表示件数
0

「君がいた夏は遠い夢のなか」

 今日はお祭りらしいよ。
 そんな言葉が、ふっと耳を抜けていった。
 ひぐらしの声と一緒に、熱を帯びた空気がお囃子の音を運んでくる。笛が提灯まで誘っているようで、ひどく酔いがまわったような気になった。
 ひとりでいるはずなのに、なんとなく“みんな”を感じて、ふわふわと熱に浮かされている今日は、どうにもうだるように暑い。私は主役なんて柄ではないが、世界が私を祝福しているようにさえ、今日という日は感じさせる。それが、祭りというものなのだろう。
 主役は、誰かに見られているものである。
 だから、夜の片隅にいるその見物人に私が気付いたのは、彼もまたどこかで主人公だからなのだろうと、漠然と思った。
 夏は日が長いとはいえ、夏至を過ぎているのだから、夏の夜はおそらく思っているよりも長い。祭りには適しているかもしれない夏は、やはり都合がよいものである。
 見物人は、喧騒の輪からはだいぶん外れていた。提灯の灯りが届くには厳しい範囲に位置取りしている。全人類祭りが好きである、なんて暴論を唱える気はさらさらないが、興味がないにしては距離が近く、興味があるにしては距離をとっているものだから、私には理解できないながらも不器用な人なのだろうと、遠くから思う。ただ一点、遠かったのは、私の方かもしれなかった。
 私は見物人に、

◇◇◇◆◇◇◆◆◆◇◇◇◆◇◆◇◆◆◆◆◆◇◇◆

「私は私が嫌いだよ」
「君が嫌いな君のことも、僕は好きだよ」

0

『抗議 畢竟猫には敵わない』下

「おれのこと、どう思ってる?家族?友人?従者?……従者かもな」
 わからない言葉を次々と紡いでいくのは“ふぇあ”じゃないぞ。
 ただ、撫で方の質の良さは褒めて遣わす……。
「何かを期待しているわけでも、見返りを求めているわけでもない。ただ、そばにいたいだけなんだけどな……それが友人って形でも、恋人って形でも、家族って形でも、大切で特別な思いに変わりはない。これに名前は必要?」
 ……にゃー。
「しいて言うなら、ただただ“愛”なんだけどなあ……やっぱりしゃべるのが下手みたいだ。これで変に変わるくらいなら、言葉なんて消えちまえばいいのに」
 意思疎通が図れない方がいいというのだろうか。褒めて遣わすというのに、人間は変である。
「あ、ごろごろいうのやめたな。考えの相違でもあった?」
 笑っているが、あながち間違いではない。変わらないことを望むのは、幾分か贅沢なことである。しかし、少なからずおぬしは他より少し特別な人間である。願わくば、と思わないこともない。
「あ、またごろごろしてる……」
 畢竟なるようにしかならんのだ。おぬしが“じゅうしゃ”が望みとあればそう思うことにしよう。しかし、今までと変わりはないぞ。なぜなら、お互いの言葉が通じないんだからな。
 ただ、人間と人間は言葉を交わすことができるのである。変化があるのであれば、それを楽しむこともまた一つじゃないかと思うが。……我に褒めてもらいたくはないのか、人間。

4

『抗議 畢竟猫には敵わない』上

 不本意に頭を悩ませているそこの人間は、どうやら言葉が上手くないことを自認しているらしい。よく4本足の高台に向かって何やら作業しているのを見るが、本日はその作業のお供であるペラペラの爪とぎと、追いかけ回したくなる細い棒はない。どうやら、“しごと”に向かっているわけではないようだ。
 先に4本足の高台といったが、別に届かない高さなんかじゃない。距離を測り、少しぐっと踏み込むだけで、ほら。着地はお手の物である。
 それにしてもこの人間、いつもならこうするだけで目を丸くし、顔をほころばせるというのに、本日はどうしたものか。“すまほ”に向かってうなっている姿は、さながらけがをした子どものよう。……けがをしているのか?
 この人間には、ごはんを用意させている。住処を整えさせている。日々、撫でさせてやっている。……けがをしているとなると、問題である。自分の生活に影響が生まれるからである、あくまで。
 顔をすりつけると、この人間は喜ぶ。それを知っている。たまには喜ばせてやるのも悪くはない。
「わ。どうした、今日は甘えたさんだな」
 喜ばせてやっているだけぞ、勘違いするでない。
 それにしても、一瞬の曇った顔をみたぞ。何がどうしてそんな表情にさせるのだ。やはり、けがなのか。
「にゃー」
 本日は“さーびす”である。人間は“さーびす”が好きだ。
「おしゃべりなんて珍しいな。構ってほしいのかー?」
 笑ってはいるが、なんだかさみしそうだぞ、人間。もしかして、けがをしているのはもっと他の部分なのか。
 それにしても、撫でる技術が上達している……ううむ、意思疎通が図れたのならば、褒めて遣わすというのに。
「お互いの言葉が通じなければ、信頼関係だけで成り立っていたかな」
 ……何を言っているのだ?

0

『祝福は似合わない』#3 Fin.

小さく笑って、私は絆創膏を持ってきた。
「諒さん、指出して」
 へそを曲げた子どものような面倒くささを持っている彼は、なかなか指を出さない。そんなに切れているわけではないと思うけれど、今の彼に必要なのは、休憩である。
「諒さん」
 語気を少し強めると、子どものような彼も子どもではないから引きを知っている。多少ぶすくれた顔ではあるが、おとなしく指を差し出す姿には笑みをこぼさずにいられない。
「この書類が悪いんだ。僕は悪くない」
「はいはい、誰も諒さんが悪いなんて思っていません」
 今だけは、仕事のことなんて忘れてしまえばいいのに。
 本当に、損をする人だと思う。これは、嫌味だ。
 なんて、吐き出しようのない燻りを、小さいながらも確実に育てながら絆創膏を巻く。彼が怪我をしたのは向かって右人差し指、つまりは彼の左手人差し指だった。
「なんだか指輪みたい」
 ちょっとだけ笑って吐いたこのセリフは、私なりの意地悪のつもりだった。一会社を背負う社長にあるまじきアクセサリーね、と。
 それが伝わっていないはずはないのだけれど、一瞬の間をおいて、彼はさらに不機嫌そうに睨み、口を開いた。
「言っておくけど、それはキミの役割じゃないからね」
 なんでもない休日昼下がり、そう言って書類整理に戻ってしまった彼に、私とコーヒーは置いてけぼりをくらった。

0

『祝福は似合わない』#2

 あーでもないこーでもない、なんでみんな僕の邪魔ばかりするんだ、なんていう言葉をまた生産しては手を動かす。器用な人である。先程憎まれ口は叩かれたものの、これは別に嫌われているそれではないのだとわかる。本当に切羽詰まっているのだろう。私には手伝ってあげることはできないから、コーヒーだけでも入れてあげようとソファから腰を上げた。
 ついでに私の分も入れようと、マグカップを二つ並べる。一方は月の模様があり、もう一方はマグロを模した魚がプリントされてある。以前使っていたマグカップを割ってしまった時、キミのはこっち、そう言って彼が出してくれたものであるが、やはり感性については疑問を感じずにいられない。そうは言っても、お気に入りにしてしまっている時点で私の負けである。コーヒーメーカーに、水と挽いたコーヒー豆をセットし、スイッチを入れる。するとタイミングが良いのか悪いのか、彼のただならぬ声音が聞こえてきた。だから私は、マグカップもそのままに、慌てて様子を見に行ったのだ。その後に思わずため息をついてしまったことがバレなくてよかったと、今だから思う。
僕の邪魔をしてそんなに楽しい?僕の血はおいしかった?そう彼が話しかけるのは紙。どうやら手を切ってしまったらしい。思っていた以上に疲れているのかもしれない。色んな意味で。
 小さく笑って、私は絆創膏を持ってきた。

0

『祝福は似合わない』#1

 今日も今日とて仏頂面の彼は、ぶつぶつと文句を口から量産しては、その割にはやいスピードで仕事の書類であろう紙の束たちを整理していく。そういうところを見ると、やはり仕事ができる人なのだと思う。
 こんな天気の良い休日の昼下がりに、クーラーのきいた部屋でただただ仕事をこなしていくほかに過ごし方はないのだろうかと甚だ疑問ではあるが、口にはしない。そうして幾度となく嫌な目を見てきたからである。人間とは、学ぶ生き物だ。だから、私もただそんな彼をソファに座って眺めるだけなのだが、この時間は嫌いではない。眉間に皺を寄せているときのこの人の顔は、ゲームが欲しいのにクリスマスプレゼントが図鑑だったときの子どものような顔をしている。いつもは意地の悪い楽しそうな顔をしているものだから、日ごろやりこめられている分、やり返してやったようなそんな気持ちになる。
 こうして眺める時間は、最近また増えたように感じる。テリトリーに入ることを許されたとでも言おうか。人は、ずっと見つめられると居心地の悪いものだと思う。彼は特にそういうのを嫌っていると、感覚的に思っていた。そもそも彼は、興味を抱く対象が特殊である。心を許した相手とそうでない相手との差は歴然としており、対応もまた顕著だった。本来私は、興味を持たれない側の人間のはずなのだけれど。
 そんなことを考えながら視線を外さずにいたら、ばちっと音が鳴る勢いで目が合う。気象予報士でなくともわかる爆弾低気圧だった。
「なんでキミはそんなに僕の邪魔をしたいの。そこのおもちゃを使っておままごとでもしてなよ」
 訂正。何をどうしても機嫌の悪い彼は機嫌が悪い。そこのおもちゃというのが比喩ではなく本物のおままごと用のおもちゃなのがこの人の人柄をさらにわからなくするアイテムなのだが、まあ今に始まったことではない。

1

『偽善とは』

 僕が育ったのは、自然が綺麗なところだった。近くには川があり、晴れた日には光が反射して、川辺に咲く花や木々はそれを見て眩しそうに、そして嬉しそうに風に撫でられていた。近くに寄ると透き通って見えたその川には、たまに魚やカニなんかが顔をのぞかせていて、僕を天敵と見なすとすばやく陰に隠れ、そして見えなくなる。かくれんぼはいつも彼らの方が上手だった。鳥が歌う声もよく聴くから、綺麗であるここは彼らにとって危なくもあるのかもしれない。そんな穏やかでいて危ういこの場所が僕は好きだったし、みんなここにいれば幸せだと思っていた。今、このビルの立ち並んだ光景に窮屈さを感じざるを得なかったし、僕の中の何かが枯渇していたから。
 いわゆる都会という町に出てきて、僕はまるで砂漠に打ち捨てられた草食動物のように、緑を求めた。しかし、求めた先に現れたのは光を弾いて輝く川なんていう宝石箱ではなく、何色とも形容し難い大量の水の塊だった。これを人々は海と呼ぶのだろうか。
 覗いても、濁った色しか見えない。工場も近くにあるし、良くないものがたくさん流されているのだろうと悟った。小さくため息をつき、元来た道へ足を返す。そこで、小さく躓いた。僕を躓かせたその石の陰からは、カニが姿を現した。人的排水によって、ここまで住処を汚されているなんて。僕が1番最初に抱いたのは、かわいそうだとういう感情である。このカニは、綺麗な水を知らない。自分に害のある物質が住処を侵しているかもしれないのに。それも、人間という極めて恣意的な原因に。
 その時、このカニだけでも綺麗な場所で生きてほしいと思った。もう少し進んだ場所に、川が海に合流する、比較的綺麗な場所がある。そこに、逃がしてあげよう。
 そう思ってからは速かった。着くと、やはり先の海よりは断然綺麗でいて、僕はほっとしたのだ。やっと綺麗な場所で生きていけるね。そう声をかけてカニを放した。
 僕が害を加えようとしていたと思っていたのだろうそのカニは、放されると一目散に僕から離れた。長生きしろよ、と海へ入ったのを見届けて、身を翻した。多少だけど、海が綺麗だったから最後まで姿が見えたな。可愛かった。

 そう微笑む僕の頭上から、腹を空かせていたであろう鳥が、海めがけて降り立ったことを、僕は、知るべきだった。

0
2
0
0
2

『愛憎劇の幕、その名はカーテン。』#1

 空いている窓から風が吹き抜ける。カーテンが揺れた。窓の外は快晴、奥に広がるは昼下がりの森林。どこからともなく狼の遠吠えのようなものが、風に運ばれてくるようでさえあった。
 扉を軽く叩く音がする。
「失礼いたします。お茶を持って参りました。少し、休憩なさってはいかがですか」
 メイドである。
「そうしよう」
 ほっと息をつき、応えたのは王。名を、ライオネルという。
 香るは果実、透き通った赤い色が、白い陶器に注がれた。
「今日はローズヒップか」
「はい」
 そう微笑むメイドの手は、心なしか震えて見えた。
 ライオネルは、眉を顰める。
「……具合が悪いのか?給仕などいい。休め」
再びカーテンが揺れた。椅子から立ち上がりかけたライオネルは、これ以上ないというほど、顔を顰めた。
「……お前は何をしている、リアム」
「何って、それはこっちのセリフだよ、おうさま」
 注ぎ終えたカップを持つメイドの手は、完全に震えていた。カップの中に生まれていく波紋が痛々しい。
 リアムと呼ばれた青年は、どこから現れたのかメイドの背後に立ち、メイドの喉元にナイフをあてがっている。
「キミ、何してるの?」
「お、お茶を……」
震えた声で応えるメイドに、リアムは口角を上げた。ぞっとするほど優しい微笑みだった。
「へぇ……苦しみながらそのお茶飲むのと、一瞬で喉かっ裂かれるの、どっちがいい?選ばせてあげるよ」

6

とっても頭の軽いお話です。

「なんでこんなに散らかっているの!勝手に部屋に入られるのが嫌ならちゃんと掃除してよね!
……なにこれ…30点のテスト⁉どうしたらこんな点数が取れるの⁉どうしてこんなことになった⁉さすがにこれは言わなきゃ……せめて問1は答えようよ……問1.春は[    ]なんて、小学生だってわかるよ……むしろ何が合っていたの…」

「ただいまーおなかすいたー」
「おかえりなさい。おやつの前にそこに座って」
「? 何かした?」
「ベッドの下にあったあれは何ですか」
「んー……?(なんかあったっけ…?あ、昨日もらったラブレターかな。そういえば昨日読んで、広げたまんま寝ちゃったっけ。ベッドの下に落ちてたのかー)あーあれね」
「どうしてあんなことになったの……」
「え……おれがカッコいいからじゃん?」
「すごい開き直り方!!!先生が嫉妬して点数下げたってこと……?そんなことあるの……?」(ぶつぶつ)
「母さん?」
「……そうだとしてもよ…、問1くらいは答えてほしかったな……」
「問1?(1行目ってことか?なんて書いてあったっけ。『めっちゃかっこよくてまじあげぽよ~ってカンジ』……?)ああ、あげぽよ?」
「随分と現代的!むしろ書かなくてよかった!!!」

 問1.春は [ あげぽよ ] 。

0
0
0

憧れと独白と傾聴とその先 #15

 私は少しだけ笑って、話を再開する。
「それからも私たちは、先輩と後輩だった。それ以上でもそれ以下でもない。色々思うことはあったと思うんだ、中学生だったしね。でも、今はもう覚えていないくらいには閉じ込めすぎていた」
 涼花は何も言わない。
「あれは、先輩が引退するときだったかな。私、泣いちゃったんだよね。涼花もよく知っていると思うけど、私はとても涙もろいから」
「そうですね、知っています。思い浮かびますよ、先輩が泣いているところ」
 優しく微笑むなあなんて、ふと思った。
「恥ずかしいなあ……そう、そのときにね、先輩が、腕を広げて、おいでって」
 そう、おいでって言ってくれた。
 涼花は目を見開いた。
「……先輩、腕に飛び込んだんですか……?」
 飛び込めたら、何か変わっていたのかな。今でもそう考えることがある。
 私はゆるく首を振った。
「できなかった。最後まで私は後輩だったし、先輩は先輩だった。私たちはずっと、先輩と後輩だった」
 飛び込めたなら、きっとそれは少女マンガだ。
「先輩に憧れていた。それは、憧憬であって思慕であって聖域だった。それをある人は恋というのかもしれないけれど」

0
0
0
0

憧れと独白と傾聴とその先 #7

「そうそう、あれはありがたかったな。先生と交渉してくれたんだ。この子はうちに欲しいなんて、花いちもんめでもやらない限り、後にも先にもないと思う」
 懐かしいですねと返してくれる後輩に微笑む。
 そんな後輩は、なぜだか自信満々に、こんなことを聞いてきた。
「先輩、そのことについて同級生の方々から何も言われなかったでしょう?」
 突拍子のない質問に思わず固まる。
「うん……?まあ、そうね」
「先輩、1年生でソロやったって聞いたことありますよ。そっちの方面もできる子だったんですね」
「そんな情報どこから仕入れてくるの、何年も前の話じゃない。しかもそれは代打であって__」
「実力があったから何にも言われなかったんですよ。そうじゃなきゃ、先輩も依怙贔屓に見えるような引き抜きしません。頭良かったんですよね?その先輩」
 先輩を出すなんで、そんなのずるいじゃないか。
 仕方がないから苦笑する。
「でもね、何にも言われなかったわけじゃないよ。先輩からは比較的好かれていた方だとは思うけれど、一部の同級生が陰で何か言っていることは知っていたし。全員に好かれたいなんて思っていたわけじゃないけどさ、やっぱり、みんなに好かれることって難しいなとは思ったね。先輩より同級生のほうが一緒に過ごす時間は長いわけだし。ただ、そんなことがあっても嫌な思いをしなかったのは、友人にも恵まれていただけ」

0

憧れと独白と傾聴とその先 #6

「まあ、こんな風に話しているけど、たくさん努力しての結果だっただろうからね。やっぱり今でもその先輩のことは尊敬している」
「先輩も同様ですよ」
 まったく、この子はこういう子だ。
「さっき、先輩に目をかけてもらえたって話したけど、別に依怙贔屓だったわけじゃない。厳しいことを言われたこともあるし、私のことで頭を悩ませてしまったこともある。でも、そういうことをしてもらえていたってことは、やっぱり目をかけてもらえていたのだと思うんだ」
 はい、と一言だけ相槌をうってくれた。ちゃんとわかっていますよ、そんな風に聞こえた。
 少しだけほっとした気持ちで続ける。
「部活では、その先輩と同じ楽器だった。本来であれば、私はその楽器じゃなかったかもしれないんだけどね」
「それはなぜ?」
「ありがたいことに、先生が直々に別の楽器やってくれないかってお願いに来たんだ」
「先輩、やっぱりできる子だったんですね」
「元々、ちょっと音楽かじってただけだよ。でも、私ははじめからずっとやりたい楽器決まっていたから、どうしても渋ってしまってね」
 察しのいい後輩は、目をきらりと光らせる。
「そこで、例の先輩の登場ですね」