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偽人小歌 Ⅲ

「…ですってよ」
通信機の向こうから聞こえるアカネの声を聞いて、レンガ造りの建物の屋根上に座り込むヘッドドレスを身に付けた少女が、隣に座るギリギリ結べる長さの髪を結わいたメガネの少年に目を向ける。
「トウカは見つかったけど、やっぱり襲われちゃったみたい」
今はアイと逃走中ですって、とヘッドドレスを付けた少女は笑う。
「いいわねぇトウカと2人っきりなんて」
「そんなこと言ってる場合ですか」
トウカさんが襲撃されたんですよ、とメガネの少年は立ち上がる。
「よくあることとは言え、緊急事態であることには変わりありません」
僕たちも行きましょう、とメガネの少年はヘッドドレスを付けた少女に目を向ける。
「…もう、“ミドリ”ったら真面目ねぇ」
ヘッドドレスを付けた少女はそう言って微笑む。
「いつも“シオン”がふわふわしているからですよ」
“ミドリ”は“シオン”に冷ややかな目を向けると街中を見下ろす。
そこには黒服に覆面姿のいかにも怪しげな人物が走っていた。
「あら、あの人かしら」
トウカを襲ったのは、とシオンは指さす。
「銃器を持ってますし、そうでしょうね」
さっさと始末しなければ、とミドリは腰に帯びたレイピアに手をかける。
「いつも通り、相手が死なない程度にするのよ」
シオンがそう言うと、分かってますとミドリは言って屋根の上から飛び降りた。

レンガ造りの街の片隅にて。
黒服に覆面姿の人物たちが、銃器片手に走っている。
「マズいぞ」
「奴らに見つかった!」
そう口々に呟きながら覆面を投げ捨てた所で、道の角から眼帯姿の少年が現れた。
「!」
黒服の人物たちは驚いて立ち止まる。
「なんだおま…」
黒服の人物たちの内の1人がそう言いかけた時、背後から銃声が聞こえた。
黒服の人物たちが振り向く間もなく、その内の1人がゴム弾で撃たれて倒れる。
「⁈」
仲間たちが倒れた者に気を取られている隙に、眼帯の少年は腰に帯びた長剣を手に持つと無言で黒服の人物たちに向かって走り出した。
「なっ!」
黒服の人物たちは銃器を構えようとしたが、その暇もなく少年に鞘に納まったままの剣で急所を突かれる。

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偽人小歌 Ⅱ

「トウカはおれたちの“恩人”だから…」
アカネはそう言いかけて、不意に言葉を止めた。
「?」
どうしたのアカネとトウカが首を傾げた所で、アカネは突然こう叫んだ。
「伏せろ‼︎」
その言葉と共に、辺りに銃声が何発も鳴り響いた。
「!」
トウカが驚くよりも早くアイはトウカを伏せさせ、アカネもその場に伏せる。
「…」
銃弾の雨が止んだ所で、アカネは建物の屋根を見やりながら立ち上がる。
そこには覆面姿のスナイパーたちがいた。
「出やがったか…」
アカネはそう呟いて、2人共、大丈夫か?とトウカとアイの方を見る。
「大丈夫よ」
「平気です」
立ち上がる2人を見ながらアカネはなら良かったと声をかける。
「とりあえず、アイはトウカを連れて安全な所へ逃げてくれ」
アイツらはおれらがなんとかする、とアカネはアイの目を見る。
「了解です」
アカネさんも気を付けてくださいね、とアイは言うと、行きましょうとトウカを連れてその場から立ち去った。
アカネは2人が立ち去る様子を見送ってから、建物の屋根を見上げる。
さっきトウカを狙ってきたスナイパーたちはもうすでにその場から去っていた。
「…聞こえるか、みんな」
アカネは耳の通信機に手を当てながら言う。
「さっき襲撃されたんだが、犯人どもに逃げられちった」
多分奴らはまたトウカを狙ってくる、とアカネは付け足す。
「だからおれたちは奴らの作戦を阻止する!」
絶対にトウカを守り切れ!とアカネは語気を強めた。
「了解‼︎」
通信機の向こうから、威勢のいい声が聞こえた。
「…頼んだぞ」
アカネはポツリと呟くと、その場から走り出した。

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偽人小歌 Ⅰ

昔々、人間たちはその科学力で栄華を極めました。
その技術の果てに人間たちは“人造人間”を作り出し、人間の代わりに戦争をさせるようになったのです。
際限なく各地で生産される“人造人間”によって戦争は激化し、やがてどこの国も疲弊していきました。
「そうして科学力を失った人間たちが、戦争をやめたのが10年前」
わたしが幼かった頃のことよ、とレンガ造りの建物が並ぶ路地裏の片隅で、座り込む長髪の少女は微笑む。
「じゃあ、人造人間たちはどうなったの?」
戦争は終わったんでしょ?と少女の周りに集まる子どもたちが口々に尋ねる。
「それは…」
少女が重々しく口を開こうとすると、トウカさんと少女の名を呼ぶ声が聞こえた。
少女が顔を上げると、短髪にメガネをかけて太刀を身に付けた少女が立っていた。
「探しましたよ」
行きましょう、アカネさんが心配してますよとメガネの少女は”トウカ“に言う。
「分かったわ、アイ」
トウカはそう答えると立ち上がり、じゃあ続きはまた今度と子どもたちに言って、”アイ“と共にその場を後にした。

「もう、急にいなくなるからびっくりしましたよ」
”みんな“はいつものことだって言ってましたけど、私は相当焦りましたからねとアイは心配そうに言う。
「まぁいいじゃないの」
わたしは出かける先々で色んな人と話すのが趣味だから、とトウカは笑う。
「それに、”命を狙われる“のには慣れてるから!」
「そのジョーク全然面白くないですよ」
トウカの言葉に対し、アイは真顔で返す。
「あなたに死なれちゃ私たちが困るんですよ」
私たちにとって、あなたは希望なのだからとアイは呟く。
「そうかしら?」
わたしはただ自分がなすべきことをしているだけよ、とトウカがアイの方を見た時、前方から声が飛んできた。
「おーいトウカー」
見ると右目に眼帯を付けてキャップ帽を被り、長剣を持った少年が、2人に手を振っていた。
「どこ行ってたんだよ」
心配したぞ、と少年は2人に駆け寄る。
「あら“アカネ”」
探してくれたのね、とトウカが言うと、“アカネ”は当ったり前だろと笑う。

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第1回SOLポエム掲示板夏の企画乱立祭 Introduction その②

その①が無事掲示板に反映されることを祈って、その②です。
レギュレーションの続き、企画発案者編。
2,どんな簡単なものでも壮大なものでも愉快なものでも構わないので、何か企画を考えてタグに『夏の企画乱立祭』または『夏キラ』と入れて「こんな企画用意しました!」という内容の投稿をしてください。自分や他の人が以前に出した企画のアイディアを流用したり応用したりしても良いけど、他人の過去企画を使う場合礼儀と覚悟は重要です。
3,企画投稿の際は、その企画に参加したことを示すためのタグを設定してください。普段のよくある企画と同じです。
4,企画投稿の締め切りは8月31日まで。大学生なんかは9月まで夏休みが続く人も居ると思いますが、9月からは企画参加組で楽しんでください。
5,企画をつくったら、できるだけ立て逃げせずに自分でも企画に参加してください。できるだけで良いので。

意外とスペースが残っているので一般参加者編も。
6,「お、この企画良いなー」という企画があったら参加してみてください。
7,複数の企画に同時に引っかかるような作品を作って、複数企画に同時参加しても良いです。参加した企画の分のタグは全部付けましょう。4つ以上の企画に同時参加するような猛者は頑張って工夫してみてください。
8,一つ注意。企画参加投稿に『夏の企画乱立祭』『夏キラ』のタグをつけることは推奨しません。単純にタグの上限が3つしか無いからです。タグで遊びたい人も居ると思うので。

最後に一つだけ。
9,以上のレギュレーションは全て努力義務です。しなかった、できなかったことで何かが起きるということは全くありません。夏キラと無関係の企画が立っていても面白いので無問題です。掲示板を盛り上げることをこそ最大目標として各人楽しんでください。

以上の9点を目安に、この夏を面白愉快に楽しみましょうぜ。
本格的な夏休み突入まではまだ間があるんじゃないかと思うので、質問やら改善案やらがあったらレスください。反映します。

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野良輝士市街奪還戦 その②

「……まあ、真理ちゃんがそう言うなら、俺らからは何も言うこと無えよ」
「あ、宗司お前、『ら』って言ったな! 俺はまだ賛成してねえぞ!」
「じゃあ多数決で負けね」
初音も真理奈の意見に従うようで、灯もすぐ押し黙り、鉄線銃を強く握りしめた。
「……じゃあ行くぞ、宗司、かどみー。遅れんなよ、落ちて死ぬぜ」
「おう」
「了解」
3人は同時に駆け出し、屋上の落下防止柵に跳び乗り、勢いのまま空中に飛びだした。
「っしゃ行くぞコラァッ!」
灯が掛け声と同時に鉄線銃を発射し、約30m先のビルの屋上にフックを固定する。そのワイヤーを掴んで引き寄せると、勢いで灯とその肩に掴まったあとの二人の身体はそのビルに向けて飛んでいき、3人は地上を蠢くカゲと関わることなくその距離を無事に移動した。
「よっしゃ、もう1発頼むぜ」
宗司に言われ、灯はワイヤーを銃の中に巻き取りながら答えた。
「ああ分かってるよ。今ワイヤー回収してるから待ってろ」
「はいはい」
先にこの建物の屋上まで投げておいた戦槌型P.A.を拾い上げながら、宗司もそれに応じた。
「……あ、そういえば」
思い立ち、初音はポケットから携帯電話を取り出して通話アプリを起動した。
「もしもし真理奈?」
『はいはいこちら真理奈。そっち見えてるよー』
「そっち大丈夫?」
『そこから見える?』
初音が元来た建物の方を見ると、猟銃を杖に、右手でスコープを持ち、肩と耳で携帯電話を挟み、片脚で屋上への入り口の扉を押さえている真理奈の姿が小さく見えた。
「大丈夫じゃなさそうなんだけど⁉」
『まあそろそろ限界かなー。そういうわけで、1度切るからまたかけ直して?』
「え、あ、うん……」
「おいかどみー、次行くぞー!」
初音が灯の言葉に振り向くのとほぼ同時に、真理奈の側から通話が切られた。

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野良輝士市街奪還戦 その①

「沈んだねぇ……」
カゲの奔流に沈み、フォトンウォールで急遽封鎖された町の、カゲに浸蝕されきらなかったビルの屋上で猟銃型のP.A.のスコープから目を離し、その少女、下野真理奈は呟いた。
「沈んだなぁ……一瞬だった」
戦槌型のP.A.を杖代わりにして、真理奈とほぼ同年代の少年、和泉宗司も彼女の隣で賛同する。
「ヌシどこ?」
「あそこ、あの大きい交差点のところだよ、アカリちゃん」
「『ちゃん』って言うなこれでも男だぞ」
「良いじゃない男で『ちゃん』付けでも」
鉄線銃型P.A.を構えた少年、月舘灯に真理奈が受け答える。
「あそこ、あのビル、中学校の屋上、青い家の屋根。この順番で結構近付けるかな」
真理奈がスコープを銃から取り外しながら言い、灯も鉄線銃の狙いを定める。
「宗司、あの距離届くか?」
「ん、……おう、余裕だな」
「助かる。お前の武器重いからな、先に投げとけ。……よっしゃ、行くぞ」
「おう了解。かどみー、出番だぜー」
宗司に呼ばれ、屋内から彼より少し年上に見える少女が出てきた。
「結構上ってきてたよ。そろそろキツイかも」
「了解、こっちで対処するからヌシは任せたよ」
真理奈の言葉に、後の3人は信じられないといった顔を向ける。
「……え、何?」
「いやいや真理ちゃん、狙撃銃1丁でそれを言うのは無理あるぜ」
宗司の言葉に灯も頷く。
「その上こっちに指示まで飛ばすつもりなんだろ? 自分は1人しかいないって忘れてるところ無い? かどみーだけでも置いてった方が良いだろ」
「たしかその銃、最大装弾数5発とかじゃなかったっけ?」
『かどみー』と呼ばれた少女、門見初音も心配そうにしている。
「大丈夫! そっちは正直スコープでときどき覗いてれば良いし、そこの入り口結構狭いからちょっとずつしか出てこれないだろうし」
狙撃銃とスコープを左右それぞれの手に持ち、真理奈はウインクをしてみせた。

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伝搬・見物衆・難化

「よォお前、こんな往来ド真ん中で立ち止まってどうしたィ?」
「ん? 何だ友よ、俺に気付いてあっちに気付かねえとは、随分と視野が狭いな。葦でも覗いてんのかい?」
町をぶらついていると友人の姿を見つけたんで声をかけてみた。返事はいつも通り皮肉たっぷりだったが。
「んで、何を見ていた?」
「あれさね」
「どれさね」
「俺の指を見ろ」
「…………」
「馬鹿野郎、指を見てどうする。指差す先を見ろってんだよ」
「最初からそう言えよなー」
冗談を交えつつ奴の指す方を見てみると、異国の僧衣を纏った異国の少女が、たどたどしい日本語で何やら演説をしていた。
「何あの美少女」
「どーも異国の宗教について話しているらしいぜ」
「シュウキョウ……? 生憎と興味が無えな。俺が信じるのは祖霊だけだ」
「ばちぼこ浸かってんじゃねえか」
「で、どんな胡散臭い宗教だ? 見てくれだけなら若い男が黙って通り過ぎるわけが無いと思うんだが」
「ごめん俺異国の顔は好かねえ」
「俺もー。で、どんな宗教だって?」
「話聞いてやれよ」
「お前は聞いてたんだろ?」
「おう、割と朝早くからそこに立って、もう二刻は話し続けてるぜ。もう十回は同じ話してる」
「それで野次馬がお前1人か」
「うん」
「そっかァ……。で、どんな宗教だって?」
「だから話聞いてやれって」
「発音が聞きにくいんだよ」
「そんならしゃあねえや」
2人して笑っていると、俺の博打仲間が声をかけてきた。
「ようお前ら、何を笑ってんだ?」
「おー、お前俺達には気付いてあれには気付かねえのか」
友人にやられたことを、そっくりそのまま繰り返す。
「『あれ』? あれってどれだ」
「俺の指を見ろ」
「…………?」
「指差す先を見ろって話だ馬鹿野郎」

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うちの七不思議:完全に機能する音楽室の防音壁

とある学校に勤める用務員氏の話。
その学校の音楽室は学校裏手の駐車場に面しており、そこを掃除している時に生徒たちの音楽の授業と時間が重なると、子ども達の元気な歌声や楽器の演奏の音が聞こえてきて、用務員氏はその場所の清掃作業が特に気に入っていたという。
ある日の事、その日も駐車場の清掃作業に従事していた用務員氏。今日は静かだ、ということは今日この時間は音楽の授業は無かったか、などと考えながら作業を進め、ふと顔を上げた時、自然と目に入った音楽室の窓を見て彼は驚いた。
音楽室の中には何人もの子どもの姿が見え、その動きから彼らが合唱の練習をしているということが見て取れたのだ。
よくよく思い出してみれば、確かに普段その曜日のその時間帯はどこかのクラスの音楽の授業があったはずだ。それなのに何も聞こえないということは、いつの間に防音壁の補強でもしたのだろうか。
そんなことを考え、これからは子ども達の歌声を聞きながらの作業もできなくなるのだろうかと寂しくなりながら、用務員氏は作業を終えた。
しかし翌日、彼が同じ場所で作業をしていると、音楽室からは別の子供たちの元気な歌声が。ならば昨日の無音は何だったのだろうか。
その後、用務員氏は同じ現象に数度遭遇したものの、ついにその原因は掴めなかったという。

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企画思いついたんで協力してください。

どうもナニガシです。そろそろ入学式やら新学期の季節ですね。私の身内も明日から学校だとはしゃいでおりました。
学校生活が始まるとは言いますが、学校といえばやっぱり怪談ですよね。
そういうわけで、今回は「学校の怪談・七不思議」をテーマにした企画を催します。架空の怪談や学校の七不思議を自作するなり、本当に自分の学校に伝わっているお話を持ってくるなり、実体験を素知らぬ顔で書き留めるなりして、作品を投稿してください。
作品の形式は自由。怪談のエピソードを淡々と並べるも良し、七不思議に巻き込まれた登場人物たち視点のホラー小説でも良し、気付いたらバトルアクションになっているも良し、怪異になぞらえた連続殺人事件が起きるミステリなんかもアリです。皆さんの創造力次第でいくらでもぶっ飛んだものを書いて大丈夫です。
参加しても良いよーって方は、タグの2つ目か3つ目に「うちの七不思議」と書いて作品を投稿してください。別に1つ目に書いても問題は無いですが。
期間は4月いっぱい。作品数の上限はもちろん無いので、思いついたら思いついただけ投稿していただければ幸いです。みんなで最強の七不思議作ろうぜってことで、皆さんの参加お待ちしております。

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てぶくろ異説・冬を越す雪下の2匹

「ただいま、カエル君」
この手袋の拠点の中に声をかけながら、我が相棒ネズミ君が拠点に帰ってきた。これ幸いとすっかり冷めきっていた寝床から這い出す。
「やァ、危うく凍え死ぬところだったんだ」
「馬鹿言え。せっかく僕が作った防寒着を着ておきながら、凍え死ぬってことは無いだろうさ」
ネズミ君は笑いながら、自慢の毛皮についた雪を払って拠点の外に蹴り捨てた。
たしかに彼の手先は器用だ。外で拾ってきたという何かの毛皮の欠片を、これまた外で拾ってきたという植物を解した繊維で縫い合わせたこの防寒着を着ていれば、ただ寝床で丸まっているよりは随分とマシな気分になる。しかし、我がカエルの身体はひんやりと湿っていて、防寒着の内側に溜め込む熱を生み出すには向いていないのだ。ネズミ君の体温は我が生命維持にきわめて重要なのである。
「ネズミ君、今回の収穫はどうだったい?」
「ああ、いくらか毛皮と植物片を拾ってきたよ。これから肉を削いで、もう少し頑丈な防寒着を作ろうかと思ってね。そうすれば、君も雪掘りに出てこられるだろう?」
「ああ、2匹がかりなら多少は危険も避けられような。我が足技が唸るぜ」
「ははは、期待しているぜ。それじゃあ、僕は防寒着づくりに取り掛かるよ」
ネズミ君はそう言って手袋の奥へ引っ込んでいった。手袋の四指の側は彼の休息と製作作業のための空間になっている。彼は毛皮を作業台の上に伸ばし、石の欠片のナイフを用いて毛皮を洗い始めた。
さて、彼がああして疲れた体に鞭打って働いてくれるわけだし、彼を労うために疲労回復の膏薬でも作り溜めておくとしようか。植物片を拾ってきたと言っていたし、我が観察眼を以てすれば有用な薬草の1つや2つは見つかるだろう。

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理外の理に触れる者:海殺し その③

あいつを腕で拾い上げて首の後ろに乗せ、翼を日陰にしてやる。
「わあ快適。最初からこうしてくれれば良かったのに」
「図々しいなお前。捨ててくぞこの野郎」
「女郎なんだよなぁー……あ、やめて日差しが痛い」
ちょっと翼を開いて懲らしめてやった。すぐに閉じたが。
「まあ大人しく方向をを教えてあげることにしよう。とりあえずそのまま12時方向へー」
「了解」
奴の指示に従って歩き出す。俺の異能『怪獣の指揮者』によって変化したこの身体は、皮膚が熱を遮断するおかげで、サイズの割に暑さに対して快適なんだ。
「……あ、マズい」
「ん、道を外れていたか」
「いや……私の方に問題が」
「どうした」
「この暑さは良くないね。体力がもう……。手、出して」
首の高さまで手を持っていくと、あいつがそこに手を重ねて、また離した。
「あとは……それ見て……」
手の中を見ると、透明な液体が針状に固まっている。
「何だこれ。水か?」
「私の汗」
「気持ち悪ッ」
「失礼だなぁ……。私の異能で、それは……コンパスの役目を果たす、から……」
「……おいどうした」
「体力温存のために、寝ます……」
「寝るなー、寝たら死ぬぞー」
雪山じゃあるまいし、くらいは言い返してくると思ったが、何も返事が無いあたりマジで寝たのか。どうやら相当参っていたらしい。

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理外の理に触れる者:海殺し その②

「あ」
道連れが短く声をあげ、足音が一つ減った。俺はまだ歩き続けてるってことは、あいつが立ち止まったのか。あいつのいた方を見ると、砂に足を取られて躓いたのか、うつ伏せに転んでいた。
「……何やってんだ」
「…………」
あいつは顔を砂にうずめたまま答えない。何かヤバい気配がする。
「……これは、良くないね」
喋った。生きてはいるらしい。
「喋り過ぎた。体力がもう無いや」
「無駄話してるからだろ」
「何も言わないでいると、精神的に良くない気がして……」
あいつは立ち上がろうと手を砂に付いてはいるが、全く身体が持ち上がる様子が無い。
「……私はもう駄目みたいだから、構わず先に行って……」
冗談を吐く余裕はあるようだな。
「馬鹿言え。お前の異能無しにこんな場所歩けってのか」
「でも私、20㎏入りのお米より重いよ?」
「それより軽い奴がいたらビビるわ」
異能を使い、自分の姿を変える。爬虫類と猛獣を混ぜたような、体長3m近い胴体。砂に沈みにくい、長い指を具えた脚が4本。4本指に長い爪、鱗の生えた腕が2本と、飛ぶのには使えない、ただの飾りの皮膜翼が1対。便宜的に、自分の中で『石竜』と呼んでいる姿だ。
「足になってやる。お前が鼻になれ」
「そこは目じゃ無いん……わぁっ」
あいつが顔を上げ、眼球の無いワニみたいな顔面に驚き、変な声をあげた。

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理外の理に触れる者:海殺し その①

「……暑いね」
偶然そこらで遭遇してから道連れになった異能者が呟く。多分俺に話しかけているんだろう。小さく頷いて応える。声に出して応じる余裕なんぞ残っていない。
その理由は何と言ってもこの環境だ。確かこの辺りは、人口10万人弱のそれなりの規模の町だったはずじゃないのか。なんだって建物一つ見えない砂漠と化していやがる。
「今2月だよ? 冬将軍はどこでサボってるのやら……日陰、無いかなぁ……」
見りゃ分かるだろうよ。地平線の向こうまで、砂でできた平面と丘しか無い。
「…………ああそっちじゃないそっちじゃない」
道連れが俺の腕を引いて、数度進路を変える。
「何すんだ」
「いやぁ、水源に向かうのは良い。それはあり。でも、離れる方向に行くのは良くないよ」
「…………?」
何を言っているのか分からん。
「あれ、言ってなかったっけ? 私の異能、『水の観測者』。水源までの距離と方角が分かる」
そういや会った時に何か言ってたような気もする。
「砂漠で遭難した時ぐらいしか役に立たないと思ってたけど、まさか日本で砂漠で遭難する機会に恵まれるとはねぇ……鳥取以外で」
「鳥取に砂漠は無い。ありゃ砂丘だ」
「あれ、そうだっけ」
「ちなみに日本一デカい砂丘は青森にある」
「何で知ってるの?」
「高校で地理取ってるから」
「へぇ」
畜生、無駄に喋ったせいで体力削れた。

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音が繋ぐ

「おはよう」
振り返ると君がいる。
おはよ、と返しつつスマホの画面を君に向ける。
「俺の好きなバンドじゃん!知ってるの?」
当たり前でしょ、すすめてきたのは君なんだから。
知ってるよ、と何もなかったように話すけど
つまりは、あの日の会話は忘れられている訳で。
少しだけ、ほんの少しだけ、寂しくなる。
「あぁ!ツアー情報出たんだよね!!!」
分かりやすく高揚する君を愛しく思う。
愛しい、なんて言うと好きな人みたいだけど
いやいや、彼のことは好きだけど、
なんか、そういうのじゃないんだよなあ。
「え、え、いつがいい?」
唐突な君の言葉にえっ、と言葉に詰まる。
一緒に行くの?と可愛げのない返しをする。
「え、行こうよ!」
君のそのありすぎる行動力が苦手という人もいると思うし、正直始めは僕もドン引きだったんだけど。
その行動力に、あの時の僕は救われたから。
溢れるワクワクを抑えるように
チケット、当たるといいけど
って口を尖らせてみた。
「神社通うわ!毎日!!!」
わけのわからない返しをしてきた君と
大好きなバンドのライブへ行って
それがきっかけで音楽にのめり込んで
僕ら2人がギターを持って、ステージに立つのは
もう少し先のお話。

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能力モノの設定を思いついたので誰か書いてください その②

・二つ名
異能者が自称したり他の異能者から呼ばれたりする異名。どこかの異能者が「何かかっこよくね?」みたいなノリで付けたところ、他のノリの良い異能者たちも便乗し始めた。現在では全異能者のうち、実に6割が二つ名を持っている。そのうち半分程度は他の異能者にも知れ渡っている。基本的に支配者レベルの異能者の二つ名には「王」「皇」「帝」「神」などの文字が使われることが多い。それより下の位階の能力者がそれらの文字を使った二つ名を名乗ると、よほど実力が無い限りは表で陰で思いっきり叩かれる。実際の支配者の人たちは王や神なのでそんな細かいこと気にしないでくれることも多い(たまに狭量な人も居る)。

能力詳細
・各位階は具体的に何ができる?
 観測者にできるのは良くてせいぜい能力対象と意思疎通ができるようになるところまでです。その結果、対象が意思と自ら動作する能力を持つ場合は、もしかしたら交渉して望む行動をしてもらえるかもしれません。
 干渉者にできることは簡単に言うと「動作の依頼、定義への干渉」です。飽くまでも「依頼」であり、絶対に言うことを聞いてくれるとは限りませんが、無生物や概念相手でも使える上、あまり大規模な動作でなければ基本的にはやってくれます。また、能力対象になるためには干渉者以上の位階が必要です。
 指揮者にできることは簡単に言うと「操作・使役」です。ある程度の強制力があります。支配者級の異能者に妨害されない限り、その指令は基本的に実行されます。干渉者以下にできることも大体できます。
 支配者は何でもありです。以上。
 たとえば「霊体」が対象だった場合、観測者はそれらを認識でき、おしゃべりも可能かもしれません。干渉者は彼らに触ることができ、もしかしたら軽く追い払ったり呼び寄せるくらいできるかもしれません。幽体離脱とかもできるかも。指揮者は彼らを使役できます。召喚したり祓うことも可能です。支配者は霊絡みでさえあれば何でもありです。

この世界観、設定で何か書いてみても良いよって方がいたら、書いてやってください。タグに「理外の理に触れる者」と書いていただければ幸いです。

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能力モノの設定を思いついたので誰か書いてください その①

異能設定
肉体年齢3歳以上の人間または人外存在に、大体2d6振って6ゾロが出るのと同じくらいの確率で何の前触れもなく唐突に発現する。人外存在の場合は若干確率が上がり、人間の倍くらいの確率で発現する。平均して学校の1クラスに1人か2人はいるくらいの確率。
能力名は以下の2要素によって説明される(「○○の●●者」みたいな感じで)。
・能力対象
異能で干渉する対象。1d100でファンブルするのと同じくらいの確率で同じものを対象とする異能者が現れることもある。
・位階
干渉の程度の強さ。4段階に分かれる。能力の強制力は上の位階ほど強く、能力同士が干渉した場合、より高い位階の能力が優先される。
能力の使用には代償が必要で、基本的には体力の消耗という形で処理される。稀にそれ以外の方法でどうにかしている能力者もいる。位階が上がるほど代償は大きくなるが、その分できることの幅も大きくなる。
また、能力を使い続けることで上の位階にランクアップすることもあり得なくは無いが、一つ位階を上げるためには普通にやったら大体数百年から数千年の年月が必要なので、人間には基本的に不可能。それこそ時間の異能者でも無ければ無理。ランクは以下の通り。
観測者:最も低い位階。対象を知覚認識する異能。所謂「霊感」「未来予知」「読心」などはこれに当たる。能力者全体での割合は2d6振って4以下が出る確率と同じくらい。
干渉者:2番目に低い位階。対象に触れ、その動作に干渉する。できることはあまり多くは無いが、能力使用による代償も少ない。能力者全体での割合は2d6振って5~7が出る確率と同じくらい。
指揮者:2番目に高い位階。ある程度の強制力と威力を以て能力対象を操作するもの。能力使用時、改変の規模に比例してより大きな代償が必要になる。能力者全体での割合は2d6振って8~11が出る確率と同じくらい。
支配者:最高位階にして能力の完成形。指揮者以下にできることは大体できる上、絶対的な強制力を持っている。威光による命令であるため、代償も存在しない。能力者全体での割合は、2d6振って6ゾロが出る確率と同じくらい。