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憧れと独白と傾聴とその先 #15

 私は少しだけ笑って、話を再開する。
「それからも私たちは、先輩と後輩だった。それ以上でもそれ以下でもない。色々思うことはあったと思うんだ、中学生だったしね。でも、今はもう覚えていないくらいには閉じ込めすぎていた」
 涼花は何も言わない。
「あれは、先輩が引退するときだったかな。私、泣いちゃったんだよね。涼花もよく知っていると思うけど、私はとても涙もろいから」
「そうですね、知っています。思い浮かびますよ、先輩が泣いているところ」
 優しく微笑むなあなんて、ふと思った。
「恥ずかしいなあ……そう、そのときにね、先輩が、腕を広げて、おいでって」
 そう、おいでって言ってくれた。
 涼花は目を見開いた。
「……先輩、腕に飛び込んだんですか……?」
 飛び込めたら、何か変わっていたのかな。今でもそう考えることがある。
 私はゆるく首を振った。
「できなかった。最後まで私は後輩だったし、先輩は先輩だった。私たちはずっと、先輩と後輩だった」
 飛び込めたなら、きっとそれは少女マンガだ。
「先輩に憧れていた。それは、憧憬であって思慕であって聖域だった。それをある人は恋というのかもしれないけれど」

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片道切符

「黄泉比良坂まで」

人の行き交う仄暗いプラットホーム
たったひとつの荷物を抱え
錆び古びた列車に乗り込む

無音の喧騒
いちばん端の椅子に座り
列車の揺れに身を任せる
ゆらり ふわり
心無しか少し身が軽くなっただろうか

幾つもの踏切 鳥居 卒塔婆を
ゆっくりと通り過ぎてゆく
隣の乗客は徐ろに煙草を取り出した

誰の顔も分からない逢魔時

ふと窓の外
恐ろしいほどに鮮やかで
どうしようもなく美しい
真っ赤な夕焼け
燃え盛る一面の死人花

嗚呼、綺麗だな
なんて興味無さげな声を舌先に転がす

「もうすぐ日が落ちます」
手練たような掠れたアナウンス

夕焼けはどこかへ溶けて消えてしまった


あなたは何処へ向かったのだろうか
どうか私の向かう先に
その真っ白な死装束のまま
待っていてくれますように

どうか何も変わらぬままに


死に急いでいた
死に急いでいた
彼に頼み込んで
ようやく死んだのだ

後悔しないように
あなたと離れ離れにならないように
ひどく死に急いでいた

回る
回る

すっかり冥くなってしまった
あなたな未だ待っていてくれるだろうか
ぽつりぽつりと灯籠に灯が入る
幽冥に滲んで川を下ってゆく

片道切符を握りしめて
この汗ばんだ手に
くしゃくしゃになった紙切れをひとつ
ただただ大事に握りしめている

嗚呼何もかも忘れて仕舞いそうだ
あなたの顔もその声も名も
眠たくて仕方がないな


終点に着くまであなたは
待っていてくれるのだろうか