息をしたときの空白感、 きりんがいつものように一回転して、 わたしの頭にキスをした。 「うまくいくものじゃないさ」と でっぷり太ったお月さまは、 にこにこと笑った。 まぶたを開けたときの空白感、 空を泳ぐくらげが流れ星のようで、 「願い事を言ってごらん」 囁きが聞こえる。 こっそりと。
宙に投げ出されたような 私の手をほどいてゆく シャンプーの匂い、私を包む ふらふらと君のもと あったかいのね、 じっと見つめて見つめて 私の手をなでてゆく
ぶくぶく 深海の緑に溺れていく 真っ青になるほど冷たくて でも そんな君がよかったの 透き通るさざ波に釣り糸を投げて 貝殻に秘めた音 ずれているの、 人魚が歌うそれより 不揃いで 少し色褪せていて でも そんな思いでよかったの 鳥のようには飛べないから ここで君を待っているの
魚の鱗が ひらひらと、 僕のもとに舞いおりる。 ガラス瓶の 中、 炭酸が抜けていく。 手のひらに刺さる。 甘い。 どうしようもなく、どうしようもなく。 泳いでいく、 きらきらの夜へ。 僕はくらげだった。 理詰めの瓶を、 放り投げた 君の 横顔、 何よりも好きだった。 僕を見つめる君の目が、 水面を反射して、 揺れていた。
うまくできない。 海の底にぶくぶくと、溺れていきたくなる。 もう一度、なんて、もうできない。 もう一度、やっても、たぶん、きっと、うまくできない。 どちらにしても、迷うだけ。 はっきりしない、 そんな色で、 ふたりを染めてもどうしようもないでしょ。 終わりなのだと、思った。 これでそうならきっと大したことなどなかったのね。 大抵そうなの。 うまくできない。 私はいつも、 下手みたい。
胸がどきりと。 君が、 笑うから。 息を吸って。 終わりみたい。 もう、これで。 さよなら、簡単にできるのね。 胸がちくりと。
見つめる景色の先、 君がいた。 勇気を出して、 さあ一歩。 「君はまた、金魚にでもなるつもりか い!」 誰かさんが、にっこり笑った。 「金魚になるよ、君がえさをあげたくてしかたなくなるような金魚にでもなるよ!」 待ち続けた先に、 君が来た。 素直になれ、恋した金魚。
夢を描くような夢。 水彩画が、 じわりとにじむような夜。 つまり、それは涙。 目をつむって、まん丸の月を見上げたら、絵の具がぽとりと頬をたたいた。 夜色、すうっと、おちる。 目を開けて、きらきらの星を眺めたら、君がおいでと手招きをした。 指先、だんだんと冷える。 耳打ちをして、波打ち際でおやすみ。
濡れたあなたの髪をなでた。 あいまいな形、手のひらで転がすのは、あなたかわたしか。 言いたいことはいつだって、胸で息をしているのに。 言葉をどれほど重ねたって、無味なそれじゃ、つかめやしないのに。 濡れたあなたと肩を並べた。 見えない心、推し量っているのは、あなたかわたしか。 あなたもわたしもか。 言いたいことをどうしたって、言えやしないのは、あなたもわたしも、あたなとわたしのせいだ。
赤い屋根から 落ちる 水滴、 昨日の 秘密、 混ざって、消えたらしい。 雨降りのワルツを、 ひらりと踊る。 そんなてるてる坊主、 水たまりに映る。 スキップ、 ターン、 で 一歩進んで、 ステップ、 ターン、 で 君のもとへ。 きらきら、 星が降って、 大人なんてみんな眠って、 そして そして 僕らだけの世界になるんだ。 明日のことなんて、 笑って投げてしまおうよ。 色づいた口もとに 歌を寄せて、 音符を追いかけてゆこうよ。 君の 手を引いて!
前をすっと向いて、 くちびるをきゅっと結んだ。 どうやらあなたは、 月をせがんだ私のこと、 まだ覚えていたみたい。 まぶたがおちるそのままに、 眠りにつくのはいつもあなた。 許してしまうのは、いつも私。 結局、 まるかばつかは、私が選んでいるでしょう。 なぜだか穏やかな心地で、 少しだけ浮遊感。 今度は星空を欲しがっても、 あなたは覚えていてくれるのかしら。
嘘、 涙に溶ける。 何度くちづけをしても、 残った苦い味はきえない。 言葉じりだけが、 耳から離れなくて、 それでもそれだけでもと、耳をふさいだ。 不透明な君を、 ただ、見つめていても、ちっともわかりはしないから。 いつまでも月をつかまえようとするなんて、 君も私もきっと、どうかしてる。
飼いならされた、魚みたい、だな。 なんて、水たまりを覗く。 隠した、言葉ばかり、並べたテーブルの上、向かい合った君と私は。 瞳、覗いたって。 嘘を、見抜いたって。 本当の気持ちなんて、引き出せないよ。 もっと、純粋に、ラムネみたい、なら。 なんて、叶わないな。 なんて敵わないのだろうね。 視線、交じったって。 肌が、触れたって。 素直な思いなんて、つかめないよ。
はっと目を開けたとき、 君と目があったので。 金魚が、瓶の中、ゆらゆら揺れ泳ぐさまを、 ただ見ていたいので。 夏なのだと、思いました。 ふとした瞬間に、また君を思うので。 鳴らない風鈴を、手を伸ばして、りんと鳴らしたくなるので。 これは恋ですかと、誰かに問うのです。