表示件数
0

五行怪異世巡『肝試し』 その⑥

「クソが……あの悪霊……おい青葉、犬神。悪霊の専門家として、アタシから言っておくぞ」
「うん?」
「なになに?」
「悪霊の及ぼす『霊障』には、いくつか種類がある。直接の影響力だけじゃない、障る『条件』もだ。……奴は『触れるだけで』霊障を発生させる。しかも、物理干渉ができるレベルの格だ」
千ユリが左手を軽く持ち上げると、虚空に”エイト・フィート”の片腕が出現した。その腕は無残にも複雑に捻じ曲がり、ところどころ体内から骨が突き出ている。
「アイツに触るなよ? 死ぬから。多分、青葉の霊障耐性があってもシンプルに殴り殺される」
その言葉に、青葉は息を飲む。
不意に、悪霊の姿が揺らいだ。ふらふらと覚束ない足取りではあるが、ある程度の速度で3人に向かってきている。
「来る……ッ、いや、違う!」
そう叫び、青葉が前に出る。それと同時に、悪霊の足取りも速まる。
「コイツ……『逃げたみんなを追おうとしている』!」
言いながら杖で殴りつけるのを、悪霊は身体を大きく折り曲げるように回避し、すれ違いざま青葉の顔面に掴み掛かろうとする。その攻撃は武者霊“野武士”が地面に突き立てた刀に阻まれ、悪霊本体の突進は突如せり上がった土の壁に激突して停止した。
悪霊が緩慢な動作で身体を起こし、3人に顔を向ける。穴だけの鼻。耳まで裂けた口とそこからこぼれる長い舌。白目の無い薄汚れた黄色の眼と縦長の瞳孔。その顔は、人間のものとはまるで異なり、むしろ蛇や蜥蜴のような爬虫類のようだった。
「……ヒヒ、コイツぅ…………最初思ってたよかよっぽど異形のバケモノじゃん?」
ごきりごきりと音を立てながら悪霊の首と腕が捻じれ伸びていく、その様子を見ながら、千ユリが溢す。
「こんなのが何、外に出ようとしてるの? キノコちゃんの縄張りからも離れてるし……」
自然と崩れていく土壁と悪霊を交互に見ながら、犬神が言う。
「それだけは絶対に許しちゃいけない。……放置することだってできない。だから……」
3人の思いは一つだった。
「「「今ここで…………殺すしか無い!」」」

2

造物茶会シリーズ現行公開設定まとめ! その1

実験的プチ企画「我流造物創作」の要項を上げた所、「造物茶会シリーズ世界の現時点で分かっている設定をまとめて欲しい」と言われてしまったので自分の中での情報整理を兼ねて設定まとめです。
ただ設定解説の都合上、未公開設定が断片的(つーかかなり)に出てくる可能性があるかも…?
とりあえず最初は用語解説です。

〈用語〉
・魔術 Magic
「造物茶会シリーズ」の世界における、“魔力”を用いて物理法則や常識を無視した現象を引き起こす術。
“術式”を組むことで使うことができ、これを使う人間を“魔術師”と呼ぶ。
この世界における現代では「魔術は一般人に秘匿すべきもの」という暗黙の了解があり、多くの一般人はその存在を知らないか、おとぎ話の存在だと思っている。

・魔力 Magical power
“魔術”を使うために消費するエネルギー。
空間や無機物に宿る不可視の力。
生物など有機物には宿りにくいが、人間は後述の“術式”を上手く使いこなすことで魔力を扱い魔術を行使できる(未公開設定)。

・術式 Sigil
“魔術”を使うために組む、魔力を媒介する回路のようなもの。
(以下未公開設定)パッと見はいわゆる魔法陣のように見えることが多い。
魔力を媒介する物質を溶かした液体で平面に魔法陣的な模様を描いたり、魔力を宿しやすい無機物に模様を刻みつけるなど、様々な方法で組むことができる。
平面の模様として組まれるだけでなく、高度な術式は立体的な形で組まれることもある。
一般的な“魔術師”はその場で術式を組んだりせず、事前に術式を組み込んだアイテムに魔力を流すことで魔術を行使することが多い。

・魔術師 Wizard
“魔術”を使う人間。
色んな派閥に分かれている。
(以下未公開設定)魔術を習得するためには一般に“学会”と呼ばれる機関で術式の組み方や魔術師としての心得、魔術の歴史などなどを学ばなければいけない。
一瞬でも魔術を使った人間は魔術師と言っても問題ないのだが、一般的には“学会”などの機関や魔術師から魔術を教わり使いこなせるようになった者を魔術師と呼ぶことが多い。
最近はなり手不足が深刻。

とりあえず長いのでその2に続く。

0

五行怪異世巡『肝試し』 その⑤

「……上って来た石段、結構高かったような……?」
青葉の呟きに、千ユリが視線を向ける。
「まあそれなりに? それが何?」
「あの勢いでうっかり転げ落ちたら、怪我じゃ済まないんじゃ……」
「ア・タ・シ・が・知ったことかよォぉぉ……」
「気にしてよ……一応基本方針は『人間を守る』ことなんだから」
言い合う2人の肩を、犬神が1度叩く。
「二人とも、出てくるみたいだよ」
犬神の言葉に、2人は素早く本殿の方を見た。半分ほど木材の腐ったその建物の前に、夜闇の中で尚浮き上がる漆黒の靄の塊が蠢いている。
「……多分、ここじゃぁ『神様』として扱われてたンだろーなァ…………けど、所詮正体は『悪霊』だ。アタシの戦力として、コキ使ってやるよ」
咥えていたロリ・ポップを噛み砕き、2本目を取り出しながら、千ユリが1歩前に出る。左の手を開き、靄から少しずつ姿を現わそうとしているその『悪霊』に向ける。
「“アタシの愛しいエイト・フィート”!」
異常に長身の女性霊が出現し、靄から現れた霊に組み付こうとする。その悪霊は”エイト・フィート”の両手を自身の両手で受け止めた。
「ッ……⁉ 退け!」
千ユリの合図に応じて、”エイト・フィート”は彼女の目の前にまで後退った。
「千ユリ? 何があった?」
青葉の問いには答えず、千ユリはその悪霊を睨みながら”エイト・フィート”を消滅させた。

2

【プチ企画】我流造物創作 〈企画要項〉

どうも、テトモンよ永遠に!です。
突然ですが、今月で自作小説「造物茶会シリーズ」は投稿開始2周年を迎えます。
めでたいですね、いえい。
これもひとえにKGBさんやスタンプやレスを付けてくれる皆さんのお陰です。
ありがとうございます。

…という訳でプチ企画です。
ポエム掲示板の皆さん、「造物茶会シリーズ」の世界観を使って創作、してみたくありませんか?
個人的には少し前に、「ぼくが企画とかとは無関係に書いている物語を他の人が書いたらどうなるんだろう?」と思うことがちょいちょいあったんですよ。
まぁ端的に言えば「二次創作」を見てみたいって訳です。
そういう訳で、プチ企画「我流造物創作」を開催します。
ルールは簡単、ぼくテトモンよ永遠に!が書いている小説「造物茶会シリーズ」の設定・キャラクターを利用して文芸作品を作り、タグ「我流造物創作」を付けて投稿する、これだけ。
ただ公序良俗には気を付けてね。
あとちゃんと「造物茶会シリーズ」を読まないと書けない(はず)なのでまとめやぼくのマイページの過去書き込みに目を通した方がいいかも。
開催期間はこの書き込みが反映されてから今月が終わるまでにします(多少の遅刻は大丈夫)。
「造物茶会」の設定とキャラクターを使っていれば内容は基本なんでもいいし、オリジナル設定やキャラクターをぶち込んでも大丈夫です(二次創作なんで)。
作品形態も問いませんし、タイトルも自由です。
まだ分からないことが多い作品なので、“伏せられている設定”はぼかして描写してもオリジナル設定で埋めちゃっても怒りませんよ。

超実験的な企画ですがよかったらご参加下さい。
ちなみに質問などはレスからお願いします(設定については答えられる範囲で答えます)。
では、よろしく〜

0

五行怪異世巡『肝試し』 その④

「悪霊…………嫌な場所とは思ってたけど、本当にいるんだ」
「は? 見えて……ないんだったな青葉は、面倒くさ……」
「むぅ……」
渋い顔をする青葉に、千ユリはウエストポーチから取り出した物を手渡した。
「……え、何これ」
「飴。あげる。どうせ果汁入りでそんなに好きじゃないやつだし」
「え、ありがと……何か返せるもの……」
「あーいらないから」
「あ、良いなー。私にもちょーだい?」
「はァ? 嫌だよバーカ」
犬神には左の中指を立てて答える。
「えー意地悪ぅ。……けど、マジに何かいるのはマズいな…………」
頬を膨らませながらも、犬神は冷静に呟いた。
「ここにいる一般人の子たちに危害が加わるのはあんまり好ましくないから」
犬神の言葉に、千ユリが反応する。
「…………コイツらが逃げ出すようなことが起きれば、それで良い?」
「ん? そうなれば嬉しいけど……」
犬神の答えに、千ユリはニタリと笑い、ロリ・ポップを咥えた。
「なら、『奴』が姿を見せる前に、軽ぅーく脅して退場してもらおうか」
右手の小指がぴくりと持ち上がる。どこからか現れた、暗紫色の炎を纏った浮かぶ頭蓋骨が中学生らの周囲を飛び回り、千ユリの後頭部に突っ込むようにして消滅した。
「ッヒヒヒ、失せな雑魚共」
右の中指を立てる。敷地を囲む木立の陰で、がさり、と音がする。その場にいる全員がそちらに目をやると同時に、木の陰からぬらり、と武者の霊が現れた。
「う……うわぁああああああ⁉」
誰か1人が叫んだのを皮切りに、恐慌状態がその場のほぼ全員に伝播し、青葉、犬神、千ハルの3人を残して鳥居の方に向けて逃げ出していった。

0

五行怪異世巡『肝試し』 その③

3人が追い付いた頃には、他の面々は既に石段を上り切り、朽ちかけた鳥居の前でやや緊張した様子で立ち尽くしていたところだった。
「うっわぁ夜なのもあって不気味じゃん?」
千ユリがけらけらと笑いながら言う。彼女の口調は緊張を和らげ、彼女の言葉は彼らの足を重くした。
「……な、なあ、入らないのかよ?」
先頭の少年に、一人が声を掛ける。
「い、言われなくたって……!」
少年が、深呼吸の後、1歩を踏み出す。瞬間、空気が更に張り詰める。1人「きっかけ」が動いたことで、また一人、更に一人と境内へ踏み入っていく。
不意に、一人の少女がポケットからスマートフォンを取り出し、カメラのシャッターを切った。
「わっ、何だよびっくりした……」
「あはは、心霊写真でも、撮れない、かな……って…………」
撮影した画像を確認しようと画面に目をやった少女の表情が青ざめる。その時、素早く千ユリがスマートフォンをひったくり、わざとらしく口を開いた。
「んぁー? 何これ滅茶苦茶ブレてんじゃーん写真撮るのヘタクソかぁ? 良い? 写真ってのは……こう撮るの」
1枚写真を撮り、画像を表示した状態でスマートフォンを返却する。画面には、何の異常も無く境内の様子を写した画像が表示されていた。
「え、あれ? あ、うん……」
その少女から離れた千ユリに、青葉と犬神が近付く。
「千ユリ? 何が写ってた?」
声を潜めて尋ねる青葉に、千ユリは呆れたように頭を掻きながら小声で答える。
「アイツが撮ったのは消したけど……まあヤバいやつ。平たく言えば……悪霊?」

0

五行怪異世巡『肝試し』 その②

集団の最後尾を歩いていた青葉は、背後から肩を叩かれ、立ち止まって持っていた杖を強く握りしめながら振り返った。
「…………あれ」
「や。青葉ちゃん、だっけ?」
「どうも、こんばんはです、犬神さん」
彼女の背後には、犬神が笑顔で立っていた。
「花火大会に来たら偶然見かけちゃったもんだから、ついて来ちゃった」
「そうですか」
「どしたの?」
「……クラスの馬鹿な連中が肝試しするって話してたんで。ここがガチのスポットってことは知ってたので、〈五行会〉として護衛につこうと同行している次第です。……あ」
青葉は不意に思い出したように声を上げ、同じくほぼ最後尾を歩いていた少女を呼んだ。
「犬神さん、ちょうど良い機会なので紹介します。彼女は最近〈五行会〉に入った……」
「特別幹部《陰相》。“霊障遣”の榛名千ユリ。あんたは?」
自ら名乗った千ユリに、犬神は握手を求めるように右手を差し出しながら答えた。
「や、私は《土行》の犬神だよ。キノコちゃんが言ってたのはあなただったんだね」
「キノコ?」
「あれ、会ってないの?」
「……千ユリ。多分種枚さんのことだと思う」
青葉に言われ、千ユリはしばし考え込んでから手を打った。
「あぁ、アイツか」
「ところで2人とも、ここで話してて良いの? 他の子たち、かなり上まで行っちゃったけど」
「あっしまった」
すぐに振り返り、急ぎ足で上り出す青葉を、千ユリと犬神は焦ることも無く悠々と追った。

0

五行怪異世巡『肝試し』 その①

8月某日。世間の子供たちが夏休みの只中にあるとある日の夕方ごろ。
数人の中学生の男女が連れ立って、河原への道を歩いていた。
その河原は、この日19時から始まる花火大会を眺めるには絶好のスポットであり、夜店なども多く出店し、ある種の祭りのような様相を呈していた。
しかし、彼らの主目的はそこには無い。出店の隙間を埋める人ごみの中を彼らは迷い無く通り抜け、上流の方向へ、ひと気の少ない方へ只管歩き続ける。
土手を上がり、まばらな街灯の下を進み、深い木々の中に埋もれた石段の前に辿り着き、そこで一度立ち止まる。
先頭に立っていた少年が腕時計を確認し、残りの面々に向き直る。
「現在午後6時40分、花火大会が終わるまでは1時間以上余裕である…………それじゃ、行くぞ! 肝試し!」
少年の言葉に歓声を上げ、子供たちは石段を上り始めた。

“廃神社”と呼ばれるその心霊スポットは、その呼称の通り数十年前に放棄された廃神社である。
周辺をオフィス街や住宅地、幹線道路などに囲まれている中、不自然に小高く盛り上がった丘の上に建っており、丘陵全体は雑多な木や雑草に覆われ、辛うじて名残を見せる石段と境内も、処々に荒廃や劣化が現れ、不気味な雰囲気を演出している。

0

五行怪異世巡『霊障遣い』 その⑯

「ふゥーん……? 大分おイタを働いたようじゃあないか。ンで、青葉ちゃんに負けたと」
「何か悪い?」
「いやァ? ……で」
少女千ユリから離れ、種枚は青葉の顔を覗き込んだ。
「そんな危険人物連れて私の前に現れて、どうしたいのさね」
「彼女を〈五行会〉に引き入れます。彼女の『悪霊を封じ、使役する』異能は、必ず人類のためになりますから」
「…………へェ。青葉ちゃんや、随分と強くなったねェ?」
「……そうですかね?」
「いや、元からタフなところはあったっけか……。あー、ユリちゃんだっけ?」
「千ユリだバカ野郎」
「女郎だよ。千ユリちゃんね。じゃ、青葉ちゃんの下で面倒見てもらうとするかね……」
「はぁ⁉」
種枚の言葉に、千ユリが食い気味に反応する。
「誰が誰の下だって⁉」
「いや実際負けたんじゃあねェのかィ?」
「こんな霊感の1つも無しに外付けの武器だけでどうこうしてる奴の下とかあり得ないんだけど⁉」
「えー……面倒な娘だなァ…………」
種枚はしばし瞑目しながら思案し、不意に指を鳴らした。
「じゃ、いっそ新しく役職作っちまうかィ。面白い異能持ってるようだし、たしかに誰かの下につけとくべきタマじゃねェやな」
「ようやく理解したか……」
半ば呆れたように溜め息を吐く千ユリにからからと笑い、種枚は天を仰ぎながら考え始めた。

0

五行怪異世巡『霊障遣い』 その⑮

「潜龍さん? 何をしているんですか?」
短刀の刃を掴み、青葉が低い声で尋ねる。
「……こいつの異能は危険だ。その根源たる十指を、切断する」
平坂は平然と答えた。
「……そうですか。なら、私の手諸共、斬ってみますか?」
「……離せ」
「離しません」
平坂が短刀に込める力を強め、それと同時に青葉の握る力も強まる。
「こいつの遣う霊障によって、既に人が死んでいる。こいつの異能は封じられなければならない」
「だとしても、私はその手段を許しません」
青葉の掌と刃の隙間から、血が滲み出る。
「……ほう。ならば、何か他の手段があるとでも? こいつの力を、確実に封印できる手立てが」
「はい。『私達』が手段です」

翌日。
少女の手を引いて街中を歩く青葉の前に、種枚が現れた。
「あ、クサビラさん。ちょうど探してたところだったんですよ」
「そりゃちょうど良かった。で、その娘は何者だい?」
少女に顔をずい、と寄せながら、種枚が青葉に尋ねる。
「えっと、最近悪霊について騒ぎが起きていたことについては、御存じで?」
「そりゃあ、ここいらで起きる怪異絡みの出来事に関しちゃ大体把握はしてるがね」
「その犯人です」
「……へェ? お前、何て名だい?」
種枚に臆する事無く睨み返しながら、少女は答えた。
「榛名千ユリ(ハルナ・チユリ)。霊障遣い」

0
0

五行怪異世巡『霊障遣い』 その⑭

少女が叫ぶように言うのと同時に、背後から青葉の心臓近くを武者霊の刀が貫いた。更に、女性霊の手が後ろから首を掴み、力を込める。
「…………」
「ッハハ、ザマァ見ろ……! 霊障は直接魂を害し、肉体にダメージを誤認させ、現出させる!」
「なんだ、結構斬ったのにまだ動くのか。そういう力か?」
「……は?」
悪霊2体の攻撃を意にも介さず前進する青葉に、少女は呆然とする。その隙に、青葉は少女の胸倉を掴み、仰向けに転がした。
「な……おい、やめろ……止まれ!」
少女の言葉を無視し、青葉は片足を高く持ち上げ、勢い良く振り下ろした。
「…………悪いけど、こっちも才能以外は数百年分背負ってるんで」
失神した少女の頭の真横に下ろした足をゆっくりと退かしながら呟き、背後の悪霊たちに目を向ける。それらは呆然と立ち尽くしていたが、やがて倒れた少女にじりじりと近付いていき、そのまま掻き消えた。
「……はぁ、緊張した…………」
腰を抜かしてその場にへたり込んだ青葉の隣に、平坂が歩み寄って来た。
「あ、潜龍さん」
「すまんな。お前に最も危険な仕事を任せることになった」
「いえ別に……潜龍さん?」
平坂は徐に地面に捨てられたままになっていた短刀を拾い上げ、刀身をしばらく眺めてから握り直し、少女の前に屈み込んだ。
「潜龍さん?」
青葉の呼びかけには答えず、平坂は脱力して開かれた少女の右手の指の付け根に、刃を当てた。

0

五行怪異世巡『霊障遣い』 その⑬

(カオル)
武者霊と打ち合いながら、青葉は自身に宿る霊体に心中で呼びかける。
(どうしたの、ワタシの可愛い青葉?)
(ちょっと作戦を思いついたんだけど。防御は捨ててあの子に直接突っ込む。霊障はカオルが吸ってくれるんでしょ?)
(ふーむ……あまりおすすめは……あ)
(何?)
(……いや、ワタシの可愛い青葉が傷つくのは……)
(五体が残るなら多少の怪我は気にしないから。勝てる方法、教えて)
(それじゃあ…………)
カオルの言葉に従い、仕込み杖〈煌炎〉の持ち手近くを握る。軽く捻るようにしながら力を込め、内部に仕込まれていた刀身を一気に引き抜いた。
「……おいクソ雑魚。何なの、それ?」
少女が強く睨みながら、青葉に問う。
40㎝にも満たない短い刀身は、夜闇の中であっても奇妙な金属質の輝きを見せ、霊感に干渉する不気味な雰囲気を纏っていた。
「その気持ち悪い刀で……何するつもりだ!」
「……お前に勝つ」
短く言い放ち、青葉は駆け出した。2体の悪霊が少女との間に立ち塞がるが、青葉が回転しながらその隙間をすり抜けると、無数の刀傷を受けその場に崩れ落ちた。
「なっ……! “アタシの……」
唖然とする少女に詰め寄りながら仕込み杖を納刀し、振り下ろすように打撃を放つ。仰け反るように回避した少女の下顎に、更に打ち上げるように放った二打目が掠める。その攻撃による振動は少女の脳を揺さぶり、意識を奪うに至らしめた。
その場に膝をつき倒れる少女を前に、青葉が構えていた杖を下ろしたその時だった。
「っ……が、っは…………! ぁ、がぁぁあああああ!」
地面に両手をつき、少女が呻き声を上げる。
「なん……で、だ…………! お前みたいな、無能の雑魚、が……!」
「……まだ意識あったんだ」
少女は朦朧とする意識を気力で繋ぎ止め、己を見下ろす青葉を睨み返した。
「ッぅぁぁぁぁ……! 逆、じゃんかよ……ええ⁉ アタシの……身体も! 名前も! 異能も! 霊障も! アタシを作る全部! 『血』から受け継いできたんだ! アタシは……、何百年の『血』の歴史の……終着点だ! 跪くべきは…………っ、そっちだろうが!」

0

五行怪異世巡『霊障遣い』 その⑫

武者霊の振り下ろした刀を大きく沈み込むように回避しながら前進し、更に伸びてくる女性霊の腕を跳躍して躱し、少女との距離を詰めて青葉は杖を相手の顔面に向けて突き出す。女性霊が少女の首の後ろを掴んで後方へ引くことで、少女はそれを回避し、反撃に伸びてきた無数の腕は、平坂の鳴らした鈴に消し飛ばされる。
一連の攻防を終え、2人の間に一瞬の静寂が流れる。
(……あのお兄ィさんの鈴、鬱陶しかったけど大分性質が分かってきた。あいつからの『距離』と悪霊の『格』で威力が変化するっぽいな。まあ“草分”はたしかに数だけ揃ったやつだけどさァ……っと)
青葉が振り下ろした杖の打撃を、女性霊の左腕で受け止める。青葉の小さく貧弱な身体から放たれたにもかかわらず、その威力は女性霊の腕を折るのには十分だった。
「クソ……鬱陶しい!」
ウエストポーチから取り出した個包装のキャンディ数粒をまとめて口に放り込み、少女が右手を頬に当て、小指でこめかみを叩く。それによるものか、青紫色の炎が少女の右眼から燃え上がった。
「……ん?」
「無能のくせに生意気なンだよ……! アタシの全力ブチ込んで、テメエは絶対殺す!」
後退すると同時に女性霊を前進させ、武者霊と同時に青葉に差し向ける。青葉はそれを後退りしながら回避するが、それを読んだように、斬撃から刺突に攻撃を切り替える。
「っ……!」
身を捩りながらその刃を辛うじて回避したところに、女性霊の拳が突き刺さる。
(…………動きが変わった? さっきより受けにくい……というより)
杖で拳を防いだものの地面に組み伏せられた青葉に、武者霊の斬撃が迫る。転がるようにしてそれを躱した青葉の首が一瞬前まであった場所を、刃が通り抜けた。
(……カオル)
(うん、ワタシの可愛い青葉。〈煌炎〉で当たって力の減衰しない悪霊なんて在り得ないのに……奴らの格からして、あそこまで押されるわけ無いのに)
再び距離を取り、青葉は平坂のいる場所まで下がった。
「おい、押されているようだが……手を貸すか?」
「いえ、そこまででは。突破口探すので、引き続きあの腕たちの牽制だけしていただければ」
「ふむ……だいぶ疲れてきているようだが」
「大丈夫……です、はい」
自分に言い聞かせるように言い、青葉は再び悪霊たちに向かって行った。

2
0

五行怪異世巡『霊障遣い』 その⑪

「クッソ……あの雑魚、いっちょ前にアタシの愛しいエイト・フィートを……!」
吐き捨てながら、少女は女性霊の腕に突き刺さった短刀を引き抜き、地面に投げ捨て踏みつけた。
「こうなったら、全リソーステメエにぶち込んで……!」
右手の中指を立てながら少女が言おうとしたその時、少女の足下に武者の霊が転がってきた。
「む……どうやら貴様の『最高戦力』は、貴様の言う『本物の雑魚』に負けたようだな」
そう言う平坂の隣に、やや息を切らした青葉が並ぶ。
「潜龍さん、すみません。仕留め損ねました」
「……何?」
青葉の言葉に、平坂は彼女に視線を向けた。
「あいつ、押し勝てないと見てすぐさまあの子の元に引き返しやがりました」
「それはつまり……奴の元に全戦力が集結した状況、というわけか」
「そう、なりますね……」
少女が傍に膝をつくと、武者の霊はすぐに立ち上がり、刀を構え直した。
「キッヒヒヒヒ……形勢逆転だな」
立ち上がりながら、少女が口を開いた。それに対して、青葉が一歩前に出て睨みつける。
「……何? アンタ如きに何ができるわけ?」
「さぁ? 少なくともついさっきまで、私はその武者を圧倒してた」
「『私は』ァ? 『私の武器は』の間違いでしょ?」
「……たしかに。あ、潜龍さん、あいつは私がどうにかするので、邪魔が入らないようにだけ補助、お願いできますか?」
突然話しかけられ、平坂は僅かに動揺を見せつつも頷いた。
「さて……」
青葉と、悪霊たちを引き連れた少女が1歩、また1歩と互いの距離を詰めていく。それがおよそ2mにまで縮んだところで2人はぴたりと動きを止め、互いに睨み合った。そして。
「…………」
「…………」
「「…………ブッ殺す!」」
2人の少女は同時に吠え、己が武器を振るった。

0

五行怪異世巡『霊障遣い』 その⑩

青葉が武者の霊と戦っている間、平坂は少女との距離を詰めようとしていた。無数の腕の霊“草分”が進路を阻もうとするたびに、平坂の手の中の鈴の音色がそれらを消し飛ばす。その様子を見ていた少女は、苛ついた様子で咥えていたロリ・ポップを噛み砕いた。
「ねェお兄ィさんさぁ……人の可愛がってるモノ苛めといて許されると思ってんの?」
「こちらは身内が貴様の悪霊にかなり痛めつけられたのだがな……。先日遂に3人衰弱死した」
「何、お兄ィさんは人食いヒグマにも人道を説くタイプのひと?」
「…………」
その問いには答えず、平坂が投げた鉄製の掌大の円盤は、またしても空中で叩き落とされる。
(ふむ……。一瞬だったが見えた。奴を守るように背後から伸びてきた青白い腕。あの武者とも周囲の腕たちとも異なる、『3体目の悪霊』か)
平坂は懐に手を入れ、しばらく探ってから1本の短刀を取り出した。
「わァ怖ぁーい。そんなものでアタシを殺すつもり? それこそ殺人だよ?」
けらけらと笑いながら少女が煽る。
「なに、殺しはしない。ただ元凶を斬るだけだ。それに多少の無法はもみ消せる」
「へェ……」
少女は吊り上がっていた口角を下げ、2本目のロリ・ポップを咥えた。
「……やってみろクソ雑魚」
少女の挑発と同時に、平坂はすり足のように歩き少女に接近した。
「はン、バカ正直に真っ直ぐ突っ込んで来やがって……“アタシの愛しいエイト・フィート”」
左手を目の前に突き出しながら、少女が呟く。すると、彼女の背後から白いワンピースと長い黒髪が特徴的な、異常に長身の女性霊が出現し、少女を守るように左腕で抱き寄せた。
1mほどにまで接近して平坂が突き出した短刀を、女性霊は空いた右腕で振り払うように防ごうとする。と、刃は弾かれる事無く女性霊の腕に深々と突き立てられた。
「ッ、テメエ! アタシのモンを何傷つけてやがる!」
少女の叫びと共に、女性霊が無事な左腕を振り回す。平坂は刺さった短刀から手を放し、距離を取るようにしてそれを躱した。

0

五行怪異世巡『霊障遣い』 その⑨

平坂と背中合わせに立ち、青葉は彼に呼びかける。
「潜龍さん、あの武者は私が何とかします。腕の方をお願いできますか?」
「お前にどうにかできるのか?」
「ええまあ、恐らくは」
「……こちらでも見てはおくからな。対処しきれないと思ったらすぐに言え」
「了解です」
再び武者の霊に接近し、杖を用いて打ち合う。
(……何かこの落ち武者、見た目よりパワーが無いな?)
小柄で華奢な青葉の倍近い体格の武者の霊だったが、多少力を要するものの、青葉でも十分に攻撃を防げていることに疑問を覚えつつ、隙を見て胴体に打撃を叩き込み、大きく後退させる。
(……やっぱり弱過ぎる。カオル、何か知ってる? カオルに言われて持ち出したものなんだけど)
(んー? ワタシの可愛い青葉、その子は私の妹だよ。銘を〈煌炎〉。私と違って、『怪異を殺す刀』なんだ)
(へぇ……ん?)
「刀ぁ⁉」
武者の霊から距離を取りながら、青葉の口から叫ぶような声が飛び出す。
(そうだよ、ワタシの可愛い青葉。〈煌炎〉はワタシ〈薫風〉と同じ刀匠の打った仕込み杖なんだ)
「そ、そうなんだ……?」
(まあ……抜くのはおすすめしないけど。ちょっぴり危ない子だからさ)
「ふむ……殴り倒す分には大丈夫なんだ」
(だいじょうぶー)
「分かった。取り敢えずこのまま戦おうか」

0

Flowering Dolly:釣り人の日常 キャラクター紹介

・カリステジア
モチーフ:Calystegia soldanella(ハマヒルガオ)
身長:137㎝  紋様の位置:右手首の裏側  紋様の意匠:昼顔の葉
白いノースリーブのワンピースと麦わら帽子を身に付けた、黒髪ショートヘアのドーリィ。肌は青白く、目の下には濃い隈ができており、ちょっと心配になるレベルで薄くて細い。開始時点では誰とも契約しておらず、毎日波止場で釣りをしたりコンクリを這うフナムシを眺めたりしていた。
固有武器はサバイバルナイフ。全長約20㎝。使わない。
得意とする魔法は結界術。直方体の結界を張り、結界の境界面に触れたものは反対側の面から出てくる。その特性のお陰で絶対不壊。ちなみにこの効果は内側と外側どちらにも付与できるし付与しないこともできる。結界そのものの強度はジュラルミンくらい。
ビーストにボコボコにされる人間文明を見続けてちょっとヘラってるところがあるので、そんな中で「日常」を諦めない人間を見ると、脳を焼かれて自分を押し売りしてくる。
ちなみにマスターが「日常」を捨てた瞬間、自分とマスターの2人がギリギリ収まる程度の極小結界に2人で閉じこもり、マスターが窒息するまで抱き着いて寄り添っていてくれる。過去の被害者は1人。契約直後、マスターになったからって変に気負った瞬間やられた。理想は契約しても「ドーリィ・マスター」という使命感を意に介さず普段通り生活できる人間。

・砂原さん(サハラ=サン)
年齢:16歳  性別:男  身長:169㎝
とある港町で1人暮らしをしている少年。ビースト出現騒ぎが増えて次々住民が余所に疎開する中、頑なに故郷に居続ける狂人。ちなみに他の家族は全員内陸部に住む親戚の家に避難しました。1人で居残った理由は単に面倒だったから。学校教育は遠隔で課題をやってるので大丈夫。
基本的に毎日無人の漁港で釣りをしながら、海に現れるビーストやそれと戦うドーリィの様子を眺めている。釣果は1日平均0.04匹。
下の名前はちゃんとあるけど、カリステジアにバレるのは何か嫌なので、頑なに言わない。

0

五行怪異世巡『霊障遣い』 その⑧

少女はウエストポーチからロリ・ポップを取り出し、包装紙を剥いて歯で挟むように咥える。
「そっちの雑魚のお兄ィさんが雑魚なのはまァ、前提として……そっちのガキは何なの? 見た感じ、霊感すら無いマジモンの雑魚じゃん」
少女から明らかな侮蔑を受けながらも、青葉は努めて冷静に彼女を睨み返していた。
「ところでお兄ィさん。さっき投げたの何? アタシの愛しい悪霊が痛い思いしたんだけど?」
「その言い方……近頃騒がれていた『操られた悪霊』の元凶は貴様か」
「まぁねぇー」
答えながら、少女は屋根から飛び降りた。膝と腰を大きく曲げて衝撃を殺し、ゆっくりと立ち上がる。
「……殺れ、“草分”」
言いながら、少女は右手の親指を下に向けるハンドサインをしてみせた。瞬間、青葉と平坂の周囲の地面から土気色の無数の腕が現れ、2人に掴み掛かる。
しかし、平坂が懐から取り出した鈴を1度鳴らすと、二人の一定以内の距離まで近付いていた腕は一斉に消し飛んだ。
「……は? おいテメー今何をした?」
少女の放つ殺気が一段と濃くなる。
「悪霊に寄られたから追い払っただけだが」
平坂は平然と言い返す。その態度に、少女は苛立たし気に頭を掻きむしり、不意に脱力した。
「そっかー……まァ、ほんのチョピっと削れただけだから良いんだけどさァ……」
少女が右手の中指を立てる。
「やっぱお兄ィさん、アンタ死ぬべきだ」
平坂と青葉に、重く鈍い足音が近付いてきた。
(ん、さっきのか……)
青葉はすぐに音の方に振り向き、今にも刀を振り下ろそうとしていた武者の悪霊の喉元を杖で突いて押し返した。

1

Flowering Dolly:釣り人の日常 その⑩

結局、空間は広げてもらえないままバリア内部にて待つこと数分。ようやくいつものドーリィが来て、巨大ウミヘビを海の方まで押し返してくれた。
「ようやく安全になったか……。おいカリステジア、もうバリア解除して良いぞ」
「えー」
「何が『えー』だよ」
「せっかくだし、もう少しだけこのままじゃ駄目ですか?」
「駄目」
「むぅ…………まあ、お兄さんが言うなら……」
ようやく解放され、バリアの壁にもたれていたものだからそのまま倒れる。軽く頭を打った。
「痛って……」
「お兄さん、大丈夫ですか? 治しましょうか?」
「いや大丈、夫……あん?」
ふと、自分の右手首を見る。カリステジアのと同じ場所に、同じ紋様が刻まれていた。
「……あーお前と契約したからか…………これ、銭湯とか入れるのかな……」
「えっ可愛いドーリィと契約した証を見て最初に思うのが刺青判定されるかどうかなんですか?」
「そりゃまあ、そもそも押し売られたものだし。思い入れも何も無ェ」
「そんなぁ」
釣り道具を片付け、立ち上がる。
「あれ、今日はもう帰っちゃうんですか?」
「いや、場所変える。流石にあのウミヘビに粉砕された堤防で釣りは居心地悪いし」
「あっ釣りはやめないんですね」
「まーな。ドーリィが守ってくれるんだろ?」
「っ……! はい! 全身全霊を以て!」
この場所も気に入ってたんだが、壊された以上は仕方がない。新しいポイントの開拓といこうか。

0

五行怪異世巡『霊障遣い』 その⑦

「なッ、貴様、待て! 何をする気だ!」
平坂は慌てて後を追うが、青葉の敏捷性には追いつけず、その差は少しずつ開いていく。
やがて二人はその路地の最奥、数軒の民家に囲まれた行き止まりに辿り着き、そこで一度立ち止まった。
「何故逃げた……岩戸の……」
息を切らしながら、平坂は青葉に近付いた。
「私は容疑者の姿を遠巻きとはいえ実際に見ています。協力できるはずです」
「貴様…………分かった。協力はしてもらうが、俺の監視下に置くからな。勝手はさせんぞ」
「はい。それで良いです」
2人が話を付け、表の通りに戻ろうとしたその時、突然、平坂が振り返った。
「? 潜龍さん?」
「……お前、ここに子供が入ってきたと言っていたな」
「はい、言いましたけど……」
「俺は姿こそ見なかったが…………どうやったんだ?」
「何がです?」
青葉の疑問には答えず、平坂はある民家の屋根の上に何かを投げつけた。ほぼ直線の軌道で飛んでいったそれは、硬い金属音と共に弾かれ、地面に落下する。
「……危ないなァー。体力少ない雑魚のくせに投擲力だけは無駄にあるんだから」
屋根の上から、柄の悪いやや幼めの女声が降ってきた。
青葉がそちらに目を凝らす。星明りの下、注意して見ると、屋根の縁に一人の少女が足を組んで腰掛け、2人を見下ろしていた。

0

Flowering Dolly:釣り人の日常 その⑨

ウミヘビの方を見る。何度か攻撃を繰り返しているようだけど、本当にこっちには何の影響も無いみたいだ。
「あー……カリステジア」
「はい」
「詳しく説明してくれ」
「はい。私のバリア、6面の直方体の形なんですけど、えっと……」
カリステジアは俺の釣竿に付いていた浮きを外して掌の中で転がしてみせる。
「これを……こう」
奴がそれを真横に向けて投げた。浮きは奴が投げたのと反対方向から、俺達の間に転がって来た。
「こんな感じで、私のバリアの境界面に触れたものは、反対側から出てくるんです。外側と内側、どっちにも適用できるし、通り抜けを起こさないのもできますよ。……と、いうわけで」
奴がまた抱き着いてきた。周りのバリアが狭まったのが触覚で分かる。
「いつものドーリィちゃんが何とかしてくれるまで、私達はこうしてのんびり待っていましょうね」
「それは良いけどまずは離れろや」
「お兄さん……当然ですけど、バリアは広げるほど消耗が激しくなるんですよ? できるだけ狭い空間で密着してた方がお得じゃないですか」
「…………ちなみに、あとどれくらい持つ?」
「お兄さんが寿命を迎えるまでくらいの時間は余裕で」
「ならもう少し広げようなー」
「そんなぁ……」

0

五行怪異世巡『霊障遣い』 その⑥

また数分、屋根の上を走り続け、交差点に差し掛かったところで立ち止まり、一瞬の逡巡の後、再び路上に飛び降りる。
その時、一瞬視界にカーブミラーの鏡面が入り、即座にそこに映っていた道に駆け込んだ。
(どうしたの、ワタシの可愛い青葉?)
(見つけた! 『何かを探していない様子の人間』!)
青葉の見つけた人影は、すぐに細い路地に入ってしまったようで、青葉も10秒ほど遅れ、後を追ってその路地に飛び込んだ。
「わっ」
「む……またお前か」
そして、その路地から出てこようとしていた平坂と正面からぶつかってしまった。
「お前……何故ここにいる?」
「じっとしていられなくて……それより、ここに誰かが入って来ませんでしたか?」
「『誰か』……? いや見ていないが……どんな奴だった?」
屈んで目線の高さを合わせながら、平坂が尋ねてくる。
「おそらく私と同年代の子どもです。特に目的も無い徘徊といった感じで歩いていました。『犯人』の可能性が高いです」
「……犯人、だと?」
「はい、『悪霊を操っている』、その犯人です」
平坂は再び立ち上がり、見下ろす形で青葉に相対した。
「おい。お前、あの姉からどこまで聞いた?」
「姉さまからは何も。ただ、不自然に統率の取れた悪霊たちのことは、ついさっき確認しました」
「……そうか。情報提供には感謝する。しかしとにかくお前は帰れ。具体的な危険性も分かっているんだろうが」
「むぅ……」
青葉は頬を膨らませ、帰途につくために振り返った、ように見せかけ、素早く振り向き平坂の真横をすり抜け、路地の奥へと駆けて行った。

0

Flowering Dolly:釣り人の日常 その⑧

………………そろそろウミヘビに食い殺されていてもおかしくないと思うんだが、何も起きない。
周囲の様子を確認してみる。周囲の深く抉れたコンクリート、頭上を通る巨大ウミヘビの胴体。俺の胴体に抱き着いて密着してくるカリステジア。座った姿勢のままで曲がっていた膝をとりえず伸ばしてみると、空中で何かに引っかかる。手探りしてみると、どうやら俺達はかなり狭い空間に閉じ込められているらしい。
「んぇへへ…………」
カリステジアがこちらを見上げてくる。奴が徐に持ち上げてみせた右の手首には、朝顔か昼顔の葉っぱみたいな紋様が刻まれている。
「契約完了、です」
「………………カリステジア」
「はい」
「正座」
「はい……」
俺達を閉じ込める空間が少し広がった。カリステジアは俺から少し離れた場所に正座する。
「あのさぁ……契約って双方合意の上で成立するものじゃん」
「そうですねぇ……」
「別に契約すること自体は俺だって全く嫌ってわけじゃねーよ? けどさぁ……こういうのはちゃんと順序踏もうな?」
「お兄さん……! 私のこと、受け入れてくれるんですね……!」
「はいそこ喜ばない。お前今説教されてんの。オーケイ?」
「はーい」
にっこにこしやがって……。何かもうどうでも良くなってきた。一応俺達は安全っぽいし。
「なぁ、このバリア? って割られたりしねーの?」
「あ、それは平気です。通り抜けますから」
「は?」

0

Flowering Dolly:釣り人の日常 その⑦

「……ごめん俺契約の押し売りは断れって死んだ婆ちゃんに言われたから……」
「そんなぁ、どうして」
つい勢いで断ってしまった。実際、ドーリィがいれば安心ってのは事実だ。最近はビースト事件の報道も増えてきているわけで、マスター付のドーリィが身近にいれば安全性は一気に向上する。けどなぁ……。
「いやだってお前……なんか、あれじゃん……」
こいつがドーリィだってのが事実だったとして、こいつ個人と契約するのはなぁ……。
「でも私、お兄さんのこと命に代えてもお守りしますよ?」
「お前なのがなぁ……そもそも互いに名前すら知らねえじゃん。信頼も何も無ぇ」
「あ、私お兄さんの苗字知ってます。スナハラさん!」
「サハラな。砂に原でサハラ」
「砂漠?」
「違げえよ。いや字面的にはそれっぽいけど」
「そういえば砂砂漠って『砂』の字が2個連続してて面白いですよね」
「おっそうだな」
「あ、私の名前でしたよね。私、カリステジアっていいます。ハマヒルガオのCalystegia soldanella」
「長げぇな」
「短く縮めて愛称で呼んでくれても良いんですよ?」
「えっやだそんなのお前と仲良いみたいじゃん……」
「最高じゃないですかぁ」
少女カリステジアと言い合っていると、俺達の上に影が覆い被さってきた。
「ありゃ……これは、マズいですかね?」
カリステジアの言葉に見上げると、あの巨大ウミヘビが俺達を見下ろしていた。
ウミヘビが口を開けて突っ込んでくる。同時に、カリステジアが俺を押し倒した。悪いが地面にへばりついただけでどうこうなる話じゃないと思うんだが……。

0

五行怪異世巡『霊障遣い』 その⑤

(あの霊たちの動き……不自然だった。あまりにも統率が取れていた)
屋根の上を走りながら、青葉は考える。無数の手の霊が注意を引き、武者の霊が背後を取る。あたかも協力して人間を狩ろうとしているかのようなその様子。ただの悪霊が共生関係を取ることは、基本的にあり得ない。
「……つまり」
(つまり?)
立ち止まり、夜の街を眺める。
「『霊を操る何か』がいる。悪霊退治だけじゃ、駄目なんだ」
(なるほどねぇ……もしかしたらその予想、なかなか鋭いんじゃない? ワタシの可愛い青葉)
カオルの声に頷き、再び駆け出そうとして急ブレーキをかけ、その場にしゃがみ込む。
(ワタシの可愛い青葉、どうしたの?)
(いや……下を姉さまが通るのが見えて……)
(抜け出したのが見つかったら、怒られちゃうかな?)
(どうだろう……どっちにしても、心配はかけちゃうからな……それは避けたい)
(じゃあ、少し待ってから行こうね)
(うん。流石に走り疲れてきてたから、休憩できるのはむしろ助かるよ)
しばし屋根の上に伏せて待機し、物音が聞こえなくなるのを待ってから再び立ち上がる。
「取り敢えず、人の少ない場所を探そう」
(目標は?)
「人間。『何も探していない』人間」