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鉄路の魔女 〜Megalopolitan Witches. Act 9

「嫌よ」
オレンジはにやりと笑うと刀で押し返してスカーレットの鎌を弾いた。
「っ!」
スカーレットはバランスを崩して後ろに倒れるが、その最中にスカイ、グリーン‼︎と叫んだ。
後方に控えていた2人はそれぞれ打刀と太刀を携えてオレンジの前に躍り出る。そのままスカイとグリーンはスカーレットに斬りかかろうとしていたオレンジの刀を受け止める。オレンジはまた後方に飛び退く。しかし息つく間もなくスカーレットが鎌を構えて飛びかかった。
「‼︎」
姉妹はまた鍔迫り合いになる。互いの武器で2人は押し合うが、突然スカーレットがオレンジの腹に蹴りを入れた。
「⁈」
オレンジの手から刀が離れ、オレンジは地面を転がる。オレンジは起きあがろうとしながら和傘を再生成するが、ここでスカーレットが叫ぶ。
「シルバー! 地上の魔女たち!」
今の内に幻影を!というスカーレットの言葉に一瞬ウグイスたちは戸惑うが、シルバーが幻影に向かって飛び込んでいったことで彼女たちも走り出す。
「待ちなさい!」
オレンジは彼女たちを止めようとするが、スカーレットが鎌を持って斬りかかってきたので和傘でそれを受け止める。
「今のあなたの相手はあたしよ!」
スカーレットはそう言ってオレンジとの戦いを再開した。
そしてシルバーたちは幻影に飛びかかる。
シルバーはナイフを次々と生成して幻影に突き刺して動きを鈍らせ、ソラは大剣で幻影の前脚を切り落とす。バーミリオンとカナリアは槍とマシンガンで無数にある幻影の目を潰していく。魔女たちの猛攻によって、幻影は少しずつ体力を削られていった。やがて幻影の動きが止まった所でウグイスが高く飛び上がって右手にチャクラムを生成する。そのまま彼女はチャクラムを幻影に対し垂直に向けたまま地上に落下した。チャクラムは幻影の首に突き刺さる。
「{*;>|‘}$]>]|]*]$[・‼︎」
幻影はつんざくような悲鳴を上げると動かなくなった。そして蒸発するように消滅していった。

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視える世界を超えて エピソード9:五行 その⑬

「それは辞めといた方が良いんじゃねッスか、シラカミさんよぉ」
後ろから鎌鼬くんが声をかけてきた。白神さんが面倒そうに振り返り、彼の方を見やる。
「その人、種枚さんも目ェ掛けてますんで、あの人と喧嘩する羽目になりますよ?」
「やぁーだぁー! 千葉さんはわたしが囲うのー!」
放電しながら自分を抱き締め、白神さんは反抗した。電流で身動きが取れない。
「いやマジでお願いしますよ。俺、お目付け役任されたんで、2人に喧嘩されると100パー巻き込まれるンス」
「し、白神サン」
自分もどうにか口を開く。
「ここは間を取って、その、自分は不可侵ってことでどうですかね。いきなり白神さんのものになるのはちょっとアレだけど……白神さん以外のものにもならないってことで」
「む……それなら、良いかな……」
そう呟き、白神さんは自分を解放してくれた。電気にやられて完全に麻痺しきった身体がその場に崩れ落ちる。
「……そういうわけで、鎌鼬くん。種枚さんに言っておいてくれる……? そうしておかないと、自分が死にかねない」
「了解ッス。じゃ、俺は失礼します。お大事に」
白神さんに抱えられて帰途に就きながら、鎌鼬くんにどうにか会釈を返した。

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鉄路の魔女 〜Megalopolitan Witches. Act 8

「確かにそうだけども」
奴らは私らの糧を無駄に食い散らかすんだぞ!とシルバーは言うと、オレンジはそうねと答える。
「彼女たちはわたくしたち魔女の糧、イマジネーションをむさぼる邪魔者でしょうね」
それでも、とオレンジは和傘を下ろしながら続ける。
「わたくしにとってはいつまで経っても“仲間”なのだから」
わたくしはつい、守りたくなるものよとオレンジは呟いた。
「…そう」
昔から変わらないわね、姉さんとスカーレットはゆっくり立ち上がる。
「過去にこだわり、やたらと過去を大切にする…」
さすが、最古の“地下の魔女”とスカーレットはオレンジの方に歩み寄る。
「でもねぇ」
スカーレットは顔を上げる。その目は真っ直ぐに姉の姿を見据えていた。
「あたしたちには今しかないの」
この街が、世界が、いつ毀(こわ)れるかも分からないからとスカーレットは続ける。
「あたしたちは、今のために走り続けるわ」
スカーレットはそう言い切った。オレンジは暫くの沈黙の後、そうと呟きこう言った。
「それなら、わたくしを倒してから行きなさい!」
オレンジは傘の柄をバッと取り外し、中から仕込み刀を取り出した。
「言われなくともそのつもりよ‼︎」
スカーレットは再度赤い鎌を生成すると、それを構えて走り出した。オレンジもまた仕込み刀を構えて駆け出す。路地の真ん中で、2人の得物がぶつかり、甲高い音が鳴る。
「相変わらず頑固なのね姉さん」
「貴女も変わらないわ」
姉妹は鍔迫り合いをしながらそんなことを言い、2人はパッと後方へ飛び退く。そのまま2人は暫く武器を向け合いながら睨み合っていたが、そこへ突然オレンジの頬を銀色のナイフがかすめる。オレンジはスカーレットの後ろからシルバーがナイフを投げてきたことに驚くが、その隙にスカーレットが鎌で斬りかかる。しかしオレンジはそれを刀で防いだ。
「さっさとそこを通して下さらない?」
スカーレットは鎌で相手を押し切ろうとするが、オレンジは後ずさりつつもそれに耐える。

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企画「鏡界輝譚スパークラー」の後から思いついたキャラ その2

・小祝 平穏(こいわい へいおん)
性別:男
身長:177cm
所属:緒道美術学苑
学年:3年
“死神”とあだ名されるスパークラー。
口数が少なく単独行動を好むことが多い。
かつて所属していたSTIで2度も所属部隊のメンバーが全滅する事件に遭遇しており、それが原因で余計人を寄せ付けないようになった。
“死神”というあだ名は、彼自身に原因がほとんどないものの2度も所属部隊の壊滅に遭遇しているがためについた不名誉なもの。
背が高くいつも黒のロングレザージャケットを羽織っていることもあってか、下級生を中心に恐れられている。
しかし本当は優しく、助けを求める声を聞けばちゃんと飛んでいって助けてくれる。
オノ美に来たのは前に所属していたSTIで仲間を亡くし居場所をなくしていた時に、オノ美所属の友達から「うちへ来ないか」と勧誘されて高3の春に転入したとのこと(転入には色々煩雑な手続きがあったらしいが)。
その後ある新入生を助けたことで一方的に彼女に懐かれるようになり、オノ美に勧誘してくれた友達に引きずりこまれるように件の新入生と自主結成部隊に所属することになる。
オノ美ではデザインを専攻しているが、前のSTIでは服飾について学んでいたとか。
雰囲気は怖いが何気におしゃれで自分で服を作ったりもできるらしい。

〈緒道美術学苑(おのみちびじゅつがくえん)〉
廣島・緒道にある美術系STI。
高校のみ、美術科のみを設置している。
入学時に油彩画・日本画・彫刻・デザイン・映像の中からどれか1つを専攻する。
そんなに強いSTIではないが、近隣に強豪STIが存在するためその辺は問題になっていない。
所属スパークラーによる制作物の展覧会が盛ん。

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視える世界を超えて エピソード9:五行 その⑫

「じゃあお前がやれよ、潜龍の」
「何?」
「だから潜龍の、お前がリーダー。私は別に、この寄合さえ完成しちまえば誰が偉いとかはどうでも良いんだよ。だからお前が代表な。お前にとっても都合良いだろ? ちなみに、お前がやらなかった場合、一番不満が出ないであろう青葉ちゃんがやることになるぜ」
「…………分かった、引き受けよう。……で、何をすればいいんだ?」
「知らないよ。お前がテッペンなんだからお前が考えろ。もう私には責任無いからな」
「貴様…………」
結局、平坂さんと種枚さんで今後の方針を固めるということに決まり、残りのメンバーは自由解散ということになった。

市民センターからの帰り道、すっかり暗くなっていた道を白神さんと隣り合って歩く。
「いやぁ、わくわくするなー。ね、千葉さんや?」
「いや、自分は別に、どうとも……」
「んー? 千葉さんも〈五行会〉に入るんだよ?」
至極当然といった顔と口調で、白神さんが言ってきた。
「はい?」
「だってわたし、良さげな人を好きに身内にして良いんでしょ?」
「それは……どうなんだ……?」
「これで千葉さんはわたしのものだね」
「……それも、どうなんですかね……?」

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鉄路の魔女 〜Megalopolitan Witches. Act 7

「スカイ、グリーン!」
空中で叫ぶスカーレットに呼応して、グリーンは緑色の太刀で幻影の口から伸びる舌に斬りかかる。幻影は情けない悲鳴を上げ、半身をのけぞらせるがそこへ跳躍したスカイが幻影の頭部に着地し、手に持つ空色の打刀を突き刺す。
幻影は暴れてスカイは地上に飛び降りる。そして地上ではシルバーが生成した銀色のナイフを次々と幻影に投げつけて幻影の体力を削っていく。幻影がわめく中、近くの建物の屋上からスカーレットが飛び降りる。
「さぁ、覚悟なさ…」
スカーレットはそう言いながら赤い鎌を構えて幻影に飛び込もうとするが、突然現れた少女に体当たりされて突き飛ばされる。
「⁈」
スカーレットはそのまま地面に転がる。周りの魔女たちは呆然とし、何が起きたのか分からないスカーレットは少しうめきながら上半身を持ち上げる。
幻影の目の前には、山吹色の和服を着たみかん色の髪の少女が和傘をさして立っていた。
「…あなたは」
姉、さん…?とスカーレットは呟く。
「貴女には“彼女”をやらせない」
和服姿の少女はそう言ってスカーレットに目を向ける。
「アンタは…!」
“オレンジ”‼︎と後方でその様子を見ていたシルバーは叫ぶ。
「お前、何のつもりだ!」
まさか…とシルバーは続けるが、オレンジは気にせず幻影の方を向く。
「まぁ、こんな姿になって」
痛かったでしょうとオレンジは幻影の頭部に手を伸ばす。幻影は小さくうめいた。
「よせ!」
シルバーはオレンジを止めようと駆け出すが、オレンジは目の前までシルバーが近付いた所で和傘を閉じて彼女に向けた。
「よしなさい」
オレンジはポツリと呟く。どうして⁈とシルバーは尋ねると、オレンジは悲しげに目を細めた。
「だって、“彼女”たちはかつてわたくしたちと同じ魔女だったのよ」
オレンジのその言葉に魔女たちは微妙な顔をする。

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視える世界を超えて エピソード9:五行  その⑪

一頻り各自で盛り上がり、しばらくしてそれも落ち着いた。
「……さて、そろそろ話が飲み込めたところだろうし、いくつか決めごとをしたいと思うんだが、構わないね?」
種枚さんがそう切り出した。
「あまりトチ狂ったことを言わなければな」
平坂さんが答えた。
「別にお前らみたいなのに不利に働く提案はしないよ」
種枚さんが出した決め事は3つ。
一つ、新入りを引き入れた際には他の4人に報告すること。
一つ、可能な限り相互に連絡を取り、直接面会すること。この際5人全員の集合は努力目標で構わない。
一つ、身内の救援要請には、可能な限り応えること。
「な? 別に悪い話じゃなかったろ?」
「……まあ、そうだな」
平坂さんも納得している様子だった。
「はいはーい、メイさんからこれまた質問」
また白神さんが手を挙げた。
「何だよシラカミメイ」
「この5人で始めるってのは良いんだけど、リーダーとか代表みたいなのっているの?」
この問いには、種枚さんと平坂さん、犬神ちゃんの3人がぴくりと反応した。
「キノコちゃんがリーダーなんじゃないの? 発案者だし」
「馬鹿言え、こんな鬼子の下に就けっていうのか」
「私は正真正銘、ただの人間なんだけどねェ?」
「どこがだ」
また言い合いが始まった。

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鉄路の魔女 〜Megalopolitan Witches. Act 6

一方その頃、ウグイスたちは路地で先程対峙した幻影と戦っていた。
「っ‼︎」
幻影の大きな口から伸びる長い舌を避けつつ、ウグイスはチャクラムを投げつける。チャクラムは幻影に向かって飛んでいったが、長い舌に弾かれる。
「バーミリオン、カナリア!」
ウグイスが声を上げると建物の陰からバーミリオンが槍を持って飛び出し、カナリアはマシンガンの銃口を向ける。カナリアが次々と銃弾を撃つ中バーミリオンは高く飛び上がって槍を幻影の身体に突き立てようとした。しかし長い舌がすぐにバーミリオンにぶち当たり、彼女は近くの建物の壁に衝突した。
「バーミリオン!」
カナリアは思わず立ち上がって彼女に駆け寄ろうとするが、幻影の舌がカナリアの方に伸びてくる。カナリアは思わず硬直するが、そこへ銀色のナイフが飛んできて幻影の舌に突き刺さった。
「${*+[‼︎」
幻影は短く悲鳴を上げて伸ばした舌を元に戻す。カナリアがナイフの飛んできた方を見やると、そこには地下の魔女たちとソラがそれぞれの武器を携えて立っていた。
「みんな!」
カナリアが声を上げると、赤髪の少女ことスカーレットがハーイと手を小さく振る。
「お困りのようね」
あたしたちが助けに来たわ、とスカーレットは笑う。
「私たちは助けを求められたから来ただけだからな」
別にやりたくてやってる訳じゃない、と銀髪の少女ことシルバーはそっぽを向く。その右手には先程幻影に突き刺さったナイフと同じものが握られていた。
「とにかく、ここからはあたしたちが片付けるから」
あなたたちは下がってなさい!とスカーレットは担いでいた赤い鎌を構えて走り出す。シルバー、スカイ、グリーンの3人もそれに続く。そしてソラは姉妹たちの元へ駆け寄った。
幻影も新手の敵に気付いてドスドスと音を立てて魔女たちに近付く。しかし先頭を走るスカーレットは高く飛び上がってそれを避ける。

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鉄路の魔女 〜Megalopolitan Witches. Act 5

「別にいいんじゃない」
ウグイスがバーミリオンの方を見ると、バーミリオンはふふと笑う。
「彼女だって、“大変な思い”をしているんだから」
バーミリオンがそう言うと、彼女の傍に立つ黄色い髪の少女もうんうんと頷く。
「バーミリオン、“カナリア”…」
ウグイスは少しため息をつくと、水色の髪の少女に目を向けた。
「仕方ない、行こう」
“ソラ”とウグイスは水色の髪の少女に言うと、彼女たちは既に歩き出している地下の魔女たちに続いた。

幻影探しが始まって暫く。魔女たちは2手に分かれて路地裏で先程の幻影を捜索していた。しかし魔女たちは気配で幻影を察知できるが、中々あの幻影は見つからなかった。
「見つからないね」
姉さま、とグリーンはスカイの服の裾を引く。
「そうだね」
そんなに遠くには行ってないはずなのにとスカイは辺りを見回す。
「ああ見えて意外とすばしっこいんじゃねーの?」
幻影なんてそんなもんだろとシルバーは上着のポケットに手を突っ込み、なぁ?とスカーレットの方を見る。スカーレットは電信柱の上で熱心に辺りを見回していた。
「アイツ、話聞いてないのか」
シルバーがそう呟くと、スカイが彼女はそんなもんだよと歩み寄る。
「スカーレットはあれでも…」
そうスカイが言いかけた所で、みんな〜!と彼女たちに近付く声が聞こえた。3人が振り向くと、水色の髪の少女…ソラが駆け寄ってきていた。
「さっき幻影見つけた!」
でもウグイスたちが戦ってるけどちょっと押されてる、とソラは続ける。
「だから加勢お願い!」
ソラが両手を合わせて懇願すると、スカイとグリーンは顔を見合わせ、シルバーは電信柱の方を見た。電信柱の上に立つスカーレットはシルバーの視線に気付いてトン、と地上に舞い降りるとこう言う。
「分かったわ」
今すぐ行くと言ってスカーレットは路地の奥の方へ走り出す。シルバーたちもそれに続いた。

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Side:Law in Black Market 保護者

MNE-015
性別:男  年齢:25歳  身長:177㎝
好きなもの:子供、銃器
嫌いなもの:悪人
“ブラックマーケット”の一角にある施設、通称『学校』に所属する男性。役職は〈番人〉。主な仕事はたまに現れる脱走しようとする子供を張り倒してでも止めて元の部屋に投げ返すこと。
子供という生き物をナチュラルに下に見ており、ただでさえ危険なブラックマーケットに自分すら超えられない者を放り出すわけにはいかないという思いから、脱走者を叩きのめす際にはできるだけ汚くて理不尽な戦法を意図して用いている。これすら超えられないようなら脱走なんて許せるわけが無ェ。
脱走者が出た日は子供を殴ったストレスで一日中機嫌が悪くなる。一度寝ると元に戻るが、そもそも素で目つきと言葉遣いがあまりよろしくない。不機嫌モードではそれらが4割増し程度に悪くなり、声を掛けられた時の反応が「あ?」から「あ゛ァ⁉」くらいになったりする。また、子供の呼び方が素で「クソガキ」だが、「クソガキ=子供=保護すべき対象」という等式が脳内で成立しているため、「クソガキ」扱いしている子のことは命に代えても守ってくれる。
脱走者以外に手を上げることは無い上にスタンスが一応「子供は守るもの」側なので、脱走経験0の子供からはそこまで怖がられてはいない。
ちなみに本名は色々あって捨てた。現在の名前は上層部が呼び方に困って取り敢えずでナンバリングしたもの。あとでちゃんとした名前つけようねって言ってたらタイミングを逃した。渾名は「ミネさん」。

※『学校』:ブラックマーケット区域内で大人の保護者が周囲にいない子供をその事情を問わず攫い、最低15歳、最高18歳までの期間を拠点敷地内に監禁し、様々な教育と養育を行ってから多少の現金と希望された武器類だけを握らせて解放するという謎の活動を行っている組織。少なくとも監禁されている子供達は外と違って絶対に生命の危機に晒されずに済むが、『学校』側の解放より早く抜け出そうとするとボコボコのボコにされて止められる。「ブラックマーケットの浮浪児を使って何か大規模な悪事を働こうとしているのではないか」みたいな噂も流れているが、真相は創設者にしか分からない。

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視える世界を超えて エピソード9:五行 その⑨

「お前のトコなんかそういうのは『ナシ』だろ? 潜龍の」
振られた平坂さんは無言で頷く。
「野生の才能ってのは意外といるモンだ。現に私もシラカミも、完全フリーだったろ? これを『こっち側』に引き入れて、戦力にできる。しかも、NGは無しだ。来るもの拒まずって感じで」
「えー? 私の時はあんなに殺意バリバリだったのに?」
白神さんが拗ねたように言う。
「お前のせいっつーかお陰でこっちも考えが変わったんだよシラカミメイ」
「むぅ、それならヨシ」
「偉ッそうに……で、私どこまで話したっけ」
「野生の霊感持ちを囲えるってとこまでッス、師匠」
種枚さんの後ろに立ちっぱなしになっていた鎌鼬くんが答えた。
「そうだった。良いか、これには利点が3つある。まずウチの戦力増強。次に、青葉ちゃんや潜龍のみてーな元からある組織に戦力が流せる。そしてもひとつが……潜龍の」
「何だ」
「お前みたいなのは、この寄合に助けられると思うぜ? なんせ、問題児が全員手の届く場所に集まるんだからよ」
「……なるほどな。悪い話でも無いか」
「だろォー? 誰ぞ反対する奴はいるかい?」
種枚さんのその言葉に乗る人はいなかった。全会一致で賛成ってことだろう。

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視える世界を超えて エピソード9:五行 その⑧

「まあコイツのことはどうでも良いんだよ。見張りも付けるし、何ならお前が直々に目ェ光らせておきゃ良いんだ、潜龍の」
種枚さんの言葉に、不満げながら潜龍さんは納得したようだった。
「さて、この寄合の本質は、『怪異に手の出せない人間の保護』だ。ちょっと偉そうかね?」
「「いや」」
青葉ちゃんと平坂さんが同時に答えた。
「『それ』は“潜龍”の存在意義でもある」
「岩戸家も左に同じく」
「マジかよお前ら。こいつァ都合が良いや」
けらけらと笑い、種枚さんは話を続けた。
「この寄合はこれからどんどんデカくなるぜ、予言する。私ら5人はその天辺に立つのさ」
「はい、1個質問」
青葉ちゃんが手を挙げた。
「何だい青葉ちゃん」
「この寄合を作る意味って何です? 怪異退治なら、正直既にいくつか組織がありますけど、これ以上増える必要ってあるんですかね?」
「ぁー…………」
種枚さんは軽く唸り声をあげ、しばらく目を泳がせ、再び口を開いた。
「まず、この寄合は飽くまで『個人の集まり』だ。勝手と融通が利く。次に、『はぐれ』の霊感持ち、あとはシラカミみてーな奴を好きなように囲える」
「へ? メイさんみたい、とは?」
白神さんが気の抜けた声をあげた。
「『こっち側』に引き込めそうな『そっち側』」
「はーん……なーるほどー」

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子供は適切な保護者に安全に教育されなければならない 後編

「たしか、テメェは…………まだ13歳だったか」
『ミネ』と呼ばれた男は、呟きながら足下に転がしておいた品を少年に向けて蹴り飛ばす。それに釣られて、少年の視線が足元に転がって来た品物に移る。それらは自動拳銃用のボックス・マガジンだった。
「…………?」
「どうした? ソレ使うなら替えの弾は無きゃ意味無ェだろ。拾えよ」
少年は一瞬の逡巡の後、素早くしゃがみ込んで弾倉を拾い上げた。そして立ち上がった時、ミネは既に少年の眼前にまで音も無く迫っていた。
「ッ⁉」
拳銃を向けた腕を、ミネは片手で掴み、照準から己の身体を外す。続けて少年が振るおうとした空いた片手も片手で押さえ、最後の抵抗に放たれようとしていた蹴りも、両脚を片足で踏みつけるように抑え、抵抗の余地を完全に潰す。
「銃1丁で強くなった気でいたか? クソガキが……」
もがく少年を意に介すこともなくミネは上体を仰け反らせ、少年の額に勢い良く頭突きを直撃させた。
「がっ……!」
拘束を解くと同時に、気絶した少年がその場に崩れ落ちる。倒れた少年の頭を軽く一度蹴ってから、ミネは通信用インカムを起動した。
「…………もしもォし、こちら〈番人〉」
『……はぁい、こちら〈医務室長〉。何だいミネさん先生』
「ガキが脱走しようとしてたから止めた。回収しろ」
『了解。今日は誰だい?』
「ロタ。……ああ、あと一つ」
『何?』
「拳銃と弾倉パクってやがった。没収はするなよ」
『良いのかい? また逃げる時に使われるよ?』
「ガキの鉄砲ごときで止められるなら〈番人〉やってねェ」
通信を切り、ミネは再び塀の上によじ登り、監視を再開した。

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鉄路の魔女 〜Megalopolitan Witches Act 3

「⁈」
少女たちは思わず身構えるが、そこへ赤い大鎌が飛んできて怪物の頭部に突き刺さる。怪物は悲鳴を上げて地上に落下した。
「今のって!」
水色の髪の少女がそう言った時、ごっきげんよ〜!と明るい少女の声が聞こえた。
パッと少女たちが振り向くと、華やかな長い赤髪の少女が彼女たちの方へスキップしながら近寄ってきていた。
「“地上の魔女”の皆さん」
危なかったわね、と赤髪の少女ことスカーレットは笑いかける。
「…“地上の魔女”って」
大勢いる私鉄の魔女たちと一緒にしないでくれる?とウグイス色の髪の少女は真顔で言う。
「そうねぇ」
アタシたちは由緒正しき“JRの魔女”、だもんねぇと丈の短いズボンを履いたオレンジ色の髪の背の高い少女はスカーレットに近付く。
「あなたたちだって、“地下の魔女”の一言でひとまとめにはされたくないでしょう?」
スカーレット、とオレンジ色の髪の少女は赤髪の少女の顔を覗き込む。
「あーら、“バーミリオン”」
相変わらずねぇと赤髪の少女ことスカーレットは笑顔を作る。
「はいそこケンカしないー」
2人が睨み合う中、スカーレットの後ろから手を叩く音が聞こえる。スカーレットたちが音のする方を見ると、空色の髪の少女が歩いてきていた。その後ろには銀髪の少女と緑髪の少女が続く。
「あらスカイ」
別にあたしたちはケンカなんてしてないわよ?とスカーレットは手で口元を隠す。
「…急に飛び出してったと思ったら、他の魔女の戦いに手を出してたのかよ」
銀髪の少女ことシルバーが呆れたように言うと、スカーレットは悪い?と首を傾げる。
「あたしは同族が見捨てられないだけよ」
誰かが困っていたら助けに行く、それくらい当然のこととスカーレットは胸に手を当てる。シルバーはなんだよとそっぽを向いた。
「地下の魔女たちはみんな仲がいいんだね」
ふと水色の髪の少女はそう呟く。
「わたしたちなんて人数が多いからゴタゴタが多くてさ」
羨まし…と水色の髪の少女が言いかけると、スカーレットは少しだけ顔を曇らせた。