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佐々木の世界

AM7:00
「ふわぁーっ、、、んんっ!?」
【ピロリン】
『詩織ちゃん、今日休み?』
『もうすぐ電車来るけど』
寝坊した。完全に、寝坊だ。10分などの可愛らしい寝坊ではない。1時間近く寝坊した。
いつもなら、今頃駅でクラスメートと話して電車を待っていたというのに、、、

昨日用意していた朝食のシリアルは残して明日に回そう。アイロンかけておいて良かった。ハンカチはお気に入り乾いたかな。カフェオレはパックのを持って行こう。

こんなことを考えながら、家の中を駆けめぐる。そして制服を着て、束縛の世界に入る。
【ピロリン】
『電車乗るねー』
『ゆっくり来なよ』
「忙しいんだってば、、、」
返信なんて置いておく。別にあの人達に私生活まで教える義務はない。そう信じよう。

パン片手に家を飛び出した。マンガみたいだ。
自分が主人公になった気分。速く走れそう。
この角から、誰か出てきて、ぶつかるんだ。
なんてね。あり得ない。私は通行人Bだろ。

「痛っ」「痛いっ」
本当にぶつかった。痛い。カフェオレ無事か。
パンは落ちた?そういえば学校の用意出来てるかな。あ、お箸忘れた。

「大丈夫ですか?痛くないですか?」
そうだ。相手は大丈夫だったのか。
「はい、私は大丈夫です、、、あなたは」
「僕は全然平気ですよ!無事で良かった」

そう言って、相手は走って行った。速い。
またいつか会えたら、お礼しないと。
さて、あと学校まで240メートル。急げ。

【ピロリン】
『うちのクラス、転校生来るらしい』
『写真送るね』
『イケメンだよね』

そこに写っていたのは、さっきの相手だった。
不意に心臓がドキドキする。汗が出てくる。
きっと走っていたからだ。ずっと急いでたし。

学校に向かう足取りが、なぜかちょっぴり
軽くなった気がした。

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深海のピエロ

深い深い海の底に
悲しい少女(ピエロ)がいました
少女(ピエロ)はみんなに嫌われて
海の底で眠りました

どうしてだろう
あなたを見ると
胸が苦しくて
辛く当たってしまう
こんなこと
言いたくないのに

海に眠る眠り姫は
沈みながら悔やみました
どうせこの後悔も
眠れば消えてしまうのに
もう一度願いが叶うなら
楽しかったあの頃に
もうあの優しさを
手放したりなんかしないから
殺したりなんかしないから

たくさんの魚たちと
一つになった眠り姫
私たちは海を抜けて
またあなたに巡り合う

あなたと出会っても
もうあなたに触れられない
嬉しいのに
悲しくて
私はもうガラクタ同然

海に眠る眠り姫は
世界と一つになりました
もうあの優しさも
感じることができないのに
もう一度叶うなら
楽しかったあの頃に
もうあの愛を
拒んだりなんかしないから
壊したりなんかしないから

母に会いたい
父に会いたい
でも眠ってしまえば
もう会えない
巡り巡ってあなたと出会い
私たちはまた一つになる

少女(ピエロ)は必死にもがきました
あの頃に戻るために
演じきれなくてもいい
上手く伝えられなくてもいい
もう一度
あなたに会いたくて
海を抜けて
森を抜けて
あなたに会いに行くよ
もうあの優しさを
手放したりなんかしないから
もうあの愛を
拒んだりなんかしないから

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霧の魔法譚 #11 2/2

心臓が早鐘を打ち、背筋には生理的嫌悪からくる冷たさが撫でる。
大賢者は自らの魔法で起こした変化を視認して、ふぅと息を一つ吐いた。
「改めてみると圧巻というか……いや、君の前では不謹慎だったかな。とにかく、これらすべてがファントムって言うんだから、敵もなかなかの数を揃えたものだね」
大賢者はクッキーをもう一度取り出して食べていた。精神力を急激に消費したせいで蒼白になっていた肌色が見る見るうちに回復していく。おそらく精神力補充用のクッキーとかなのだろう。
「……大賢者が使った魔法って何なんだ?」
精神力を失ってないくせにすでに生きた心地がしないイツキが絞り出すように尋ねる。大賢者はぺろりと唇を舐めると、淡々と答えた。
「今目の前に現れた秘匿ファントム軍に探知ジャミングが施されていた。魔法でも直視でも見ることができないという驚異のステルス性能さ。それで私はそれを破った。やったことはただそれだけ」
ただし、と大賢者は続ける。
「イツキ君にはなかなかダメージが大きかったみたいだね。まあ自分を殺そうとやって来る敵が奇麗に整列して並んでるんだ。いわば”未知の敵兵工廠”に足を踏み入れたようなもの」
実際には敵はここで生産されているわけではないけど、敵の本陣は間違いなくここだろうね。大賢者はあくまで淡々と語る。3万の前哨隊で魔法使いたちを疲弊させ、ここに残った知性化したファントムで敵を”効率的に狩る”。故にカギとなるこの本隊の存在を秘匿したかったのだろうと。
「これが……全部、なのか……?」
イツキの口からこぼれるように言葉が漏れた。大賢者はすぐにイツキが何を言いたいのか察して、その答えを述べる。
「そうそう。ざっと見た感じ向こうの1/3程度だから……1万くらいはいるのかな」
知性を持ったファントムが鋳造品と比べてどのくらいの戦力比があるのか分からないが、3倍は軽く凌駕するだろうことは想像に難くない。
「だから排除しなくてはいけないんだよ」
大賢者は二つ目の魔法陣を作成し始めた。

***
#11更新です。イツキ君は正気度判定しましょうね。

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霧の魔法譚 #11 1/2

魔法陣から放たれた光は激烈で、数瞬ののちイツキが目を開けると、まず見えたのはフロントガラス越しに見える海だった。その様子は表面上先ほどと変わらず平穏そのもの。
――いや。
いいや、イツキはどこか違和感を覚えることに気づく。
見慣れた海のはずなのに安心感が一切感じられない。なぜか波立っていない海水面は太陽の光を無機質に跳ね返し、先の見通せない真っ黒な海が口を大きく開けて待ち構えている。
生きた空気が徹底的に排除され、自分たちこそが異質な侵入者だと強制的に自覚させられるような感覚。生命の存在が全く感じられず、なぜか自分たちが生きていると知られてはいけないという強迫観念に囚われる。
それはまるでUFO内部に忍び込んでしまったかのような不安感。眠れる獅子の檻に放り込まれたかのような恐怖。
なんだこれ、と思うより先に、違和感の正体に気づいてしまった。
それはさっきまで明らかに存在していなかった、水平線上から続く何条もの線。
その一つを辿っていくと、自分たちの足元の海上にも広がっていることを確認できる。どうやら線は線からできているのではなく、黒い点がいくつも連なってできているようだ。
黒い点。
目につくと今度はその黒い点ばかりが目に入る。広大な海を縦横無尽に走る点はどこまでも続き、追いかけていくと水平線まで続いている。碁盤の目状に形成された、点の集合体。
いくつも、いくつも、いくつも、いくつも。それは途切れることなどなく。
気が付けば、海のすべてを黒い点が覆っていた。
まさか、という呟きは声にもならない。
だって見たくもないのに見てしまった。確認したくなかったのに、危機本能がそれを求めてしまった。
黒い点の一つを凝視して、知ってしまった。
人も自然も成しえない、本来この地球上に存在してはいけない何かが残した怪奇。
見てはいけない世界のバグを見てしまったかのような気持ち悪さ。
その一つ一つが、すべて同じ形をしたファントムであることに。

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赤い蝶が舞う

大概人が持っている物は輝いて見える
私以外の世界は全て眩しい
葉山 健也
彼はきっと私と同じ世界の人間だと思う
そうあって欲しい
「ねぇ、葉山は誰かを羨ましいと思う事ある?」
「恥ずかし話俺は皆んなが羨ましいよ初瀬が居なきゃ3年間ぼっち確定だったしな感謝してるよ」
葉山は畏まってそう言った
「いやいや、私だって危うくぼっちコースだったんだよここ(泉西)に来たの私だけだもん」
「そうなんだ、まぁでも初瀬ならどこに行っても大丈夫なタイプだよ」
違うそれは私でなく私が作った私だ
全ては私が私を嫌いが故に作り出した偽物に過ぎない
「そんな事ないよ へへ」
笑っている私はどんな顔をしているだろう
綺麗な笑顔だろうか不自然でないだろうか
私はありとあらゆる事を気にして生きている
それ故に損をして来ている事を自覚しながら
私は恐怖の殻に包まれている
「じゃ俺そろそろ帰るけど初瀬はどうする?」
「委員会の仕事あるから今日は残るよ」
「そっかじゃあまた明日な」
「うん、では少年また明日も学校来いよコノヤロー」
「あぁ 少年は明日もきっちり登校してやるよコノヤロー」
笑顔で私のおふざけに付き合ってくれる彼を見て最近思う事がある
多分彼は笑顔でいる事が増えたはずだと
これは勘で出来る事なら当たって欲しくない
彼の殻を破ったもしくはヒビを入れたのが私であるという、いや正しくは偽物の私が彼の殻を破ったもしくは破る助けになったという事実
廊下を歩く彼に夕日が差し込んでいる
今の葉山は私にとって少し眩しい、と思う

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赤い蝶が舞う

入部希望期間が締め切られた
結局僕はどこにも所属しなかった
初瀬はというと
「えっ?私?私はね、文化研究部ってのに入ったよ」
いつもの笑顔はとっくに戻って来ていた
それに何となく安心した僕は文化研究部なる存在を知らなかったので聞いてみた
「何それ、そんなんあったの?」
「あるある、まぁ私も勧誘受けるまで全然知らなったけどね、へへ」
僕達が知らなかった訳は
僕らが入学するまで休部していたらしく
現在部員は初瀬含め1年2人だけの部らしい
「で、そんな限界集落みたいな部にどうやって勧誘された訳?」
「顧問の門田先生がね文研が動かないと野球部の顧問にされるから助けてくれってプラカード作って校舎を徘徊しててそれに捕まったの」
「シュールな話だな」
門田 善次郎
2年C組の担任で担当教科は国語
陽気さにかけては泉西校教員の中でもトップクラス
一応初瀬の話じゃ文化研究部の顧問らしい
見た目は完全に用務員の先生なのだが格好がスーツなので実に不自然で男女問わずそれをイジれるくらい気さくな人で生徒からの人気も男女問わず集めており多分教師の人気投票でもあれば1位は堅いのではと密かに思っている
大方野球部の顧問にされて試合や遠征とかで休みを潰されるのが嫌だったとかそんなとこだろう
疲れたと休みをくれが口癖なくらいの人だし
「門田先生入部希望者が2人居るって分かったら泣いてたって聞いたよ」
「なんて大人だよ....」
「はは、まぁまぁ人間っぽくて好きだけどね」

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赤い蝶が舞う

「困ったなぁ」
教室の扉を開けるとわざとらしく話しかけて欲しそうな雰囲気を醸し出しつつ
横目でこちらを見ている初瀬がいた
ちなみに僕の席は彼女の斜め前だ
それもあって朝はだいたい僕は後ろを向きっぱなしなんだがどうやら今日はHRまで座れなそうだ
「どしたの朝から」
「おっ、おーはー」
「何今気づいたフリしてんだ入室直後から気づいてたろ」
「ありゃま気づいてたのか流石だね」
初瀬の机に紙が置いてあった
この時期に紙を置いて悩む
何となく悩みの種が見えたが一応聞いてみる
「で、朝からどしたの」
「んーとねコレさ」
差し出された紙を見て僕の推測が間違いで無いことが確認された
入部届けと書かれている
「なるほどね、それで悩んでると」
「そーなんだよ何かなーい?」
「僕に聞くなよ部活何かまともにやって来なかったような奴だぞ」
実際中学時代は帰宅部だ一応文化研究部なる場所に席は置いていたが活動に参加した覚えがないのでなんの部活かと聞かれても困る
「初瀬そういうのサッと決めてそうなタイプだけどな」
「おやおや、決めつけは良くないぞ」
「中学の時何やってたの?」
「・・・・・」
ややあってその返事は返ってきた
「ご想像にお任せする」
なんとなく彼女の顔が
それを踏むなと言っている気がした

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20万円とスマートフォン

20万円とスマートフォンがあればなにができる?

夏休みも終わりかけた日曜日、ゲームも一通りした僕は
音楽を聞き流しながらただぼーっとスマホので画面を眺めてた。
真面目に生きていたと思っていた。
いつからだろう、こんなにダラダラしているのは。
多分僕はスマホ依存症だ。
もともと我慢ができない性格だった。
ずっと憧れだったスマホを手にしたときは興奮とワクワクでいっぱいになった。スマホを持ったらなにをしようと考え続けていた僕の欲は抑えることが出来なかった。
そんな中で学校に行くことは苦痛でしかなかった。
昔はもっとちゃんとしてた。勉強も部活も頑張っていて我ながら優等生だったと思う。
そのおかげか、ほとんど外に遊びに行かなかった僕はお小遣いを使うことなく過ごしてこれた。
今の貯金は20万円、有効活用するにはどうすればいいか考えた。
今ほしいものは自由。
当然自由は売っていない、もう時間がない。
覚悟は決めた。臆病な自分はどっかに捨てておこう。

出発は月が見えない夜。暑さはやわらいだ。
窓を開け、腹にたまった不純物を吐き出すように深呼吸をした。

20万円とスマートフォンでなにができる?
そんなことどうでもいい、僕は僕のために生きる。