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結び目

また今日もどこかで
命が始まる
誰かを愛するために
生まれてきたの

また今日もどこかで
命が終わる
根強さを諦めずに
生きてきていた

泥まみれになりながらも
貴方は今日まで生きている
どこかで綺麗に拭わずに
抱えてきたの

確かにまだここにあるよ
見えないくらいの希望が
どうにか探し出してほしい。
暗闇のなかに堕ちていこうとも
いつも側にあるから
人には知り得ないほど
我々は弱いから
いつの時代にもある
何かのリレーを繋いでいる

また今日もどこかで
終わりが始まる
誰かに愛される
涙が聞こえる

また今日もどこかで
星が増える
誰かに愛されてた
涙が届いてる

大きなものを
体いっぱいに詰め込んで
貴方は今日までここにいる
どこかで全て置かないで
抱えてきたの

ちゃんとまだそこにあるよ
見えないくらい大きな愛が
どうか知っていてほしい。
空の上に昇っていこうとも
必ず側にあるから
人には知り得ないほど
我々は美しいから
守り続けてきた
尊いリレーを繋いでいる

確かにまだここにあるよ
貴方を埋め尽くす愛が
どうにか受け止めてほしい。
終わりが待ち受けていようとも
最後まで付いてるから
少しずつだけでいいよ
歩んできた時間は残ってる
いつの時代にもある
「生きててほしい」を繋いでいる

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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 24.ヴァンパイア ⑫

「なんかあった?」
ネロの急な質問に、わたしはえっ、と飛び跳ねた。
「な、何って…」
「いやー、いつもの場所にいなかったからどうしたのかなーって」
ちょっと気になっただけ、とネロは呟く。
わたしは今の悩みが見透かされた訳ではないと分かって内心安堵したが、いつものようにショッピングモールの屋上に行かなかったことを若干不審がられているようで不安になった。
今日、ヴァンピレスがわたしに会いに来るということで、ネロ達に迷惑はかけられないと彼らに会わないよういつもの待ち合わせ場所に行かなかったのだが…やっぱり会ってしまう時は会ってしまうらしい。
地方の街だから仕方がない…そう思いつつ、わたしは何でもないよと作り笑いで返した。
そう?とネロは不思議がったが、すぐに耀平が、そうだネロ、ゲーセン行こうぜ!と声をかける。
「この前ネロが取り損ねたぬいぐるみ、また取りに行こう」
「そうだね!」
耀平の提案に、ネロは明るく答える。
それを聞いて師郎は、じゃー行きますかねと後頭部に両手を回し、その隣で黎はうんうんとうなずいた。
それを見てネロは不意に、あ、アンタも行く?とわたしに尋ねる。
わたしは急な提案に驚きつつも、とっさにそうだねと答えてしまった。
「…じゃ、行くか」
ネロがそう言って歩き出すと、耀平、黎、師郎が彼女に続く。
わたしもそんな彼らに続いた。

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転生するのも案外良くないものだ p.6

 その上、記憶力の低下は著しい。
 必死で覚えた英単語や趣味だったギリシア語、難解な漢字熟語などは相当忘れてしまった。義務教育レベルの世界史も曖昧だ。

 中でも固有名詞に関しては深刻である。

 例えば、毎日の通勤に使った駅の名。愛読した書物の題名。よく飲みに行った同僚や高校時代からの旧友の名。気付いた頃には思い出せなくなっていた。今の、コマ=リャケット語を操る私にとっては馴染みなく規則性も意味もない文字列であるからだろうか。思い出せた名は全てリストアップした。あまり多くはなかった。家族、親しい親戚、何人かの友人。

 しかし日を追うごと名前と顔が一致しなくなった。

 出来事の記憶はあるが、それが誰との記憶だったのか、思い出せない。読者諸氏には、大事なことは何度も思い返すことを強くお勧めしておく。

 最近、私を産んだ異形の顔を見て、私は泣き崩れた。
 私の頭の中に、前世の母の顔がないことに気付いてしまったのだ。
 私の思い描く母親像は、全長二メートルの、硬い鱗に覆われた、鋭い爪の、大蜥蜴だった。私は名前のリストの一番上の『家族』の欄を確認した。不器用な文字の羅列は、私の全く知らないものだった。

 その瞬間、私は、私が人間である資格を完全に失ったように感じた。

 否、今まで醜く足掻いていただけで、実際はこの世界にコマ=リャケットとして生まれ落ちた時点で私は人間である資格を喪失していたのだ。今まで認めようとしなかっただけなのだ……。

 これからもっといろいろなことを忘れていくだろう。いつか日本人としての精神を失いコマ=リャケットの倫理に迎合せざるを得なくなる日が来るかもしれない。日本語もいつまで覚えていられるか分からない。今残っている記憶のどこまで忘れてしまうかも不明だ。

 だから私は、今のうちに、私が覚えているもの全てを書き残す。

 いずれここに記したことの一切を誰も解読できなくなったとしても、所詮私が、人間の振りをした化物であったとしても、私がかつて人間として、日本人として、生きていた証左となるなら。


×年×日 橋田勇作

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転生するのも案外良くないものだ p.5

 ただし不満がない訳ではない。

 例えば宗教学的に見れば、宗教は古代的なアニミズムがあるようだが、立派な神殿や聖典、確固たる教義は存在しない。

 御天道様にお祈りを捧げる、埋葬する、といった文化はある。しかしキリスト教をはじめとする前世に存在した宗教、また街の方の宗教のような、支配と結びついた宗教ではない。一神教と支配について好んで学んだ身としては非常に残念である。

 人文科学の点から見ても、我々の使用言語にはそもそも文字がない訳だから歴史研究や文学の発展もないに等しい。勿論口伝の神話や寓話は存在するが、それ以上の『文学』は私が見たところ存在しないようである。私は前世、本、殊に文学や古代史書、天文学書をよく好んで読んだのでその点落胆した。

 また、コマ=リャケットには文字がないと述べたが、文字を覚えられる者が殆どいないのである。
 
 集落の中で公用語を話せる者は一割程度、その上記述が可能な者は一人といった具合である。それにはやはり鱗と鋭い爪で武装した使い勝手の悪い指という身体的な特徴の原因もあるが、主な理由としては知能の低さにあるであろう。

 元は人間である私も今では立派にコマ=リャケットである。知能の低下に抗う術は持っていなかった。

 まず思考力が低下していることが分かった。計算は随分遅くなった。小学生の頃と比べてもあまりにも遅い。
 それに、高校や大学で当然に説明のできた理論が理解できなくなった。知能の低下に気が付いたときに一つ一つ確認したところ、虚数が理解できなくなっていたのだから驚きだ。

 補足しておくと、コマ=リャケットの脳機能は十年程度で成熟する。私が他の者よりも極端に知能が低い訳でもないようだ。

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転生するのも案外良くないものだ p.4

 一体街はどれほど文明が進んでいるのかと思い行商の者に話を聞くと、あちらでは動力のない巨大な馬車が轟音を上げながら走っていると言う。恐らくは蒸気機関車であろう。電気が通っているかどうかは測りかねる。今の私にとっては灯油ランプと電気の違いを彼らに説明することは困難なことだ。

 彼らの話を総合すると、どうやら街は、あるいは人類は産業革命時程度の文明を持っているようだ。

 街の亜人らは魔力を持ち魔術を操るので産業革命時程度だが、それらを持たぬ人間はより発展した科学技術を有している可能性が高い。コマ=リャケットの文明は未だ中世の農村共同体程度で止まっている訳だから、人類、殊に人間と比べれば雲泥万里というものである。

 しかし、文明未発達といえども、周囲の生活に合わせていれば大した苦労はない。

 コンクリート・ジャングルで時間に追われた生活をするのも、充実感に満たされていて嫌いではなかった。ただ、今の自然の中の共同体的な生活も悪くない。時間が悠然と流れて行き、それに身を任せる。
 人の形をしているとはいえども分類上は爬虫類。子供は過酷な生存競争の中で生き延びねばならぬものと覚悟していたがそれも杞憂に終わり、成人するまで親の扶養を受け、誠実に秩序を遵守していれば成人したのちも集落の中で暮らすことができる。類稀な平和を享受しているように思う。

 現在の私は幸福感で満ち満ちている。