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ユーラシア大陸縦横断旅32〜ペテルブルグの夜明け-

午前5時、降りしきる雨の音で目が覚める
カーテンを開けて外を見ると、雨で視界が真っ白になる中建物の灯りだけが黄色く輝いている
まるで,早朝のイルミネーションだ
ロシアと言えば、言わずもがな紅茶文化圏だ
それ故、このホテルの部屋にも給湯器とティーバッグがある
冷蔵庫には無料と書かれた袋の中に使い捨て容器に入ったジャムがある
日が昇り切るまでに急いで給湯器でお湯を沸かして,紅茶を淹れる
雨の音、愛しの彼女の寝息、街明かり、東の空の色
この全てが織りなすハーモニーはロシアの伝統に近いスタイルで頂く紅茶の味を引き立たせてくれる
「おはよう。今何時?」彼女が眠そうに目を擦りながらそう訊く
「おはよう。起こしちゃったかな?今、朝の5時半だよ」
「え?5時半?そんなに早いならもうちょっと寝たかったなぁ…って、外の景色、綺麗だね」「そうだな。タワーブリッジを渡る二階建てバスの二階席から見たロンドンの街並みを思い出すよ。あの時もこんな風に雨の音が聞こえたんだ。」
「そっか…ロンドンもペテルブルグも,貴族の街で太い川が流れてるんだよね。ロンドン、憧れの街なんだ」
そんなやり取りをして、彼女もおもむろにカップを手に取り紅茶を淹れて飲む
隣の部屋のテレビから俺が昔元カノと付き合ってた頃によく歌っていた思い出の歌が流れてきた
時計を見れば午前6時だ
窓を開けるとひんやりとした風と雨の音が部屋に入り込む
そして、「さあ、行こうか」
「それ、俺のセリフや!」そう言って2人顔を見合わせて笑う
荷物を持って外に出ると、空にはネヴァ川を覆うように虹がかかっていた

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復讐代行〜第22話 混沌〜

「企む?どうして?それに私は、青路じゃないよ?」
「お互い、隠し事はなしにしないか?」
“隠し事”
「隠すも何も、私は私だよ?誤送信じゃない?」
「間違ってないよ、喪黒闇子の姿をした桐谷青路に送ってるんだから」
“姿”
「どういうこと?」
そう送りかけたその指は送信ボタンの下、削除ボタンを連打した。

なんて返すのが正解?
まずどこからバレた?
闇子自身か?
いや、この事実を晒すメリットはないはず…

思考はどんどん自分を孤独に追い込んだ。逃げ込むようにスマホを握ったまま布団に潜り込む。
おそらく闇子の方の癖だろう。
サテンの布団が全身を包み込んだ。
違和感が、皮肉にも孤独を埋めていく。
“いっそこのまま…”
思考の到達を妨げるように現実のバイブが布団全体に響く。
「もし、青路が望むなら俺はお前の力になる」
これは罠なのか、それとも確信を持った上での言葉なのか、はっきりとは分からない。それでも今、ここで彼を頼るべきか…
出した答えは否だった。
「嬉しいよ、ほんとに私が桐谷君だったらどんなに良かったか…」
既読はすぐについた。
しかし先程までより返信に時間がかかっている。
仮説が間違っていることに当惑しているのだろう。突拍子もなければ証拠は何もない。ここまで本人にとぼけられたら当然だ。
「わかった。困ったらいつでも言ってくれ、俺はお前を信じてる。」
寒いくらいわざとらしい言葉だ。
橘らしいと言えばらしいのだが、今はそれだけじゃなく感じる。
このまま…橘に…守ってもら…
そのことばが浮かんだ瞬間、かぶりを振った。
まただ…闇子の体の部分が…俺の感情や理性を越えてくる瞬間。やはりこの体に心を許してはならない。

俺はやっぱり桐谷青路として、喪黒闇子を演じきるんだ。そしてやつの復讐を止める。
「ありがとう。なら頼めるかな?俺の復讐代行を」

to be continued…

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薔女造物茶会 あとがき

どうも、テトモンよ永遠に!です。
書くって言ったので、「薔女造物茶会」のあとがきです。
お気付きの方もいると思われますが、この物語は2021年11月~12月に投稿した「緋い魔女」の続編…というか、「緋い魔女」を前日譚とする物語です。
高1の秋に思いついたオリジナルキャラクターをベースにした物語を、今回思い切ってアウトプットすることにしました。
いかがでしょうか?

今回はまだ第1話みたいなものなので、キャラクター紹介に留まってしまいました。
とりあえず、これからこの物語をシリーズ化して時折まとめて投稿するつもりでいます。
タイトルは「造物茶会シリーズ」とでも言いましょうか。
ちなみに各エピソードのタイトルは基本的に「○○造物茶会」で統一する予定です。
もちろん「ハブ ア ウィル ―異能力者たち―」の投稿を優先しますよ。
「ハブ ア ウィル」の書き溜めが尽きた時に投稿する調子でいます。

では今回はこれくらいにして。
キャラ紹介は…また今度でいいかな。
あ、そうそう、「ハブ ア ウィル」の最新エピソードは現在鋭意製作中です。
エピソードが完成するしないに関わらず、今月中に投稿し始めるつもりでいます。

…それではこの辺で。
テトモンよ永遠に!でした~

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思い出の鉄道は、数年の時を経て蘇る

ここはデンマーク、コペンハーゲン中央駅
スーツケースを持って俺と弟と母が横並びに3人、ここから出るハンブルク行きICE列車を待っている「本当に、列車ごと船に乗り込むの?」「そうだよ。かつて日本で、本州と北海道を結んだルートに準えてドイツの青函連絡船って呼ばれてるよ。俺、一度は乗ってみたかったから楽しみだなぁ」そんな話に「2人とも、今日の景色は一生に一度きりかもしれないから、よく目に焼き付けてね」と母親が言う。
そして、親子3人を乗せた特急はこの旅のメインルート,大ベルト海峡の航路、いわゆる渡り鳥ルートを過ぎてハンブルクに着いた。
親子の旅はまだまだ続き、場面は変わってオランダのアムステルダム中央駅
「まるで東京駅だ。東京が恋しいなぁ」そう呟く俺の声は母の耳に届いたようだ「ベルギーではハズレだったけど、こっちには美味しいと評判の和食屋があるから、寝台列車までの時間で食べに行こうか」そんなたわいもない会話を経て一家はCNLペガスス号のアムステルダム発チューリヒ行き寝台特急に乗り込んだ。
それから数時間,オランダのユトレヒトも、ドイツのアーヘンもボンも過ぎてスイスのバーゼル付近を走行中、俺は電車酔いに悩まされ、宿泊地のグリンデルバルトで体調を治してスイスの旅を楽しんだ
それから数ヶ月後、このドイツを中心に走るCNL寝台列車が全系統廃止された。その3年後、今度はコペンハーゲンとハンブルクを直線的に結ぶ渡り鳥ルートが廃止になった。
渡り鳥ルート休止の2年後に当たる2021年12月,名前をナイトジェットと変えてオランダ〜スイス間の寝台列車が復活した。
そして2022年現在、かつての渡り鳥ルートを船を介さずに結ぶ橋やトンネルの建設が進められており、ドイツからのICやICEが走る日も近いそうだ。
俺たち兄弟の思い出を乗せた列車は名前を変え、車両を変え、ヨーロッパを巡る旅人を乗せて新たな時代のヨーロッパを駆け抜けてゆけ!

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復讐代行〜第19話 帰宅〜

断り方が分からず、連絡先をの交換を丸め込まれてしまった。これで先の件を早急に解決する理由を失った橘達は時間を置くことを提案してきた。
クラスでの不協和音を思えば正しい判断だ。
“俺”は抵抗しようとしたが、さすがに言い出せなかった様子だ。
2人に送られる形で帰路についた。
闇子の家に着くなり、俺は体を布団に投げ出した。
昨日見た母親はいなかった。
未だ慣れないサテン生地でフリルだらけのベット
落ち着かない…
赤黒く統一された禍々しい部屋は昨日見たよりも闇子の心の闇を感じさせた。
このベットで寝る気にもなれないが、スマホを見るのも余計なことを考えそうで避けた。
いつ彼からメールが来るか、正直怖いのだ。
メールの何がまずいって、客観的に自分が闇子であることを意識できないことだ。
もっと詳しく言えばメール上の「闇子らしさ」を俺は知らないからボロが出かねない…
いや、この部屋のイメージに沿えば「闇子らしさ」は出るのかもしれないが…
「しかし…」
世に言う地雷系というものなのか、ゴスロリなのか、細かい定義が分からないがこのインテリアを見ているだけで闇子の闇に心を喰われそうだ…
肌に擦れるサテンの違和感だけが自分が闇子じゃないと証明してくれた。

しかしなぜ…?“俺”は初日にしてこんな鬼門を選んだのだろうか、いや、理屈では理解できるが…
理解できる故に、信じたくなかった。
最も恐れていた、そして最も有り得ないと高を括っていたこと…

『闇子を餌に「崩壊」という結果を得る』
その切り札を切られたとしたら…それは同時に体を取り返す手段が無くなったことを意味する。
「ハナから闇子はこの体の精算も果たすつもりだったんだろうな」
そう思うとなぜかサテンのベットで寝るのも悪くは感じなかった。

寝てどれくらい時間が経っただろうか…
思えばこの体になってからきちんと休まることはなかったっけ…
そう思いながら癖でスマホを探した。
スマホの画面は19:28分を示していた。
思ったほど時間が経っていないことにはさほど驚かない。
何せ、通知画面のメールの方が驚きだからだ。
「なぁ青路、お前は今何を企んでる?」

to be continued…

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ツギハギにアイを。

つけっ放しのラジオが午後6時を告げる。直後、あの子が部屋に入って来た。いつものことだ。
通学鞄をベッドに放り投げ、あの子はおもむろに裁ち鋏を取り出した。裁縫が好きなあの子にとってはよくあることだ。
そしてそのまま、ぼくの方へ歩いて来た。裁縫道具を持ったまま部屋の中を歩き回るのも、よくあることだ。
そして、ぼくを持ち上げた。ぼくはあの子のお気に入りだから、これもよくあることだ。
そしてあの子は裁ち鋏を開き、ぼくの首を勢い良く切り始めた。これは初めてのことだ。
あの子はぱっくり開いた傷口から新品の綿を詰め込み始めた。ぼくの解れを直してくれるのも、昔からよくあることだ。
すかすかになっていたぼくの中身を埋めたあの子は、ぼくの毛色にそっくりな茶色い糸で傷口を縫い付け、『いつもの場所』にぼくをそっと置いた。
そろそろ終われると思っていたのに、また「穢」を貰ってしまった。
元々のぼくはもう、毛皮の7割と目玉くらいしか残っていないけど、それでもぼくはあの子を見守り続けよう。あの子の「愛」で引き伸ばされた、終わりまでの数か月か数年か。ぼくには何もできないけれど、ただあの子のために捧げるつもりだ。