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蛍雪の功

窓枠 ひとつ 灯りが燈る
数多の光 数多の命 揺蕩う縁側
寄り集まって 離れて戻る 無常なり

秒針が動く間 地面と靴との間
また命が消えた また命を生んだ

そんな灯りに 私はなりたい
雪ほど暗く 夜闇より明るい
影になりきれぬ 優しき努めの光

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12年前、10歳でSCHOOL OF LOCK!を聴き始め、14歳の時にポエム掲示板と出会い、言葉を綴り始めました。今読み返せば、当初は拙い言葉の集合体であり、感情や衝動がそのままあけすけで、大変読みにくかったろうと思います。それでも、必死で言葉を綴り、毎日何編も投稿しました。言いたいことがうまく言えなかったから、私は詩の世界で、ただ1人雄弁に語る神々しい弁士となることを夢見て、詩を書いていました。やがて、私は詩の世界だけに満足出来ず、人との付き合い方、向き合い方、話し方、自分の身なりなど色んなことを一つ一つ努力して改善して来ました。あの頃から、私は随分人として成長したなと己を振り返ります。詩の世界だけではなく、すべての世界に影響を与えたい。そう思うようになった私は、ここ掲示板で出会った仲間と詩集を作り、別の居場所で絵や小説を書き始めたり、親しい人と俳句や短歌を詠み合ったりと、様々な経験をして来ました。その中で、己の感受性を褒められる機会が多く、貴方の原点は何ですかと聞かれるたびに、この居場所を答えて来ました。ここ数年、大学入学を機に未来の鍵を握り、SOLの卒業を決め、ポエム掲示板への書き込みを殆どして来ませんでした。しかし、今一度言葉を綴って、本当の意味で『大人』になったことを詩で表現したいと思い、今日大学4回生22歳の誕生日に筆を取らせていただきました。本当にありがとうございました。小学5年生10歳の頃、未来の鍵を握るこのラジオに相応しく、花屋という意味だけではなく、大好きな花を守る、花を研究する人、そういう意味で未来の鍵『フローリスト』をラジオネームとして己に名付けました。そして今、私は春から無事に花・植物を守る人として無事に未来の鍵をしっかりと自分の手に掴んでいます。これからも、更なる高みと理想を夢見て、表現者としても社会人としても愚直に努力してきます。

2024年12月17日 フローリスト

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特別なクリスマスのために

「今からクリスマスデートしよう、愛しい人!」
「……クリスマスは2週間後ですよ愛しい人」
「いや違うんだよ、来たるクリスマスを最っ高に特別なものにするために、私は完璧なプランを考え付いたんだよ」
「ほう。聞こうか」
「クリスマス当日、クリスマスっぽいことは何もしないで、浮ついた世間をけらけら笑いながら、2人でこの部屋でぐっだぐだにトロけてやるの。こんなん逆に特別でしょ」
「……なるほど? そのために今年のクリスマスっぽいことは今日のうちに済ませちまおうと」
「そゆこと」
「……俺、いつも思ってたことがあるんだよ」
「なになに?」
「駅前とかのクリスマス向けのイルミネーションあるじゃん。ひと月くらい前にはもう付き始めてるやつ。あれ、毎年毎年気が早えぇなぁーって思ってたんだけどさ……今回ばっかりは、あれって早くて正解だったんだなって」
「そう来なくっちゃ! どこ行く? あ、プレゼント何欲しい?」
「あー…………有線ヘッドセット」
「くっ……w、ふふっ…………w クリスマスっぽくない……www」
「るっせぇなぁ、今使ってるのが駄目になってきてんだよ。で、そっちは何か欲しい物あんのか?」
「フライヤー!」
「そっちも大概だな!」
「あはは! 電器屋行こう電器屋! じゃ、着替えるから外出てて。女の子の着替えを覗くもんじゃないよー」
「へいへい」

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五行怪異世巡『覚』 その④

山中の道なき道を進む千葉・白神の2人を、杉の木の樹冠近くで1つの人影が眺めていた。
「……何だ、この辺りじゃ見ない顔だと思ったら」
そこに、背後から声がかかる。
「うおっ……何だ、青葉ちゃんに負けて手下になった天狗じゃねッスか」
子どもの姿の天狗に軽口で答えたのは、種枚の弟子、鎌鼬であった。
「おまっ、仮にも大妖怪に向けて無礼だな!? お前こそあの鬼子と古い仲なのに〈木行〉の座を余所の妖怪に奪われた未熟者のくせに!」
「まーまー、細かいことは良いでしょ」
「むぐ……ところで貴様、こんなところで何をしている?」
「いやぁ……ほら、俺って師匠から白神さんの見張り命じられてるわけじゃないッスか。だからこうして出張って来てるわけで。そういう天狗ちゃんこそ、こんなところで何してンスか?」
「ボクはここいらの山間部の妖怪の中じゃ、一応最高位の格だからね。〈金行〉に言われて雑魚共があまり『お痛』をやらかさないように見てやってるのさ」
「へぇ……ま、今日は師匠がいるわけだし、師匠の手の届く範囲なら、俺らの出る幕も無いでしょうね」
「だと良いけどね。それじゃ、ボクは行くよ」
「うーいお互い頑張ろうぜー」
天狗は“隠れ蓑”によって姿を消し、その場から飛び去った。それを見送って、鎌鼬は白神と千葉の姿を探す。枝葉の隙間に、やや離れた2人の姿を発見した鎌鼬少年は、自身の異能によって風に姿を変え、上空からの追跡を再開した。

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五行怪異世巡『覚』 その③

白神さんの方を見上げると、彼女は手足の爪を直径数mはありそうな大樹に突き立てて、その木の幹にくっついていた。と思うと、すぐに地面に飛び降りてしまった。
「千葉さん、大丈夫? 怪我とか無い?」
白神さんが尋ねてくる。その手足は既に人間のそれに戻っていた。
「はい。白神さんが上手く走っていたので。さっきのは種枚さんに受け止めてもらったし」
「そっか、良かったぁ……」
突然、種枚さんが間に入ってきた。
「そんじゃ、ここを中心に手分けして探していくぞ。私はあっちに行くから、お前ら二人で反対側から攻めていけ」
「りょ、了解です」
「分かったー。それじゃ、行こっか千葉さん」
「分かりました」
白神さんと連れ立って、大して整備もされていない山中の細い獣道を進む。頭上の密集した枝葉のおかげか、天気予報で見た気温ほど暑くはない。
「白神さん、大丈夫ですか?」
自分の前方3mほどのところを、生えている草や灌木をかき分けて道を広げながら進む白神さんに声をかけてみる。
「んー? 大丈夫だよ、千葉さん。心配してくれてありがとうね」
「いやまあ、はい……ん?」
白神さんを追っていると、ちょうど左後方から植物をがさがさとかき分けるような物音が聞こえてきた。反射的にそちらを振り向き、うごうごしている藪の動きに注意を向ける。
数秒ほどじっと眺めていると、1頭のイノシシが顔を覗かせた。直後、自分のすぐ脇を放電が通り抜けて、イノシシの足下に直撃する。
「……なーんだ、ただの野生動物だったのかぁ」
白神さんが自分の下に駆け寄ってきた。
「もし悪い妖怪だったらと思って、つい電気使っちゃった。感電してない?」
「あ、それは大丈夫です」
「良かった。ほら、行こう?」
「あっはい」

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御狐神様 キャラクター

・御狐神様(オコミ=サマ)
年齢:外見年齢20歳(実年齢は20歳)  性別:外見上は女  身長:165㎝
とある地方の村落で信仰されていた神様。正確には信仰によって生み出された存在。外見は狐の耳と尻尾が生えた和装の女性。艶やかな色素の薄い茶色の長髪をしている。
信仰心から生まれたために神様という自覚があるので、人間と遭遇した際は努めて尊大な態度で接する。実際の性格はかなり素朴でビビリの小心者。御友神殿(後述)とネズミの天ぷらや果物を食べている時が一番幸せを感じる。果物の好みは甘くて柔らかい果肉のものだが、食肉の好みは小骨の割合が高いネズミの尻尾や小鳥の脚など。
ちなみに料理は結構出来る方。サバイバルも結構出来る方。一緒にキャンプとかしたら滅茶苦茶楽しそう。
神徳は特に無いが、一応神様なので霊感はあるし、大抵の生物や怪異存在は神威でビビらせて動きを止めることができる。何なら弱個体の霊体は神威で祓える。

・御友神殿(ゴユウジン=ドノ)
年齢:50歳  性別:メス  体長:50㎝くらい
オコミ様の友達。お社の中に繋がれているキタキツネ。その正体は御狐神様の本体というか正体。この『ただのキツネ』が祀り上げられて溜まりに溜まった信仰心や畏敬の念が形になったのがオコミ様。オコミ様はお社に一緒に祀られているだけの無関係の別個体だと思っているが、何なら実質的な親まである。
割と年食っているうえ幽閉のストレスも溜まっているので元気が無くて、普段はお社の隅っこで丸くなっている。オコミ様のとってきたネズミや小鳥や果物を食べるのが好き。骨と肉のバランスが良い小動物と、少し酸味のある瑞々しく柔らかい果物が好み。愚かな人間どもは仕留めるのが面倒な生きた鶏とか食べにくい人間の生贄とかばっかり押し付けてくるので嫌い。
元々、かつて豪雨で村の近くの山が土砂崩れを起こした際に、運よく村を避けてくれたのを見に行った村人が、土砂や倒木の隙間に上手い事収まっていて生き残っていた子ギツネを拾って来てそのまま神様に仕立て上げたという出自。
年齢からも分かるように、大量の信仰心を浴びたことで神格化しており、既にただのキツネではない。ただのご長寿キツネである。

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五行怪異世巡『百鬼夜行』 その⑤

「おい付喪神共。そっちの新入りもだ。手が空いているならついて来い」
平坂は札を貼った怪異たちを呼び、自分の後につかせて歩き出す。数m進んだところで、杭の1本を琵琶の付喪神に手渡した。
「それを持ってそこにいろ」
付喪神は弦を震わせながら杭を受け取った。角度を変えて再び歩き出し、次は琴の付喪神に杭を渡す。更に方向を変え、棒人間に杭を渡す。また進行方向を変え、鳴子の付喪神に杭を渡す。
最後に元の位置に戻ってくると、白神は大量の怪異存在に群がられていた。
「…………」
「あ、ヒラサカさん。準備終わったの?」
「ああ。そっちはどうだ」
「あと9人ってところまでは絞り込めたんだけどね?」
白神が指差した先には、全く同じ姿をした9体の“おばけ”が浮いていた。
白く半透明な身体、濁った瞳、足の無い雫型を上下逆にしたような体型。『如何にも』な外見のそれらは、全く同じ姿勢で等間隔でその場に浮遊している。
「…………これはまた、面倒なことになったな」
白神の周囲の怪異たちに札を貼りながら、平坂が呟く。
「そっくり過ぎて困るよねぇ?」
「……まとめて消し飛ばすか」
「それだけは駄目ぇー」
平坂は舌打ちし、神社の方に目を向けた。
「……どうしたものか……」
「ん? 何か良い案でもあるの?」

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! キャラクター紹介①

・木下練音(キノシタ・ネリネ)
年齢:13歳  性別:女  身長:145㎝
ツファルスツァウルの『ロール』の1つ。システムBロール6。黒髪ロングヘアの華奢な少女。黒い和装には金糸で蜘蛛の巣柄の刺繍が施されており、背中の部分は蜘蛛脚展開のために大きく開いている。
背中から大蜘蛛の脚を展開し、攻撃に利用する。だが、真に得意とする領域は、近接武器でさえ邪魔になるほどの『超』接近戦。自身の周囲極めて狭い範囲にのみ展開される蜘蛛糸の防御結界と攻性結界を駆使して相手の動きを阻害し、相手の動きを封じてからチクチク攻める。実は奥の手として射程攻撃もある。
ちなみにマスターの事は「主殿」と呼ぶ。
※メタ的には『忍術バトルRPG シノビガミ』より流派:土蜘蛛のPC。【接近戦攻撃】の指定特技は《異形化》。習得忍法は【鬼影】【雪蟲】【鎌鼬】【糸砦】。奥義の【外法・御霊縛り】の効果は「判定妨害」。基本的には相手の命中判定に-3ペナルティぶち込んだうえで(※1)判定妨害で強制的に失敗にまで引きずり込む(※2)。練音ちゃんは基本的にずっとプロット値3~4に貼り付いている(ファンブル値が3か4)ので、コンボが決まれば相手は勝手に逆凪(※3)に引きずり込まれる。実は別に攻撃役がいた方が活躍できる。
※1:【鬼影】の効果により、相手は自身に対する命中判定に-2のペナルティが入る。また、【雪蟲】の効果によって、同じプロットにいる他のキャラクターは命中判定と回避判定に-1のペナルティが入る。
※2-A:『シノビガミ』の判定は2d6振って5以上なら成功。「判定妨害」は相手のダイス1つの出目を強制的に「1」にする=最大でも相手の2d6の結果は「7」になる。あとは分かるな?
※2-B:『シノビガミ』のルール上、同じプロットにいる奴らの行動は「同時に」行われている扱いなので、逆凪になってももう1人が行動し終わるまでは逆凪の影響は受けないんですが、そこはまあ、ノリ重視で。はい。
※3:『シノビガミ』では戦闘中ファンブルすると、そのラウンドの間あらゆる判定で自動失敗するようになります。これが「逆凪」。先手を取った奴がうっかり逆凪になると、後手の皆さんにボコボコに狙われても回避できなくなる。怖いね。

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! その⑭

「さて」
帰宅後、男は自分の目の前に桐華を正座させた。
「感想戦を、始めます」
「はーい。お説教じゃないんですね」
「お説教じゃなーい。別に叱られるようなことしてないでしょ? まず、実際にやり合ってみてどうだったよ、ナハツェーラーさんは」
「あー……そうだな…………ネリネの方が長く戦ってたし、そっちに訊いた方が良いんじゃ?」
「桐華さんも戦ったでしょうが」
桐華は顎に手を当て、思案する。
「えっとなぁ……これはネリネ側の記憶も混じってるんだけど……そうだな、強いって触れ込みだったにしちゃ、弱かった」
「失礼な。まあ、『最高傑作』であって『最強』とかじゃないからねぇ」
「できることがシンプル過ぎてなー……体術と鎌ブンブンだけじゃん?」
「それに負けかけてたのは桐華さん、どう言い訳するおつもりで?」
「出目が腐った」
「さいで」
「あー、でも【神槍】パクられたのは痛かったなー」
「はい?」
「あいつ、私の【神槍】を見ただけで習得しやがりました。戦いの中で成長するニュータイプだよありゃあ」
「何それ怖い……」
「あとタフすぎる! 私の攻撃だけで1回以上死ねたはずだぞ。何度殺してもあれが死ぬビジョンが見えない!」
「まぁ……それはしゃーない。ナハツェーラーさんだし」
「ナハツェーラーさんだからかぁ……」
「それじゃ……練音ちゃん」
ツファルスツァウルが、『木下練音』に姿を変じる。

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cross over

「トタ、ガムテープとシャーペンの芯も買ってきてよ。」
後ろから聞こえる声に左手で返事をした。右手で重いガラスの扉を開ける。季節は進み、むわっと蒸し暑い空気が押し寄せてきた。空には黒い雲が広がって、今にも雨が降り出しそうだった。今から近くの100均まで向かう。ついでに夕飯の買い物も済ませるつもりだ。いつもの道ー靴屋さんを右に曲がって細い道に入る。早く大通りに出れる僕の秘密の抜け道だ。角を何回か通り過ぎ、右に曲がると大きいスーパーがそびえ立っているのが見える。この抜け道には1個しかない自動販売機。その横のリサイクルボックスの隣には猫が時々群がっていた。自分が飲むための水を買った後に、いそいそと銀のカップを取り出す。水をとくとくと注ぐと、猫は我先にと口をつける。いつもいるものだから水をあげるのが癖になっていた。1匹、2匹、3匹、4匹。…5匹?ここからはよく見えない。少し近づきながら、足のスピードを遅める。自動販売機にはいつもように陽が当たることはなく、存在感を薄めていた。自販機の横に体育座りをしているような人影がある。パーカーのフードを被って顔ははっきりと見えなかった。でも、多分あれは高校生くらいの。(だから、高校生Aとする。)え、だけど昨日はいなかったはずだ。いつも学生と会わないように時間を考えてたのに。慌ててコードが絡まったイヤホンを耳から、外す。ずっと前から使っている黒の帽子のつばをぐいっと下に引っ張った。猫が水を飲む姿をかがんで見つめる。横目で高校生Aを覗くと、目を閉じて眠っているようだった。どうしようかな、と考えているうちに猫は水を飲み終えてカップを舐め回していた。もう慣れてしまった手つきでビニール袋にカップを入れる。ペットボトルの水は半分より多いくらい残っていた。いつものようにリュックサックに入れようとした手を止め、高校生Aの足元に置いた。

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! その⑬

桐華が攻撃に入ろうとしたその時だった。
「ふぅ、ようやく追いついた……っと」
「ナツィいたー!」
「げっ……ピスケス、キヲン」
空気を読まないかの如きタイミングで乱入してきた二人に、一瞬場の空気が凍り付く。
「え、お前何やってるの?」
「あれ、ナツィ怪我してる。なんで?」
「……別に何でも良いだろ」
「…………あー、ボス? やっても良い?」
攻撃の態勢を保ったまま、桐華は隣の男に問いかけた。
「えー……じゃあ奇数が出たらね。……3。ゴー」
「了解ぃっ!」
桐華が咥えた眼鏡を宙に放り上げ、回転運動が発生したそれのレンズが数m先のナツィの姿を映したのと同時に、そのレンズに斬り付ける。
「ひっさぁあつ!」
衝撃によってレンズに亀裂が入り、同時にピスケスとキヲンが鏡像に加わる。
「【鏡刃・乱影断】!」
そのまま刀を振り抜き、レンズが粉砕される。鏡像が破壊されたのと同時に、現実の3人にも刀傷が発生した。
「っ⁉」
「なっ……!」
「わぁっ」
「おっ、入った入った! やっぱ死なないかー!」
「桐華さん、満足した?」
「したした!」
「それじゃ、さらばナハツェーラーさん! 対ありでした!」
男は桐華を小脇に抱え、その場を離脱した。
「痛たたた…………ねぇ、あいつら何だったの?」
ピスケスがナツィに尋ねる。
「知らん。……けど」
「けど?」
「何か、疲れた…………」
「あっそう」

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五行怪異世巡『百鬼夜行』 その③

「……とにかくだ」
平坂は空中に4枚の紙片を投げ上げた。それらは不自然な軌道で四方に飛び散る。
「この中に、白神。貴様の許しを得ていない怪異が紛れ込んでいる。何が狙いか知らんが……“潜龍”の膝元で無法を働こうというなら、容赦はせん」
「う、うおぉ……何これ、力が抜け……」
白神は結界の効力によって膝をついた。
「……む、そうか、貴様も妖怪の類だったな。少し待て」
平坂が懐から1枚の紙製の札を取り出し、白神の額に貼り付ける。
「あだっ」
「本来は人間用だが……霊的現象を遮断する守護の札だ。痛むだろうが動けるようにはなっただろう」
「うん……さてと」
ゆっくりと立ち上がり、白神は膝についた汚れを払った。
「おぉーい、みぃーんなー」
白神が目の前の怪異存在の群れに呼びかける。結界の効力によって地面に這い蹲っていた怪異たちは、各々顔に相当する部位を彼女に向けた。
「今日集まってくれたの、わたしはすっごく嬉しいんだけどね? この中にまだ挨拶が済んでない子がいるみたいなの。怒らないから出ておいでー?」
白神の呼びかけに、怪異たちは蠢いて反応を示す。そのうちの1体、黒い棒人間の頭に1対の白く丸い目がついたような子供程度の背丈の妖怪が這いながら近付いてきた。
「ん? 君、どうしたのかな?」
屈み込んで目線の高さを近付けた白神に、棒人間は蚊の鳴くような声で返答した。
『ゴメ……ァィ……ゥアァ……』
「んー……あ、もしかして君、挨拶がまだ済んでなかった子かな?」
『ゥン……タノシソダタ……』
「そっか。じゃ、今お友達になろ? これでもうわたし達の仲間だね。ヒラサカさん、それで良いよね?」
白神に顔を向けられた平坂は答えを返さず、代わりにその棒人間の頭部に雑に紙の札を貼り付けた。
『アキャァ』

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! その⑫

『桐華』と呼ばれたその使い魔、ツファルスツァウルは、地面に落ちた刀を辛うじて動く左手で拾い上げた。
「それでぇー……ボス? もしかしてこれ……任務失敗強制帰還の流れですかねー……?」
「んー? まあ、フル残機とはいえ、自分の使い魔に死なれると悲しいからねぇ…………そういうわけで、ナハツェーラーさん。今日のところは失礼させていただきます。もうナハツェーラーさんや周りの人を無暗に襲わないよう、こっちでよぉーっく言い聞かせておきますんで、どうかご容赦ください! それでは!」
「なっ、待て!」
「そうですぜボス」
「えっ」
ナツィと桐華から立て続けに制止の言葉が入る。
「こっちの都合でボコされたナハツェーラーさんは良いとして、なんで桐華さんまで?」
「いやぁ? ネリネの【外法・御霊縛り】は見せたのに、私の奥義だけ見せないのはアンフェアじゃない」
「やるの? ナハツェーラーさん死なない?」
「ここまでやって死なないならもう死なないでしょ。それに万が一にも今度戦うことになった時、不公平じゃん?」
「うーむ……まあ良し。それじゃ、ナハツェーラーさん。あと一撃、お付き合いくださいな」
「は?」
桐華とマスターの動向を警戒しながら見つめるナツィの前で、桐華は左手で刀を構えた。
「へいボス、ちょっと私のポケットからコンパクトミラー出して」
「え、やだ……」
「ちぇっ。じゃ……」
桐華は頭を大きく振り、勢いで外れた眼鏡の縁を口で咥えて受け止めた。
「これで良いや」

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! その⑪

ナツィが再び、【神槍】の構えを取る。
(クソッ、断言できる。ナハツェーラーさんの方が速い!)
大鎌が振り下ろされる直前、二者の間に一つの影が飛び込んできた。咄嗟にナツィは動きを止める。
「ちょっ…………と待ったあ!」
「…………誰?」
突如現れたローブ姿の人物にナツィは敵対心を剥き出しにした目を向ける。
「やぁやぁどうもお初にお目にかかります、彼の伝説の大魔術師ヴンダーリッヒの生み出した最高傑作、“夜の蝶”の二つ名を冠するは、異国の吸血鬼の名を戴いた人工精霊にして使い魔ナハツェーラーさん。自分の身内がたいっへんご迷惑をおかけしました!」
その男はフードを脱ぎ、勢い良く頭を下げた。突然の事態に一瞬呆然としたナツィだったが、彼の言葉にすぐに食って掛かる。
「お前が、俺を暗殺するようその使い魔に命じた黒幕か!」
「えっまあそれははい」
平然と頷くその男に、ナツィは大鎌を振り上げて飛びかかった。しかし。
『武器を下ろせ』
男が短く言うと、それに従うかのようにナツィの身体は勝手に動きを止めた。
「⁉」
「うげっごめんなさいつい……けど今は非戦闘イベってことで一つ……」
「……なんでだ」
「ほい?」
「なんで、俺を狙った? 人質まで使って……」
「人質……ってのが何なのかは正直知らないけど…………自分の作ったものが実際どれほどの性能なのかって、確かめてみたくなるもんじゃないっすかね?」
きょとんとした表情で答えたその男に、一瞬呆然としたナツィだったが、すぐに正気を取り戻して食って掛かる。
「……はぁ⁉ そんな下らない理由で!? ってかその使い魔はお前が創ったものじゃないだろ!」
「ん? ぁいや『ツファルスツァウル』じゃなく、『ロール』の方。18個もぶち込んだからなー。結局いくつ使い潰した? 何か桐華さんに姿変わってるけど、練音ちゃんは?」
男がツファルスツァウルに尋ねる。
「まだ1個も死んでないやい。ネリネから選手交代で1発目だよ」
「それは良かった」

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! その⑩

街灯の下から外れ暗闇に紛れた少女の眼光だけが、ナツィを鋭く捉える。
(……奴の戦法。『ネリネ』とはまるで反対だけど……ある意味似てるな。『刀』って得物のくせして一番重い間合いは『遠距離』。同一人物ってのも冗談じゃないのかも……姿を変える魔法とかか?)
「……っ!」
ナツィが接近しようとしたその瞬間、遠距離刺突がナツィの脇腹を深く抉った。
「づッ……!」
「おっ! ようやくハマったなぁ!」
「くっ……そぉっ!」
ナツィは足を止めずそのまま接近し、隙のできた少女の鳩尾に、走る勢いを乗せた拳を叩き込んだ。
「あっ」
威力に吹き飛ばされ、少女は土の上を勢い良く転がった。
「ごぅぉぉぉ……っ、痛ってぇえええ……」
大袈裟に騒ぎながらも、少女は素早く立ち上がり、体勢を整える。その目に映ったのは、独特の姿勢で大鎌を構えるナツィの姿だった。
「たしか…………こうだったか?」
(なっ……こいつ!)
少女が対応するより早く、ナツィが鎌を振るう。その切先は数m先、本来届くはずの無い少女の頬を掠めた。
「ッ、『死地』の域かよ……!」
更に距離を詰めたナツィは大鎌を振るい、少女に袈裟斬りを命中させた。
(痛った……それよりも、さぁ……!)
肉体の損傷により握力を失った少女の手から、刀が抜け落ちる。
(ナハツェーラーさん…………私の【神槍】を見様見真似でパクりやがった!)
「これで、得物はもう使えないな」
「っ……へへ、仰る通りで…………」
ナツィの言葉に、少女は冷や汗を流しながらも努めて不敵な笑みを保ちながら答えた。
(……いや、これはマジにマズい。今の攻撃で体術の手が死んだ。…………っつーか何だよアイツ、おかしいだろ。ネリネと私で2回くらい殺せそうなダメージは入れてるはずだろ? せっかく『ネリネ』から継いだってのにさァ……私が決めなきゃ、格好悪いじゃんねぇ……?)

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! その⑨

「どうした、あんた『伝説』なんだろ? この程度で倒れてくれるなよ、ナハツェーラーさん!」
「倒れるかよ、この程度で……!」
ナツィが距離を詰める。それに合わせて、少女は刀を振り下ろした。
「っ……⁉」
ナツィはその攻撃を大鎌の柄で受け止めたが、少女の動作に違和感を覚え、素早く観察する。振り下ろした姿勢のまま、微動だにしない。
(…………この現象……もしかして、あのネリネって奴に散々やられた……?)
「それな……らっ!」
ナツィの放った蹴りは、少女が回避動作を取る間も無く命中し、数mも後退させる。
「『それ』、そっち側もなるんだ?」
「げッ……ほ、ぇほっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……痛ってェー……!」
少女は体勢を整え、上段の構えでその場に制止する。
「来なよ、ナハツェーラーさん。迎え撃ってやる」
「……そんなら、お望み通り!」
ナツィが駆け出す直前、少女は既に動き出していた。刀1本にて、遠距離に届く刺突の技。しかし、その動きはまたも空中で不自然に停止した。その隙を逃さず、ナツィは大鎌の斬撃を命中させる。ダメージによって少女はよろめき、更に後退する。
「ごッ……ふぅっ、はぁっ、っ、ぐぅぅぅ……完璧な騙し討ちだと思ったのにぃ……」
肩から胸にかけて深く残る傷を撫で、掌にべったりと付着した血糊を眺めながら、少女は溢す。
「……まあ良いや」
そう呟き、少女は再び刀を構える。
「どうせ私はこれ以外の戦い方知らないし」

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! その⑧

日が沈んだことで視界の悪い公園の中を、ナツィは周囲を警戒しながら進む。中ほどまで入った時、背後でかすかな物音が聞こえた。咄嗟に武器を構えながら振り返ると、暗がりの中のベンチに、1人の人影が腰掛けていた。
「やぁ、ゴスロリ美少女。どうした? こんな良い夜にそんな怒り顔で……綺麗な顔が台無しだぞ?」
ハスキーな女声で、その人影は軽快に話しかけてくる。
「…………」
「おっと、もしかしてゴスロリ美少年だったかな? 顔が良すぎて分からなくってさ。間違ってたらすまないね」
人影はゆらりと立ち上がり、周囲を見渡してから少し離れた街灯の明かりの下に進み入った。
その正体は、腰に1振りの日本刀を佩いた、セーラー服姿の長身の少女だった。艶やかな黒髪をポニーテールにまとめた少女は、丸眼鏡越しにナツィを鋭く見据えている。
「へいゴスロリ美少年……美少女?」
「どっちでも良いよ……それじゃ、俺は行くから」
「待ちなってカワイ子ちゃんや。ひょっとして君さぁ……」
少女はナツィに向けて、1枚の光沢紙を投げた。折り目の1つすら付いていないにも拘わらず真っ直ぐナツィの手の中に納まったそれは、笑顔でピースサインを取る練音の写真だった。
「!」
「この子のこと、探してたりしない?」
「お前……あいつのマスターか!」
「んー? どうだろうねー、ビミョーに外れ」
「は……?」
「私はネリネと『同一人物』だよ。そして……」
言いながら、少女は刀を抜く。次の瞬間、ナツィの肩口が切り裂かれていた。
「ネリネと同一人物である以上、目的は『あんたの暗殺』なんだよ、ナハツェーラーさん!」
「くそっ……ツファルスツァウル……!」

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! その⑦

(自己紹介か? 悠長な……)
「“木下練音”は、防御能力に秀でたロールでして。主殿は私が行くと決まった時、『練音ちゃんはハマれば誰にも触れられないからね』って、とっても喜んでくださったんです。何故なら……」
それまで伏し目がちに話していた練音が顔を上げ、ナハツェーラーを真っ直ぐ見据える。
「主殿が私に課したのは、ナハツェーラーさん。『あなたを殺すこと』だから!」
「……何?」
「主殿の命の達成こそ、私の存在意義! そして“私”の役目は『威力偵察』。あなたの実力は掴めました。つまり“私”は『次の一手』に繋げたので!」
練音が不意に、ナツィに背中を向けた。
「……1つアドバイスです。私を逃がさない方が良いですよ。私はナハツェーラーさんの大事なひとを知ってるんですから」
「何を……!」
大鎌で斬りかかったものの、僅かに届かず練音は既に駆け出していた。
(逃げた……⁉ どうする、このまま追うか、いや、かすみの下へ向かった方が確実に護衛できるか……?)
「……そういえばあいつ、『俺を殺すこと』を命じられたって言ってたな。それなら」
練音の走り去った方向へ、ナツィも駆け出す。
(無理に近くにいて危険に晒すより、俺1人で全部片付けた方が良い!)
ひと気の無い宵の入りの街を、ナツィは練音の気配を探りながら駆け続ける。
とある児童公園の前まで走り続けたところで一度立ち止まり、周囲を見渡した。ここまで、練音のものに近い気配は感じられなかったが、目の前の公園の奥から、注意を引く気配を感じるのだ。
「…………ここか。誘ってるのか?」
いつでも大鎌を振り抜けるよう肩に担ぎ、ナツィは公園敷地内に足を踏み入れた。

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! その⑥

「なん……で……⁉」
「あ、危なかった…………まさか、いきなりリソース全部出し切ることになるなんて……」
ナツィの時間が鈍化する。ナツィは攻撃に備え意識を練音に向けたが、反撃が来ることは無く、鈍化は終了する。
(何だ? 攻撃が来なかった……。あの【御霊縛り】って術が大分しつこかったし、その影響か?)
「うぅ……どうしよう……」
目を伏せる練音に釣られて、ナツィが彼女の足下に目をやると、大部分が焼き切れた紙製の札の燃えさしのようなものが2枚落ちていた。
(……2枚? もしかして……)
「さっきの【御霊縛り】、『それ』で当てたな?」
「はい、お察しの通りで……残念ながら、手持ちは全て使い切ってしまいましたけど」
「へぇ? じゃ、もう【御霊縛り】は使えないと思って良いんだ?」
「使いますよ。ナハツェーラーさんなら簡単に凌いじゃうと思いますけど…………」
そして練音は黙り込み、しばらく瞑目してから意を決してゆっくりと話し始めた。
「……ナハツェーラーさん。私、木下練音と名乗りましたね。本当は違うんです」
(……何だ、いきなり?)
練音の行動の意味を理解できず、ナツィは武器を構えたまま練音の言葉の続きを待つ。
「いえ、『私』は木下練音なんですよ? それは間違いなく。けど、“木下練音”は飽くまで、数ある私の『ロール』の1つでして…………。純粋な『使い魔としての私』の名前を教えますね。私は“ツファルスツァウル”。生まれは30年と4か月と14日前。刻まれた術式は、『ロールの実行』と『乱数による能力の上下』。現在の主殿は、私を創った魔術師のお子さんです」