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御狐神様 後編

社の奥、大黒柱に縄で繋がれて、1匹の年老いたキタキツネが丸まっていた。
女性が正面扉を勢い良く開く音に耳を揺らし、閉じていた目を開いてそちらに視線を送る。
『御友神殿! オコミが帰って参ったぞ!』
“オコミ”と名乗った女性は表情にこやかにそのキツネの傍まで歩み寄り、腰を下ろしてネズミの死骸をキツネの前に丁寧に置いた。
『御友神殿、聞いておくれ。先程運良く、活きの良いノネズミを捕えたのじゃ。生憎と揚げ油を切らしておる故、生のままで申し訳無いが是非食うておくれ!』
満面の笑みで話しかけるオコミの顔を、キツネはじっと見つめ返す。
『む、妾のことか? どうか気にしてくれるな、御友神殿。……ただ…………御相伴を許されるというのであれば……そのぉ…………』
言い淀むオコミから顔を背け、キツネは前脚の爪でネズミを弄び、千切れた尾を咥え上げて、彼女の傍へ放り投げた。
『! ご、御友神殿……! かたじけない、尻尾には目が無くってのう……嗚呼、この骨ばった食感よ……』
受け取ったネズミの尾を口内で転がしながら、オコミはキツネを見やる。ネズミの死骸に夢中になって齧りつくキツネの背中を撫でると、キツネは全身を小刻みに震わせた。
『む? 御友神殿、嫌じゃったか?』
キツネはその問いかけには反応せず、ネズミの残骸を口で放り上げ、一口に飲み込んだ。

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cross over#3

空は雲が1つもなく、どこを撮っても青しか映らないほどの快晴。自分なんか入る隙もない、などと愚痴りながら歩いている。高校生Aの黒い影が気になってーもともと猫のために通っていたあの道へ向かう。下に目を落としてゆっくり歩を進める。いつも以上に街が静かで自分の耳を引っ張ってみた。自動販売機の赤色が見えてくる。自動販売機はいつものように横にリサイクルボックスを携えて、そこにあった。人より遅い一歩がいつもの倍の速さで前に進む。一昨日と同じ景色。昨日と違う景色。車が一台、自転車が一台、過ぎていく。前にも自動販売機で飲み物を買っている人はいた。日々はいつもと同じように過ぎていく。なぜか鮮明に残る昨日のひと時を眺めながら、回れ右をした。靴屋を曲がり重いドアの前に着く。やけに大きく響くドアが閉まる音を後ろに階段を駆け上る。ナップサックを床に投げ捨てた。布団の上に転がり天井を見つめる。いつまでも心臓の動悸が止まらなかった。
「なんで、何でなんだろう。」
今まであの自動販売機の周りで人がいることに気づいても気に留めなかった。トタは何かを責めている。ふとちゃぶ台の上のラジオが目に入った。動くことにすら気が入らない。寝返りをして、電源を入れる。聴き慣れない声に感じる冷たさが今は心に沁みた。相変わらず明るく照らす陽がカーテンの隙間から差し込んでいた。

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! キャラクター紹介③

・ツファルスツァウル Zufallszahl
身長:145~220㎝  武器:ダイス
ある遊び心に溢れた魔術師の生み出した使い魔。刻まれた術式の効果は『ロールの実行』と『乱数による能力の増減』。ダイスによって『ロール(役割)』を決定し、『ロールプレイ(RP)』によって戦う。「A~C」の3システムそれぞれにスタイルの異なる6つ、計18のスタイルが付随している。実際はダイスを振る必要無くロールセレクトや行動が可能ではあるが、ダイスの出目に従うことで最大出力が更に向上する(下振れもある)。ちなみにRP中に死亡した場合は「システム」の終了として処理され、本体は死なない。同じシステムで『卓』を開くためには、多少のクールタイムが必要。
RP中はロールごとに人格が変わったかのように振舞うが、全てツファルスツァウルが自我それ自体はそのままに『演じて』いるだけであって実際の人格は1つだけなので、はい。
非RP時の外見は銀髪ショートヘアに青目の身長150㎝弱の子ども。服装は白いオーバーサイズのパーカーとショートパンツ。非RP時は引きこもりなので足元は素足。人格はやや希薄だが女性寄り。現マスターが赤ん坊の頃から一緒にいた。
ちなみにマスターの事は「にぃ」と呼ぶ。兄ではない。

・ツファルスツァウルのマスター
年齢:24歳  性別:男  身長:170㎝
ツファルスツァウルを創り出した魔術師の息子であり、現マスター。術式や魔法の使い方も父親から教わった。
生まれた時からツファルスツァウルが傍にいたため、ツファルスツァウルのことを昔は姉だと思っていた。今もその感覚は抜けきっていない。人間ですら無いと知ったのは中学生のころ。流石に姿が変わらなさすぎることに疑問を持ち、本人に尋ねたら教えてもらえた。大層驚いたそうな。
RP中のツファルスツァウルのことは道具として見ている。

・ナツィさん
今回、勝手に射程攻撃を覚えた。【神槍】は「刺突」なので、本来大鎌による行使はとても難しいが、ナハツェーラーさんなので。

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! キャラクター紹介②

・河上桐華(カガミ・キリカ)
年齢:17歳  性別:女  身長:169㎝
ツファルスツァウルのロールの1つ。システムBロール2。肩甲骨辺りまでの長さの黒髪をポニーテールにまとめた長身の眼鏡少女。基本的に長袖のセーラー服姿でいる。足元は黒いタイツとスニーカー。全長約1.2mの日本刀〈雨四光〉を用いた剣術で戦うが、最も威力を発揮するのは間合いを取った射程戦。練音ちゃんをフロントに置いて後ろから【神槍】し続ければ多分最強のコンビになれるけど、ツファルスツァウルの身体は一つなので実現はまず不可能。〈雨四光〉の銘の由来は「1足りずとも確かな輝きを放つべし」。ダイスゲー的にとても縁起が悪い。
ナツィさんに対するリスペクトはいまいち足りてない。好戦的な気質なのでまあしゃーない。
ちなみにマスターの事は「ボス」と呼ぶ。
※メタ的には『忍術バトルRPG シノビガミ』より流派:鞍馬神流のPC。【接近戦攻撃】の指定特技は《刀術》。習得忍法は【陽炎】【狭霧】【神槍】【先の先】。奥義の【鏡刃・乱影断】の効果は「範囲攻撃」。指定特技は《瞳術》。逆凪上等で先手を取り、-3ペナルティ入り(※1)の回避困難な高火力(※2)の突きを叩き込む。基本的に先手を取るためプロット5~6に貼り付いている人。
※1:【狭霧】は相手の回避に-1ペナルティが入るパッシブスキルみたいなもん。【陽炎】は使うと次の攻撃に対する相手の回避に-2ペナルティが入るアクティブスキルみたいなもん。
※2:【神槍】は『遠距離にしか撃てない』射程技。2点ダメージ。【先の先】は相手より先手を取ると1点追加ダメが入る技。理論上、敵を2手で殺せる。

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! キャラクター紹介①

・木下練音(キノシタ・ネリネ)
年齢:13歳  性別:女  身長:145㎝
ツファルスツァウルの『ロール』の1つ。システムBロール6。黒髪ロングヘアの華奢な少女。黒い和装には金糸で蜘蛛の巣柄の刺繍が施されており、背中の部分は蜘蛛脚展開のために大きく開いている。
背中から大蜘蛛の脚を展開し、攻撃に利用する。だが、真に得意とする領域は、近接武器でさえ邪魔になるほどの『超』接近戦。自身の周囲極めて狭い範囲にのみ展開される蜘蛛糸の防御結界と攻性結界を駆使して相手の動きを阻害し、相手の動きを封じてからチクチク攻める。実は奥の手として射程攻撃もある。
ちなみにマスターの事は「主殿」と呼ぶ。
※メタ的には『忍術バトルRPG シノビガミ』より流派:土蜘蛛のPC。【接近戦攻撃】の指定特技は《異形化》。習得忍法は【鬼影】【雪蟲】【鎌鼬】【糸砦】。奥義の【外法・御霊縛り】の効果は「判定妨害」。基本的には相手の命中判定に-3ペナルティぶち込んだうえで(※1)判定妨害で強制的に失敗にまで引きずり込む(※2)。練音ちゃんは基本的にずっとプロット値3~4に貼り付いている(ファンブル値が3か4)ので、コンボが決まれば相手は勝手に逆凪(※3)に引きずり込まれる。実は別に攻撃役がいた方が活躍できる。
※1:【鬼影】の効果により、相手は自身に対する命中判定に-2のペナルティが入る。また、【雪蟲】の効果によって、同じプロットにいる他のキャラクターは命中判定と回避判定に-1のペナルティが入る。
※2-A:『シノビガミ』の判定は2d6振って5以上なら成功。「判定妨害」は相手のダイス1つの出目を強制的に「1」にする=最大でも相手の2d6の結果は「7」になる。あとは分かるな?
※2-B:『シノビガミ』のルール上、同じプロットにいる奴らの行動は「同時に」行われている扱いなので、逆凪になってももう1人が行動し終わるまでは逆凪の影響は受けないんですが、そこはまあ、ノリ重視で。はい。
※3:『シノビガミ』では戦闘中ファンブルすると、そのラウンドの間あらゆる判定で自動失敗するようになります。これが「逆凪」。先手を取った奴がうっかり逆凪になると、後手の皆さんにボコボコに狙われても回避できなくなる。怖いね。

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! その⑮

「練音ちゃんから見て、どうだった?」
「私の守りの強さが露呈したと思います!」
「うん、自分でカスタムしてて思ったけど、君と戦うの絶対つまらないよね……全然当たらないんだもん」
「ナハツェーラーさん、すごい使い魔だって聞いてたのに……私の防御を抜けないなんて不思議でしたねぇ」
「そりゃそうさ。理論上、君の防御は『絶対』成功するんだもの」
「あ、あといっぱい逆凪させられました!」
「出目が味方したねぇ……。桐華さんとは正反対だ。とにかく、よく戦ってくれたね。……ところで質問なんだけど」
「はい」
「次、ナハツェーラーさんと戦ったとき、勝てると思う?」
「…………感覚としてはなんとも……ってところですかねぇ……」
「ふむ。理由を聞いても?」
「はい。まず、私の得意な間合いがバレました。近距離戦にはもう入ってもらえないでしょう」
「けど、ナハツェーラーさんには射程能力は無かったはずだよ」
「【神槍】です。キリカさんが技を盗まれました。私の術は全部、『蜘蛛』と『呪術』に由来してるので良いんですけど、キリカさんは体術メインですから……。こちらも【鎌鼬】はまだ見せていなかったので、恐らく1回は射程戦に食らいつけるでしょうけど…………あちらの方が間合いでは勝っているので。私が死ぬ前にあちらの『逆凪』を誘発して、あちらが慎重になってくれれば、あるいは」
「……うん。とにかく今日はお疲れ様」
「ごめんなさい、勝てなくて……」
「いや良い。別に本気で勝てるとも思ってなかったし。むしろ予想以上に届いたなって感じだよ。今日はゆっくり休みな、“ツファルスツァウル”。桐華さんと合わせて結構消耗したでしょ」
「はい。それではおやすみなさい、主殿」

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! その⑬

桐華が攻撃に入ろうとしたその時だった。
「ふぅ、ようやく追いついた……っと」
「ナツィいたー!」
「げっ……ピスケス、キヲン」
空気を読まないかの如きタイミングで乱入してきた二人に、一瞬場の空気が凍り付く。
「え、お前何やってるの?」
「あれ、ナツィ怪我してる。なんで?」
「……別に何でも良いだろ」
「…………あー、ボス? やっても良い?」
攻撃の態勢を保ったまま、桐華は隣の男に問いかけた。
「えー……じゃあ奇数が出たらね。……3。ゴー」
「了解ぃっ!」
桐華が咥えた眼鏡を宙に放り上げ、回転運動が発生したそれのレンズが数m先のナツィの姿を映したのと同時に、そのレンズに斬り付ける。
「ひっさぁあつ!」
衝撃によってレンズに亀裂が入り、同時にピスケスとキヲンが鏡像に加わる。
「【鏡刃・乱影断】!」
そのまま刀を振り抜き、レンズが粉砕される。鏡像が破壊されたのと同時に、現実の3人にも刀傷が発生した。
「っ⁉」
「なっ……!」
「わぁっ」
「おっ、入った入った! やっぱ死なないかー!」
「桐華さん、満足した?」
「したした!」
「それじゃ、さらばナハツェーラーさん! 対ありでした!」
男は桐華を小脇に抱え、その場を離脱した。
「痛たたた…………ねぇ、あいつら何だったの?」
ピスケスがナツィに尋ねる。
「知らん。……けど」
「けど?」
「何か、疲れた…………」
「あっそう」

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五行怪異世巡『肝試し』 その⑬

(そうか、そういえばカオルの姿を見せたのってメイさんくらいか……今出れる?)
(力不足かなぁ)
カオルの返答に青葉はしばらく考え込み、千ユリに手招きした。
「あン?」
「千ユリ。適当に攻撃くれる?」
「…………“野武士”」
武者の霊の放った斬撃を、青葉の背後から伸びてきた機械人形風の左腕が受け止める。
「えっと……紹介します。〈薫風〉の付喪神、カオルです」
「ワタシの可愛い青葉ぁ……こういう呼び方はあんまり感心しないなぁ……」
背中から覆い被さるように出現したカオルの上半身に、他3人の注目が集まる。
「彼女は私に降りかかる霊障などを吸収してくれるようでして……」
「へェ?」
青葉の説明に、種枚が楽しそうに反応した。
「……何さ。あんたは『ただの人間』みたいだから良いけど……じろじろ見られるのってあんまり気持ちの良いものじゃないんだけど?」
「あン? そりゃ失敬。しかしまァ、私が人間と分かってくれるたァ嬉しいねェ」
からからと笑いながら近付き、種枚は青葉の両肩に手を置いた。
「しかしまァ、君も随分と面白くなってきてるじゃないか。身内に引き込んだのは正解だったよ。これからも精進しタマエ」
「え? えっと、まあ、はい……」

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我流造物創作:邪魔者と痩せ雀 キャラクター③

・向田ワカバ
年齢::22歳  性別:女  身長:166㎝
玄龍大学4年生。“アルベド”の研究内容に感銘を受け、「助手」を自称して日々研究室を冷やかしている。魔術師としての腕は極めて優秀で、「仮想の無限空間を展開する」という、所謂結界術を最も得意としている。この術式はアルベドの研究の際にとても役立っているので、アルベドは結構感謝している。
どうでも良いけど、卒論のテーマは『工業史におけるエネルギー効率の変化の経緯』。
※ワカバの魔法:「無限空間」とはいうが、厳密には完全な無限では無い。デフォルトの結界の内装は電脳的ポリゴン空間のようであり、範囲はおおよそ3000㎞立方程度。手帳のページ1枚1枚に刻んだ術式それぞれに、外観の追加要素と無限遠(これも厳密には無限ではなく、デフォルトと同じ3000㎞立方程度)が付与されており、結界の展開時に同時に消費することで、要素を無限空間に追加できる。ちなみに空間範囲は何故か乗算される。つまり追加要素1つごとに1辺当たり「×3000㎞」される。空間内のどのポイントに出現するかは対象1つごとに個別で選択できる。「全対象の現在の相対位置を保持したまま転移させる」のが一番楽で低コストではある。

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五行怪異世巡『肝試し』 その⑪

どす黒い液体をまき散らしながら、悪霊の頭部は地面を転がる。そこに悠然と歩み寄って来た千ユリを悪霊は睨み、口を僅かに開いて舌を伸ばしてきた。
しかしそれは、千ユリが指鉄砲の要領で立てた右手の人差し指に触れると同時に硬直する。
「ふぅーー……だいぶ暴れられたけど、よぉーやくとッ捕まえられる程度に弱ってくれたな? これからアタシの下僕になるわけだけど、どんな名前が欲しい? ぁいやお前の希望なんて聞く気無いんだけどさ。そうだなぁ…………あぁ思いついた。ゴキゴキ伸びてる時の様子やその気持ち悪いツラのヘビっぽさ。今日からお前の名前は」
悪霊の頭部と立ち尽くしたままの胴体が少しずつ煙のように分解され、加速しつつ千ユリの指に吸い込まれていく。
「……“朽縄”だ」
悪霊“朽縄”の身体が完全に消えると同時に、周囲の不浄な雰囲気は消え、代わりに自然な木々のざわめきが静かに響き始めた。
「……終わったぁ…………」
気が抜けたようにその場に座り込んだ千ユリに、青葉が近付いてくる。
「千ユリ、お疲れ」
差し出された右手を取ろうとして、チユリの手が止まる。
「そっちの手ぇ出さないでよ」
「え?」
「なぁーんで好き好んで皮膚ズル剥けた手ぇ取らなきゃなんねーのよ」
「……あー…………あ、マズい……ちょっと身体が痛みを思い出してきた」
「……クソっ。ちょっと悪霊使うけど、抵抗しないでよ?」
“野武士”の刀が、青葉の右手首を通過する。
「…………? 待って何か右手の感覚が無くなったんだけど?」
「アタシの“野武士”は魂のダメージを肉体に誤認させる。あんたの魂は今、右手首より先を切断されてるの。そりゃぁそこより先をどれだけひどく怪我してようが気にならないでしょ。まぁ、しばらく休んで魂の消耗が癒えれば元通りだから、さっさと手当てしてよ?」

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我流造物創作:無我と痩せ雀 その⑥

「まぁ……それについちゃどうでも良いんだ。問題はテメエだクソガキ」
アルベドが右手を前方に掲げると、おネコに刻まれていたものに似た形状の立体術式が出現した。
「そっちが先に手ぇ出してきたんだ。やり返されても文句は無ェよな?」
「えっ、い、いや待っ、お、おい! 助け」
「遅せェ」
術式から、細い光線が放たれる。青年が咄嗟に展開した魔法障壁にそれは弾かれるが、アルベドは既に2撃目の射撃準備を整えていた。
「はーいドーン」
先程より太い光線が、再び青年を襲う。先ほどより広く展開した魔法障壁によって防御しようとした青年だったが、その障壁は光線が直撃したのとほぼ同時に粉砕され、そのまま青年に命中した。
「…………死んだか?」
「虚仮威しだったのでは?」
「ここまで細めりゃ威力持たすくらいは出来ンだよ」
ワカバが青年の傍に屈み込み、様子を確認する。
「……あ、呼吸してる。生きてますね」
「そりゃ良かった。ああそうだ」
「はい?」
顔を上げたワカバに、アルベドは紫水晶球を放り投げた。慌てて受け止めたワカバの横をすり抜け、アルベドは自身の研究室に引き返し始めた。
「え、ま、待ってくださいよ! 何なんですかこれ!」
後を追いながらワカバが尋ねる。
「おスズの魔力源」
「えっと、おス……?」
「あの鳥脚」
「! 名前、付けてあげたんですね!」
「違っげーよ。個体識別用の勝手な呼称だ。名前はそっちで勝手に決めろ」

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皇帝の目・回復魔法のご利用は適切に_設定

前回のやってないですね。やってないのでどっちもまとめて書きます。

回復魔法のご利用は適切に
シオン:中学1年生、13歳。魔法はほぼ無知、あんまり頭はよろしくなく、ちょっと(かなり)脳筋な女の子。とにかくでかい。運動神経は全校一で回復魔法の持ち主。怪我を治したり壊れたものを直したり結構幅広い能力。一部の人に看護師呼びされている。出てきてないけどお兄ちゃんがいる。かっこいいので慕っている。

エリザベス:中学1年生、14歳。良家のお嬢様なので魔法に詳しく勉強もできるが残念ながら変人。ドリルな縦ロールでハーフツイン、しかもゴスロリでかなり目立つが上品な性格でもある。爆発魔法の持ち主。「シルバーバレット」と詠唱することで爆弾を銃弾のように打ち出せる。家族が過保護で面倒。

レオン:28歳教員。生徒との距離が近い。(物理精神ともに)重力・引力操作魔法の持ち主。

皇帝の目
梓:人付き合いの下手な中学2年生。自由人だが環境は大事にしたいタイプ。面倒事は嫌いで結構ズボラなところがあるため家族に呆れられている。小さくて貧弱で、ある日ビーストの襲撃に巻き込まれてなんか目も悪くなったので生きづらさを感じている。チトニアのことは好きなので彼女に対しては愛想が良く、可愛がっている。

チトニア:とにかく喧しくてよく叫ぶ元気なドーリィ。テンションが高く物理的距離も近く若干束縛気味なのでマスターになる人がいなかった。皇帝ひまわりのドーリィで、皇帝という名にふさわしく蝶や蜂の眷属がおり、ひまわりらしい明るい金髪と黄色の服が目立つ背の高い少女。武器などもいろいろ持っている。今は梓にべったり。

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五行怪異世巡『霊障遣い』 その⑯

「ふゥーん……? 大分おイタを働いたようじゃあないか。ンで、青葉ちゃんに負けたと」
「何か悪い?」
「いやァ? ……で」
少女千ユリから離れ、種枚は青葉の顔を覗き込んだ。
「そんな危険人物連れて私の前に現れて、どうしたいのさね」
「彼女を〈五行会〉に引き入れます。彼女の『悪霊を封じ、使役する』異能は、必ず人類のためになりますから」
「…………へェ。青葉ちゃんや、随分と強くなったねェ?」
「……そうですかね?」
「いや、元からタフなところはあったっけか……。あー、ユリちゃんだっけ?」
「千ユリだバカ野郎」
「女郎だよ。千ユリちゃんね。じゃ、青葉ちゃんの下で面倒見てもらうとするかね……」
「はぁ⁉」
種枚の言葉に、千ユリが食い気味に反応する。
「誰が誰の下だって⁉」
「いや実際負けたんじゃあねェのかィ?」
「こんな霊感の1つも無しに外付けの武器だけでどうこうしてる奴の下とかあり得ないんだけど⁉」
「えー……面倒な娘だなァ…………」
種枚はしばし瞑目しながら思案し、不意に指を鳴らした。
「じゃ、いっそ新しく役職作っちまうかィ。面白い異能持ってるようだし、たしかに誰かの下につけとくべきタマじゃねェやな」
「ようやく理解したか……」
半ば呆れたように溜め息を吐く千ユリにからからと笑い、種枚は天を仰ぎながら考え始めた。

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五行怪異世巡『霊障遣い』 その⑮

「潜龍さん? 何をしているんですか?」
短刀の刃を掴み、青葉が低い声で尋ねる。
「……こいつの異能は危険だ。その根源たる十指を、切断する」
平坂は平然と答えた。
「……そうですか。なら、私の手諸共、斬ってみますか?」
「……離せ」
「離しません」
平坂が短刀に込める力を強め、それと同時に青葉の握る力も強まる。
「こいつの遣う霊障によって、既に人が死んでいる。こいつの異能は封じられなければならない」
「だとしても、私はその手段を許しません」
青葉の掌と刃の隙間から、血が滲み出る。
「……ほう。ならば、何か他の手段があるとでも? こいつの力を、確実に封印できる手立てが」
「はい。『私達』が手段です」

翌日。
少女の手を引いて街中を歩く青葉の前に、種枚が現れた。
「あ、クサビラさん。ちょうど探してたところだったんですよ」
「そりゃちょうど良かった。で、その娘は何者だい?」
少女に顔をずい、と寄せながら、種枚が青葉に尋ねる。
「えっと、最近悪霊について騒ぎが起きていたことについては、御存じで?」
「そりゃあ、ここいらで起きる怪異絡みの出来事に関しちゃ大体把握はしてるがね」
「その犯人です」
「……へェ? お前、何て名だい?」
種枚に臆する事無く睨み返しながら、少女は答えた。
「榛名千ユリ(ハルナ・チユリ)。霊障遣い」

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Flowering Dolly:釣り人の日常 キャラクター紹介

・カリステジア
モチーフ:Calystegia soldanella(ハマヒルガオ)
身長:137㎝  紋様の位置:右手首の裏側  紋様の意匠:昼顔の葉
白いノースリーブのワンピースと麦わら帽子を身に付けた、黒髪ショートヘアのドーリィ。肌は青白く、目の下には濃い隈ができており、ちょっと心配になるレベルで薄くて細い。開始時点では誰とも契約しておらず、毎日波止場で釣りをしたりコンクリを這うフナムシを眺めたりしていた。
固有武器はサバイバルナイフ。全長約20㎝。使わない。
得意とする魔法は結界術。直方体の結界を張り、結界の境界面に触れたものは反対側の面から出てくる。その特性のお陰で絶対不壊。ちなみにこの効果は内側と外側どちらにも付与できるし付与しないこともできる。結界そのものの強度はジュラルミンくらい。
ビーストにボコボコにされる人間文明を見続けてちょっとヘラってるところがあるので、そんな中で「日常」を諦めない人間を見ると、脳を焼かれて自分を押し売りしてくる。
ちなみにマスターが「日常」を捨てた瞬間、自分とマスターの2人がギリギリ収まる程度の極小結界に2人で閉じこもり、マスターが窒息するまで抱き着いて寄り添っていてくれる。過去の被害者は1人。契約直後、マスターになったからって変に気負った瞬間やられた。理想は契約しても「ドーリィ・マスター」という使命感を意に介さず普段通り生活できる人間。

・砂原さん(サハラ=サン)
年齢:16歳  性別:男  身長:169㎝
とある港町で1人暮らしをしている少年。ビースト出現騒ぎが増えて次々住民が余所に疎開する中、頑なに故郷に居続ける狂人。ちなみに他の家族は全員内陸部に住む親戚の家に避難しました。1人で居残った理由は単に面倒だったから。学校教育は遠隔で課題をやってるので大丈夫。
基本的に毎日無人の漁港で釣りをしながら、海に現れるビーストやそれと戦うドーリィの様子を眺めている。釣果は1日平均0.04匹。
下の名前はちゃんとあるけど、カリステジアにバレるのは何か嫌なので、頑なに言わない。

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Flowering Dolly:釣り人の日常 その⑩

結局、空間は広げてもらえないままバリア内部にて待つこと数分。ようやくいつものドーリィが来て、巨大ウミヘビを海の方まで押し返してくれた。
「ようやく安全になったか……。おいカリステジア、もうバリア解除して良いぞ」
「えー」
「何が『えー』だよ」
「せっかくだし、もう少しだけこのままじゃ駄目ですか?」
「駄目」
「むぅ…………まあ、お兄さんが言うなら……」
ようやく解放され、バリアの壁にもたれていたものだからそのまま倒れる。軽く頭を打った。
「痛って……」
「お兄さん、大丈夫ですか? 治しましょうか?」
「いや大丈、夫……あん?」
ふと、自分の右手首を見る。カリステジアのと同じ場所に、同じ紋様が刻まれていた。
「……あーお前と契約したからか…………これ、銭湯とか入れるのかな……」
「えっ可愛いドーリィと契約した証を見て最初に思うのが刺青判定されるかどうかなんですか?」
「そりゃまあ、そもそも押し売られたものだし。思い入れも何も無ェ」
「そんなぁ」
釣り道具を片付け、立ち上がる。
「あれ、今日はもう帰っちゃうんですか?」
「いや、場所変える。流石にあのウミヘビに粉砕された堤防で釣りは居心地悪いし」
「あっ釣りはやめないんですね」
「まーな。ドーリィが守ってくれるんだろ?」
「っ……! はい! 全身全霊を以て!」
この場所も気に入ってたんだが、壊された以上は仕方がない。新しいポイントの開拓といこうか。

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Trans Far East Travelogue85

俺達を乗せた船が九州沖を離れた頃、夫婦揃って船室の布団に入って早々,嫁が「済州で思い出したけど,日本におる韓国にルーツがある人達のうち多数派が済州島にルーツば持つ話ば聞いたことあるばってん貴方も済州にルーツはあると?」と訊いてきた。「まず,日本にいる韓国系の人の多数が済州にルーツを持つのは本当だけど、韓国の南部地域一帯にルーツを持つ人自体が多く日本にいて,そのうち済州の人も多いってことかな…理由はいくつかあるけど、かつての朝鮮半島は北が資源が豊富で比較的栄えていて,南側は九州に近付けば近づくほど平野から農業が厳しい山あいの土地になる。済州に至っては当時の技術では開発が難しい孤島で火山もあるから,経済的に本土の中部や北部ほど栄えておらず、しかも日本の中でも当時栄えていた北九州に近くて九州へ出稼ぎに行く人がいた。でも、時代が変わって韓国が独立した頃に半島全体の情勢は一気にきな臭くなって、他の地域と違う成り立ちを持つ済州は韓国の敵とみなされて多くの人が亡くなった悲しい時代が過ぎても暫くは貧しくて,日本に船で逃れた人もいて結果的に済州にルーツを持つ人が増えたんだ。俺の親戚は100%本土の人の子孫だから済州出身者はいないんだけど、俺は済州にもルーツあるよ」と返す。すると嫁が「貴方んことばり好きやけんもっと教えて」と言うので種明かしをする。「実は、母さんのお腹の中に俺の命を宿してもらった時に2人は新婚旅行先の済州にいた。でも、俺は日韓関係が冷え込んで日韓両国で差別やイジメと戦った小中の頃、野球を支えに生き延びたのと日本の血も引く東京生まれだから野球が好きな日本人として扱ってくれると嬉しいな♪」と返すと嫁は「貴方は東京ん誇りばい…カッコよかね〜」と言っているが俺はどう反応していいか分からず苦笑する。嫁は泣きそうな表情で「何か変なこと言うた?」と続けるので「東京の誇りって言ってくれるの嬉しいんだけど,カッコ悪いって言われた気が…」と返すと嫁は「ごめん…忘れとった…嫌われてしもたかな…」と泣き出すので「先祖の仇として憎んでいたはずの九州の人に恋して、その人の夫として幸せにしてもらっているから嫌いにはなれないし、君こそ福岡の誇りだよ。生まれてきてくれてありがとう。お陰で幸せ者さ」と本音を伝えて抱きしめながら口付けをすると嫁は泣き疲れたのか俺の腕でスヤスヤと寝息を立てて眠っている。

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Flowering Dolly:ビースト辞典①

・アーテラリィ
大きさ:体長12m(完全体)
『魂震わす作り物の音』に登場したビースト。凡そ人型の外見をしているが、腕部が異常発達しており、逆に脚部は著しく退化している。移動時は両手を用いて這うように動く。
顎を巨大化させ、材質に関係なく摂食し養分に変える咬合力と消化能力に加え、腕部の体組織をミサイルのように発射する特殊能力がある。発射されたミサイルは、対象物に対してある程度の追尾性能を有する。
また、生命力に優れ、首と心臓が無事であればしばらくの間は生存できる。顎も残っていれば摂食によって急速に回復が可能。

・ニュートロイド
大きさ:身長2.2m、尾長2.5m
『Bamboo Surprise』に登場したビースト。外見は二足歩行する大型有尾両生類のようだが、両足は2本指で、頭部はどちらかといえばワニのような大型爬虫類のものに近い。眼球は無く、代わりに皮膚全体が受けた光を視覚情報として取り入れている。知能が高く、人語を理解し、高速並列思考が可能。本気で脳を回転させていると、周囲の動きがゆっくりに見える。今回は腕を捥がれて動揺していたため、それが起きなかった。
戦闘時には手足や尾を用いた格闘を行う。
体表からは粘液を分泌しており、これにはニホンアマガエルの粘液と同等程度の毒性がある。

・キマイラ
大きさ:体長8m、肩高3.5m
『猛獣狩りに行こう』に登場したビースト。外見は体毛の黒い巨大な獅子の肩から、ヤギの頭と竜の頭が生えたもの。
獅子頭は口から炎を吐き、竜頭には鋭い角と牙があり、山羊頭は声が怖い。冗談抜きに吠え声を聞くとまともな生物なら萎縮して動けなくなるか恐怖で失神するレベルで声が恐ろしい。

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Flowering Dolly:アダウチシャッフル キャラクター紹介

・ヴィスクム
モチーフ:Viscum album(ヤドリギ)
身長:139㎝  紋様の位置:左の掌  紋様の意匠:絡み合う蔦草の輪
紅白のもこもことした防寒衣装に身を包んだ、深緑色のショートヘアのドーリィ。
得意とする魔法は、対象と自身の肉体のスワップ。紋様の浮かぶ左手で触れた相手の肉体の一部を、自身の同じ部位と入れ替えるというもの。他人の身体の一部を借りた状態でその部位に触れれば発動する。
①魔法発動のトリガー(左掌の接触)②魔法発動の意思(ヴィスの脳で決定)③スワップ対象範囲の選択(ヴィスの脳で決定)の3要素が魔法行使に必要なのでたいへん厄介。
固有武器は全長1.2m程度の全く同じ形状の直剣7振り。7本全部合わせて1つの武器。
戦闘時に動かしやすいように、マスターのキリの成長に合わせて身長を変えている。なお契約してからの約6年、彼女の成長量は合計1㎜にも満たない模様。
キリに身体強化を施した自身の腕や脚をスワップすることで彼女も戦えるようにしたり、キリの負傷部位を自身の無傷のパーツと入れ替えつつ自身が受け持った負傷部位は回復魔法で治癒するなど、マスターのサポートに魔法を使う傾向にある。ちなみに最強なのは右腕だけをスワップした状態。手を叩く度にスワップの魔法で全身をスワップし、位置の入れ替えを行いながら大量の剣で斬りかかるコンビ戦術が鉄板。
Q,なんでキリちゃんの肌の傷痕は治してあげないの?
A,「傷だらけのちょっとワイルドなキリちゃん素敵♡」だそうです。ふざけてるよね。

・キリ
年齢:16歳  性別:女  身長:139㎝
ヴィスクムのマスター。ヴィスクムのことは「ヴィス」「サンタクロース」「相棒」などと呼んでいる。生育不良の肢体と全身小麦色に日焼けした傷だらけの肌が特徴的な黒髪ショートヘアの少女。
元は片親の家庭だったが、幼い頃に、あるドーリィのマスターだった父親がビーストの被害に巻き込まれてドーリィ諸共死亡し、それ以来ビーストたちへの復讐のために生きてきた。ある時遭遇したビーストから致命傷を受け、死にかけていたところをヴィスクムにマスターにされる形で命を救われた。
自分の肉体に対する執着心が乏しく、負傷にあまり気を払わない。これはヴィスクムの魔法も悪いところある。

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Flowering Dolly:アダウチシャッフル その⑥

ヴィスクムはその場でクラウチングスタートの構えを取り、全身に身体強化の魔法を高威力で巡らせた。
(キリちゃんをあの有毒空間の中にあまり長い時間いさせるわけにはいかないからね。『一瞬』で、突き抜ける!)
超高速で射出されるように、ヴィスクムは毒霧の中に飛び込んだ。そしてキリとスワップした右手と自身の左手を打ち、勢いそのままにキリと全身をスワップする。
キリはちょうど両手の位置に生成されていた2本の剣を握り、ビーストの心臓部を狙う。
それを迎撃しようとした8本の首には、転移術によって出現したヴィスクムが対応する。半数の4本は剣の投擲によって地面に縫い留められ、残り4本は剣1本で捌かれ、そのうち1本は切断された。
「そのまま……突っ込め!」
完全に防御の空いた胴体に到達したキリは、速度の乗った1撃目で鱗の装甲を破壊し、勢いの減衰しないままの2撃目で肉を貫き、骨を打ち砕き、心臓を破壊しながらすれ違った。そのまま廃墟の壁に衝突しそうになるキリを、転移したヴィスクムが抱き留める。
「やったよキリちゃん。君が倒したんだ」
「うん……ヴィスもありがと。私だけじゃまず無理だった」
「そりゃキリちゃん、ただの発育不良の人間だし……。ほら、帰ろう? こんなに大きなビースト倒したんだから、きっと手当もたっぷり付くよ。美味しいもの食べてゆっくり休もうね」
「ん」
2人は並んで、SSABへの道を歩き出した。