「“結界”っていうのは、“学会”が“日本支部”のあるこの街を外敵から防衛するために長い年月をかけて構築したものなんだが…こんな風に、“結界”の構成術式を流れる魔力や“結界”内外の魔力の動きや変化によって、強力なものであれば特定の精霊を探すことだって可能だ」
ほら、と歳乃はマウスを操作して、パネルの隅の方を拡大する。
するとそこには強く輝く光の点が表示されており、その上には“Nachzherer”と書かれていた。
「えーと、これは…」
「アンタたちが探しているナハツェーラーの魔力反応だな」
あの子の魔力は“学会”の“監視システム”に登録してあるから、とかすみの質問に対し歳乃は淡々と答えた。
「ってことはナツィはここにいるんだね!」
早く探しに行かなきゃ!とキヲンははしゃぐ。
しかし、ちょっと待て、と露夏がキヲンは諫めた。
「この場所…だいぶ遠くねぇか?」
随分と海の方みたいだぞ、と露夏はパネルを睨む。
「確かに、この街の“結界”の一番外側の部分からギリギリ出ない辺りってところかしら」
ピスケスもそう頷く。
此処に帰って
3つ数えるうちに
眠るような貴方は
背を伸ばしすぎてる
でもいつも平気な顔して
笑っている貴方が嫌い
私の近くでは
そのままの貴方で居てよ
見ている私が嫌いになりそう
私の近くでは
本当を汚さないでよ
いつか
きっと
ずっと
もっと
貴方が側に来て欲しい。
せめて
どうか
今は
ちょっと
私の前では弱く居て欲しい。
私を見つけて
3つ数えるうちに
泣き出すような貴方は
頑張りすぎてる
でもいつもの笑顔をして
蓋をする貴方が嫌い
私の側では
貴方のありのままを見せてよ。
そうさせられない自分が嫌になりそう
私の側では
嘘をつかないでよ
いつも
ずっと
そばに
いるよ
って言えたらどれだけ楽なんだろう。
せめて
ちょっと
もっと
そばで
貴方を抱きしめてあげたい。
何故泣くの?
わからないよと
小さく包まる貴方は
何を抱えて生きているの?
何かを少しでも分けてよ。
いつも
ずっと
そばに
いれたら
泣くことなんてなかったんだろう。
いつか
絶対
私の
そばで
全部を投げ出していい様に
貴方の愛おしいものは
全て守ってあげるよ
貴方がエメラルドに輝く日まで。
全ては貴方と違う世界じゃない。
月の光がいつか貴方に微笑みかける様に。
かすみとキヲンがピスケスに直談判した結果、2人はナツィを探せることになった。
しかしピスケスが、その前に一旦準備ね、と言って仲間たちを連れて保護者の歳乃とともに“学会”本部の地下へ向かう。
かすみやキヲンは不思議に思ったが、そのままついていくことにした。
「…ここは?」
“学会”本部の地下3階、この敷地を普段使っている大学の学生や普通の教職員、そしてかすみやキヲンのような人工精霊たちも知らないようなフロアの奥にある扉の向こうで、かすみはポツリと呟く。
わずかな明かりしかないその部屋には、大きなパネルとパソコンのキーボードのようなものとマウス、そしていくつもの電子機器のパーツらしきものが繋がったマシンが鎮座していた。
「“学会”がこの街に張り巡らした“結界”の監視システムって奴だよ」
キーボードの横にあるカードリーダーの溝に“学会”の構成員であることを示すカードを通しつつ、歳乃が返す。
すると大きなパネルに無数の幾何学模様らしき線と光の点が浮かび上がった。
二人の囚人がいた。一人は泥を見た。一人は星を見た。
星を見た囚人は、いつかあの星を掴みに行こうと言った。その言葉は、二人の希望になった。
泥を見た囚人は、我々のいる場所はこんなにも汚く醜いと言った。その言葉で、二人は現実を見つめ続けることができた。
ある日、牢の錠が外れていた。
星を見た囚人は、今こそあの星を掴みに行こうと言った。その言葉で、二人は自由へ踏み出すことができた。
泥を見た囚人は、我々の行く道はこんなにも泥濘んでいると言った。その言葉で、二人は転ぶこと無く歩き続けられた。
二人は並んで荒野を歩き続けた。
星を見た囚人は、あの山に登れば星に手が届くやもと言った。その言葉で、二人は疲れた足を動かし続けることができた。
泥を見た囚人は、我々の行く道はこんなにも湿っていると言った。二人は泥水を漉して、少しだけ喉の渇きを癒やすことができた。
二人は泥濘の中に粘土を見つけた。
星を見た囚人は、素朴な素焼き人形を作り上げた。温かなその作品は、旅人の胸を打ち小金と交換された。
泥を見た囚人は、無骨な壺を焼き上げた。頑丈なその作品には、旅の荷物を収めることができた。
二人の行く道は、次第に固く乾いた土を纏いだした。
星を見た囚人は、空を暗雲が埋め尽くすのに気付いた。その発見は、二人の喉を潤す清潔な雨水の到来を示した。
泥を見た囚人は、しぶとく根を張る雑草の虫食いに気付いた。その発見は、昆虫と野草という僅かで明確な食料の存在を示した。
「…それなら、探しに行きましょうか」
“黒い蝶”を、と言ってピスケスはソファーから立ち上がる。
キヲンとかすみは顔を見合わせて、嬉しそうな顔をした。
「でも、そのためには歳乃に手伝ってもらわないとね」
ピスケスはそう言って部屋の奥の椅子に座る歳乃に目を向ける。
歳乃は眺めていた書類を机の上に置いて1つため息をついた。
「ナハツェーラーはそう簡単に見つからないと思うよ」
ただし、と歳乃は続ける。
「“学会”の結界システムを使えば話は別だけど」
歳乃がそう言うと、キヲンはやったね!とかすみに笑いかけ、かすみはうんと頷いた。
ピスケスはそれを聞いて、じゃあ行きましょうかと言って部屋の扉の方へ向かおうとするが、相変わらずソファーに座って不満げな顔をしている露夏に対し行くわよ、と声をかける。
露夏は少しの沈黙ののち、へいへいと返して立ち上がった。
朝、学校に行く時、いつもとは違う道を通ってみた。人通りが少なくて落ち着く。その道は空がよくきれいに見える。青空を見上げて、深呼吸をする。今日が始まる匂いがして、なんでもできそうな、そんな気持ちになる。この瞬間が、私は大好きだ。
あなたに会う理由をいつも探してる
あなたと話す口実をいつも探してる
何も気にしなくていいはずなのに
私ばっかり意識して
電話とかLINEしようって思うけど
指が動かない
声聞きたいよ
なのに怖くて
嫌われるのとか
引かれるのとか
バレちゃうのとか
怖くて
動けない
分かんないよね
きっと分かんない
みんなにも
あなたにも
「アイツはそういう肝心なことを言わないし…」
「ピスケスは知らないの?」
「一応知っているけど…こういうのはアイツに直に聞いた方がいいかもね」
ピスケスはポツリと呟く。
その言葉にキヲンは目を輝かせた。
「じゃあ、ナツィのこと探してくれるの⁈」
「まだ言ってないわよ」
ピスケスは少し微笑む。
「確かにアイツの発言は、あなたたちにとって引っかかるものがあるでしょうね」
そこの露夏も引っかかってるみたいだし、とピスケスは隣の露夏に目を向ける。
露夏はちらとピスケスに目を向けて、また目を逸らした。
夏は早く長く、アブラゼミはしぶとく生きている。おそらく蝉の寿命が一週間だなんて嘘だと思う。猛暑、猛暑、猛暑…。三寒四温からの真冬日からの春後半、初夏の気温は当たり前だ。まるで今が夏みたいな言いぶりだが間違えない春だ。今言ったのは忘れてほしい、去年の話だ。
変な気温は、頭でわかっていても体は追いつかないみたいだ。
「あれ、沢本は?」
「風引いたって、なんかあれだよ、寒暖差アレルギーか。」
ふーん。
現代人は働き過ぎだ。
「あ、じゃぁ銀座の方まで行ってきます。」
おぅ、と一言言われ、資料だけ取ってすぐさま私は駐車場に戻った。初任給と貯めてきたバイト代で5年前に買ったSUV。ラジオは今日の渋滞情報を流す。
午前8:25分
ー海老名IC付近を先頭に上りに10kmの渋滞………ー
今日は三連休の月曜日。皆は帰宅ラッシュとやら私とは無縁の物にまんまとはまっている。
「まじか…」
一部が高速から時間短縮のために一般道に流れたらしい、少し混んでいる。
……………
完全に止まってしまった。私は今日の契約先と、会社に事態を知らせ1時間ほどの遅れを許してくれた。なんと心の広い。
周りをチラチラしていると車窓の向こうの車窓の向こうから手を振る人がいた
「あ、!さか…」気づいて窓を開ける
「酒井さんじゃないですか!」
『久しぶりだね』
学生時代のバイト先の店長である。
「混んでますねぇ。」一拍置いて酒井は懐から一本のタバコを取り出す『まぁ仕方ないよ。』足を組んで答えた。「酒井店長、タバコ変えたんですね。」ようやくこっちを見た。『あぁまぁ、あんまりうまくないけど、ニコチンとか少ないヤツにしてね、まぁいつかは、タバコを辞めたいな。こんな調子じゃ無理そうだけどな笑。』私は愛想笑いをする。
車が流れ出し、私は会釈をして窓を閉じようとした。
『あ!中木!』
「なんですか?。」すっと酒井は私を指さした。『今を生きろよ、じゃ元気にやれよ。』
「酒井さんこそお元気で。」
こんどこそ窓を閉め、アクセルを踏んだ。
大したものである。
夢を捨ててもなお現実に生きることはしない。反面教師というものだろうか。しかし、それは何も知らないからこそ出た単語であり、私たちにはそれを言う権利すらないのである。
犬が猫の子に文句を言おうと、猫の子には猫の子の理屈があるのは当たり前であり、言わずとも皆わかる。
現実、人間は戦争だの何だの同族嫌悪しているクセに、その応用が効かない生物だ。
「報われてほしい」って 何回思ったかな
言ってみるだけじゃ 意味はないんだよ
やってみなけりゃ 時は動かない
そんな事を考えながら 思いにふける夜
「ねぇ、また今日も独りなの?」そんな事しっていたよ 夜の祈り
また 忘れないんだろうな 覚えて いって ほしんだ
「報われてほしい」って 何回思ったかな
やってみることに 意味があるんだよ
その決意こそが 今日を動かせる
そんなことを歌いながら 進んでいける夜
昼、とある大学の敷地の片隅にて。
昼休みの時間になって多くの学生、教職員が食堂や空き教室、敷地内の芝生で昼食を摂っている。
そんな中、敷地の片隅にある建物の、普段は立ち入り禁止になっている屋上で、奇妙なコドモたちがお茶会をしていた。
「…それでそのうさちゃんを?」
「うんそうなの!」
髪が水色で魚のヒレのような耳を持つコドモがウサギのぬいぐるみを抱える金髪のコドモに尋ねると、そのコドモ…キヲンは明るく頷く。
「ナツィがお家に帰らないでかすみの所にいるっていうから、このうさうさもお外に出られなくてかわいそうだと思って」
「へ、へぇ…」
そう言うキヲンに対し、キヲンの左隣に座る植物の葉のような髪を持つコドモは引き気味に返した。
それを見て、どうかしたの、タイサンボク?とキヲンは聞く。
タイサンボクと呼ばれたコドモはい、いや…とビクビクしながら答えた。
「勝手にナハツェーラーのところからその子を持ち出しちゃって、大丈夫かなぁって…」
絶対怒られるんじゃ…とタイサンボクは続ける。
「聞くなよ…」
そうこぼして、ナツィは丸くなった。
キヲンはそんなナツィの様子を微笑ましげに見ていたが、ふとベッドの枕元の見覚えがある白いウサギのぬいぐるみが目に入る。
「…」
それから数分後、部屋からキヲンが立ち去るような足音がしたのでナツィが部屋の入り口を見ようと寝返りをうつと、枕元にウサギのぬいぐるみがないことに気づいた。
「えっ」
ナツィは慌てて起き上がり、辺りを見回す。
「…まさか」
ナツィは思わず呟いた。
「確かに」
勝手に自分のものを持ってかれたら誰だって困るわよ、きーちゃんとキヲンの右隣に座る紅色の長髪とキツネのような耳を持つコドモは腕を組んだ。
「うーん、そうだけど…」
でもこの子がかわいそうだし〜とキヲンは口を尖らせる。
「それに、ナツィは家に帰りたくないってかすみのところにいるから、どうにかして家に帰る気にさせたいんだ」
だから、仕方ないのとキヲンは開き直った。
3人のコドモたちはつい黙り込むが、ここで屋上の塔屋の方から、あらお茶会?と声が飛んでくる。
キヲンたちがそちらの方を見ると、青い長髪のコドモ…ピスケスと、赤髪でキャップ帽を被ったコドモ…露夏が立っていた。
「あ、ピスケス! 露夏ちゃん!」
キヲンが思わず立ち上がると、ピスケスは楽しそうねぇと言いながら歩み寄ってくる。
「クロミスたちが主催なの?」
「あ、はい」
ピスケスがそう尋ねると、クロミスと呼ばれたヒレ耳のコドモは慌てて背筋を伸ばして答えた。
「…あ、ナツィ」
来てたの?とキヲンは立ち上がりかけるが、ナツィは無言でその襟首を引っ掴む。
クロミス、タイサンボク、中紅、露夏は驚くが、ピスケスは落ち着いた様子でその光景を見ていた。
キヲンはご、ごめんね!と慌てて謝る。
「ナツィのうさうさ勝手に持ち出し…」
「謝罪なんかどうでもいい」
とりあえずジークリンデを返せ、とナツィは低い声で言い返した。
「わかったから、まずボクを離してよ…」
キヲンはナツィに笑いかけると、ナツィは冷たい目を向けたままキヲンを乱暴に離す。
キヲンはナツィから解放されると、慌てて足元に落ちたぬいぐるみを拾った。
そしてキヲンは、はい、ナツィのうさうさ、とナツィにぬいぐるみを差し出すが、キヲンが言い終える前にナツィはキヲンの手からぬいぐるみを奪い取り、背を向けた。
「あっ…」
キヲンはつい言葉を失い、その様子を見る露夏はおいテメェ!と立ち上がる。
「きーちゃんに対してその態度はないだろ‼︎」
いくらきーちゃんがヒドいことをしたからって、お前までもそうする必要ねーじゃねーか!と露夏はナツィに近づく。
…うるさい、とナツィは言い返した。
「クロミスとタイサンボクと中紅で、よくやってるんです」
で、今日はきーちゃんも一緒に、とクロミスはキヲンの方を見やる。
ピスケスはそう…と言いつつキヲンの方を見た。
キヲンは不思議そうな顔をするが、ピスケスはその場にかがみつつにっこり笑う。
「きーちゃん、そのぬいぐるみはナハツェーラーのでしょう?」
「あ、うん」
「早く返しに行った方がいいわ」
「え」
ピスケスの言葉にキヲンは驚く。
「返すって、でも」
「なにを考えてるのかは聞かないけど、それはアイツが大切にしているものなの」
だから返しに行きなさい、とピスケスは続ける。
「さもないと、来るわよ」
「ふぇ?」
アイツが…とピスケスはキヲンの後方に目を向けた。
キヲンはつい首を傾げるが、目の前のクロミスたちが急に慌てたような顔をし始めたので振り向く。
その背後には、黒髪でゴスファッションを着て背中に黒い蝙蝠のような翼を生やしたコドモ…ナツィが立っていた。
二人は糊口を凌ぎながら、遂に山麓へと辿り着いた。
星を見た囚人は、整備された山道に気付き、早く登ろうと言った。その言葉で、二人はこの山の安全性を理解することができた。
泥を見た囚人は、もう足が棒だから休もうと言った。その言葉で、二人は久方ぶりに足を止めて疲れを癒やすことができた。
二人が山道を進むと、中腹に小さな村があった。
星を見た囚人は、人形を売って得た金を見せた。村人たちは彼らの価値を理解した。
泥を見た囚人は、下げ慣れた頭を垂れてみせた。村人たちは彼らの礼節を理解した。
二人は一夜の宿を取り、明くる朝山頂を目指して歩き出した。
星を見た囚人は、先陣を切り前を向いて歩いた。その姿で、相方に希望と意志を分け与えた。
泥を見た囚人は、後続して下を向いて歩いた。その目で、相方に安全と道標を指し示した。
小さな二人の手は、山頂に至っても尚星々には遠く及ばなかった。
星を見た囚人は、そういうこともあると慰めた。
泥を見た囚人は、もっと高い山を探そうかと戯けてみせた。
二人の囚人がいた。
一人は泥を見た。星空を夢見る相方が隣にいたから。
一人は星を見た。足元を検める相方が隣にいたから。
メガネを外してみてください。
って言ってみようかな
メガネを外した彼は素敵だから