稿を予定しております。
こちらもお楽しみに。

あと最後ですが、ぼくから質問です。
ポエム掲示板を出入りしているとここで自分以外にも小説を書いている人を度々目撃するのですが、皆さんどういうキッカケで小説を書いているのでしょうか?
ぼくはある人がここで長い長い小説を書いているのを見て、真似したくなって始めたのですが…
みんなはどうなのでしょうか?
よかったらレスから教えてください。

ではこの辺で。
テトモンよ永遠に!でした〜

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理外の理に触れる者:海殺し その⑥

(……さて。どうしたもんか)
一応、指の先を砂嵐に突っ込んでみたが、一瞬でひき肉にされてしまった。指一本しか入れなくて本当に良かった。人型に戻ればどうせ治るからまあ問題無い。
「…………まあ破れるけどさァ……やりたくねえなァ……」
溜め息を吐いて怪獣化を一度解く。そう、この程度の障害なら、俺の異能で呼び出す怪獣であれば簡単にブチ破れる。しかし、あのレベルの怪獣は自分で化けるにはデカすぎるから、わざわざ召喚しなけりゃならない。勿論、体力の消費も結構なものになるわけで。
「……でもまあ、やらねえとだよなー…………よし、やるか」
十分に距離を取ってから、左腕を砂嵐に向け、意識を手の先に集中させる。
「……『砂鯨』、来ませい」
その言葉で、俺と砂嵐の中間の地面から『そいつ』が飛び出した。数十mはある背丈、先端が二つに分かれた幅広の尾、水かきのある手足、白色のゴムのようにたるんだ皮膚、ハクジラのような形状の頭部と口からはみ出した異様に長い牙。俺の持つ怪獣たちの中で最も巨大で、重厚で、強力な化け物だ。
「ああクソ……手っ取り早く行こう。倒れ込め」
砂鯨の皮膚は高速で回転する砂粒を軽く弾き返し、質量で押し潰すようにして、砂の壁を容易に突き破った。そして地響きを立てながら砂鯨が倒れ込んだ数秒後、あれだけ大規模だった砂の竜巻もきれいさっぱり消えてしまった。
「ご苦労、砂鯨」
声をかけてやると、砂鯨はまた砂の中へと消えていった。さて、この町を砂漠にした犯人の顔でも見に行ってやろうか。

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理外の理に触れる者:海殺し その⑤

「そうそう、せっかくだからこれも言っておこうか。お前が探すべきは『雪』と『竜巻』だ」
別れる直前、あの女王さまは俺に向けてそう言ってきたんだ。
『竜巻』というのはまだ分かる。砂嵐みたいなやつが発生してるってんなら極めて自然だ。しかし、『雪』ってのはどういうことだ? こんな暑さの中じゃ、降って来る間に溶けて、せいぜいが雨になっちまうだけだろうに。
考えながら歩いていると、不意に鼻先に何かが落ちてきた。指でそれを触ってみると、小さな結晶のようだ。
(……まさか、このクソ暑い砂漠の中で、本当に雪が降るとは……)
一度変化を解き、人間の身体で雪の冷たさを楽しむ。石竜の皮膚で防いでいたとはいえこれまでひたすらに暑いだけだったから助かる。

しばらく身体を冷やして、再び怪獣化する。今度の変化はさっきより獣寄りに、やや小柄な2m半程度の背丈に薄灰色の毛皮と狼のような頭部、体長とほぼ同じ程度に長い尾を具えた、自分の中で『人狼』と呼んでいる姿だ。
その姿で雪の降る中をしばらく歩いていると、すぐに『竜巻』の方も見つかった。空高くまで伸びる、轟音を立てる砂の柱。これは紛うこと無き砂の竜巻だ。
「わん」
不意に足下に犬の鳴き声が聞こえた。そっちを見てみると、なかなかワイルドな雰囲気の大型犬がこっちを見上げていた。
「……いや待て犬は普通あんな露骨に『わん』とは言わねえな? お前異能者だろ」
犬を指差して言ってやる。犬は頷いて応えた。
「あと、おおかみ」
犬もとい狼が普通に話しかけてきた。
「そうかい」
「あれ、どうにかして」
「あの砂嵐をか」
「そう。あの中に砂漠の異能者がいる」
「そうかい。まあこっちも一応頼まれてここまで来てるからな」
「ん。それじゃ」
それだけ言うと、狼はどこかへ走り去ってしまった。

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理外の理に触れる者:海殺し その④

水のコンパスを眼球の無い顔で見ながら、ひたすら砂の上を歩き続ける。あいつが話さなくなったせいで、実に退屈な作業と化している。鬱陶しいだけだと思っていたあいつも、結構大きな働きをしていたわけだ。
「おい怪獣」
不意に声をかけられた。声のした方に目をやるが、砂しか見えない。
「こっちだって」
そっちを見てるんだが。
「…………ああ、そういえばそうか」
目の前の砂の塊が突然崩れ、その下に偉そうに膝を組んで座る少女が現れた。
「やあ、良い天気だな?」
少女が話しかけてきた。とりあえず何も言わず睨み返しておく。
「……何だよぅ、返事くらいしてくれても良いんじゃあないの? 私、女王さまぞ?」
「ハァ?」
「お、喋った。ただの怪獣じゃないみたいだな?」
「誰だお前。女王だァ?」
「うん。異能は『無生物の支配者』、人呼んで“無命女王”。それが私だよ」
「へえ、知らない名前だ」
「怪獣よー……もっと周りの異能者に興味持て? 私、ここら一帯のボスみたいなものぞ?」
「へえ、そいつは知らなかった」
「……まあ良いや。私は用事があって忙しいんだ。その代わりに、ほれ」
周囲の砂が浮き上がり、矢印の形をとる。コンパスが指すのとはちょうど90度ほど進路がズレていやがる。
「この砂漠は、異能者が創り出したものだ」
「ンなこたァ分かってんだ」
「お前、行って止めてこい。日差しと乾燥は身体に悪いからな」
「悪いが、こちらも用事があってな」
「そっかー……」
無命女王とやらがこっちに指を差してくる。直後、手の中の水のコンパスが弾け飛んだ。
「あッ! おま、何しやがった!」
「水源なら連れて来てやる。そいつ置いてさっさと行かんか」
奴が地面を指差すと、砂の地面に小さな穴が開き、結構な勢いで水が噴き出した。地下水だったとしても透明すぎる気がしないでも無いが、まあ異能の影響だろう。
「これでそいつも平気だろう。早く行って来い」