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復讐代行〜第10話 順調〜

“こんなに上手くいっていいのだろうか”
親にも同級生にも否定されてきた私にとってはこんなの初めての経験で、にやけるのを精一杯堪える。
「すみません!遅くなりました!」
“私”が教室に駆け込んでくる。
髪は乱れ、制服も着崩れとは違う乱れ方をしたその姿はさながら激昂した後といった感じだ。
“なるほどよくできている。ならばこれに合わせて”
「あーあー、大丈夫か?闇子ちゃん、何があった」
そう言って席を立ち、駆け寄ろうとする。
そして同時に2人に目配せをする。
大切なのはただ目立たせるのではなく、喪黒闇子が復讐する可能性があることをを強く植え付けることである。
「こ、これは酷い…」
三文芝居を演じる桐谷青路を演じる。
言っててもパニックになりそうな状況だ。
「先生!ちょっと3人で保健室まで運びます!」
小橋は教師を煽るように教室を出た。
「大丈夫だから!1人でいい!」
“私”の方も状況と狙いがわかったようであえて抵抗する
「サボるのに丁度いいだろうが、陰キャブスが口答えしてんじゃねーよ」
小橋は“私”の口元を掴む。
「ひ…ひひゃい…」
「顎を細く見せてもブスはブスだな」
執拗なまでの攻撃、なんなら悪口の勢いは増していた。
「一応、形式的には保健室まで連れてくぞ」
橘は面倒くさそうに会話を区切る。
「それにしても青路、お前一体何を」
そして俺に話を振った。
“なるほど、大人しくついて来たのはそれが狙いか”
2人は同じことを察し、目配せをする。
「なぁに、ただ罰告、つまりは嘘だったことを責めてきたから言ってやっただけさ、外見も中身もブスなお前が告られるはずないだろって」
言っていて涙は出なかった。何せ事実、いや、本音だったからだ。なのに、なぜか目の前の“私”は泣いていた。
“いやいや、なんで?なんでお前が…あぁ、演技か、いやそれにしては上手すぎやしないか?”
「あぁもう!分かったらこれ以上関わるな、いいなっ!」
小橋は居づらくなったのか、早く切り上げたそうだった。
しかしこのままでは復讐の理由はできても、復讐の機会が皆無だ。
「そこまで言ってやるなよ、元はと言えば俺らのノリのせいだ。今度何か奢ってやるよ」
橘…全てにおいて完璧すぎる…

to be continued…

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君の隙間

最高には程遠くて
最低にも程遠くて
幸せには程遠くて 
不幸せにも程遠い
一体ここは何処ですか

好かれたから好き返してやった
嫌われたから嫌い返してやった
それだけのハナシで
始まったものが終わっただけだよ

『「なんでもない」って言って泣くのは
溢れ出る「ナニか」が言葉を追い越したって
ことだよね??』
そんな歌が好きな君はとっくの昔に
僕を追い越してたんだよね???

君の隙間から 君の隙間から見えたのは
情けなく笑ってる僕だったよ
僕の隙間から 僕の隙間から見えたのは
君ばかりな心の内だったよ

吐いて吐いて吐いた
吐いて吐いて吐いた
履いて穿いて吐いた
履いて穿いて吐く
ため息ならとっくに窒息死

あん時嫌々だったのは
あん時キラキラしてたのは
あん時白々しかったのは
君も同じだろ

運命の人なんだ それならいいでしょう
運命の人なんだ それならいいでしょう
運命の人なんだ
運命の人なんだ それなら
どれほどよかったでしょう

君の隙間から 君の隙間から見えたのは
隙間を塞ごうと必死な君だったよ
僕の隙間から 僕の隙間から見えたのは
君を離すまいと必死な僕だったよ

恋したんですスキマだらけの女の子に
恋してたんですキスマだらけの貴方に
恋していたみたいですスキマだらけの僕は

あん時 あん時 隙間を閉じていたら
どれほどよかったでしょう 

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復讐代行〜第9話 始動〜

屋上に取り残された俺、もとい私は
その場に座り込み、数秒考えた。
“さてと…目立つって言ってもどうするか…”
あれこれと案は出て来るがどれも『いじめ』を連想するものばかりで想像するだけで吐き気がしてしまった。
「ひとまず、髪でも振り乱して遅れて行けば御の字だろ」
そう言ってゆっくりと腰を上げ歩き出した。
その頃教室では
「おい、青路、どこ行ってたんだよ」
「悪いな、少し朝から体調が悪くて屋上で休んでた」
屋上から来たことを見られていても大丈夫な嘘をつく
「あれ?屋上ってことは青路、あの陰キャにも会ったのか」
「え?あぁ闇子ちゃんか、うん、会ったよ」
隠せと言われたがここでわざとらしい嘘をつく方が疑われる気がして普通に答えた。
「朝のことといい、青路、あの時何があったんだ?」
「んー、秘密かな」
今度はわざとらしく誤魔化した。
たとえどんなに小さなことであってもあの場でのことを知られる訳にはいかなかった。
「かなって…お前そんなキャラじゃないだろ」
「可愛く誤魔化したって無駄だからな!」
そう言いながらも2人とも笑っていた。
「ほら、授業始めるぞ」
教師が入ってくる。当然闇子はまだ教室にはいない。
「あれ?青路、あの陰キャとあってたんだろ?まだ来てなくね?」
「青路、まさかお前…」
2人は予想以上にあっさりと
『桐谷青路が喪黒闇子に何かをした』
というイメージを浮かべてくれた。
しかも幸いなのは私がまだ何もしていないことだ。
「そんなに酷くはしなかったつもりなんだけどなぁ」
ここでもわざとらしくそのイメージに乗ってやる。
しかし今回はみんな信じるだろう。
これでいい、計画は怖いほどスムーズだ。

to be continued…

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ある人の帰路

踏切に足を止められていると、ふと、目の前の少女に惹き付けられた。手提げの通学バックをリュックのように背負い、ヘッドフォンをした、ストレートボブの女子高生である。ただそれだけなのに、なぜこんなにも惹き付けられるのか。踏切が上がり、少女は歩き出した。スマホを操作し、彼女のイメージに合った曲をかける。もう少し彼女を見ていたい。少し遠回りして帰ることにする。ヘッドフォンをしているからであろうか。いや、そうじゃない。彼女を構成する、すべてが惹き付けるのだ。少女が一瞬振り返り、顔が見えそうになる。いいや、君は、振り返らなくていいんだ。その後ろ姿から想像するのが楽しいのだから。今度は、にわかに少女が足を止める。バス停だった。完璧だ。ここに、1枚の絵画が誕生した。手提げの通学バックをリュックのように背負い、ヘッドフォンをした、ストレートボブの女子高生が、バス停でバスを待つ。なんと美しいんだ。感嘆のため息がもれる。しかし残念なことに、ここで彼女とはお別れだ。怪しまれぬよう彼女を横目に見ながら通り過ぎる。とてもいい時間を過ごさせてもらった。礼を言うよ。
いつの間にか、彼女をイメージしてかけた曲は終わっていた。

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