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五行怪異世巡『百鬼夜行』 その⑤

「おい付喪神共。そっちの新入りもだ。手が空いているならついて来い」
平坂は札を貼った怪異たちを呼び、自分の後につかせて歩き出す。数m進んだところで、杭の1本を琵琶の付喪神に手渡した。
「それを持ってそこにいろ」
付喪神は弦を震わせながら杭を受け取った。角度を変えて再び歩き出し、次は琴の付喪神に杭を渡す。更に方向を変え、棒人間に杭を渡す。また進行方向を変え、鳴子の付喪神に杭を渡す。
最後に元の位置に戻ってくると、白神は大量の怪異存在に群がられていた。
「…………」
「あ、ヒラサカさん。準備終わったの?」
「ああ。そっちはどうだ」
「あと9人ってところまでは絞り込めたんだけどね?」
白神が指差した先には、全く同じ姿をした9体の“おばけ”が浮いていた。
白く半透明な身体、濁った瞳、足の無い雫型を上下逆にしたような体型。『如何にも』な外見のそれらは、全く同じ姿勢で等間隔でその場に浮遊している。
「…………これはまた、面倒なことになったな」
白神の周囲の怪異たちに札を貼りながら、平坂が呟く。
「そっくり過ぎて困るよねぇ?」
「……まとめて消し飛ばすか」
「それだけは駄目ぇー」
平坂は舌打ちし、神社の方に目を向けた。
「……どうしたものか……」
「ん? 何か良い案でもあるの?」

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! キャラクター紹介①

・木下練音(キノシタ・ネリネ)
年齢:13歳  性別:女  身長:145㎝
ツファルスツァウルの『ロール』の1つ。システムBロール6。黒髪ロングヘアの華奢な少女。黒い和装には金糸で蜘蛛の巣柄の刺繍が施されており、背中の部分は蜘蛛脚展開のために大きく開いている。
背中から大蜘蛛の脚を展開し、攻撃に利用する。だが、真に得意とする領域は、近接武器でさえ邪魔になるほどの『超』接近戦。自身の周囲極めて狭い範囲にのみ展開される蜘蛛糸の防御結界と攻性結界を駆使して相手の動きを阻害し、相手の動きを封じてからチクチク攻める。実は奥の手として射程攻撃もある。
ちなみにマスターの事は「主殿」と呼ぶ。
※メタ的には『忍術バトルRPG シノビガミ』より流派:土蜘蛛のPC。【接近戦攻撃】の指定特技は《異形化》。習得忍法は【鬼影】【雪蟲】【鎌鼬】【糸砦】。奥義の【外法・御霊縛り】の効果は「判定妨害」。基本的には相手の命中判定に-3ペナルティぶち込んだうえで(※1)判定妨害で強制的に失敗にまで引きずり込む(※2)。練音ちゃんは基本的にずっとプロット値3~4に貼り付いている(ファンブル値が3か4)ので、コンボが決まれば相手は勝手に逆凪(※3)に引きずり込まれる。実は別に攻撃役がいた方が活躍できる。
※1:【鬼影】の効果により、相手は自身に対する命中判定に-2のペナルティが入る。また、【雪蟲】の効果によって、同じプロットにいる他のキャラクターは命中判定と回避判定に-1のペナルティが入る。
※2-A:『シノビガミ』の判定は2d6振って5以上なら成功。「判定妨害」は相手のダイス1つの出目を強制的に「1」にする=最大でも相手の2d6の結果は「7」になる。あとは分かるな?
※2-B:『シノビガミ』のルール上、同じプロットにいる奴らの行動は「同時に」行われている扱いなので、逆凪になってももう1人が行動し終わるまでは逆凪の影響は受けないんですが、そこはまあ、ノリ重視で。はい。
※3:『シノビガミ』では戦闘中ファンブルすると、そのラウンドの間あらゆる判定で自動失敗するようになります。これが「逆凪」。先手を取った奴がうっかり逆凪になると、後手の皆さんにボコボコに狙われても回避できなくなる。怖いね。

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! その⑭

「さて」
帰宅後、男は自分の目の前に桐華を正座させた。
「感想戦を、始めます」
「はーい。お説教じゃないんですね」
「お説教じゃなーい。別に叱られるようなことしてないでしょ? まず、実際にやり合ってみてどうだったよ、ナハツェーラーさんは」
「あー……そうだな…………ネリネの方が長く戦ってたし、そっちに訊いた方が良いんじゃ?」
「桐華さんも戦ったでしょうが」
桐華は顎に手を当て、思案する。
「えっとなぁ……これはネリネ側の記憶も混じってるんだけど……そうだな、強いって触れ込みだったにしちゃ、弱かった」
「失礼な。まあ、『最高傑作』であって『最強』とかじゃないからねぇ」
「できることがシンプル過ぎてなー……体術と鎌ブンブンだけじゃん?」
「それに負けかけてたのは桐華さん、どう言い訳するおつもりで?」
「出目が腐った」
「さいで」
「あー、でも【神槍】パクられたのは痛かったなー」
「はい?」
「あいつ、私の【神槍】を見ただけで習得しやがりました。戦いの中で成長するニュータイプだよありゃあ」
「何それ怖い……」
「あとタフすぎる! 私の攻撃だけで1回以上死ねたはずだぞ。何度殺してもあれが死ぬビジョンが見えない!」
「まぁ……それはしゃーない。ナハツェーラーさんだし」
「ナハツェーラーさんだからかぁ……」
「それじゃ……練音ちゃん」
ツファルスツァウルが、『木下練音』に姿を変じる。

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cross over

「トタ、ガムテープとシャーペンの芯も買ってきてよ。」
後ろから聞こえる声に左手で返事をした。右手で重いガラスの扉を開ける。季節は進み、むわっと蒸し暑い空気が押し寄せてきた。空には黒い雲が広がって、今にも雨が降り出しそうだった。今から近くの100均まで向かう。ついでに夕飯の買い物も済ませるつもりだ。いつもの道ー靴屋さんを右に曲がって細い道に入る。早く大通りに出れる僕の秘密の抜け道だ。角を何回か通り過ぎ、右に曲がると大きいスーパーがそびえ立っているのが見える。この抜け道には1個しかない自動販売機。その横のリサイクルボックスの隣には猫が時々群がっていた。自分が飲むための水を買った後に、いそいそと銀のカップを取り出す。水をとくとくと注ぐと、猫は我先にと口をつける。いつもいるものだから水をあげるのが癖になっていた。1匹、2匹、3匹、4匹。…5匹?ここからはよく見えない。少し近づきながら、足のスピードを遅める。自動販売機にはいつもように陽が当たることはなく、存在感を薄めていた。自販機の横に体育座りをしているような人影がある。パーカーのフードを被って顔ははっきりと見えなかった。でも、多分あれは高校生くらいの。(だから、高校生Aとする。)え、だけど昨日はいなかったはずだ。いつも学生と会わないように時間を考えてたのに。慌ててコードが絡まったイヤホンを耳から、外す。ずっと前から使っている黒の帽子のつばをぐいっと下に引っ張った。猫が水を飲む姿をかがんで見つめる。横目で高校生Aを覗くと、目を閉じて眠っているようだった。どうしようかな、と考えているうちに猫は水を飲み終えてカップを舐め回していた。もう慣れてしまった手つきでビニール袋にカップを入れる。ペットボトルの水は半分より多いくらい残っていた。いつものようにリュックサックに入れようとした手を止め、高校生Aの足元に置いた。

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! その⑬

桐華が攻撃に入ろうとしたその時だった。
「ふぅ、ようやく追いついた……っと」
「ナツィいたー!」
「げっ……ピスケス、キヲン」
空気を読まないかの如きタイミングで乱入してきた二人に、一瞬場の空気が凍り付く。
「え、お前何やってるの?」
「あれ、ナツィ怪我してる。なんで?」
「……別に何でも良いだろ」
「…………あー、ボス? やっても良い?」
攻撃の態勢を保ったまま、桐華は隣の男に問いかけた。
「えー……じゃあ奇数が出たらね。……3。ゴー」
「了解ぃっ!」
桐華が咥えた眼鏡を宙に放り上げ、回転運動が発生したそれのレンズが数m先のナツィの姿を映したのと同時に、そのレンズに斬り付ける。
「ひっさぁあつ!」
衝撃によってレンズに亀裂が入り、同時にピスケスとキヲンが鏡像に加わる。
「【鏡刃・乱影断】!」
そのまま刀を振り抜き、レンズが粉砕される。鏡像が破壊されたのと同時に、現実の3人にも刀傷が発生した。
「っ⁉」
「なっ……!」
「わぁっ」
「おっ、入った入った! やっぱ死なないかー!」
「桐華さん、満足した?」
「したした!」
「それじゃ、さらばナハツェーラーさん! 対ありでした!」
男は桐華を小脇に抱え、その場を離脱した。
「痛たたた…………ねぇ、あいつら何だったの?」
ピスケスがナツィに尋ねる。
「知らん。……けど」
「けど?」
「何か、疲れた…………」
「あっそう」

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五行怪異世巡『百鬼夜行』 その③

「……とにかくだ」
平坂は空中に4枚の紙片を投げ上げた。それらは不自然な軌道で四方に飛び散る。
「この中に、白神。貴様の許しを得ていない怪異が紛れ込んでいる。何が狙いか知らんが……“潜龍”の膝元で無法を働こうというなら、容赦はせん」
「う、うおぉ……何これ、力が抜け……」
白神は結界の効力によって膝をついた。
「……む、そうか、貴様も妖怪の類だったな。少し待て」
平坂が懐から1枚の紙製の札を取り出し、白神の額に貼り付ける。
「あだっ」
「本来は人間用だが……霊的現象を遮断する守護の札だ。痛むだろうが動けるようにはなっただろう」
「うん……さてと」
ゆっくりと立ち上がり、白神は膝についた汚れを払った。
「おぉーい、みぃーんなー」
白神が目の前の怪異存在の群れに呼びかける。結界の効力によって地面に這い蹲っていた怪異たちは、各々顔に相当する部位を彼女に向けた。
「今日集まってくれたの、わたしはすっごく嬉しいんだけどね? この中にまだ挨拶が済んでない子がいるみたいなの。怒らないから出ておいでー?」
白神の呼びかけに、怪異たちは蠢いて反応を示す。そのうちの1体、黒い棒人間の頭に1対の白く丸い目がついたような子供程度の背丈の妖怪が這いながら近付いてきた。
「ん? 君、どうしたのかな?」
屈み込んで目線の高さを近付けた白神に、棒人間は蚊の鳴くような声で返答した。
『ゴメ……ァィ……ゥアァ……』
「んー……あ、もしかして君、挨拶がまだ済んでなかった子かな?」
『ゥン……タノシソダタ……』
「そっか。じゃ、今お友達になろ? これでもうわたし達の仲間だね。ヒラサカさん、それで良いよね?」
白神に顔を向けられた平坂は答えを返さず、代わりにその棒人間の頭部に雑に紙の札を貼り付けた。
『アキャァ』

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! その⑫

『桐華』と呼ばれたその使い魔、ツファルスツァウルは、地面に落ちた刀を辛うじて動く左手で拾い上げた。
「それでぇー……ボス? もしかしてこれ……任務失敗強制帰還の流れですかねー……?」
「んー? まあ、フル残機とはいえ、自分の使い魔に死なれると悲しいからねぇ…………そういうわけで、ナハツェーラーさん。今日のところは失礼させていただきます。もうナハツェーラーさんや周りの人を無暗に襲わないよう、こっちでよぉーっく言い聞かせておきますんで、どうかご容赦ください! それでは!」
「なっ、待て!」
「そうですぜボス」
「えっ」
ナツィと桐華から立て続けに制止の言葉が入る。
「こっちの都合でボコされたナハツェーラーさんは良いとして、なんで桐華さんまで?」
「いやぁ? ネリネの【外法・御霊縛り】は見せたのに、私の奥義だけ見せないのはアンフェアじゃない」
「やるの? ナハツェーラーさん死なない?」
「ここまでやって死なないならもう死なないでしょ。それに万が一にも今度戦うことになった時、不公平じゃん?」
「うーむ……まあ良し。それじゃ、ナハツェーラーさん。あと一撃、お付き合いくださいな」
「は?」
桐華とマスターの動向を警戒しながら見つめるナツィの前で、桐華は左手で刀を構えた。
「へいボス、ちょっと私のポケットからコンパクトミラー出して」
「え、やだ……」
「ちぇっ。じゃ……」
桐華は頭を大きく振り、勢いで外れた眼鏡の縁を口で咥えて受け止めた。
「これで良いや」

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! その⑪

ナツィが再び、【神槍】の構えを取る。
(クソッ、断言できる。ナハツェーラーさんの方が速い!)
大鎌が振り下ろされる直前、二者の間に一つの影が飛び込んできた。咄嗟にナツィは動きを止める。
「ちょっ…………と待ったあ!」
「…………誰?」
突如現れたローブ姿の人物にナツィは敵対心を剥き出しにした目を向ける。
「やぁやぁどうもお初にお目にかかります、彼の伝説の大魔術師ヴンダーリッヒの生み出した最高傑作、“夜の蝶”の二つ名を冠するは、異国の吸血鬼の名を戴いた人工精霊にして使い魔ナハツェーラーさん。自分の身内がたいっへんご迷惑をおかけしました!」
その男はフードを脱ぎ、勢い良く頭を下げた。突然の事態に一瞬呆然としたナツィだったが、彼の言葉にすぐに食って掛かる。
「お前が、俺を暗殺するようその使い魔に命じた黒幕か!」
「えっまあそれははい」
平然と頷くその男に、ナツィは大鎌を振り上げて飛びかかった。しかし。
『武器を下ろせ』
男が短く言うと、それに従うかのようにナツィの身体は勝手に動きを止めた。
「⁉」
「うげっごめんなさいつい……けど今は非戦闘イベってことで一つ……」
「……なんでだ」
「ほい?」
「なんで、俺を狙った? 人質まで使って……」
「人質……ってのが何なのかは正直知らないけど…………自分の作ったものが実際どれほどの性能なのかって、確かめてみたくなるもんじゃないっすかね?」
きょとんとした表情で答えたその男に、一瞬呆然としたナツィだったが、すぐに正気を取り戻して食って掛かる。
「……はぁ⁉ そんな下らない理由で!? ってかその使い魔はお前が創ったものじゃないだろ!」
「ん? ぁいや『ツファルスツァウル』じゃなく、『ロール』の方。18個もぶち込んだからなー。結局いくつ使い潰した? 何か桐華さんに姿変わってるけど、練音ちゃんは?」
男がツファルスツァウルに尋ねる。
「まだ1個も死んでないやい。ネリネから選手交代で1発目だよ」
「それは良かった」

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! その⑩

街灯の下から外れ暗闇に紛れた少女の眼光だけが、ナツィを鋭く捉える。
(……奴の戦法。『ネリネ』とはまるで反対だけど……ある意味似てるな。『刀』って得物のくせして一番重い間合いは『遠距離』。同一人物ってのも冗談じゃないのかも……姿を変える魔法とかか?)
「……っ!」
ナツィが接近しようとしたその瞬間、遠距離刺突がナツィの脇腹を深く抉った。
「づッ……!」
「おっ! ようやくハマったなぁ!」
「くっ……そぉっ!」
ナツィは足を止めずそのまま接近し、隙のできた少女の鳩尾に、走る勢いを乗せた拳を叩き込んだ。
「あっ」
威力に吹き飛ばされ、少女は土の上を勢い良く転がった。
「ごぅぉぉぉ……っ、痛ってぇえええ……」
大袈裟に騒ぎながらも、少女は素早く立ち上がり、体勢を整える。その目に映ったのは、独特の姿勢で大鎌を構えるナツィの姿だった。
「たしか…………こうだったか?」
(なっ……こいつ!)
少女が対応するより早く、ナツィが鎌を振るう。その切先は数m先、本来届くはずの無い少女の頬を掠めた。
「ッ、『死地』の域かよ……!」
更に距離を詰めたナツィは大鎌を振るい、少女に袈裟斬りを命中させた。
(痛った……それよりも、さぁ……!)
肉体の損傷により握力を失った少女の手から、刀が抜け落ちる。
(ナハツェーラーさん…………私の【神槍】を見様見真似でパクりやがった!)
「これで、得物はもう使えないな」
「っ……へへ、仰る通りで…………」
ナツィの言葉に、少女は冷や汗を流しながらも努めて不敵な笑みを保ちながら答えた。
(……いや、これはマジにマズい。今の攻撃で体術の手が死んだ。…………っつーか何だよアイツ、おかしいだろ。ネリネと私で2回くらい殺せそうなダメージは入れてるはずだろ? せっかく『ネリネ』から継いだってのにさァ……私が決めなきゃ、格好悪いじゃんねぇ……?)

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! その⑨

「どうした、あんた『伝説』なんだろ? この程度で倒れてくれるなよ、ナハツェーラーさん!」
「倒れるかよ、この程度で……!」
ナツィが距離を詰める。それに合わせて、少女は刀を振り下ろした。
「っ……⁉」
ナツィはその攻撃を大鎌の柄で受け止めたが、少女の動作に違和感を覚え、素早く観察する。振り下ろした姿勢のまま、微動だにしない。
(…………この現象……もしかして、あのネリネって奴に散々やられた……?)
「それな……らっ!」
ナツィの放った蹴りは、少女が回避動作を取る間も無く命中し、数mも後退させる。
「『それ』、そっち側もなるんだ?」
「げッ……ほ、ぇほっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……痛ってェー……!」
少女は体勢を整え、上段の構えでその場に制止する。
「来なよ、ナハツェーラーさん。迎え撃ってやる」
「……そんなら、お望み通り!」
ナツィが駆け出す直前、少女は既に動き出していた。刀1本にて、遠距離に届く刺突の技。しかし、その動きはまたも空中で不自然に停止した。その隙を逃さず、ナツィは大鎌の斬撃を命中させる。ダメージによって少女はよろめき、更に後退する。
「ごッ……ふぅっ、はぁっ、っ、ぐぅぅぅ……完璧な騙し討ちだと思ったのにぃ……」
肩から胸にかけて深く残る傷を撫で、掌にべったりと付着した血糊を眺めながら、少女は溢す。
「……まあ良いや」
そう呟き、少女は再び刀を構える。
「どうせ私はこれ以外の戦い方知らないし」

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! その⑧

日が沈んだことで視界の悪い公園の中を、ナツィは周囲を警戒しながら進む。中ほどまで入った時、背後でかすかな物音が聞こえた。咄嗟に武器を構えながら振り返ると、暗がりの中のベンチに、1人の人影が腰掛けていた。
「やぁ、ゴスロリ美少女。どうした? こんな良い夜にそんな怒り顔で……綺麗な顔が台無しだぞ?」
ハスキーな女声で、その人影は軽快に話しかけてくる。
「…………」
「おっと、もしかしてゴスロリ美少年だったかな? 顔が良すぎて分からなくってさ。間違ってたらすまないね」
人影はゆらりと立ち上がり、周囲を見渡してから少し離れた街灯の明かりの下に進み入った。
その正体は、腰に1振りの日本刀を佩いた、セーラー服姿の長身の少女だった。艶やかな黒髪をポニーテールにまとめた少女は、丸眼鏡越しにナツィを鋭く見据えている。
「へいゴスロリ美少年……美少女?」
「どっちでも良いよ……それじゃ、俺は行くから」
「待ちなってカワイ子ちゃんや。ひょっとして君さぁ……」
少女はナツィに向けて、1枚の光沢紙を投げた。折り目の1つすら付いていないにも拘わらず真っ直ぐナツィの手の中に納まったそれは、笑顔でピースサインを取る練音の写真だった。
「!」
「この子のこと、探してたりしない?」
「お前……あいつのマスターか!」
「んー? どうだろうねー、ビミョーに外れ」
「は……?」
「私はネリネと『同一人物』だよ。そして……」
言いながら、少女は刀を抜く。次の瞬間、ナツィの肩口が切り裂かれていた。
「ネリネと同一人物である以上、目的は『あんたの暗殺』なんだよ、ナハツェーラーさん!」
「くそっ……ツファルスツァウル……!」

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! その⑦

(自己紹介か? 悠長な……)
「“木下練音”は、防御能力に秀でたロールでして。主殿は私が行くと決まった時、『練音ちゃんはハマれば誰にも触れられないからね』って、とっても喜んでくださったんです。何故なら……」
それまで伏し目がちに話していた練音が顔を上げ、ナハツェーラーを真っ直ぐ見据える。
「主殿が私に課したのは、ナハツェーラーさん。『あなたを殺すこと』だから!」
「……何?」
「主殿の命の達成こそ、私の存在意義! そして“私”の役目は『威力偵察』。あなたの実力は掴めました。つまり“私”は『次の一手』に繋げたので!」
練音が不意に、ナツィに背中を向けた。
「……1つアドバイスです。私を逃がさない方が良いですよ。私はナハツェーラーさんの大事なひとを知ってるんですから」
「何を……!」
大鎌で斬りかかったものの、僅かに届かず練音は既に駆け出していた。
(逃げた……⁉ どうする、このまま追うか、いや、かすみの下へ向かった方が確実に護衛できるか……?)
「……そういえばあいつ、『俺を殺すこと』を命じられたって言ってたな。それなら」
練音の走り去った方向へ、ナツィも駆け出す。
(無理に近くにいて危険に晒すより、俺1人で全部片付けた方が良い!)
ひと気の無い宵の入りの街を、ナツィは練音の気配を探りながら駆け続ける。
とある児童公園の前まで走り続けたところで一度立ち止まり、周囲を見渡した。ここまで、練音のものに近い気配は感じられなかったが、目の前の公園の奥から、注意を引く気配を感じるのだ。
「…………ここか。誘ってるのか?」
いつでも大鎌を振り抜けるよう肩に担ぎ、ナツィは公園敷地内に足を踏み入れた。

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! その⑥

「なん……で……⁉」
「あ、危なかった…………まさか、いきなりリソース全部出し切ることになるなんて……」
ナツィの時間が鈍化する。ナツィは攻撃に備え意識を練音に向けたが、反撃が来ることは無く、鈍化は終了する。
(何だ? 攻撃が来なかった……。あの【御霊縛り】って術が大分しつこかったし、その影響か?)
「うぅ……どうしよう……」
目を伏せる練音に釣られて、ナツィが彼女の足下に目をやると、大部分が焼き切れた紙製の札の燃えさしのようなものが2枚落ちていた。
(……2枚? もしかして……)
「さっきの【御霊縛り】、『それ』で当てたな?」
「はい、お察しの通りで……残念ながら、手持ちは全て使い切ってしまいましたけど」
「へぇ? じゃ、もう【御霊縛り】は使えないと思って良いんだ?」
「使いますよ。ナハツェーラーさんなら簡単に凌いじゃうと思いますけど…………」
そして練音は黙り込み、しばらく瞑目してから意を決してゆっくりと話し始めた。
「……ナハツェーラーさん。私、木下練音と名乗りましたね。本当は違うんです」
(……何だ、いきなり?)
練音の行動の意味を理解できず、ナツィは武器を構えたまま練音の言葉の続きを待つ。
「いえ、『私』は木下練音なんですよ? それは間違いなく。けど、“木下練音”は飽くまで、数ある私の『ロール』の1つでして…………。純粋な『使い魔としての私』の名前を教えますね。私は“ツファルスツァウル”。生まれは30年と4か月と14日前。刻まれた術式は、『ロールの実行』と『乱数による能力の上下』。現在の主殿は、私を創った魔術師のお子さんです」

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! その⑤

再び、ナツィは約1.5mの距離を取り、大鎌を構える。
(…………当たり前だけど……長物の強みは『射程』。これを忘れるな。こいつの蜘蛛脚はたしかに見た目こそ恐ろしいが、実際はかなり軽量で打撃の威力も大した事無い。むしろ素手での格闘の方が重いまである。糸の防御、糸の攻撃はどちらも踏み込んだ時のカウンター用らしい。『超』近距離の範囲じゃ、あの武器として使われている蜘蛛脚ですら、こいつにとっては邪魔なんだ。…………頑なに、この距離を保って、大鎌を当て続ける!)
薙ぎ払い。石突近くを持って放たれたその攻撃は、練音を深く捉え、実体に到達した。
「わぁっ!」
「届いたな」
練音は直撃の瞬間、辛うじて刃と身体の間に蜘蛛脚を滑り込ませ、盾代わりにした。しかし、威力を完全には殺せず、薙ぐ勢いのまま弾き飛ばされる。
「うぅっ……けほっ、あぅぅっ…………参ったな…………うん」
蜘蛛脚を利用して立ち上がり、練音は懐を探る。やがて目当てのものを発見し、若干手間取りながらも取り出した。
「あのぉ…………最初に私、本気でやるって言ったじゃないですか」
「……? 何だ突然……」
「あれは嘘でした。まだ出せます。ちょっとここから、本当の本当に本気で、全力で、あるものとできる事100%ぶち込んで、戦おうと思います!」
「……何なんだ突然」
練音が先程ポケットから取り出した小さな物体を真上に放り投げ、蜘蛛脚による攻撃を放つ。ナツィはそれを大鎌の柄で受け流し、カウンターとして斬り上げる。
「っ! 【外法・御霊縛り】!」
「その術、やっぱり技名言わなきゃ駄目なんだ?」
ナツィは背後から迫る腕を視線も向けずに回避し、そのまま攻撃を続ける。しかし。
「…………ッ⁉」
回避したはずの腕は更に追いすがる。攻撃の軌道を僅かに変え、自身の周囲をまとめて斬り払うようにして腕に対処し、勢いのままに練音を狙った。はずだった。
「ぐぁっ……⁉」
刃が練音の首に届く寸前、その動きが止まる。先ほど振り払ったはずの腕の呪いが、いつの間にかナツィの全身に絡みついていたのだ。

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! その③

「っ…………」
「ナハツェーラーさんっ、どうですか? 痛いですか?」
表情を輝かせて問いかける練音に、ナツィは不敵な笑みを返した。
「いいや、全然。始めようか、第4ラウンド」
「! ……はい、胸をお借りする気持ちで、行かせてもらいます!」
ある種の武術のそれに近い構えを取った練音に、ナツィは1歩ずつゆったりと接近し、およそ2m弱離れた地点で立ち止まり、大鎌を構えた。
「……!」
「流石にあれだけ打ち合えば分かるよ。ここだろ、『お前の1番苦手な距離』。その蜘蛛脚の見た目で騙されてたけど……お前の『糸の防御』、あれは超近距離にしか張れないんだろ」
「……正解です」
「だから、この距離。俺の刃は、お前に届くぞ」
「……私の武器も、十分届きますよ!」
ナツィが斬撃を放つ。
「っ! 【外法・御霊縛り】!」
「その魔法も、もう知ってる!」
ナツィは大きく踏み込み、無数の腕の拘束を回避しながら練音に斬りつけた。
「きゃぁっ」
「ようやく入ったか……どうだ? 俺の強さは」
「お、思った通りです。とってもお強い…………ところでナハツェーラーさん。ご存じですか?」
「…………?」
練音の言葉の意味を察するより早く、ナツィの手足に多数の切り傷が開いた。
「なっ……⁉」
「『糸』、って…………ぴんっと張ると『刃物』になるんですよ? 懐に飛び込んできてくれて助かりました」
「つくづく……近距離型か……!」

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五行怪異世巡『肝試し』 その⑬

(そうか、そういえばカオルの姿を見せたのってメイさんくらいか……今出れる?)
(力不足かなぁ)
カオルの返答に青葉はしばらく考え込み、千ユリに手招きした。
「あン?」
「千ユリ。適当に攻撃くれる?」
「…………“野武士”」
武者の霊の放った斬撃を、青葉の背後から伸びてきた機械人形風の左腕が受け止める。
「えっと……紹介します。〈薫風〉の付喪神、カオルです」
「ワタシの可愛い青葉ぁ……こういう呼び方はあんまり感心しないなぁ……」
背中から覆い被さるように出現したカオルの上半身に、他3人の注目が集まる。
「彼女は私に降りかかる霊障などを吸収してくれるようでして……」
「へェ?」
青葉の説明に、種枚が楽しそうに反応した。
「……何さ。あんたは『ただの人間』みたいだから良いけど……じろじろ見られるのってあんまり気持ちの良いものじゃないんだけど?」
「あン? そりゃ失敬。しかしまァ、私が人間と分かってくれるたァ嬉しいねェ」
からからと笑いながら近付き、種枚は青葉の両肩に手を置いた。
「しかしまァ、君も随分と面白くなってきてるじゃないか。身内に引き込んだのは正解だったよ。これからも精進しタマエ」
「え? えっと、まあ、はい……」

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我流造物創作:邪魔者と痩せ雀 キャラクター③

・向田ワカバ
年齢::22歳  性別:女  身長:166㎝
玄龍大学4年生。“アルベド”の研究内容に感銘を受け、「助手」を自称して日々研究室を冷やかしている。魔術師としての腕は極めて優秀で、「仮想の無限空間を展開する」という、所謂結界術を最も得意としている。この術式はアルベドの研究の際にとても役立っているので、アルベドは結構感謝している。
どうでも良いけど、卒論のテーマは『工業史におけるエネルギー効率の変化の経緯』。
※ワカバの魔法:「無限空間」とはいうが、厳密には完全な無限では無い。デフォルトの結界の内装は電脳的ポリゴン空間のようであり、範囲はおおよそ3000㎞立方程度。手帳のページ1枚1枚に刻んだ術式それぞれに、外観の追加要素と無限遠(これも厳密には無限ではなく、デフォルトと同じ3000㎞立方程度)が付与されており、結界の展開時に同時に消費することで、要素を無限空間に追加できる。ちなみに空間範囲は何故か乗算される。つまり追加要素1つごとに1辺当たり「×3000㎞」される。空間内のどのポイントに出現するかは対象1つごとに個別で選択できる。「全対象の現在の相対位置を保持したまま転移させる」のが一番楽で低コストではある。

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! その②

ナツィの振り抜いた大鎌の刃を、練音は後方に跳んで回避する。
「良かったぁ、どう脅そうかって悩んでたんですよねぇ。私だったらお友達を人質に取られるの嫌だなぁ、って思ったから試してみたら大成功! 反応からしてクリティカル引いちゃいましたかね? まぁとにかく。せっかくナハツェーラーさんが本気を出してくれたようなので」
練音の背中から、2対4本の大蜘蛛の脚が展開される。
「こっちもしっかり、『本気で』いかせてもらいますよ!」
「……やっぱり、どこかの使い魔か」
先に動き出したのはナツィだった。背中に蝙蝠の翼を展開し、超高速で距離を詰めて大鎌を振るう。しかし、その攻撃は空中で一瞬減速し、僅かに練音に届かない。
(何だ? 今の感覚……何かに引っかかったみたいな)
練音が蜘蛛脚で放った反撃を飛び上がって回避し、ナツィは目を凝らす。そして、空中で光を反射した細い糸のようなものを確認し、鎌を投擲する。
「うわぁっ」
「……なるほど。蜘蛛脚に蜘蛛糸。タネが割れれば何の面白みも無い……」
「え、えへへ……バレちゃいましたか。クモさんですよぉ……」
ナツィは再び大鎌を生成し、距離を詰める。空間内に展開された極めて細い蜘蛛糸は回転斬りによって切断され、ナツィを拘束するには至らない。
(これで……)
「終わりっ」
大鎌が練音を捉え、斬り裂いた。その姿は幻影のように溶けて消える。
「っ⁉」
「そいっ」
再び放たれた蜘蛛脚の攻撃を、ナツィは大鎌の柄で受け止めた。
「……なんで生きてる?」
「そりゃまぁ……まだ殺されてないからじゃないですかね?」
「それなら……死ぬまで殺すだけだ!」
蜘蛛脚が離れた瞬間、ナツィはカウンターの斬撃を放つ。その攻撃は再び幻影を切り裂き、それと同時にナツィの動きが不自然に停止した。

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我流造物創作:邪魔者と痩せ雀 キャラクター②

・おネコ
身長:130㎝  人格:ネコ寄り  武器:艦載光子砲
アルベドの製作した使い魔。外見は耳がネコのものになりネコの尾が生えた栗毛のショートヘアの子ども。言動はネコ寄り。ワカバさんは『娘』扱いしているので、女性寄りなのかもしれない。アルベドが得意とする多重立体術式を使うことができる。というかそれ以外能が無い。使用する武器も飽くまで術式の『演出』の範疇であり、一連の全ては1つのプログラムの一部でしかない。燃費が悪いので、普段は日の当たる場所か涼しい場所か親しい人間の頭の上で丸くなって寝ている。才能ナメクジのアルベドが創り出した唯一の使い魔。
※おネコに刻まれた多重立体術式:「術者を中心とした旋風の発生」「術者を中心とした電光の発生」「魔力の全方位への放出」「重力と逆ベクトルのエネルギーの発生」「武器の展開」「武器の強化の実行権獲得」「光線の射出」「光線の集光率に対する操作権獲得」「光線に対する破壊力付与権限獲得」「破壊力付与の偏向性に対する操作権獲得」という10種類の魔法を実行するための術式を組み合わせたもの。これらが上から順番に発動し、起動から実行完了まで15秒ほどかかる。

・おスズ
身長:128㎝  人格:ほぼ無い  武器:なし
アルベドを襲撃してきた使い魔。極度の痩身で、両脚の膝から下は猛禽のそれに変じており、背中からは痩せた茶色の鳥の翼が生えている。服装は白いノースリーブのワンピース。微妙に薄汚い。生み出した魔術師は既に死亡しており、アルベドに恨みを持つ魔術師が魔力供給を担う魔道具(紫水晶球)を所持し、暗殺命令を出していた。自我が希薄で、命令を実行するために都合の良い人格を演じることには長けているが、『素』を出そうとすると『本当の自分』を表出する経験の不足から、情緒が幼児以下になる。刻み込まれた術式は「物質の変形」。肉体の一部(多くは足の爪)を変形させ、武器とする。
ちなみに名前はアルベドが付けた。スズメのスズ。
※おスズの魔法:自身の肉体のみを対象とする制限はあるものの、極めて精密に自身の形状や性質を変形させる。分子単位で変形操作を適用し、振動数を調整することで、高温化・低温化も可能。なお、肉体の総量は変わらないので、大きくなったり小さくなったりということは基本的に不可能。密度を調節すれば出来ないことも無い。

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五行怪異世巡『肝試し』 その⑫

翌日、3人から事の顛末を聞いた種枚は、からからと笑って千ユリに声を掛けた。
「おい千ユリィ、その捕まえたって悪霊見せてみろよ」
「んー……アイツ扱いにくいからそんな出したくないんだけど……“朽縄”」
千ユリが指鉄砲を虚空に向けると、高速で伸びる腕が現れ、種枚に迫った。彼女はそれを最小限の動きで回避し、掴もうとして“草分”に止められた。
「だっ……かぁらぁっ! 触んなっつってんでしょうがぁっ!」
「いやはははゴメンヨ」
「もう消す!」
“朽縄”は消滅し、それと同時に無数の腕の拘束も解除された。
「けど青葉ちゃん、本当に強かったなぁ。トドメ刺す動きなんか人間やめてたでしょ」
「ん? あぁ……」
犬神の言葉に、青葉は昨夜の戦闘を思い返す。
“野武士”の攻撃で弾き飛ばされ、彼女が飛んでいった先は、朽ちかけた社の屋根瓦の上だった。そこから強く踏み切り、落下の勢いも合わせ、今や“朽縄”の名がついた悪霊の頚部に斬りつける。
そこでとどめを刺し損ね、“朽縄”の反撃を受けそうになっていたところをやや乱暴な形で守ったのは、犬神の力で発生した土柱。吹き飛ばされながらも空中で態勢を整え、壁面に着地し、そのまま地面には降りずに土柱を足場として跳躍しながら再び背後に回り込み、遂にその首を刎ねることに成功したのだった。
「あれは……私自身よく分かってなくて。カオルも教えてくれないし……」
「カオル……って誰?」
「え……あっ」
犬神の疑問に青葉は気付いた。自ら姿を現わした白神との一件を除き、カオルについて、特に他人に報告するような機会は無かった。

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我流造物創作:邪魔者と痩せ雀 キャラクター①

・“アルベド”
年齢:25歳  性別:男  身長:170㎝
“学会”所属の魔術師。魔法の才能はほぼ無い。「多重立体術式」を唯一の特技としている。性格と実力・実績から“学会”ではあまり良い目では見られておらず、普段は玄龍大学の地下にある研究室で低燃費高効率の魔法術式の開発に勤しんでいる。
ちなみに通り名である“アルベド”は、“学会”から良い目で見られていない自分の立場を察した彼自身が「ちょっとしたユーモア」で『アルベド(ミカンに付いてるちょっと邪魔な白い筋)』と名乗った結果、何故か広まったもの。
※アルベドの魔法【多重立体術式】:アルベドが発明した術式形態。才能の無いアルベドが自分の能力で少しでも高い威力に『見せかける』ための技術。
通常ならば平面の簡単な魔法陣で展開可能な魔術を、敢えて難易度の高い魔術に要求される立体術式に変換し、更にそれを複数個パズルのように組み合わせ、1つの術式として構築するというもの。その複雑な術式の形状は外見的威圧力をもちながら、構成する一つ一つが起こす現象自体は大したものでは無く、しかして立体術式ゆえの魔術容量によって通常の1.3倍程度の出力効率を実現している。
術式構築のためには、各魔術の術式全てを『同時に』構築していかなければならない。立体術式を一つ一つ描いてから組み合わせるのは構造的に不可能なためである。
アルベドは基本的に5種以上の術式を組み合わせるので、1つ製作するだけでほぼノンストップの数十時間を要する(最も使い慣れているものについては、書き慣れて半日もかからないようになった)。やっていることは人間3Dプリンターだが、構築の段階で術式の発動順や発動タイミングも細かく設定する必要があるので、現状手作業以外での構築はできない。
弱点はまず、術式への負担が大きいために、使用の度に最低でも20時間以上のクールタイムが発生する点。アルベドはこれを大量にストックしてあたかも通常攻撃のようにぽこぽこ使うので、クールタイムの弱点については未だにバレていない。次に、1度術式を起動すると一連の流れを完了させるまで中断も終了もできず、発動順も固定されている点。

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五行怪異世巡『肝試し』 その⑪

どす黒い液体をまき散らしながら、悪霊の頭部は地面を転がる。そこに悠然と歩み寄って来た千ユリを悪霊は睨み、口を僅かに開いて舌を伸ばしてきた。
しかしそれは、千ユリが指鉄砲の要領で立てた右手の人差し指に触れると同時に硬直する。
「ふぅーー……だいぶ暴れられたけど、よぉーやくとッ捕まえられる程度に弱ってくれたな? これからアタシの下僕になるわけだけど、どんな名前が欲しい? ぁいやお前の希望なんて聞く気無いんだけどさ。そうだなぁ…………あぁ思いついた。ゴキゴキ伸びてる時の様子やその気持ち悪いツラのヘビっぽさ。今日からお前の名前は」
悪霊の頭部と立ち尽くしたままの胴体が少しずつ煙のように分解され、加速しつつ千ユリの指に吸い込まれていく。
「……“朽縄”だ」
悪霊“朽縄”の身体が完全に消えると同時に、周囲の不浄な雰囲気は消え、代わりに自然な木々のざわめきが静かに響き始めた。
「……終わったぁ…………」
気が抜けたようにその場に座り込んだ千ユリに、青葉が近付いてくる。
「千ユリ、お疲れ」
差し出された右手を取ろうとして、チユリの手が止まる。
「そっちの手ぇ出さないでよ」
「え?」
「なぁーんで好き好んで皮膚ズル剥けた手ぇ取らなきゃなんねーのよ」
「……あー…………あ、マズい……ちょっと身体が痛みを思い出してきた」
「……クソっ。ちょっと悪霊使うけど、抵抗しないでよ?」
“野武士”の刀が、青葉の右手首を通過する。
「…………? 待って何か右手の感覚が無くなったんだけど?」
「アタシの“野武士”は魂のダメージを肉体に誤認させる。あんたの魂は今、右手首より先を切断されてるの。そりゃぁそこより先をどれだけひどく怪我してようが気にならないでしょ。まぁ、しばらく休んで魂の消耗が癒えれば元通りだから、さっさと手当てしてよ?」

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我流造物創作:無我と痩せ雀 その⑥

「まぁ……それについちゃどうでも良いんだ。問題はテメエだクソガキ」
アルベドが右手を前方に掲げると、おネコに刻まれていたものに似た形状の立体術式が出現した。
「そっちが先に手ぇ出してきたんだ。やり返されても文句は無ェよな?」
「えっ、い、いや待っ、お、おい! 助け」
「遅せェ」
術式から、細い光線が放たれる。青年が咄嗟に展開した魔法障壁にそれは弾かれるが、アルベドは既に2撃目の射撃準備を整えていた。
「はーいドーン」
先程より太い光線が、再び青年を襲う。先ほどより広く展開した魔法障壁によって防御しようとした青年だったが、その障壁は光線が直撃したのとほぼ同時に粉砕され、そのまま青年に命中した。
「…………死んだか?」
「虚仮威しだったのでは?」
「ここまで細めりゃ威力持たすくらいは出来ンだよ」
ワカバが青年の傍に屈み込み、様子を確認する。
「……あ、呼吸してる。生きてますね」
「そりゃ良かった。ああそうだ」
「はい?」
顔を上げたワカバに、アルベドは紫水晶球を放り投げた。慌てて受け止めたワカバの横をすり抜け、アルベドは自身の研究室に引き返し始めた。
「え、ま、待ってくださいよ! 何なんですかこれ!」
後を追いながらワカバが尋ねる。
「おスズの魔力源」
「えっと、おス……?」
「あの鳥脚」
「! 名前、付けてあげたんですね!」
「違っげーよ。個体識別用の勝手な呼称だ。名前はそっちで勝手に決めろ」