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魔法譚 ~エンドレスライフ、エンドレスジャーニィ Ⅲ

「…そうかい? でもこの歳になっても魔法使いとして生きられるなんてすごいと思うよ? だって…」
「…ほとんどの魔法使いは、大人になる前に死んでしまうから」
大賢者が先に言う前に私が答えると、…そうね、と少し悲しげに答えた。
「みんな、幸せになるために魔法使いになったのに、みんな、悲劇の死を遂げてしまう…」
大賢者は悲しそうにうつむいた。
「そんな風に悲しむのなら、魔法使いなんて生み出さなきゃいいのに」
どうして生み出し続けるのよ、と私は言った。
それを聞いた大賢者は、私の目を見つめながら答えた。
「…だって、この世で魔法を使えるのが、わたし1人だけじゃ寂しいじゃないか…」
もちろん、魔法を持たないキミ達に魔法を与えて、どんなことをするのか眺めて楽しむってのもあるけど、と彼女は付け足す。
「…わがままね」
私は少しだけため息をついた。
「…でも、どんな願いもわがままと変わらないじゃないか」
「私のはちょっと違うと思いますけど」
大賢者のツッコミに、わたしはさらっと反論した。
「…オカルトなんて、基本信じてなかったから。だからあの時は、適当に『空を飛びたい』と願ったのよ」
私は彼女から目をそらしながら呟いた。
「…まぁ、いいわ」
そう言って、大賢者はふわりと飛翔した。
「わたしはこれからも、誰かのわがままを、自分のわがままを、叶えるために世界を巡るわ」
あなたも頑張るのよ、そう笑って、大賢者は夜空へと消えていった。

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無幻の月-戒放-

埠頭までの直線距離自体は比較的近かったが少し寄り道することにした。魔力のテストのためだ。
通行人数人に思い付く限りの呪文をかけてみたが確かに制限は外れており、どんな魔法でも自在に行使できるようになっていた。
ふむ...考察は正しかった...なら...
桜改めサクラは気配を消して今度こそ埠頭まで行くことにした。

埠頭は既に地獄の門と化していた。哭羅はファントムに怒ったように何か指示を出している。多分、私を探しているのだろう。
そんな時、一体のファントムが哭羅へ反乱した。だが触れるより前に喰われてしまった。
「(まぁ...一体ならこんなものか)」
無感動に海に向かってサクラが呪文を唱えると海が沸き立ち始める。
「甦れ亡者よ!私がお前たちの新たな主人だ!」
サクラの切り伏せたファントムが海から哭羅めがけて突撃する。
哭羅はもちろん、周りのファントムたちも何が起きたのか理解できなかったようで動きが止まるがすぐに応戦を始める。
しかしこの一瞬が命取りで皆防戦一方だった。
「...散れ!」
サクラが一瞬ずらして突撃し、魔力で巨大化させた鎌を振り下ろす。
傀儡ごとファントムは全滅させたが、哭羅に対しては腕と足を持っていったものの避けられてしまった。
これだけ斬れれば十分だろう...
哭羅の真上まで上昇し、鎌を天に掲げて呪文を唱える。
同時に哭羅も咆哮と共にサクラへ手を伸ばす。
「届くまい...己の部下と共に砕け散れ!」
先ほど全滅させたファントムの傀儡が哭羅の足をつかむ。
無慈悲に振り下ろされた鎌は空の亀裂ごと哭羅を斬り裂いた。

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魔法譚 〜因果応報 Ⅱ

「…やぁ」
バケモノを退治した後の少年の背後から、声が聞こえた。
少年が振り向くと、そこには見覚えのある顔があった。
「…大賢者さん」
「そうだよ、わたしさ。久しぶりだね、“村雨 千夜”くん」
センヤ、と呼ばれた少年に、大賢者は笑いかける。
「随分戦いに慣れてきたね」
「そうですか?」
そう答えるセンヤの服装は、昔風の軍服から学校の制服に変わった。
「…まぁ、魔法使いになってから2年くらい経ってますからね」
センヤはオルゴールの形をしたマジックアイテムをポケットの中に入れながら言った。
その様子を見ながら、ふと思い出したように大賢者は呟いた。
「…そういえば、キミの願いは何だったかな」
センヤは笑顔で答える。
「いじめてくる奴らに、同じ痛みを味わせたい」
「…まさに因果応報ね」
大賢者はボソっと言った。
「手に入れたのが、“自分が受けた痛みをそのまま相手に返す”魔法で本当によかったですよ。お陰であいつらに復讐することができたし、ファントムの退治もできるし」
本当にありがたい、とセンヤはにこりと笑う。
そうかい、と大賢者は素っ気なく答える。
「キミが後悔してないみたいで本当に良かった」
こういう願いっていうのは、途中で後悔することがよくあってね…と大賢者は苦笑する。
「…後悔なんてするわけないじゃないですか」
センヤは明るく返答した。
なら、本当に良かったわね、と大賢者は呟い
た。
そしてぽつりと一言こぼした。
「…やっぱり、人間って面白いわね」
「?」
センヤは不思議そうに大賢者の顔を見た。
「…色々な願いを抱えて生きてるからねぇ」
大賢者はセンヤの目を見据えたまま答えた。


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どうも、大賢者の代弁者です。
企画は早くも後半戦に突入しますね。
今からでも、企画への参戦は大歓迎ですよ。
あと参加するときは作品に「魔法譚」のタグを忘れずに付けてくださいね。
…さぁ、後半戦も、楽しんで参りましょう!

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魔法譚 〜因果応報 Ⅰ

ーひゅん、ひゅぅん、と何かが風を切る音が聞こえる。
音のする方角では、昔風の軍服を着た少年が、鞭を振りまわしながら奇怪な生物に立ち向かっていた。
「…っ」
伸び縮みする鞭で、ライオンの胴体に観葉植物のような頭のついたバケモノに少年は攻撃を加えていたが、怪物の側頭部から伸びた蔓のようなものに弾き飛ばされてしまった。
だが、少年は地面に打ち付けられた衝撃をものともせずに起き上がると、手の中の鞭をオルゴールに変身させ、そのゼンマイを巻き始めた。
「={${*}”{>;‘,$\>\<;’;!」
無防備になった少年に向かって、バケモノは悠々と唸り声をあげながら近づいてくる。
しかし、あと数メートルのところで、バケモノは足元から崩れ落ちた。
「$;“\<\<⁈」
バケモノが己の身体をよく見ると、全身のあちこちにミミズ腫れやアザのような傷ができている。
何が起きたのか分からないバケモノは、必死になって立ち上がろうとするが、痛みに耐えきれないのかすぐに動けなくなった。
少年は音の鳴らないオルゴールを片手に、静かに化け物に近づいていった。
「”これ”が、さっき君が僕に与えた痛みなんだよ?」
少年は笑みを浮かべながら、オルゴールを鞭に変化させた。
そして無言で鞭を思い切りバケモノに振るった。

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無幻の月-宿痾-

「哭羅(コクラ)...そんなものまで出てくるなんてねぇ...」
桜は戦場から少し離れたところにワープさせられてた。
「賢者...なぜ助ける...」
「緊急事態なんでね。本来はこんなことはしないけど哭羅が出てきちゃったからねぇ...絶対にキミにはヤツを倒してもらいたい」
コクラ...あのでかいヤツのことか?
「だからキミの腕は魔術的に繋げさせてもらった」
なるほど、まだ変身状態なのはそういうことか
「賢者、二つ聞かせろ」
「なんだい?今さら降りるとかは無しだよ?」
「一つ、コクラとか言うあの怪物はなんだ、あれを放置すると何が起こる」
「あれはファントムの上位種。いわば支配者、王様みたいなものだ。この世界では...なんだっけ...あーそうそう、ダゴンって呼ばれてる」
ダゴン...昔何かで読んだな...どっかの宗教の神様だったか?なるほど、それであんなに強いわけだ
「そして、あれを放っておくとこちらの世界がメチャクチャになる」
さした影響は無さそうだな
「では二つ、私があの指輪を取り込んだらどうなる」
一緒にワープさせられた右腕を手に取りながら言う。
これは前々から考えていたことだ
取り込めれば恐らく指輪のリミッターを外せる
もっともこれが危険な賭けなのがわからないほど私も馬鹿ではないのだが
「...あなた正気?」
いつも飄々してた大賢者の顔が険しくなる。
「正気だ。お前が私の前に現れた時と同じくらいにはには」
「...そもそもマジックアイテムの力にその肉体が耐えきれない。仮にそこをクリアしたとしてもキミは常に変身状態でいるここと同じになる。人の精神がそれに耐えられるはずがない」
「なるほど...面白い!」
聞き終わった後、指ごと指輪を飲み込んだ。
体内で力が駆け巡る。耐えきれないというのは納得だった。
だが...これなら...
暴れだしそうな魔力を精神力でねじ伏せる。
それはもう、人に非らざる魔なる者だった。
「あなた...何を...!?」
「...いい気分だ...」
「この魔力...ファントム!?まさかあなた、アレも取り込んだの!?」
どうやら、あれは禁じ手だったらしい
持ってかれた右腕を魔術で生やし、焦る大賢者を尻目に再び戦場へ飛び去った。

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無幻の月-幻夢-

第三埠頭、あの賢者と初めて会った場所の近くだ
一日探してみたが、どうもここが町で一番気配が強い
午後八時丁度、空が割れた
開戦である

確かに尋常じゃない数だった
しかも人型、獣型、不定形のオールスターメンツだった
こうでなくては面白くない
桜が飛び立つ、それを見てファントムも速度を上げる。両者が激突し、大鎌を振るう。一撃で真下の海はファントムの亡骸で染まった。
「もっと...強いのはいないのかぁ!」
斥候達を蹂躙し、彼女が叫ぶ。
後続は見えるが、今倒したのと同レベルのファントムだろう。
彼女は今、快楽の果てにいる。
再び大鎌を構えて彼女は突き進む、その裂け目の奥底に悪夢としか形容できない怪物がいるとも知らずに。

異変に気づいたのは第三陣を迎え撃つその最中だった。
「(出てくる数が減った...?私の感じた気配はもっとあったぞ...?)」
そんな風に思った時にはもう遅かった。
天を裂き、同族を喰らいながら現れたのは人と西洋竜を掛け合わせたキメラとしか表現できない四足歩行の巨大な怪物だった。
「お前が亡霊共のボスか」
怪物の咆哮と共に全てが震える。
そして...
「うっ...なっ...」
知覚できなかった
人間が考えるよりも早く、体を動かすよりも早く怪物は桜の右腕を軽々と吹き飛ばした

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魔法譚 〜開催前夜

知ってる人はこんばんは、初めての人ははじめまして。
テトモンよ永遠に!改め、“魔法の伝道師”大賢者の代弁者です。
早くも企画「魔法譚」(読み:まほうたん)のスタートが、明日に迫ってきました。
…え、なにそれ?って人もいると思うので、ここで改めて企画の概要説明をしようと思います。

文明の発達により、非科学的なものがほとんど否定された現代。
だがそんな世界で、“魔法の伝道師”大賢者は魔法を扱う素質があるコドモ達に、願いを叶えるための魔法の道具“マジックアイテム”を作り与えていた。
大賢者によってマジックアイテムを手渡された人々、“魔法使い”は、その命を狙うバケモノ“ファントム”とマジックアイテムの変身機能を使って人知れず戦っている…

そんな世界を舞台に、魔法使い達のお話を詩や小説という形でみんなで作って楽しもう!というのが、この企画の概要です。
(詳しくはタグ「魔法譚」から「企画概要」を見てね)

企画の参加方法は、自分の作品に「魔法譚」のタグを付けるだけ!

投稿作品は詩でも小説でも何でもOKです!
三人称や魔法使い視点じゃなくても、大賢者視点のお話も良いですよ。

開催期間は、7月7日21時〜7月10日24時までです!
あと予定ですが、企画終了後に企画「魔法譚」のまとめを作ろうと思っているのであしからず。

細かいこと(用語解説など)はタグ「魔法譚」から「企画概要」や「用語解説」を見ることをおすすめします。
あと、質問や気になることがあったら、どんなことでもレスからどうぞ。
初めての企画なので慣れないところもありますが、頑張って進めていきたいと思います。

皆さんのご参加、楽しみに待っています。

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魔法譚 〜用語解説 Ⅲ

企画「魔法譚」の用語解説、Ⅱの続きです。
企画概要はタグ「魔法譚」から。

〈魔法使い〉
大賢者からマジックアイテムを受け取って魔法を使えるようになった人のこと。
マジックアイテムを使うことで魔法を使用できるが、1つのマジックアイテムで使える魔法は1種類までなので、実質1種類しか魔法を使えない。
異方からやってくる“ファントム”に命を狙われる運命にあるが、マジックアイテムの変身機能を使うことで戦うことが可能。
変身後の姿は人によって様々である。

基本的に大賢者からマジックアイテムをもらって魔法使いになれるのは子供のうち(10代くらい)である。
だが世の中には少数だが大人の魔法使いもいる。
それでもコドモの魔法使いが多い。
なぜならほとんどの魔法使いは、大人になる前にファントムに命を奪われるからだ。

〈ファントム〉
異方からやってくるバケモノ。
理由は不明だが魔法使いの命を奪いにやってくる。
実在する生物っぽい姿から、なんとも言えない異形の姿まで、様々な姿形をしている。
普通の人には見えない。
そのくせして魔法使い達に物理攻撃や精神攻撃などを仕掛けてくる。
魔法使い達にできる唯一の対処法は、マジックアイテムの変身機能を使って戦うことのみである。

たまに大賢者に手を出すことがあるが、チート級に強いので一撃でやられる。

これで用語解説は終了っと…
何か分からないことがあったら、レスで質問してくださいね。

企画「魔法譚」は7月7日21時よりスタート!

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魔法譚 〜用語解説 Ⅱ

企画「魔法譚」の用語解説、Ⅰの続きです。
企画概要はタグ「魔法譚」から。

〈マジックアイテム〉
文字通り、「魔法を使うための道具」。
大賢者が、魔法を扱う素質のあるコドモに「願いを叶えさせるため」に作り与えている。
ただし、マジックアイテムで使える魔法は基本的に1種類、持ち主の願いを叶えることができる魔法のみである。
使える魔法は持ち主の願いによって決まってしまうそう(例:あの人と結ばれたい→魅了魔法)。
基本的に持ち主しか使うことができないので、持ち主以外が使おうとしても魔法は使えない。

ちなみに、マジックアイテムの形は持ち主によって千差万別。
王道っぽいステッキやコンパクトから、ホウキ、スマホ、ガラケー、ペンダントに指輪、リストバンドにナイフまで、何でもありである(でも手のひらに収まるくらいのサイズがいいよね)。

魔法使いを狩る“ファントム”と戦うための「変身」機能もついており、その気になったらいつでも変身できる。
変身後の姿も人によりけり。変身ヒーロー・ヒロイン的な感じから、かなり地味な格好まで、個性が出やすい。
そして変身後は大抵の場合マジックアイテムは武器に姿を変えたりする(そもそも武器の形をしているのでそのまま、マジックアイテムとは別に武器が出てくる、など例外はあるが)。

お一人様1つまで。
もう1つ欲しいなんて言ってもくれはしない。
あと紛失したり壊したりしても、大賢者から新しいマジックアイテムをもらうことはできない。
大賢者曰く、同じ物は二度と作れないから無理、とのこと。

Ⅲに続く。

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半分

「正午って一日の半分って感じしなくね?」
「なんだよ急に、今授業中だぞ」
「しなくね?」
「いや『しなくね?』じゃねえよ。確かに言いたいことはわかるけどさ。急にどうしたよ」
「今日で今年ちょうど半分過ぎたらしいじゃんか」
「らしいね」
「でもあんまりそんな実感無いじゃんか」
「そうでも無いと思うけど」
「そこは同意しろよ」
「なんでだよ」
「まあとにかく『もう半分?!』って思うわけよ。半分も経った感じしないわけよ。なんでだろうなぁって」
「いや知るかよ。人それぞれだろ」
「そんなん言っちまったらおしまいだろ!」
「うわあ大声出すなよ怒られるだろ」
「そこ、さっきから喋りすぎだ、言いたいことがあるなら前に来い」
「す、すんませーん。ほら怒られた」
「で、これって正午が一日の半分な感じしないのと同じ理由なのではと思うわけよ」
「まるで聞いてねえな。まあいいや。それで?」
「朝、いくら起きるのが早くても学校とか仕事とか、そういうのが始まるのってだいたい8時から9時くらいだろ」
「うん」
「対して夜寝るのは早くても10時、遅いと日付を越したりする」
「つまり実際俺たちが活動してる時間だけで見ると正午はもうちょい前半よりってことか」
「ご明察」
「いや別に大して明察ってねえよ」
「それと同じことが今日という日にも言えるんじゃあないか」
「と言うと」
「俺ら今年の前半、活動してないじゃん?」
「あ―――……。自粛?」
「それ。つまりこの半年間、俺らは半年分の活動ができてないんだ。ゆえに、なんだか短いような気がする。イベントが無さすぎるんだよ」
「まあそれはコービッドくんに言うしか」
「キャラっぽく言うなよ。とまあこう結論づけるわけだ」
「なるほどね」
「ハインフタンアイッヘオン」
「待て待て待て食いながら話すな。てか弁当食うなよ。まだ25分も授業あるぞ」
「アインシュタインが言ってた相対性理論的なあれだよ」
「あー、あれか。素敵な女性の隣に座ってる時はーってやつ。あ、お前後ろ」
「そうそう、それそれ。要するにあっ、俺の弁と……」
「…………」
「…………」
「昼休み職員室に来なさい」



「お、おかえり。どうだった?」
「3時間くらい経った気がする」

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緋い魔女 Part 9

彼女の視界に何かがうつり込んだ。
ばさっ、と音を立てて現れた”それ”が、手に持った黒鉄色の大鎌(デスサイズ)を目の前の精霊に振りかざす。
突然の乱入者に驚いた精霊は、振り下ろされた刃が当たる前に姿を消した。
「…」
大鎌を抱えた”それ”は何もいなくなった雪原を見つめて立っていた。
「…お前、」
グレートヒェンはぽつりと呟く。
「…勝手に戻ったんじゃないのね」
”それ”は無言で振り向いた。
「…別に」
”それ”ことナツィは視線を逸らしながら答える。
「ただ…気になっただけ」
「ふーん。何それ」
グレートヒェンは鼻で笑う。
「まぁ良いわ、助けてもらったんだし…にしても」
彼女はナツィが持つ大鎌に目をやった。
「蝶がかたどられた鎌、ね…やっぱり、”黒い蝶”と呼ばれるだけあるわ」
それを聞くと、ナツィの手から大鎌が消えた。
「…なぁに、隠さなくたっていいのよ。お前の武器なのだから…とりあえず、帰るわよ」
もう寒いでしょう、と言って、グレートヒェンは元来た方に向かって歩き出した。
少し経ってから、ナツィは黙って彼女の後を歩き始めた。


「…という訳で件の精霊を見つけられたのだけど」
「…撤退した、と…」
まぁ仕方ないのよ、とグレートヒェンはテーブルの上に紅茶のカップを置きながら言う。
「もう辺りも暗くなり始めていたし、第一こちらもまだ準備が整っていなかった。―下手に抵抗するよりはマシだと思うのだけど」

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緋い魔女 Part2

「…ああ、あれですか?」
屋敷の主人は少女が指さす方に目を向ける。
「…あれは…えぇ、まぁ…我が家の”家宝”みたいなモノにございます」
ふぅーん、と少女はうなずくと、静かにさっき指差した方へ歩き出した。
あ、ちょっと…と屋敷の主人はうろたえたが、少女は気にせず広間の隅へと向かった。
そこには、奇妙な人影が立っていた。
―足元まである真っ黒な外套を着、頭巾で顔を隠した、少女と同じくらいの人影。
豪奢な屋敷の広間の中で、それはあまりにも異質に見えた。
少女は人影の前まで来ると、後を追ってきた屋敷の主人の方を振り向いた。
「これ…」
「えぇ、まぁ…知り合いから貰ったモノなのですが…」
極まりが悪そうに喋る屋敷の主人から少女は目の前のモノに目を向けると、何を思ったかその頭巾に手をかけた。
「…!」
一瞬のうちにひっぺがえされた頭巾の下から、少年とも少女とも似つかぬ顔が現れた。
その目は驚きで大きく見開かれている。
「…そう、やっぱりね」
少女はそう呟いてニヤリと笑った。
「…コイツ、あの有名な魔術師の”使い魔”でしょう」
…えぇ、と屋敷の主人は小声で答えた。
「しかも貴方はコレの”マスター”ではない…」
「…まぁ、そうですが…どうして…」
屋敷の主人が尋ねると、少女はクスクスと笑いながら答える。
「だって普通の”ヒトのカタチをした”使い魔は、大抵主人のそばにいることが多いでしょう? 貴方のような貴族なら殊更… でも、コイツは広間の隅で放し飼い…ならマスター契約せず、何か適当な魔法石から魔力供給させていると考えるでしょう」
間違っていて?と少女が訊くと、屋敷の主人はいえ…と答えた。