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ただの魔女 その⑨

鳩尾への攻撃で呼吸を潰されたサツキは、抵抗できないまま押し倒されているうち、自分の首にかけられた“魔女”の手の力が緩んでいることに気付いた。
顔に垂れてくる涙と涎の混合液を左手で拭っていると、完全に脱力した“魔女”の身体が、サツキ自身に重なるように崩れ落ちた。咄嗟にその背中に手を置くと、掌にはべったりと彼女から流れ出した血が付着する。
(『ダメージを共有する魔法』…………こんな痩せた身体で、何度も私が殴った後で、私よりずっと辛かっただろうに……)
「あ、そうだ。こんなことしてる場合じゃない!」
サツキは“魔女”を抱え、舌打ちの音で『反響定位』を開始した。
(現在地と、方向……良し。あと少し、頑張れ私)
短距離転移を繰り返し、サツキは彼女が通う中学校の屋上に倒れ込むように到着した。
(マズい、流石に出血し過ぎた……ちょっと、もう動けないかも……)
「…………ヤヨイ!」
最後の力を振り絞り、サツキが呼びかけると、倒れる2人の傍に一人の少女が近付いてきた。
「はいはいお姉ちゃ……うっわ何その傷!? あとそっちの子誰⁉」
「えっと……」
(そういえば、この子の名前は聞いてなかったな……起きたら教えてもらおう)
「えっと、私の友達。この子のこと、治してくれる?」
「……分かったよ。あとですぐお姉ちゃんも治すからね?」
ヤヨイと呼ばれた少女は素早く変身し、片手に握ったライトメイスの鎚頭で、“魔女”の頭を軽く小突いた。
「ほぃ治療完了。お姉ちゃんも治すから……うっわなんで両目潰れてるの怖っわぁ……」

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魔法をあなたに その①

オイラin魔界。
今日は随分久しく会わなかった奴の姿があった。コイツぁ珍しい。せっかくだから絡んでやろう。
『ヨォー、テメェ珍しいじゃねェか。最近ずゥーっと出ずっぱりでよォ。何だァ? 里帰りかァ?』
『ム? おや、旧友。帰って早々知った顔に出会えるとは嬉しいねェ。……まァ、大した用事は無いヨ。たしかに里帰りと言って良いかもしれない』
『ウカカ、そーかィ。ところでテメエ、最近の調子はどうだァね』
『頗る良いヨ』
『バァカ言ってンじゃねェ。“回収状況”だよ』
『あァ……』
オイラ達は人間のガキ共とある種の共生関係にある。オイラ達はアイツらに超自然的パワー、所謂“魔法”をくれてやる。魔法はアイツらが自分たちの世界を守ったり、アイツら自身の人生をちょろっと彩るのに使われる。代わりに運悪くアイツらが若くして……そうだな、アイツらで言う“成人年齢”って頃より先に死んじまったら、その“魂”はコッチで回収してオイラ達自身のエネルギーとして活用させてもらう。“戦うための力”を与えてるんだからそりゃ死にやすいだろッテ? 双方合意の上だしセーフセーフ。化け物だらけの世の中だからしゃーないネ。
『先日、7番目に“魔法少女”にした子が無事に天命を全うしてくれてね。嬉しいことだ』
『ナァニ言ってダ、もう70年は早く逝ってもらわにゃ意味無ェだろーが』
『君は相変わらず口が悪いねェ……君の方こそどうなんだイ?』
『ッ…………お、オイラのことァどうでも良いだろうヨィ! 「オメガネにカナウ」良い魂の持ち主が少ねェンだよ今の時代はァ!』
『自白していくねェ……』
『ウッセバーカ! んじゃ、オイラぁもう出るからナ! ジャーナこの……あン? お前今、何て呼ばれてる? それで呼んでやるヨ』
『……そうさねェ、今はこの見た目から「ヌイグルミ」と呼んでくれる子が多いねェ』
『ホムホム了解、ジャーナおヌイ』

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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 21.ティアマト ⑨

「…やっぱり、あの子変な異能力の気配がする」
わたしが駄菓子を買って店の外へ出た所で、雪葉はそんな事をネロ達と話していた。
「まぁ確かに、あの女からはうっすらと異能力の気配がするけど…」
別に気にする程でもなくない?とネロは言いながら、買いたてのココアシガレットの箱を開ける。
「そうなんだけどさ」
気になるじゃん?と雪葉は頭をかく。
「もしかしたらヴァンピレスと関係あるかもしれないし」
雪葉がそう笑うとネロは少し顔をしかめる。
「…さすがに寿々谷の外から来てるみたいだからそんな事ないと思うんだけど」
ネロの言葉に、彼女の隣に立つ耀平はだなとうなずく。
「あのヴァンピレスが寿々谷の外で活動している話なんて聞いた事ないし」
てか何でも奴と結びつけんなよ、と耀平は呟く。
雪葉はごめんごめんと苦笑した。
…とここであま音さんがわたし達の元へやって来た。
色々と駄菓子を買ったのか、その右手には中身の入ったビニール袋がさがっている。
「皆、何の話してるの?」
何か寿々谷がどうとかって聞こえたけど、とあま音さんは尋ねる。
わたし達は一瞬どきりとしたが、すぐに機転を利かせた穂積がこう言いだした。

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ただの魔女 その⑦

ようやく気付けた……けど、こんなこと普通あり得る?
振り下ろされた槍の穂先が、身を捩った私の肩を掠める。
「っ……! 人間でも修行すればできるようになるとは聞いたことあるけどさぁ……!」
暗闇を飛ぶコウモリや海中を行くイルカをはじめとした、種々の動物に確認される生態。何らかの音を発し、それが周囲の物体に反射して戻ってくる時間差と角度から、目に見えない世界を、音を使って『視る』技術。
「”反響定位”……!」
また、短槍がコンクリートを叩く。片腕しか使えない上に、既に毒気が回り切っているはずなのに、彼女の攻撃は回数を重ねるごとに鋭さと精度を増している。これじゃまるっきり、向こうの方が化け物じゃないか。
薙ぎ払いを咄嗟に片腕で受け止める。みしり、と骨が軋む感覚。直後、全身を衝撃が駆け、弾き飛ばされた。
「っ……っあ、はぁっ……はぁっ…………! くそ……! 私、なんだよ……! 殺すのは……! 私の方、だってのに……!」
頬の皮膚が削れて熱い。槍を受けた左腕も動かない。もしかして折れた?
「っ……でも、これで……『お揃い』だ…………!」
今、私と彼女は鏡合わせに同じ腕を潰している。両眼を潰すのは気が早かったかな……まあ良いや。
「一つ、呪ってみようか」
また、彼女が短槍で足元を打つ。転移する気か。
「させるかっ!」
ダガーを投げる。この風切り音は聞こえてるはずだ。そして、この状況。『前例』はただの1度きり。使うかどうかは彼女次第。それでも、信じてる。彼女が本気で、私と渡り合おうとしてくれることを。
一瞬の浮遊感と共に、視界が変化する。来た、『位置を入れ替える魔法』!
来たる衝撃に備え、身体を硬直させる。それと同時に、背中の一点にダガーが突き刺さった。

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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 21.ティアマト ⑧

不思議な少女と再会してから暫く。
なんだかんだで少女と共に行動することになったわたし達は、いつもの駄菓子屋の前にいた。
「ここが駄菓子屋かー」
ここに来る途中で鯨井 あま音(くじらい あまね)と名乗った彼女は、駄菓子屋の店先を物珍しそうに眺めた。
そんな彼女を尻目にネロ達はいつものように店内に入っていく。
わたしもあま音さんも彼らに続いて中に入った。
「なんか、絵に描いたようなお店だね~」
すごーい、とあま音さんは商品が所狭しと並んだ店内を見渡しながら呟く。
「そうですか?」
「うん、すごいよー」
わたしの言葉にあま音さんは笑顔でうなずいた。
「わたしも昔はここに来てたのかな~」
あま音さんは駄菓子が平置きされた台を覗き込む。
彼女の言葉に相変わらず違和感を抱きながら、わたしは彼女の横顔を眺めていた。
「…お前、駄菓子は買わないのか?」
ふとネロに尋ねられて、わたしはハッとしたように顔を上げる。
そう言えば駄菓子屋に来ていたのに何も選んでいなかった。
その事に気付いたわたしは、慌てて品物を選び始める。
そしてわた選んだ物をレジに持って行って会計を済ませた。
あま音さんもそれを見てわたしに続いてレジに向かった。