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無能異能浪漫探訪⑦

「何だ、能力関係の知り合いかー。ちょっと待ってて、すぐ呼んでくるね」
「あ、はい……」
彼女はまたあの部屋に戻って行った。どうやら危機を脱することができたようだ。その場に座り込み、大きく息を吐く。ああ緊張した。
さて、偶然見かけたあのシーンのお陰で信用を勝ち取れたわけだが、当然俺はあいつの事なんか知らない。呼んでもらったとして、どうしたものか……。
そう考えていると、またあの部屋の扉が開き、最初に目撃したあの少年が現れた。こっちに来たが、顔も知らない俺を見て不思議そうにしている。
「あのー……どこかで会いましたっけ?」
少年が声を潜めて尋ねてくる。
「いや、初対面。ちょっと危機的状況を脱するためにダシにしましたごめんなさい」
「あっはい。で、あんたは誰でどんな用事なんです?」
「あ、はい、えー、俺は見沼依緒。ミヌマとでもヨリオとでもイオとでも好きなように呼んでもろて」
「ん、よろしくっす。俺は岩室弥彦」
「あー……すまん。さっき出鱈目並べたせいで、俺は君のことをトムと呼ばなきゃ怪しまれるかもしれないんだ。ちょっと話を合わせてくれ、トム」
「何故トム……まあ了解」
いろいろあったが、どうにか接触には成功した。ようやく本題に入れそうだ。
「それで、用件なんだが……」

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無能異能浪漫探訪⑥ 足りない才能はハッタリで補う

「あ、ごめん」
上から奴が声をかけてくる。あんまり悪いと思っていなさそうな声だ。その口調のまま、奴は質問を続けた。
「それじゃあ何の御用?」
「えっ……と、ですねぇ……」
痛む身体をどうにか起こし、身体の状態を確認する。幸いにも目立つ怪我はしていないっぽい。
「……いやまあ、実を言うと俺が用があるのは、その人らじゃ無いんすよね」
「なるほど。じゃあ誰?」
俺と大して変わらない年齢だろうに、何故か異様に不気味な雰囲気を醸している。またあの身体が動かなくなる感覚だ。
「えっとですねェ……ほら、件の二人組と同年代くらいの男子がいるでしょ」
「んー? 名前で答えないんだね」
声は軽いのに、空気はどんどん重苦しくなる。呼吸も満足にできないレベルだ。まあたしかに、今の俺はただの不審人物だもんな……。
どうにか息を吐き出し、飽くまで余裕だぜって面をしてみせる。
「まあ落ち着いてくださいよ。俺もあいつとは人伝で知り合っただけなんで、そんな親しいわけじゃ無いんですって。あいつを紹介してきた奴が、ああ、そいつ市川って言うんすけど、そいつ、あれのことをあだ名でしか紹介してくれない適当な野郎でしてね……」
ここまで息もつかずに出鱈目を並べる。ちなみに市川なんて知り合いはいない。
「へえ、どんな?」
奴の鋭い反撃。さて、ここからが勝負だ。下手に名前を模したっぽいやつをあげても、奴の本名と関係無いやつを言ったりしたら嘘だってバレるもんな。手遅れかもしれないけど。
「ああ、あいつはトムって呼ばれてますよ」
「トム?」
「そう、トムソンガゼル略してトム。ほら、あいつの人並外れた謎移動。あれヤバいっすよね。縦にも横にもバグみたいに動くんだもんなァ」
横移動してるシーンは見たこと無いけど。しかし、このハッタリがどうやらプラスに働いたらしい。急に周囲の空気が正常な雰囲気に戻った。

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無能異能浪漫探訪⑤

あの二人組があの部屋に入ってから、数分が経過した。突撃しようとも考えたが、突っ込んだとしてどう話を切り出したものか、って話だしな……。
そんなことを考えていると、あの部屋の扉が開いた。思わず身を隠すように小さくなる。
出てきたのは、さっき入って行った二人組でも、最初に目撃した奴でも無い。そいつらより少し年上に見える女子だった。女子率高えな。
ここまで知らない奴ばかりとなると、陰キャな俺にはちと分が悪い。こっそりその場を離れて次の機会を伺おうと思っていると、出てきた奴と一瞬目が合ったような気がした。
気のせいだと自分に言い聞かせて逃げようとしたが、何故か身体が動かない。恐怖で足が竦んだ時の感覚がそれに近いが、なら俺は何に恐怖してるってんだ。
奴がこっちに近付いてくる。すごい笑顔で。何かすごい怖い。身体の重心を操作する以外の行動が全くとれない。奴との距離はもう2、3m程度しか無い。
(クッソ、こうなったら多少の怪我は必要経費だ)
重心を思いっきり後方に移動させる。こうなったら階段を転げ落ちてその勢いのまま逃げるしか無い。
作戦を実行に移す。しかし、予想に反して俺の身体は大きく傾いたにも拘らず、空中に上半身を投げ出したまま硬直してしまった。
「ッ……⁉ 何が起き」
「どうも、そこの人」
すぐ目の前まで接近していたあいつが、話しかけてきた。
「あー……どうも」
声をかけられたので、物理学的に不自然な姿勢のままこちらも挨拶を返す。
「うちの子たちの知り合いか何かですか?」
奴は引き続き話しかけてくる。うちの子?
「……えっとほら、あのー……私より少し年下くらいの女の子二人組」
なるほどあの二人組か。
「いえ、知らないっすけど……」
「そっかー……」
彼女がそう言うと、身体が自由になる感覚がした。
その結果、階段を転げ落ちる用意ができていた俺の身体は、本来の予定通りの動きをしたわけなんだが。

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ツギハギにアイを。

つけっ放しのラジオが午後6時を告げる。直後、あの子が部屋に入って来た。いつものことだ。
通学鞄をベッドに放り投げ、あの子はおもむろに裁ち鋏を取り出した。裁縫が好きなあの子にとってはよくあることだ。
そしてそのまま、ぼくの方へ歩いて来た。裁縫道具を持ったまま部屋の中を歩き回るのも、よくあることだ。
そして、ぼくを持ち上げた。ぼくはあの子のお気に入りだから、これもよくあることだ。
そしてあの子は裁ち鋏を開き、ぼくの首を勢い良く切り始めた。これは初めてのことだ。
あの子はぱっくり開いた傷口から新品の綿を詰め込み始めた。ぼくの解れを直してくれるのも、昔からよくあることだ。
すかすかになっていたぼくの中身を埋めたあの子は、ぼくの毛色にそっくりな茶色い糸で傷口を縫い付け、『いつもの場所』にぼくをそっと置いた。
そろそろ終われると思っていたのに、また「穢」を貰ってしまった。
元々のぼくはもう、毛皮の7割と目玉くらいしか残っていないけど、それでもぼくはあの子を見守り続けよう。あの子の「愛」で引き伸ばされた、終わりまでの数か月か数年か。ぼくには何もできないけれど、ただあの子のために捧げるつもりだ。

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無能異能浪漫探訪② 太陽は確実に存在する

ある日曜日の午後のこと。心霊スポットと噂されている近所の古いアパートに向かった時のことだった。
斥候気分で少し離れた位置から双眼鏡で監視していたその時、俺より少し年下くらいの、多分中学生くらいのガキが一人、アパートの前で立ち止まったんだ。何となくそいつを見ていると、そいつは周りを軽く見回してから、軽くジャンプした。
そいつはたしかに、ほんの軽―く跳び上がっただけだったんだ。そんなに膝を曲げていたわけでも無かったし。にもかかわらず、奴はあっという間に3階まで跳び上がり、通路に侵入してとある一室に入って行ってしまった。
あれはつまり、そういうことだよな? どんなに跳躍力がある人間でも、たったあれだけの予備動作で数mも跳び上がれるわけが無い。それこそ、神がかり的な何かがあの中学生に味方していたとしか考えられない。
これまで抱えていた朧げな信仰心が、ようやく明確なビジョンを取ったようだった。
速攻で双眼鏡を肩かけ鞄に仕舞う。せっかく見つけた『そっち側の世界』の手がかりだ。逃がしてなんてやるもんか。
勿論全力移動でその古アパートへ。奴の入った部屋は把握しているし、ロクなセキュリティも無いから、階段を駆け上がればその部屋まで楽に突撃できる。
足音を忍ばせつつも可能な限り素早く3階まで駆け上がり、通路に飛び出そうとして咄嗟に物陰に身を隠した。例の部屋の前にさっきの奴と同年代くらいの女子が二人、屯しているのが見えたからだ。
同じ部屋が目的地っぽいし、奴らもあの中学生の関係者か? となると、奴らからも何か情報が得られるかもしれない。せっかくだし、接触してみるか。