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視える世界を超えて エピソード9:五行  その⑪

一頻り各自で盛り上がり、しばらくしてそれも落ち着いた。
「……さて、そろそろ話が飲み込めたところだろうし、いくつか決めごとをしたいと思うんだが、構わないね?」
種枚さんがそう切り出した。
「あまりトチ狂ったことを言わなければな」
平坂さんが答えた。
「別にお前らみたいなのに不利に働く提案はしないよ」
種枚さんが出した決め事は3つ。
一つ、新入りを引き入れた際には他の4人に報告すること。
一つ、可能な限り相互に連絡を取り、直接面会すること。この際5人全員の集合は努力目標で構わない。
一つ、身内の救援要請には、可能な限り応えること。
「な? 別に悪い話じゃなかったろ?」
「……まあ、そうだな」
平坂さんも納得している様子だった。
「はいはーい、メイさんからこれまた質問」
また白神さんが手を挙げた。
「何だよシラカミメイ」
「この5人で始めるってのは良いんだけど、リーダーとか代表みたいなのっているの?」
この問いには、種枚さんと平坂さん、犬神ちゃんの3人がぴくりと反応した。
「キノコちゃんがリーダーなんじゃないの? 発案者だし」
「馬鹿言え、こんな鬼子の下に就けっていうのか」
「私は正真正銘、ただの人間なんだけどねェ?」
「どこがだ」
また言い合いが始まった。

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子供は適切な保護者に安全に教育されなければならない 後編

「たしか、テメェは…………まだ13歳だったか」
『ミネ』と呼ばれた男は、呟きながら足下に転がしておいた品を少年に向けて蹴り飛ばす。それに釣られて、少年の視線が足元に転がって来た品物に移る。それらは自動拳銃用のボックス・マガジンだった。
「…………?」
「どうした? ソレ使うなら替えの弾は無きゃ意味無ェだろ。拾えよ」
少年は一瞬の逡巡の後、素早くしゃがみ込んで弾倉を拾い上げた。そして立ち上がった時、ミネは既に少年の眼前にまで音も無く迫っていた。
「ッ⁉」
拳銃を向けた腕を、ミネは片手で掴み、照準から己の身体を外す。続けて少年が振るおうとした空いた片手も片手で押さえ、最後の抵抗に放たれようとしていた蹴りも、両脚を片足で踏みつけるように抑え、抵抗の余地を完全に潰す。
「銃1丁で強くなった気でいたか? クソガキが……」
もがく少年を意に介すこともなくミネは上体を仰け反らせ、少年の額に勢い良く頭突きを直撃させた。
「がっ……!」
拘束を解くと同時に、気絶した少年がその場に崩れ落ちる。倒れた少年の頭を軽く一度蹴ってから、ミネは通信用インカムを起動した。
「…………もしもォし、こちら〈番人〉」
『……はぁい、こちら〈医務室長〉。何だいミネさん先生』
「ガキが脱走しようとしてたから止めた。回収しろ」
『了解。今日は誰だい?』
「ロタ。……ああ、あと一つ」
『何?』
「拳銃と弾倉パクってやがった。没収はするなよ」
『良いのかい? また逃げる時に使われるよ?』
「ガキの鉄砲ごときで止められるなら〈番人〉やってねェ」
通信を切り、ミネは再び塀の上によじ登り、監視を再開した。

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視える世界を超えて エピソード9:五行 その⑧

「まあコイツのことはどうでも良いんだよ。見張りも付けるし、何ならお前が直々に目ェ光らせておきゃ良いんだ、潜龍の」
種枚さんの言葉に、不満げながら潜龍さんは納得したようだった。
「さて、この寄合の本質は、『怪異に手の出せない人間の保護』だ。ちょっと偉そうかね?」
「「いや」」
青葉ちゃんと平坂さんが同時に答えた。
「『それ』は“潜龍”の存在意義でもある」
「岩戸家も左に同じく」
「マジかよお前ら。こいつァ都合が良いや」
けらけらと笑い、種枚さんは話を続けた。
「この寄合はこれからどんどんデカくなるぜ、予言する。私ら5人はその天辺に立つのさ」
「はい、1個質問」
青葉ちゃんが手を挙げた。
「何だい青葉ちゃん」
「この寄合を作る意味って何です? 怪異退治なら、正直既にいくつか組織がありますけど、これ以上増える必要ってあるんですかね?」
「ぁー…………」
種枚さんは軽く唸り声をあげ、しばらく目を泳がせ、再び口を開いた。
「まず、この寄合は飽くまで『個人の集まり』だ。勝手と融通が利く。次に、『はぐれ』の霊感持ち、あとはシラカミみてーな奴を好きなように囲える」
「へ? メイさんみたい、とは?」
白神さんが気の抜けた声をあげた。
「『こっち側』に引き込めそうな『そっち側』」
「はーん……なーるほどー」

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今ここから、この好機から。

才能は無くても仲間がいる。

機会ももらった。

武器もある。

経験はこれからいくらでも積める。

まずはここから始めようか。

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視える世界を超えて エピソード9:五行 その⑫

「じゃあお前がやれよ、潜龍の」
「何?」
「だから潜龍の、お前がリーダー。私は別に、この寄合さえ完成しちまえば誰が偉いとかはどうでも良いんだよ。だからお前が代表な。お前にとっても都合良いだろ? ちなみに、お前がやらなかった場合、一番不満が出ないであろう青葉ちゃんがやることになるぜ」
「…………分かった、引き受けよう。……で、何をすればいいんだ?」
「知らないよ。お前がテッペンなんだからお前が考えろ。もう私には責任無いからな」
「貴様…………」
結局、平坂さんと種枚さんで今後の方針を固めるということに決まり、残りのメンバーは自由解散ということになった。

市民センターからの帰り道、すっかり暗くなっていた道を白神さんと隣り合って歩く。
「いやぁ、わくわくするなー。ね、千葉さんや?」
「いや、自分は別に、どうとも……」
「んー? 千葉さんも〈五行会〉に入るんだよ?」
至極当然といった顔と口調で、白神さんが言ってきた。
「はい?」
「だってわたし、良さげな人を好きに身内にして良いんでしょ?」
「それは……どうなんだ……?」
「これで千葉さんはわたしのものだね」
「……それも、どうなんですかね……?」

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Side:Law in Black Market 保護者

MNE-015
性別:男  年齢:25歳  身長:177㎝
好きなもの:子供、銃器
嫌いなもの:悪人
“ブラックマーケット”の一角にある施設、通称『学校』に所属する男性。役職は〈番人〉。主な仕事はたまに現れる脱走しようとする子供を張り倒してでも止めて元の部屋に投げ返すこと。
子供という生き物をナチュラルに下に見ており、ただでさえ危険なブラックマーケットに自分すら超えられない者を放り出すわけにはいかないという思いから、脱走者を叩きのめす際にはできるだけ汚くて理不尽な戦法を意図して用いている。これすら超えられないようなら脱走なんて許せるわけが無ェ。
脱走者が出た日は子供を殴ったストレスで一日中機嫌が悪くなる。一度寝ると元に戻るが、そもそも素で目つきと言葉遣いがあまりよろしくない。不機嫌モードではそれらが4割増し程度に悪くなり、声を掛けられた時の反応が「あ?」から「あ゛ァ⁉」くらいになったりする。また、子供の呼び方が素で「クソガキ」だが、「クソガキ=子供=保護すべき対象」という等式が脳内で成立しているため、「クソガキ」扱いしている子のことは命に代えても守ってくれる。
脱走者以外に手を上げることは無い上にスタンスが一応「子供は守るもの」側なので、脱走経験0の子供からはそこまで怖がられてはいない。
ちなみに本名は色々あって捨てた。現在の名前は上層部が呼び方に困って取り敢えずでナンバリングしたもの。あとでちゃんとした名前つけようねって言ってたらタイミングを逃した。渾名は「ミネさん」。

※『学校』:ブラックマーケット区域内で大人の保護者が周囲にいない子供をその事情を問わず攫い、最低15歳、最高18歳までの期間を拠点敷地内に監禁し、様々な教育と養育を行ってから多少の現金と希望された武器類だけを握らせて解放するという謎の活動を行っている組織。少なくとも監禁されている子供達は外と違って絶対に生命の危機に晒されずに済むが、『学校』側の解放より早く抜け出そうとするとボコボコのボコにされて止められる。「ブラックマーケットの浮浪児を使って何か大規模な悪事を働こうとしているのではないか」みたいな噂も流れているが、真相は創設者にしか分からない。

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視える世界を超えて エピソード9:五行 その⑨

「お前のトコなんかそういうのは『ナシ』だろ? 潜龍の」
振られた平坂さんは無言で頷く。
「野生の才能ってのは意外といるモンだ。現に私もシラカミも、完全フリーだったろ? これを『こっち側』に引き入れて、戦力にできる。しかも、NGは無しだ。来るもの拒まずって感じで」
「えー? 私の時はあんなに殺意バリバリだったのに?」
白神さんが拗ねたように言う。
「お前のせいっつーかお陰でこっちも考えが変わったんだよシラカミメイ」
「むぅ、それならヨシ」
「偉ッそうに……で、私どこまで話したっけ」
「野生の霊感持ちを囲えるってとこまでッス、師匠」
種枚さんの後ろに立ちっぱなしになっていた鎌鼬くんが答えた。
「そうだった。良いか、これには利点が3つある。まずウチの戦力増強。次に、青葉ちゃんや潜龍のみてーな元からある組織に戦力が流せる。そしてもひとつが……潜龍の」
「何だ」
「お前みたいなのは、この寄合に助けられると思うぜ? なんせ、問題児が全員手の届く場所に集まるんだからよ」
「……なるほどな。悪い話でも無いか」
「だろォー? 誰ぞ反対する奴はいるかい?」
種枚さんのその言葉に乗る人はいなかった。全会一致で賛成ってことだろう。

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深夜の迷子 早朝

蝉の声がする。どうやらゆずは、畦道で倒れていたらしい。ゆっくり起き上がると目眩がした。
「…あれ」
日が暮れて…いや、それどころかもう早朝で太陽が覗きかけているようだが、ここ数時間の記憶がない。
「のど、かわいた…」
脱水症状で倒れたのかもしれない。それにしたって両親どちらもいないのは酷いと思う。ポケットを漁り、携帯を取り出す。
「んもー、娘を置いていくなんて…」
携帯を出したとき、同時に何かが飛び出る。
「ん…なにこれ」
それはお守りだった。手作りのようで、糸が解れている。中身を出すと、『導』とだけ書かれた紙が出てきた。
「んー…なんか、気味悪いけど…捨てるのもなんかな…」
ぼんやりと紙を眺めていると、携帯が震えた。
「…はぁい、もしもし…あ、お母さん!今?山の足元のとこ…え?それじゃ分かんない?田んぼの近くだよぉ」

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視える世界を超えて エピソード9:五行  その⑩

「クサビラさーん、はいはいしつもーん」
白神さんが手を挙げた。
「何だシラカミメイ」
「結成したのは良いけど、この集まりって何か名前とかあったりする?」
「よくぞ聞いてくれた。名前なら考えてあるぜ」
「あ、あるんだー」
「ああ。その名も〈五行会〉」
犬神ちゃんが拍手し、他の人たちも何となくといった感じでそれに続く。
「五行……陰陽五行説のか」
平坂さんが尋ねる。
「そうそれ。土行の犬神ちゃんだろ?」
言いながら、種枚さんは犬神ちゃんを指差す。そこから隣に、隣にと指差す相手を変えながら言葉を続ける。
「金行の青葉ちゃん、水行の潜龍の、火行の私に、木行のシラカミ」
「おい待て俺は名前だけか」
「雷って木行なんだ……」
納得していないのは平坂さんと白神さん。それと、
「え、嘘、俺はのけ者ッスか師匠⁉」
鎌鼬くん。
「あァ? お前を『上』に置いておけるわけ無エだろうが。私に殴られなくても正気を保てるようになってから文句言いやがれ。お前はシラカミの下に就け」
「師匠の下ですらなく⁉」
「お前にガチの妖怪の監視任せてやるってんだよ」
「あ、そーいう……」

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鉄路の魔女:Nameless Phantom キャラクター

・“埼玉馬車鉄道の幻影”
外見は鹿毛の馬の下半身から、長い銀髪が特徴的な人間の少女の上半身が生え、両腕と馬脚の脛より下が機械仕掛けに置換されている外見。固有武器は巨大な金棒。
かつて、現代より遥かに昔、構想だけで消え去った哀れな未成線の記憶から生まれた鉄路の魔女。
彼女を『覚えている』人間は皆無に等しく、当然のように幻影化したが、生い立ちが「廃線」ではないためか、不完全ながら自我を残している。調子が良い時は自分の元になった鉄道が走るはずだった場所をふらふらと歩き回っている。
幻影化しているせいで鉄路の魔女にしょっちゅう攻撃されるが年季の違いでこれまで無事に対応し続けられている。当然のことながら『車体の色』なんてものはあるわけ無いので名前も無い。
・ミドリ
宇都宮線の魔女。固有武器はメイス。
・アオイ
秩父鉄道の魔女。固有武器は馬上槍。

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観葉生物専門店

あら、いらっしゃいませ。なにかお探しで?
…ああ、雨宿りにいらしたのね。最近は天気がころころ変わって大変ですねぇ。風邪引くといけません、どうぞ。

ここですか?観葉生物の店ですよ。…え?観葉生物とはなにかって?あれですよ、ほら…ご覧くださいな。あの子は向日葵の茎に大きなひよこが咲くタイプなんです。まだ蕾なので卵状態ですが…。

…ご想像と違いましたか?いえ、なんだか微妙そうな表情をなさっていらっしゃったので…失礼いたしました。

あら、この子がお気に召しましたか?…ああ、別に気に入ったわけではないのですね。この子は文字通り金魚草ですよ。ええ、金魚が咲いているでしょう?…色に驚かれましたか。この金魚草はですね、見ている人の好きな色を映し出すのです。まあ光の当たり方によって、普通の金魚にはない色に輝きますから、驚かれるのも無理はありませんね。高価ですよ、この子。

そろそろ雨上がりそうですね。まだご覧になりますか?

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自覚的眩暈

ちょっとずつぞんざいになっていくあなたの態度を、''親しくなった''と勘違いして生きさせてください

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暴精造物茶会 Act 12

「結界、ってことはもしかして中に“学会”の秘密兵器が⁈」
噂は本当だったんだ!とクロミスは嬉しそうに飛び跳ねる。
「ちょ、ちょっとクロミス」
まさかドア開けるの⁇とタイサンボクが心配そうに言うと、え、まぁ…とクロミスは答える。
「こういう時は開けるのがお約束でしょ?」
「いやいやいや」
タイサンボクは慌てる。
「こういうお札みたいなのが貼ってある時って大体やばい時だから」
怪談本ではいつもそうでしょ?とタイサンボクは続ける。
「…確かにこういう時は開けない方がいいわ」
噂が本当なら警備用の人工精霊が出て来るはずだしと中紅も呟く。
クロミスはえーと口を尖らせる。
「開けたいんだけど〜」
そもそもクロミスたちは噂の人工精霊を探しに来たんだし、とクロミスは腰に両手を当てる。

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暴精造物茶会 Act 5

「…なんか、物々しい」
「そうね」
タイサンボクと中紅はそう言って頷く。
「大丈夫」
クロミスたちはそんなに弱くないもんとクロミスは言うと、階段を下り始める。
あとの3人もそれに続いた。
バリケード代わりの机を乗り越え階段をさらに下っていくと、4人は真っ暗な広いスペースに出た。
暗くて何も見えないが、クロミスが持参した懐中電灯を灯すと長い廊下が見えた。
「…なんだかこの校舎の1階や2階とあまり変わらない気がする」
「うん」
キヲンの言葉に対しタイサンボクが頷く。
「でも、扉が上の階のより重たそうな気がするなぁ…」
クロミスは懐中電灯で辺りを照らしながら歩いていく。
キヲンたち3人もその後を追う。
地下階はしんと静まり返っており、キヲンたち4人の人工精霊以外には人の気配も、精霊の気配も感じられなかった。
「…なんか、お化けが出てきそう」
不意にタイサンボクが呟いたので、お化け?とキヲンが首を傾げる。

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鉄路の魔女 〜Megalopolitan Witches. Act 6

一方その頃、ウグイスたちは路地で先程対峙した幻影と戦っていた。
「っ‼︎」
幻影の大きな口から伸びる長い舌を避けつつ、ウグイスはチャクラムを投げつける。チャクラムは幻影に向かって飛んでいったが、長い舌に弾かれる。
「バーミリオン、カナリア!」
ウグイスが声を上げると建物の陰からバーミリオンが槍を持って飛び出し、カナリアはマシンガンの銃口を向ける。カナリアが次々と銃弾を撃つ中バーミリオンは高く飛び上がって槍を幻影の身体に突き立てようとした。しかし長い舌がすぐにバーミリオンにぶち当たり、彼女は近くの建物の壁に衝突した。
「バーミリオン!」
カナリアは思わず立ち上がって彼女に駆け寄ろうとするが、幻影の舌がカナリアの方に伸びてくる。カナリアは思わず硬直するが、そこへ銀色のナイフが飛んできて幻影の舌に突き刺さった。
「${*+[‼︎」
幻影は短く悲鳴を上げて伸ばした舌を元に戻す。カナリアがナイフの飛んできた方を見やると、そこには地下の魔女たちとソラがそれぞれの武器を携えて立っていた。
「みんな!」
カナリアが声を上げると、赤髪の少女ことスカーレットがハーイと手を小さく振る。
「お困りのようね」
あたしたちが助けに来たわ、とスカーレットは笑う。
「私たちは助けを求められたから来ただけだからな」
別にやりたくてやってる訳じゃない、と銀髪の少女ことシルバーはそっぽを向く。その右手には先程幻影に突き刺さったナイフと同じものが握られていた。
「とにかく、ここからはあたしたちが片付けるから」
あなたたちは下がってなさい!とスカーレットは担いでいた赤い鎌を構えて走り出す。シルバー、スカイ、グリーンの3人もそれに続く。そしてソラは姉妹たちの元へ駆け寄った。
幻影も新手の敵に気付いてドスドスと音を立てて魔女たちに近付く。しかし先頭を走るスカーレットは高く飛び上がってそれを避ける。

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鉄路の魔女 「眠り」

てくてくとおばあさんの方へ歩いて行く。
すると、

「貴女、そこで何してるの⁉︎早く線路から出さなさい!」

おばあさんはそう叫び、小走りで駆け寄ってきた。
驚きのあまり一瞬フリーズした後、
くるり、と踵を返しもと来た方向へ駆け出す。

「ちょっと、貴女!」

振り返る事なく走る。
迂闊だった。
猛省しつつ、1番端の線路まで行き、更に線路沿いに西へ走った。

(もういいかな。)

踏切のあたりで、ようやく足を止めた。
遮断機に座り、懐中時計を出す。
そろそろ人が多くなる時刻だ。
どのみち、駅に居る訳には行かなかったのだ。
むしろ幸運だったかもしれないぞ、と言い聞かせ、列車を待つ事数十分。

(列車が来ない...?)

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暴精造物茶会 Act 11

「そう、怪談本でよくあるような…」
「そんなこと言わないの」
タイサンボクの言葉を中紅が咎める。
「そもそも、お化けなんている訳ないじゃない」
基本的に一般人がお化けや幽霊だと認識しているのは精霊の類よ、と中紅は腕を組む。
「だからいる訳…」
「え、ベニってこういうの苦手なの⁇」
「うっ」
キヲンの質問に中紅は驚いたように飛び上がる。
「べ、べべべべ別に、わたしは幽霊が怖い訳ないのよ!」
ただこういう不気味な場所が苦手ってだけで…と中紅はそっぽを向く。
「えー怖いんだ〜」
キヲンはそう言って笑い、中紅は恥ずかしそうにしていた。
…とここでクロミスがあ、と声を上げる。
後の3人がクロミスの方を見ると、クロミスがいかにも怪しげなお札が貼られた扉を懐中電灯で照らしていた。
「なにコレ」
キヲンが近付くと中紅がちょっと待ってとキヲンを止める。
キヲンは?と振り向く。
「あれ…結界の術式が書かれてる」
中に何かあるわね、と中紅が真剣な顔で言う。

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救われたように

私が困ったときに救ってくれたあなた

今度は私があなたに救われたように

あなたを救います

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アンビギュアス

貴方は凄い優しい。
アンビギュアスの歌にあるように。
『この地球を救いたいだけの無茶な思い、心の支えだったのはたったひとつの希望は君が隣にいてくれたこと』

貴方は私の隣にいてくれた。

有り難うございます(*^^*)

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鉄路の魔女 〜Megalopolitan Witches. Act 7

「スカイ、グリーン!」
空中で叫ぶスカーレットに呼応して、グリーンは緑色の太刀で幻影の口から伸びる舌に斬りかかる。幻影は情けない悲鳴を上げ、半身をのけぞらせるがそこへ跳躍したスカイが幻影の頭部に着地し、手に持つ空色の打刀を突き刺す。
幻影は暴れてスカイは地上に飛び降りる。そして地上ではシルバーが生成した銀色のナイフを次々と幻影に投げつけて幻影の体力を削っていく。幻影がわめく中、近くの建物の屋上からスカーレットが飛び降りる。
「さぁ、覚悟なさ…」
スカーレットはそう言いながら赤い鎌を構えて幻影に飛び込もうとするが、突然現れた少女に体当たりされて突き飛ばされる。
「⁈」
スカーレットはそのまま地面に転がる。周りの魔女たちは呆然とし、何が起きたのか分からないスカーレットは少しうめきながら上半身を持ち上げる。
幻影の目の前には、山吹色の和服を着たみかん色の髪の少女が和傘をさして立っていた。
「…あなたは」
姉、さん…?とスカーレットは呟く。
「貴女には“彼女”をやらせない」
和服姿の少女はそう言ってスカーレットに目を向ける。
「アンタは…!」
“オレンジ”‼︎と後方でその様子を見ていたシルバーは叫ぶ。
「お前、何のつもりだ!」
まさか…とシルバーは続けるが、オレンジは気にせず幻影の方を向く。
「まぁ、こんな姿になって」
痛かったでしょうとオレンジは幻影の頭部に手を伸ばす。幻影は小さくうめいた。
「よせ!」
シルバーはオレンジを止めようと駆け出すが、オレンジは目の前までシルバーが近付いた所で和傘を閉じて彼女に向けた。
「よしなさい」
オレンジはポツリと呟く。どうして⁈とシルバーは尋ねると、オレンジは悲しげに目を細めた。
「だって、“彼女”たちはかつてわたくしたちと同じ魔女だったのよ」
オレンジのその言葉に魔女たちは微妙な顔をする。

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どっちみち

生きてみろ。その先は生き地獄だぜ。

死んでみろ。その果は地獄逝きだぜ。

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森は命を産む

青々とした葉っぱは雨水に降れ輝き光を放つ

森は澄んだ空気をくれる

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暴精造物茶会 Act 9

「…ぷはっ」
大学の校舎の人気のない階段の踊り場で、キヲンは塞がれていた口を解放されてへたり込む。
「あうー、息が止まるかと思ったじゃーん」
ヒドいよーベニ〜とキヲンは紅色の髪のコドモこと中紅の方を振り向く。
「だってきーちゃんが探検のことを言おうとするからじゃない」
あの人たちを驚かすんでしょう?と中紅は腰に手を当てキヲンの顔を覗き込む。
頭巾を外したその頭には、狐のような耳が生えていた。
「そうだよ」
きーちゃんすぐに話そうとするんだもんと緑髪のコドモことタイサンボクがマウンテンパーカーのフードを外しながら言う。
タイサンボクの頭には、木々に茂るような葉が髪の毛のように生えていた。
「まぁまぁとにかく」
水色の髪のコドモことクロミスが手を叩いて3人の注目を集める。
薄手のパーカーのフードを外した頭には、魚のヒレのような耳が生えていた。
「さっさと探検を始めよう」
早くしないと遅くなっちゃうから、とクロミスは背後の地下へ続く階段を見やる。
そこから続く下の踊り場には“関係者以外立ち入り禁止”の張り紙が貼られた机がいくつかバリケードのように置いてあった。

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私のこと、

なんだと思ってるの?って聞けたらいいのに
なんとも思ってないって答えてくれたらいいのに

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鉄路の魔女 〜Megalopolitan Witches Act 3

「⁈」
少女たちは思わず身構えるが、そこへ赤い大鎌が飛んできて怪物の頭部に突き刺さる。怪物は悲鳴を上げて地上に落下した。
「今のって!」
水色の髪の少女がそう言った時、ごっきげんよ〜!と明るい少女の声が聞こえた。
パッと少女たちが振り向くと、華やかな長い赤髪の少女が彼女たちの方へスキップしながら近寄ってきていた。
「“地上の魔女”の皆さん」
危なかったわね、と赤髪の少女ことスカーレットは笑いかける。
「…“地上の魔女”って」
大勢いる私鉄の魔女たちと一緒にしないでくれる?とウグイス色の髪の少女は真顔で言う。
「そうねぇ」
アタシたちは由緒正しき“JRの魔女”、だもんねぇと丈の短いズボンを履いたオレンジ色の髪の背の高い少女はスカーレットに近付く。
「あなたたちだって、“地下の魔女”の一言でひとまとめにはされたくないでしょう?」
スカーレット、とオレンジ色の髪の少女は赤髪の少女の顔を覗き込む。
「あーら、“バーミリオン”」
相変わらずねぇと赤髪の少女ことスカーレットは笑顔を作る。
「はいそこケンカしないー」
2人が睨み合う中、スカーレットの後ろから手を叩く音が聞こえる。スカーレットたちが音のする方を見ると、空色の髪の少女が歩いてきていた。その後ろには銀髪の少女と緑髪の少女が続く。
「あらスカイ」
別にあたしたちはケンカなんてしてないわよ?とスカーレットは手で口元を隠す。
「…急に飛び出してったと思ったら、他の魔女の戦いに手を出してたのかよ」
銀髪の少女ことシルバーが呆れたように言うと、スカーレットは悪い?と首を傾げる。
「あたしは同族が見捨てられないだけよ」
誰かが困っていたら助けに行く、それくらい当然のこととスカーレットは胸に手を当てる。シルバーはなんだよとそっぽを向いた。
「地下の魔女たちはみんな仲がいいんだね」
ふと水色の髪の少女はそう呟く。
「わたしたちなんて人数が多いからゴタゴタが多くてさ」
羨まし…と水色の髪の少女が言いかけると、スカーレットは少しだけ顔を曇らせた。

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崩壊世界見聞録 3

野営の準備が整うと、
辺りは丁度夕焼け色に染まる頃だった。
薪探しに出て行ったエミィを待ちながら、
カナは写真を取り出した。
全体的に煤けて端が焦げ、色の褪せた写真。
そこには、どこかで見覚えのある幼女と夫婦らしき男女が写っていた。
男の方は割と綺麗に残っているが、女の方は、右側が焦げ、顔の辺りも煤けて見えなくなっている。
一般的に、ここに写っているのは、彼女の家族だと思うだろう。
しかし、この写真にはカナは写っていない。

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鉄路の魔女 〜Megalopolitan Witches. Act 5

「別にいいんじゃない」
ウグイスがバーミリオンの方を見ると、バーミリオンはふふと笑う。
「彼女だって、“大変な思い”をしているんだから」
バーミリオンがそう言うと、彼女の傍に立つ黄色い髪の少女もうんうんと頷く。
「バーミリオン、“カナリア”…」
ウグイスは少しため息をつくと、水色の髪の少女に目を向けた。
「仕方ない、行こう」
“ソラ”とウグイスは水色の髪の少女に言うと、彼女たちは既に歩き出している地下の魔女たちに続いた。

幻影探しが始まって暫く。魔女たちは2手に分かれて路地裏で先程の幻影を捜索していた。しかし魔女たちは気配で幻影を察知できるが、中々あの幻影は見つからなかった。
「見つからないね」
姉さま、とグリーンはスカイの服の裾を引く。
「そうだね」
そんなに遠くには行ってないはずなのにとスカイは辺りを見回す。
「ああ見えて意外とすばしっこいんじゃねーの?」
幻影なんてそんなもんだろとシルバーは上着のポケットに手を突っ込み、なぁ?とスカーレットの方を見る。スカーレットは電信柱の上で熱心に辺りを見回していた。
「アイツ、話聞いてないのか」
シルバーがそう呟くと、スカイが彼女はそんなもんだよと歩み寄る。
「スカーレットはあれでも…」
そうスカイが言いかけた所で、みんな〜!と彼女たちに近付く声が聞こえた。3人が振り向くと、水色の髪の少女…ソラが駆け寄ってきていた。
「さっき幻影見つけた!」
でもウグイスたちが戦ってるけどちょっと押されてる、とソラは続ける。
「だから加勢お願い!」
ソラが両手を合わせて懇願すると、スカイとグリーンは顔を見合わせ、シルバーは電信柱の方を見た。電信柱の上に立つスカーレットはシルバーの視線に気付いてトン、と地上に舞い降りるとこう言う。
「分かったわ」
今すぐ行くと言ってスカーレットは路地の奥の方へ走り出す。シルバーたちもそれに続いた。