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Flowering Dolly:魂震わす作り物の音 その①

「フィスタぁー! どこだー!」
私を呼ぶ声が、正確には『あいつが私を呼ぶときの名前』が聞こえる。
「………………」
寝ていたハンモックから身を起こし、あいつの姿を遠くに確認してから自分の身体を隠すようにぬいぐるみの山を崩し、だんまりを決め込む。
「フィスタぁー? おいフィスタ!」
声がだいぶ近付いてきた。多分もう何mも無い。
「やっぱりここにいたか……おいフィスタ、いるなら返事しろよな」
ぬいぐるみバリアが崩されて、光が差し込んできた。
「フィス……」
「だっかぁらあっ! そう呼ぶなっつってんでしょうがぁっ!」
不用心に覗き込んできたあいつの顎に蹴りを食らわせてやる。
「痛っ…………てえなぁフィスタてめえ!」
「私のことは『アリー』って呼べっつってんだろクソガキ!」
「てめえも外見はクソガキだろうが!」
いつものやり取りを済ませ、渋々ハンモックから抜け出す。
「それで? どうしたのさ」
「あぁ、ビーストが出たんだよ。“ドーリィ”の出番なんだろ?」
「そんなのお役所に任せとけば良いじゃん……」
「おま、せっかく“ドーリィ”の力があって、見ないふりするってのかよ」
「『力』っていってもねぇ……」
再びハンモックに仰向けに倒れ込み、掌を太陽に向ける。ちょうど私の方に向いた手の甲には、契約済みの紋様が…………。
「浮かんでれば、考えたんだけどねぇ……」

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魔法をあなたに その⑧

フヨフヨ移動で【フォーリーヴス】を先導する。爆心地はアイツの通う学校から徒歩15分ほどの大型ショッピングモール。建物の前に広がる駐車場で、体高5mほどのクマとトカゲとチョウチンアンコウをまぜこぜにしたような化け物が暴れている。
手近な自動車を片手で持ち上げ……逃げ惑う市民に向けて……いや特に目標は定まってねェな、テキトーに投擲。壁に衝突した車両が爆発し、金属片やガラス片が市民に降り注ぐ。オイラには痛覚とか無いから分からんが、多分痛そう。【フォーリーヴス】の方を見ると、ヤツもこの光景にショックを受けているようだ。
『ウカカ、最近怪物の出る頻度も増えてきてるからなァ……“魔法少女”の需要と供給はトントンだぜ』
「……? さっきも言ってた『それ』って……」
『ンー? アー……まァ……雑にいうと…………テメエら人間が言うところの……正義の味方?』
テキトーに答えたが、ヤツは聞いちゃいなかった。オイラの「ンー」の辺りでヤツは既に歩き出していた。
『…………オイオイ、マジかよ……』
ウソだろ? 人間ってのァもうちょい弱くて臆病で自分がカワイイ生き物のハズだろ。
たしかにアイツには“力”をくれてやった。だが、「使い方」までは知らねェはずだ。
慌ててヤツの後について行く。

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魔法をあなたに その⑦

予想外。突拍子も無ェ。まさかの即断即決。その間約1秒。流石にビビった。これイジメ問題がどうこうとか言う感じじゃなさそうだな?
『おまっ、なん……いや』
何故とか野暮は聞かぬがアレよ。双方合意が取れたところで、イヨイヨ待望のご対面といこうじゃねェか。
空中をフヨフヨと進み、ヤツの眼前へ進み出る。
『ハァロォー、ツバメ=チャンよォ』
「は、はじめ、まして……」
リアルのオイラを見て、ヤツはそれなりにビビッているようだった。ま、見慣れない生き物に警戒すンのは正しいぜ。
『このタビは、ご契約いただき感謝感謝だゼ。そいじゃァ早速、テメエにプレゼントだ、千代田ツバメ』
ヤツにブローチを1つ、投げて渡す。危うげながらも無事に受け止めたところで、説明を開始する。
『ドーダ、なかなか洒落た意匠だろ?モノホンの翠玉と白金を使った、四ツ葉のクローバーさ』
「へぇ……あ、ちゃんと葉っぱがハートじゃなくて丸い……」
細かく気付くなこの女郎。
『キシシシシ、四つ葉はラッキーのお守りだからなァ。テメエの“魔法少女”としての名だって既にあンだぜ? 名付けて【フォーリーヴス】』
「はぇ……ありがとうござ……ん、魔法少女?」
ヤツが疑問を浮かべたところで、遠くから爆発音が届いてきた。
『キキッ、コイツは間が良いというベキか悪いというベキか……ついて来い、【フォーリーヴス】』

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Flowering Dolly 〈設定〉 その1

この書き込みは企画「Flowering Dolly」の〈設定〉書き込みです。
企画の概要は〈企画要項〉を参照すること。
それでは設定です!

・ドーリィ Dolly
異界から来たる敵“ビースト”によって存亡の危機に立たされた人類の前に現れた、少女の姿をした“何か”。
人間と未契約でも身体能力強化や狭い範囲での瞬間移動、軽いケガの治癒、ドーリィ間でのテレパシーなどの魔法を使うことができるが、適正のある人間と契約することで固有武器の召喚などより高度な魔法の使用が可能になる。
適正のある人間がドーリィに対し契約を承認すると、マスターと同じ身体の部位(手・腕・脚が多くそれ以外はまずない)に固有の紋様が現れる。
花の学名の属名部分(詳細は長くなるので割愛)を名乗っており、その名にちなんだ華やかな容姿・服装を持つ。
空間中の魔力を取り込むことでその身体を維持しているため、基本食事はいらない上不老。
しかし首と心臓が弱点のためこのどちらかを破壊されると死ぬ。
最近は古代遺跡から発見されることも多く、古代文明との関係性が指摘されている。
その正体は、超古代の魔法文明でビーストと戦っていたいわゆる生体兵器。
契約しないとロクに戦えないのは不用意に人間を傷つけないためである。
だが彼女たちとビーストの激しい戦いによって魔法文明は崩壊、ドーリィたちは来たる次の脅威に備えて長い眠りについていた。

・マスター Master
“ドーリィ”と契約した人間のこと。
正称はドーリィ・マスター。
特定のドーリィに適正のある人間のみが契約することでなることができる。
ドーリィに対し契約を承認すると契約したドーリィの身体の同じ部分(手・腕・脚が多くそれ以外はほぼない)に固有の紋様が現れる。
契約したドーリィの(一応の)管理者であり主人…なのだが、ドーリィの尻に敷かれるマスターも少なくない。
ドーリィと違って無力な存在なので戦闘に巻き込まれて命を落とすこともある。
でも基本的にドーリィはマスターを守ろうとしてくれるのでそう簡単には死なない(はず)。
地域にもよるが英雄視されることが多い。

その2に続く。

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魔法をあなたに その⑥

ようやく『入り込めた』。
「手助け……って……?」
『言葉通りサ。オイラの誘惑に乗っかるってンなら、テメエのイジメを何とかする手を用意してやっても良い。安心しろ、犯罪にゃならねェ。現行法に魔法を裁く手段は無いからな』
「ま、魔法……?」
『ソソ、魔法。メァジク。良いか、コイツはオイラとテメエの“対等な”契約だ、千代田ツバメ』
ヤツの身体がまたビクッとなった。そりゃ、名乗ってもいねェ名前当てられりゃ驚くか。
『言ったろ、オイラは情報ツウってな。ンでだ。オイラはテメエに“魔法”をくれてやる。どんな魔法になるか、悪いがそれは断言できねェ。ソレはヒトエにテメエの精神性にかかってるからだ。……だが』
「……だが……何ですか?」
チョット勿体ぶると、見事に食いついた。勝ったな。
『テメエが本気でこの“イジメ”、何とかしたいと思ってんなら……安心しな、ソイツは叶うぜ』
ヤツはオイラの言葉にかなァり引き付けられているようだった。何かあと一押しでもあれば、コロッと堕ちるな。
「えっと……1つ、質問なんですけど」
あン?
「その、“契約”…………なん、ですよね?」
『オ、そうだな』
「じゃあ、私は何を払えば良いんですか?」
チクショウ鋭い。マァ、ここは嘘はつかないようにして……っと。
『まァ……コレを受けて後、万が一テメエが何かあって死んだとする。テメエにくれてやった分の魔力……マァ魔法エネルギーみたいなモンだ、それとツイデに魂ってヤツも回収させてもらうぜ』
ドーセ“魔法少女”なんざ早死にする人種だろうし、嘘は吐いてねェやな。
「死んだ……後…………」
ヤツが考え込む。ま、即決されなくても構わねェよ。営業は数が命だ。
「分かりました」
『へ?』

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魔法をあなたに その④

『よしオーケイ、そんじゃァ早速本題に入らせてもらうぜェ』
「あ、あの、一つ良いですか?」
『ア? 何でェあと周りに人の姿が無い場所で大声で話すのはオススメしないぜ』
「え、あ、はい……」
ヤツが声を潜める。よしよしと頷き、話を再開しようとして、ヤツの方からこっちに問いかけてきやがった。
「それで、さっきの質問なんですけど。あの、あなたは一体……?」
『アァン? ンなこたァどうでも良いんだけどよォ……まーいーや。オイラのこたァ小悪魔とでも呼びやがれィ』
「あ、はい……え、あ、悪魔?」
『ソソ、悪魔タン。オイラのビジュアルがテメエらでいうところの如何にも悪魔でヨ。まァテメエらが想像するほど恐ろしい代物でもねーから、気楽に付き合おうぜ?』
「は、はい……」
『そんじゃ、自己紹介が終わったところで本題に入るか。あァ、ソッチの名乗りは要らねーゼ? オイラは小悪魔だからナ、情報ツウなんだヨ』
「そ、そうなんですね……」
ヤツの戸惑っているサマは少し愉快だったが、いい加減本題に入らねェとオイラの身体にも悪い。ここは敢えて、使い古された伝統的文句で攻めさせてもらおうか。
『なァ嬢、お前さん、“力”が欲しくないか?』

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五行怪異世巡『こっくりさん』 その⑦

「皆さん、終わりました。もう目を開けても良いですよ」
4人の生徒は、平坂の言葉に恐る恐る目を開けた。霊感の無い4人には、目に見えた変化は確認できない。
「お疲れ様でした。これで脅威は去ったと思いますが……念のためにこれを持っていてください」
そう言って、平坂は4人に1つずつ、真鍮製の小さな鈴飾りを渡した。
「あの、これは?」
女子生徒の1人が尋ねる。
「お守り代わりの品と思っていただければ。常に肌身離さず……とまでは言いませんが、しばらくの間、可能な限り身近に置いておくことをお勧めします」
「はーい……神主さん、今日はありがとうございました」
その生徒の言葉に、あとの3人も感謝の言葉を続けた。
「リホちゃんも、呼んできてくれてありがとうね」
「良いの良いの。私は今回のことについてこの人と少し話さなきゃだから、みんな帰って良いよ」
犬神が追い返すように手を振りながら言うと、4人の生徒は頭を下げながら教室を出て行った。
「……お疲れ、『神主さん』」
「とどめを刺したのはお前だろう」
2人だけ取り残され、平坂と犬神は軽く拳を突き合わせ互いを労った。
「あ、砂返すね」
「要らん。持っていろ。あって困るモノじゃ無いだろ」
「うーい」
犬神が能力で砂を操作し、巾着袋の中に一粒残らず納め、口を締める。
「そういえば『アレ』、何だったんだろうね? こっくりさんってキツネじゃないの?」
「分からん。凡そ四足動物のようではあったが……あの生徒ら、何を呼び出したんだ?」
「分かんない。やってるところ実際に見てたけど、大体普通の『こっくりさん』のやり方だったよ?」
「……そうか。俺はもう帰るから、結界の片付けを手伝え」
「ほいほい」