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復讐代行〜第11話 死角〜

“この男はわかっていないのか?自分もこの復讐の対象者だと、それともわかったうえで…”
無意識の感動と裏腹に理性は疑うことをやめない。
「いいよ、そんなの」
“私”が当然断る、少しでも話を引き伸ばすためだろう
「そんなこと言わないでよ、せっかくの橘の誘いだよ?」
それに合わせて私はあえて逆を言う
“橘の誘いに何の価値があるのか”
その疑問が頭をよぎる。今までと違うのは何か価値があるのかもしれないと思い始めている自分がいることだ。
これは…まさか…彼の体の影響…?
「だって、そんなことしたら…」
“私”の演技はかなりいい所をついていた。
このままついて行けば彼に群がる女子陣に後で何をされるかわかったもんじゃない、かと言って行かなければ彼らにとって都合がよく、完全な泣き寝入りだ。
今回の目的のためにもここはいくべきである。
それを見事に表情で語っていた。
とはいえ、まさか自分の顔に対してそんな評価をするようになるなんて…
どこかおかしかった。
「そんなことしたら、またいじめられるのか?」
「そりゃ陰キャじゃしょうがないだろ、見ててムカつく」
小橋はうんざりしたかのように悪態をつく。
「どっちにするんだよ、来るのか来ないのか」
“私”はいつの間にか涙を滲ませていて、それを拭い強く私に目線を送る。不自然にならないように橘、そして小橋と順番に睨みをいれた。
「…行く」
「え?」
3人が3人とも身構えたうえで聞き直した。
「行くよ、私」
「そう来なくっちゃ」
橘は表情を崩し、口角をあげた。
「もしもの時は守ってもらうから」
「調子に乗るな、陰キャが」
いつもの悪口もどこか朗らかだ。
明らかに“私”が全てを持っていった…
私にはできない芸当だ…
私は“私”に体が奪われる気がして
嫉妬のような視線を“私”を送っていた。
「桐谷君、どうかした?」
「いや、なんでもない少し驚いただけだ」

to be continued…

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大道芸

学校からの帰り、道端に道化師が立っていた。正確には、道化師の格好をした大道芸人、だろうか。
4つか5つのボールでジャグリングをしているが、道行く人は誰一人として興味を持っていない。
ジャグリングを止めた大道芸人だったが、一瞬私と目が合った。大道芸人は目の前の地面に置いていた帽子にボールを仕舞い、代わりに風船と空気入れを取り出した。風船を素早く膨らませ、犬のバルーンアートをあっという間に完成させてしまう。彼が放り投げた風船の犬は、ふわふわと風に乗って私の手元に飛んできた。
風船の犬から大道芸人に目を離すと、大道芸人は帽子の中を探っていた。次は何が飛び出すのだろう。そう思っていると、今度は白い鳩が飛び出した。彼はその鳩を腕に留まらせ、軽く撫でてから空に放ってしまった。
鳩を跳ね上げるように振り上げた腕を下ろすと、その手の中には、いつの間にか一輪のバラが。数度揺らすと、バラの花はさまざまな種類の花を寄せ集めた、少し不格好な花束に変わってしまった。
それからも彼は、数多の手品や芸を披露し続けた。たった一人、私という観客のためだけに。もうすぐ日も沈もうかという頃、彼は全ての手札を見せ切ったらしく、演技臭い深々とした礼を私に向けてくれた。
私は拍手も歓声もあげられなかったけど、それでも何かを返したくて、ポケットに入っていた百円玉を、指で弾いて帽子の中に放り込んだ。

チャリン、と舗装された地面に小銭のぶつかる音。彼は満足したのだろう。
百円玉を拾い直し、またポケットに突っ込んだ。
(おひねりくらい、素直に受け取ってくれても良かったのに)
私のためだけの風船の犬。素敵な記念品を貰ってしまった。さあ、もう遅いことだし、早く帰ろう。夜は『彼ら』の時間なんだから。