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LOST MEMORIES ⅥⅩ

ご飯、お風呂、歯磨き、すべてを済ませ、あとは寝るだけ。困っているのが、全く眠くないということだ。そりゃ、あれだけ日中に寝てしまえば眠くないはずである。そして、そもそも夜行性なのだ。
寝る準備万端の状態で人前に出るなどしたいことではないが、部屋にいても気が晴れないどころか目が冴えてくる一方なので、寝ようとすることを放棄した。
いるのはチャールズだからというのも理由のひとつである。
アイボリーのカーディガンをひっかけ、リビングへ行く。
明かりが漏れている。起きているのだろうと思って行ったものの、予想通り過ぎて笑えない。
「お嬢さま、起きてらしたんですか。」
少し驚きを滲ませるチャールズの横に座る。
「眠れないの。」
納得したように苦笑して、ちょっと待っててくださいねと言う。
立ち上がるチャールズから目を離し、置かれた本を手に取る。本というより、手記に近いような冊子。タイトルはない。開けてもいいものかと躊躇っていると、チャールズがカップをひとつ持ってきた。もう一方の手に持っていた蜂蜜の小瓶を置くと、その手でそのまま本を取り上げられる。
「人のものを勝手に探るような無粋な真似はするものじゃありません。」

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LOST MEMORIES ⅤⅩⅤ

瑛瑠はどうしたらいいのかわからなかった。
撫でられた頭に少し触れる。先のチャールズの表情が頭から離れない。
傷つけたのはどの言葉だろう。皮肉めいて放った言葉ばかりで、思い当たる節しかない。しかし、なぜ傷ついたのかに思い当たる節は全くない。
ひとり気まずくなり、切り出す。
「私、部屋に戻るね。」
できるだけ、明るい声を出すように努めたが、それができていたかはわからない。
「はい。お疲れ様でした。」
チャールズは至って普通だった。
部屋に戻るなりベッドに倒れこむ。しばらくはぼーっとしていた。
さっきのは何だったんだろう。
ちらつくサミットの存在と、自分の人間界送り。付き人には、一連のことが知らされているようであった。
任せると言われた視察。そもそもなぜ自分なのだろう。パプリエールは、王の一人娘である。唯一の継承者。もし何かあっては大問題である。
今までの護衛ありきの生活にうんざりもしていたが、こう急に自由になってしまうと、追放されたような寂しさや悲しさがある。たとえ、イニシエーションだとしても。
だからこそ、共有者をはやく見つけたかったのも事実で。チャールズはまだ考えなくていいと言ってはいたが、心の安定に、瑛瑠が欲しているのである。ただ、並外れたアンテナがないぶん、それが難しいだろうことも予想できているのだが。
唯一の心の拠り所であるチャールズとも、今は居にくい。あれでは、どこに地雷があるかわからない。
「やだ……」
思わず出たそれは、静かに部屋に吸い込まれた。

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