もう駄目かもしれない と
なんでもできる気がする が
本日も追いかけっこをしています
桜の花、まだ咲かないかな?
今まででいちばん綺麗なのがいいな。
先生が言ってた、
「桜の花は寒い冬を越えるから綺麗なんだ」と。
誰だっけ。生物?担任?わかんないや。
夢を見たい。
あの人と二人で、私の大好きな月と桜を見てる夢。
『幻獣』とは、一般に架空の存在とされる、実在の確定した動物とは大きく異なった性質を持つ動物のことだ。その中でも今回紹介するのは、幻獣の中の幻獣、キングオブ幻獣、ドラゴンだ。
ドラゴンは世界中に生息し、その姿形も種によって様々だ。しかし、大抵の場合、爬虫類の身体的特徴を備えている。
例えば西洋で多く語られるドラゴン。巨大な爬虫類の身体、皮膜の翼、角が生えている種もあり、伝承にある多くのものは、火の息、または毒の息を吐く。
他には、中国や日本に生息する、一般に『龍』と旧字体で書くことによって西洋のドラゴンと区別される種。複数の動物の身体的特徴を備え、空を飛ぶ際には竜巻や雲に乗る。天候を操作する能力を持ち、その体長は、天を覆うほどの巨体から、蚕の幼虫ほどの小ささまで、自在に変化する。
さて、先程『大抵の場合』と書いたが、もちろん例外がいる。
タラスク、と呼ばれるドラゴンだ。これは、硬い甲と長い尾を持ち、そしてこれこそがタラスク特有の特徴なのだが、獅子の頭部と脚を持っているのだ。しかも、脚は三対六本。
これらのような生き物など、いるわけが無い。そう簡単に否定することも出来ないのだ。
皆様ご存じの通り、かつてこの地球上には、彼らの如く巨大な爬虫類が存在したのだから。そう、『恐竜』である。恐竜は、急激な環境の変化に対応し切れずに絶滅した。しかし、ドラゴンはどうだ。身体に宿した炎は、氷河期に彼らを温め、その時代を乗り越えた彼らは、他の動物と同じように、進化、多様化を経て、何種類もが確認されるようになった。人間が現れて以降、その畏怖は信仰へと変わり、ドラゴンは神格的性質を手に入れ、その存在を確かなものとしたのだ。
しかし、神格を得たことが、彼らの存在をまた、不確かにもしたのだ。観測されない『神』を否定する現実主義が蔓延した結果、彼らの存在は、信仰に依存する故、それを失ったドラゴンの実在性は希薄になったのだ。
はぁ…。 はぁ……。 ……。
バンッ! ガタッ!
私は何が起きたのか一瞬考えた。
「あっ……。」
先生と目が合う。
まさか先生の授業で眠りにつくとは…。
しかも悪夢を見るなんて……。
机に手をついた音と、立ち上がった時に椅子を引いてしまった音で皆が振り向く。
『授業中だ。前を向け。……お前も座れ。』
「はい。……すみません。」
あぁ。先生の授業で眠ってしまうなんて……。やってしまった。先生はすぐ減点しちゃうし…。
そんな事を考えていたらいつの間にか授業は終わった。
教室を後にして、大きな窓の大きな額縁に腰掛ける。
窓を開けて外側に足を出し、壁に寄りかかって目を瞑る。
ここはほとんどの生徒が来るのを避けている廊下だ。
人は来ないと思っていたが、遠くから足音が聴こえる。……聴こえたと思ったら、一瞬の静寂が訪れる。
かと思ったら、走って近づいてくる。
そう思っていたら、本当に後ろで止まった。
『何をしている??早まるな!落ち着け。』
先生の声がしたので目を開けて振り向く。
「先生……??なんの話?」
『いや……。今、そこから……。』
「うん。先生の早とちりだと思う……。飛び降りると思ったの?」
そう言いながら外に出していた足を廊下に戻す。
先生は安心したように肩を降ろす。
少し面白かったので笑ってみせた。
「早とちり先生、ここ、座る??」
そう言うと、また外側に足を出す。
「先生。ごめんね。授業中、寝ちゃって。」
『そんな事は正直どうでもいい。何かあったか?君が悩んでいるならそっちの方が重要だ。』
「ふふふ。ありがとう。でもね、別に悩みがある訳じゃないの。」
『悪い夢でもみたか?』
「うん。………ねぇ先生。1つ質問してもいい?」
『あぁ。何だ?』
「先生はさ、何処にも行かないよね?」
先生は少し悟ったようだった。
『何を言っているんだ?今もこうして君の側にいるじゃないか。』
そう言って微笑んだ。
その笑顔を見たら、悪夢の話なんてできなかった。
先生は多分、悟れてない。
私は夢の中で少しずつ遠ざかっていく先生を見た。
暗闇の中へ突き進み遠ざかっていく先生を。
私は本当にそうなってしまわないように、
先生のローブをそっと、けれども強く握りしめた。
新品ヒールで駆け上がる
心のつま先 痛むから
今日は止まって 通勤電車
窓つたう雫に映った
雨の街は逆さまに流れ
今日も膨らんだ 通勤電車
ああこのまま行先なくして
気ままに彷徨う旅人になりたい
大人になったら解らない
宿題がひとつ ふえてくの
寝過ごしたい 月曜日
ああしばらくレールを離れて
都会に浮かんだゴンドラに乗りたい
吸い込まれてゆくターミナル
すれ違う人は急ぎ足
うごかないで 時間だけ...
流されてゆくわ オフィス街
休みの電話を入れたら
バカンスにして 私だけ...
「大丈夫。大丈夫」
「ありがとう…」
やっぱり私は合っていたんだ。遥に何かあったこと。それは何であろうと彼女自身辛いものだったと思っていた。でもこれまでは気づけなかった。少し考えてから言った。
「私、君と一緒になれて良かった。私もなんていうか好かれるタイプじゃないのよ。私へ直接ってことはなかったけど陰で色々言われてたみたい」
「そうなの?知らなかった」
「私も君のことをよく知れてなかった。ごめんね」
「ううん。全然。私こそこんな暗い話してごめん」
「大丈夫だよ。私がついてる。は~あ。もう1回言うけど私、遥と友達になれて良かった。君がいなかったらどうしていたか…。学校で真面目に勉強していたかな?」
「ふふっ。そうだね。私も美咲ちゃんと友達なれて良かった~」
お互い目を見合って、ぐちゃぐちゃになった顔を笑った。
それからはたわいもない話をした。その時間は長いようで短く、短いようで長い、持って帰りたいほど宝物のような時間だった。
「ありがとう」
「ありがとう」
「そろそろ行こっか」
「うん!」
「あーーーーー!!」
突然の大声に、私と美結ちゃんはびくりと肩を震わせた。何事か、と思ったが、私はすぐに京本さんが叫んだ理由がわかった。
「タイムセール、始まってる! もう手遅れですね」
耳を澄ますと、微かに音が聞こえてくる。
ぽりゅ。しゅぱ。ぺこり。
誰かと誰かが戦う音。
「不戦敗とかありえない! 悔しいー」
京本さんは、心底ショックを受けているようだった。
美結ちゃんはといえば、ぽかーんと私たちの様子を眺めていた。
その姿が何だかおかしくて、でもかわいくて、思わずクスクスと笑ってしまった。
「なぁーに、笑ってるの。ほら、もう帰るわよ。明日に備えるのよ!」
愉快な音が溢れるこの小さな店で、私たちは時に笑い合い、時に戦う。
そんなこの場所が、私は大好きなのだ。
そんな美結ちゃんに「もういいよ」と京本さんは優しく応じた。さらに、
「また来れそうなときに寄りなよ。お菓子買ってあげるからさ」
こんなことまで言ってしまうものだから、私まで目を見開いてしまう。さすがにお人好し過ぎだと思う。
「飛鳥ちゃん、今あたしのことお人好しだと思ったでしょ? あたしにはお見通しなんだからねー」
ジロジロ、ニヤニヤ、そんな表情で私を見つめてくる。その態度に少しだけむっとするが、図星だから言い返せない。
「いやね、反省してるわけだし、ウエハー……美結ちゃんかわいいし、品があるし気に入ったから」
京本さんはいつも周りをよく見ていて、相手の心情を読み取ったりするのが得意だと思うが、ハートで生きている人だから、こういうところは曖昧模糊としている。
「ま、そういうわけだから、またおいで。って、この店のこと、あたしの家みたいに言ってるけど」
「はいっ! ありがとうございます!」
美結ちゃんは初めて小学生らしい健気な笑顔を見せた。
「今日はどうしたの? お菓子を買いに来たの?」
「いっ、いえ。今日はおばさんにお礼を伝えたくて来ましたっ。遅くなってごめんなさいっ。親に寄り道とか禁止されてて、しかも最近塾に通い始めてなかなかこのお店に来れなかったんです。今日は塾もなくて、残業で親の帰りが遅いのでやっと来れました。あのとき、おばさんがいなかったら、わたしは犯罪者でした。本当にありがとうございますっっ」
ウエハースちゃんは深く深く頭を下げた。
「いやいや、そんな大したことしてないわよ。あたしだって、ウエハースちゃんに犯罪者になってほしくないもの。でもどうしてあんなことをしたの? 手短に済ますからとりあえず中に入って。あ、あと、そこにいるのはわかってるのよ、飛鳥ちゃん! あなたも来なさい」
「はっ、はいっ」
急に名前を呼ばれて、私まで上擦った声になった。
ウエハースちゃん、改め、美結ちゃん。ここから一番近い小学校に通う四年生。
「わたしの親、すごく厳しい人で、お菓子とかゲームとかテレビとか禁止されてるんです。でも、わたしあのアニメがずっと大好きなんです。幼稚園の頃に観ていて、すっごく憧れだったんです。それで、どうしてもカードがほしくて、つい……わたしが許されないことをしたというのはわかっています。本当にごめんなさい」
最後のほうは話している、というよりほとんど泣いているようだった。
****
あれ、この女の子、どこかで見たことある顔だな。誰だっけ。しばらく考え倦ねて、やっとひとつの結論に辿りついた。
あー! 水色のランドセル! ウエハースの子だ!
存在を忘れるくらい万引きの様子を目撃してから時が経っている。京本さんと知り合った日だから、半年くらい前だろうか。
あの日と同じように、彼女はキョロキョロおどおどしていた。嫌な予感がしたので、またそっと後を追いかけた。
しかし、前回とは異なり目的地もないようで、店内をしばらくぐるぐると歩き回った。かれこれ五分は彷徨いていたと思うが、彼女は何もすることなく出口へと歩を進めた。
疑ってごめんね、と心の中で謝罪する。けれど、本当に何をしに来たのだろうか。
自動ドアが開き、彼女の背中は外の世界へ消えた、と言いたいところだが、そこに入れ違いで京本さんがやって来たことで状況は一変する。少女は、あ! と大きな声を上げた。そして、ぎこちなく声を発した。
「あっ、あのっ、あのときの方ですかっ?」
京本さんは、んー、と一度唸ってから、
「あ、ウエハースちゃん?」
「はっ、はい。そそそそのとおりですっ」
ウエハースちゃん、とはなかなか雑なネーミングだと思うが、的確といえば的確な気もする。
ぱしりっ。ぼこっ。とこんっ。
卵を掴む音、誰かの手とぶつかる音。
今まで並んでいたのは何だったのか、とタイムセールに初めて参加したときは感じた。先着順でないと不公平ではないか、と。
けれど、今ならわかる。皆楽しんでいるのだ。タイムセールの激安商品を見事手に入れたら喜び、手に入らなかったら悔しがる。そういう一喜一憂をここに訪れる主婦たちは一日一度の楽しみのように感じているようだ。
とはいえ、私は争いごとや競争が苦手で、このタイムセール争奪戦に負けることも多々ある。そんなときは、京本さんが横からすっと商品を差し出してくれる。
「あらあら、飛鳥ちゃんはまた負けちゃったの? もー、仕様がないなぁ、あたしの分をひとつあげるから」
お一人様二個まで、のタイムセールだったら、京本さんは必ずふたつ回収して、私が取り損なっていたら必ずひとつ分けてくれる。
「いつもいつもすみません。ありがたくいただきます」
京本さんは少し変だけど、誰よりも人情の厚い主婦だ。
****
この店では、平日の夕方六時半にタイムセールが行われる。今日はなんと、十個入の卵がお一人様二パックまで九十九円で買える。
六時頃になると、ぞろぞろと主婦がタイムセール商品を手に入れるために集まってくる。私はいつも学校帰りに店に寄り、その中に加わる。
「えー、何だかあたしが変わり者みたいに語るじゃない。本当にそんなふうに出会ったっけ」
タイムセールが始まるまで、京本さんと他愛もない会話をすることが日課になりつつある。
「京本さんは少し変わってますよ? もちろん良い意味で、ですけど」
「褒めてるのか褒めてないのかわかんない褒め方はやめてよ。ほら、もっとはっきり褒めて?」
大人の女性が、高校生に対して見せる仕草ではないであろう上目遣いでこちらを見つめる京本さんは、やっぱりちょっと変わってる。
からんからんからーん。
この音は、戦争の合図。
私たちと同様に今まで友人と話していた者、スマートフォンに目を落としていた者、他の売り場で時間を潰していた者、その誰もが皆同じような目の色に変わる。真っ赤に、燃え滾るのだ。
ぱしっ。
場違いに軽快な音がしたがしたので顔を上げた。
さっきまで私と少女しかいなかったはずのお菓子売り場に、女性がいた。先ほどの音は、その女性が少女からウエハースを取り上げた音だったようだ。そして手持ち無沙汰となった少女の右手をぎゅっと握りしめて、レジがある方向へ歩き出した。
良かった、親御さんいらっしゃったのか、と安堵しかけたが、少女の顔は青ざめ、小刻みに肩が震えていた。この様子からすると、知り合いにはとても見えない。
万引き少女の末路が気にならないわけがなく、私は当然のように後をついていった。
女性は少女の手を握ったままレジに並んだ。少女と繋いである左手は解かずに、片手だけで鞄から器用にクレジットカードを取り出した。頑なに手を解かないのが、逃さないぞ、という強い意志の表れのように感じた。
「クレジット一括で」
少し離れた場所にいる私にもはっきり聞こえるくらいの声量で女性が言った。よく通る声で、何だか聞いていて心地よかった。
レジを終えて、袋詰めの台の前で女性は優しく微笑みながら、購入したウエハースを少女に手渡した。予想外の対応に私は驚いたが、少女はもっと驚いたことだろう。もともとまんまるな目をさらに丸くしている。
「ほら、早く帰りなさい。お家の人が心配するわよ」
女性の言葉にはっとして、少女はほとんど転げそうな勢いで店を後にした。
これで一件落着、と思ったのも束の間。少女を見送った女性が突然くるりと振り返り、明らかに私を見てニヤリと笑みを浮かべた。
****
キョロキョロと不自然に辺りを見回す少女のことが妙に気になって、そっと後を追いかけた。
水色のランドセルを背負っているので、学校帰りだろうか。
こぢんまりとした店内を、少女の歩調に合わせ早足で歩く。お菓子売り場に差しかかったところで彼女のペースが落ちた。ここが、目的地らしい。
少女は、おどおどしていた。そして、キョロキョロしていた。
しばらくその場に立ちすくんでいたが、よし、と言う声が聞こえてきそうなくらい勢いよく首を上下に動かして、右手を伸ばした。手に取ったのはキャラクターが描かれたプラスチック製のカードが入ったウエハースだった。園児から小学校低学年くらいの女の子に絶大な人気を誇る美少女戦隊アニメのキャラクターだ。私も幼い頃は随分と熱中していた記憶がある。
少女は、見た感じ小学校四、五年くらいに見える。このカード入りウエハースを買うのが恥ずかしいと感じているのかもしれない。だから挙動不審だったのか、と納得しかけたそのときだった_____
___少女は、右手に握られたそれをスカートのポケットにするりと仕舞おうとした。
目を疑った。目の前で見知らぬ少女が盗みを働いた。そうしてすぐに後悔の念に苛まれた。どうして後を追いかけたりしたのだろう。見たくなかった、知りたくなかった。
『そんなことしちゃ駄目だよ』喉元まで出かかった言葉。ほらね、やっぱり言えない。俯いて立ちすくむことしかできなかった。
ぱしゅ。としゅ。とすん。
ここでは、さまざまな音が飛び交う。
小さな店に、そう多くはない人々。
そのなかでも、今私の隣にいるこの女性は一際恰好いいと思う。特別容姿がいいわけではないし、年齢はうちの父親と同じくらいだろう。まぁ言ってしまえば普通のおばさんだ。
「飛鳥ちゃーん? どうしたの、ぼーっとしちゃって」
私の隣にいる女性、京本さんが声を掛けてきた。
「あっ、すみません。ちょっと考え事してました。京本さんのこと、考えてたんです」
「あたしのことを? 飛鳥ちゃん、やっぱりちょっと変わってるよね」
京本さんは周りも気にせずケラケラと笑う。こういう良い意味でフランクなところが好きなのかもしれない。
「いやぁ、私たちってどうやってこういう関係になったんだろう、ってつくづく思うんです。親子くらい歳が離れてるのにこうも気が合うもんなんですね」
「ふむふむ、なるほどねぇ。確かにそれは言えてるね。あたしも何でかわかんないもん」
ですよねぇ、とフンフン頷くと、京本さんはまたケラケラ笑った。
真っ赤な傘の下
君の笑顔が咲いている
黄色の長靴が楽しそうに跳ねている
ぴょんぴょん ピチャン
暗い雨雲が段々と晴れていく
僕の心も自然と晴れていく