表示件数
0

片道切符

「黄泉比良坂まで」

人の行き交う仄暗いプラットホーム
たったひとつの荷物を抱え
錆び古びた列車に乗り込む

無音の喧騒
いちばん端の椅子に座り
列車の揺れに身を任せる
ゆらり ふわり
心無しか少し身が軽くなっただろうか

幾つもの踏切 鳥居 卒塔婆を
ゆっくりと通り過ぎてゆく
隣の乗客は徐ろに煙草を取り出した

誰の顔も分からない逢魔時

ふと窓の外
恐ろしいほどに鮮やかで
どうしようもなく美しい
真っ赤な夕焼け
燃え盛る一面の死人花

嗚呼、綺麗だな
なんて興味無さげな声を舌先に転がす

「もうすぐ日が落ちます」
手練たような掠れたアナウンス

夕焼けはどこかへ溶けて消えてしまった


あなたは何処へ向かったのだろうか
どうか私の向かう先に
その真っ白な死装束のまま
待っていてくれますように

どうか何も変わらぬままに


死に急いでいた
死に急いでいた
彼に頼み込んで
ようやく死んだのだ

後悔しないように
あなたと離れ離れにならないように
ひどく死に急いでいた

回る
回る

すっかり冥くなってしまった
あなたな未だ待っていてくれるだろうか
ぽつりぽつりと灯籠に灯が入る
幽冥に滲んで川を下ってゆく

片道切符を握りしめて
この汗ばんだ手に
くしゃくしゃになった紙切れをひとつ
ただただ大事に握りしめている

嗚呼何もかも忘れて仕舞いそうだ
あなたの顔もその声も名も
眠たくて仕方がないな


終点に着くまであなたは
待っていてくれるのだろうか

2

『ある中性子分子のすれ違い』下

 観月の顔が一瞬歪む。
 そして、まっすぐ紫陽を見ていた視線を外し、ごめん,と音にする。
「それ、面白かったよ」
 当たり障りのないことを呟いた。
「……そうか。なら、良かった」
 素っ気なくそういうと、紫陽はおもむろに本を取り上げ、パラパラとめくる。
「……どこが?」
 観月は、まだ話し続けるの?とでも言いたげな目をしている。
「主人公に、全然共感できないところ」
 紫陽は首をかしげる。
「それ面白いのか……?」
 悪くなった流れなどとうに忘れてしまった紫陽は、その実本の話をしたくてうずうずしていた。
「あ、でもあそこは面白かっただろ?ほら、宇宙船が落ちてきたとき」
「主人公があんたに似てるから共感できないって皮肉を言ってるんでしょうが!私は宇宙船のとこよりも分子を可視化できた時の博士の反応のほうが面白かった!」
 相変わらずのすれ違いである。
「ああ、あそこかあ……。通だな、お前も」
 観月とは裏腹に、楽しそうな紫陽。
「TP-306が活性化したときの描写はほんと最高だよな!わかってるじゃないか」
観月は、その楽しそうな表情に脱力してしまった。
むくれるだけ労力の無駄である。
「そうだね、まるで核融合反応をペットボトルの中で見たかのような感覚だったね」
「おお、お前もそう思ったか。やはりそうか、もしかしたら作者は中性子分野の研究に通じてるのやも知らんな……」
 そういうと紫陽は、観月のことなどお構いなしに、一人でぶつぶつと考え込み出してしまった。
 こうなってはもう仕方がない。紫陽がどんな性格だか、観月はわかっているつもりだ。
片付けていたら見つけた、なんて、そんなのは嘘だ。あれだけ細かな設定にたくさんの言葉たち。フィクションだかノンフィクションだかわからないような本を理解するのに、これだけの時間がかかってしまうのは仕方がない。
けれど、いつもつまらなそうにしている紫陽が、本を勧めてくる時だけはあんなに楽しそうなのだ。これに付き合うことを一つの娯楽としてしまっている自分も自分なのだが。
帰りにも捕まるな、そう思い、苦笑して静かに机から離れた。

今回、紫陽が貸してくれた本のタイトル、それは

2

誕生日も終わりが近づいて参りました。

 こんばんは、今日は本当に特別な日にしてもらいました、ちょっぴり成長したピーターパンです。大切な人たちから頂いた素敵な言葉の数々、本当に本当に嬉しかったです。バックアップとって保存しておきました()
 正直、誕生日のこと、当日まで完全に忘れていたんです。それくらい、自分のなかでの誕生日の位置づけって大したことのないものだったのだけれど、気付いてくれた人からの派生がすごくって。自分でも、こんなにお祝いしてもらえるだなんて予想だにしていなかったものですから、本当に驚きと嬉しさで、どうにかなってしまいそうだったんです。他人事みたいですけれど、私、愛されているんだなって。
 顔を合わせたことがなくて、文字や言葉だけで、掲示板という繋がりだけと言えばその通りでもあって。どこかで軽く話したことがあるのだけれど、私たちは出逢っていなかったかもしれない集まりなんですよね。私も含めて、たまたま、今、ここにいるだけで。ただ、そのたまたまのおかげで出逢って、しかも、自分がこの世に生を受けた日を祝ってもらえることって、それだけで特別なことだと思うんです。
 今日1日祝ってもらって気付いたんですけど、喜んでいるのが、感動しているのが、私だけじゃないんですよね。それがまた、嬉しくって。大好きな人と同じ時間を共有できることの幸せを強く感じました。みんなには感謝しかありません。私と出逢ってくれてありがとう。

2