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少年少女色彩都市・某Edit. Agitation & Direction その③

タマモの放つ弾幕が、正面から広範にエベルソルを捉え、回避しようと更に広がろうとする群れを、ロキの変化光弾が横からちくちくと突き、少しずつ一塊にまとめていく。
「……流石に180ぽっちじゃ対応されてくるな。200くらいに上げて良いか?」
「好きにして良いよ。私がタマモに合わせられないと思う?」
「あー……そうだな、信頼が足りなかった。じゃ、202くらいで」
タマモの放つ弾幕の間隔が更に早まる。それまで弾速に慣れて防御行動を取るようになっていたエベルソルらは、突然のリズムの変化に対応できず、再び被弾し始めた。
「…………ところで」
「何?」
「ここでタマモノマエの豆知識たーいむ」
「わーぱちぱちぱち」
「今、裏で聞こえてるこの破壊音ですが」
タマモの言葉の直後、ホールの裏から重量物が落下する重低音が響いた。
「ああ、【モデラー】ぬぼ子さんの」
「そうそうあの人。あの人がこの間出した動画見たか?」
「まだ見てなーい」
「そっかァ……あいやそれはどうでも良いんだが。あの人、攻撃のタイミングを中の演奏と合わせてるらしいぜ。何か、デカい打楽器と合わせてるんだと」
「ティンパニ?」
「いや俺あんま楽器とか知らねーし……」
「……器用だねぇ」
再び、落下音が聞こえてくる。音楽と異なるとはいえ芸術の才を持つ二人だったためか、その音を聞いた瞬間、同時に同じことを考えた。
((今、ズレたな))
「……ねぇ、タマモ?」
「分かってる。『頼む』なよ? 俺らはそういうのじゃねえだろ」
「うん。じゃあちょっと行ってくるから」
「うい任せろ。お前が帰ってくるまでくらいはもたせてやるよ」
「全部倒しても良いよ」

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少年少女色彩都市 Act 9

少女がヘドロのエベルソルを倒した頃、叶絵は倒れた肉塊エベルソルを前に少年と話していた。
「…えーと、つまり、リプリゼントルの力で作り出した特別なバイオリンを奏でることで、エベルソルに作用する特別な音波を出して倒した、と」
叶絵がそう言うと、少年はまぁそんな所と返す。
「どんな形であれ、エベルソルはリプリゼントルの“創造力”に弱いからね」
“創造力”で作り出したもので“創造力”を叩き込めば自然とエベルソルは倒れる、と少年は続ける。
「それにこのぼく、和湯 典礼(わゆ てんれい)のようなレベルになれば…」
少年がそう言いかけた所で、不意に彼は言葉を止める。何か気配を感じたのか少年は後ろを振り向いた。叶絵もつられて少年が見た方を見る。
見ると少年が先程倒したエベルソルの表皮に裂け目が入り、中から白い無数の脚を持つ蛾のような何かが姿を現した。
「なっ…!」
第二形態、だと…⁈と少年こと典礼は動揺する。蛾のようなエベルソルは翅を広げると口から火球を叶絵たちに吐き出した。
「⁈」
想定外の事態に2人は動けず、このままエベルソルの攻撃を喰らうかに思えた。しかし、2人の後ろから誰かが走ってくる音が聞こえたかと思うと、叶絵と典礼は後ろから押し倒されるように伏せさせられた。
「!」
無理やり伏せられた叶絵が顔を上げると、黒い背広姿の若い女が叶絵と典礼に覆い被さっていた。
「…あなたは」
叶絵は思わずそう呟くが、典礼は自分を突き倒した女を見て目を丸くする。
「姉さん⁈」

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厄祓い荒正し Ep.1:でぃすがいず その②

「イヤハヤ全く、人間サマの信仰心のお陰でこっちは力ァ貰ってンだ。どっちが偉いか、言うまでも無ェやね」
「どうしました突然に」
「イヤァー? 別にィー?」
「何か腹立たしいなこの御祭神……」
「ンな事よか、もう一杯くれねェかい?」
「駄目です。貴重なお神酒なんですから大事に呑まないと。ほら、せっかく出てきたんですから、仕事してもらいますよ」
「しゃーねェや。我が愛しき神僕に手ェ貸してやるかィ」
本殿を出ると、すっかり荒廃しきった神社の敷地の様子が目に飛び込んできた。何度見ても、この景色には気分が落ち込む。
崩れた石灯籠、倒れた狛犬、片方の柱が折れた鳥居、注連縄が千切れ縦に割けた神木。
「ッたく、何度見ても酷ェよなァー。神社は大事にするモンだって習わなかったのかねィ?」
「妖怪がそんな教育受けているわけは無いのです」
「そッかー……。さて、今日はどッから『直して』いこうかね?」
神様はゴキゴキと音を鳴らしながら首を伸ばし、辺りを見回し始めた。どうせ荒廃しきった風景しか見えないだろうに……。
「ごぶっ」
突然、神様が変な呻き声をあげて、伸ばした首が大きく反って頭を地面に打ち付けた。
「神様⁉」
「痛ッてェ……狙い撃たれたゼィ畜生めが」
「方角は」
「アッチ」
神様は北西の方を指差した。
「では、今日はあちらを『直して』いきましょう」
「オウ」

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少年少女色彩都市 act 8

鼻歌を歌いながらガラスペンを空中に走らせていた少女は、ヘドロのエベルソルが弱々しく蠢いているのに気付き、一度手を止めて接敵した。
「おかしーなぁ……3回くらい殺さなかった? ほれ、聞いてるなら頷け?」
エベルソルがのろのろと伸ばしてきた千切れた腕を踏みつけ、首の部分を捕まえて作業に戻る。
「何描いてるか、気になる? お前にとどめを刺すものだよー。どうやって死にたい? 私のお勧めは八つ裂きとかなんだけどねぇ……。こんな住宅街のど真ん中でやったら迷惑じゃない? だから、埋葬する方向でいこうと思うんだけど……どう?」
当然、エベルソルは何の反応も返さない。
「なーんーかーいーえーよー」
エベルソルの首をぐいぐいと絞めつけながら、少女は楽しそうに描き進めていく。
「……あぁー。何にも言わないから、もう完成しちゃった」
それは、直線のみで構成された巨大な手のような立体。その手が道路を舗装するアスファルトに指を食い込ませ、ぐいと引き上げる。舗装はそれにしたがって剥がれるように持ち上がり地下の様子が表に現れる。本来なら土壌とガス管や水道管に満たされているはずのそこには何も無く、ただ無限に広がっているようにすら思える虚空だけがあった。
「どう? 素敵じゃない? ……素敵じゃないか。そっかそっか。……うわっ」
その時、少年の奏でるバイオリンの音色と、肉塊エベルソルが潰れる音が少女の下にも届いた。
「うえぇ……私、クラシックって苦手なんだよねぇ。特に音の高い管楽器と音の高い弦楽器。いや好きな人は好きなんだろうけどね? 私はもうちょっと重低音な方が安心できるなぁ……あの子もチェロとか弾けばいいのに。良いじゃんゴーシュスタイル。……おっと、いつまでも放っておいて悪かったね」
手の中でぐったりとしているエベルソルの頭部に声を掛け、虚空の方へ引きずっていく。
「それじゃ、ご冥福を……いや地獄行き確定だから福は無いか。思い返せばお前は久々に私をいらいらさせた良い敵だった。うーん……ああ、そうだ」
何かを閃いたように指を鳴らし、少女はエベルソルを虚空に投げ捨て、落ちていくソレに敬礼した。
「良い来世を、我がクソッたれの敵! 次会う時は仲良くしよう!」
エベルソルが見えなくなるまで見送り、少女は巨大な手を用いて舗装を元に戻した。

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少年少女色彩都市・某Edit. Agitation & Direction その②

「さあクソッたれの文化破壊者エベ公どもテメエらに告ぐぜィ。こっから失せるか殺り合って死ぬか俺らを殺して先に進むか。許されたのは三つに一つ、推奨するのは1番一択。アホほど妨害させてもらうが、イラっと来るのは御愛嬌。お相手を務めましたるはァ?」
少年は口上を述べながら、正方形と直線が絡み合ったような魔法陣をすらすらと描き上げていく。隣の少女も無言で軸のズレた円形が重なり合った魔法陣を完成させる。
ほぼ同時に2人の魔法陣が完成し、強く光を放つ。それはすぐに止み、2人の“リプリゼントル”がその場に立っていた。
「【煽動者】タマモノマエ、ェアァァアアアンッ!」
パーカとカーゴパンツという出で立ちの少年。
「【演出家】フヴェズルング」
ノンスリーブのセーラー服姿の少女。
「悪いがココで、俺らと遊んでもらうぜ」
「演奏会が終わるまで、ここから先には通さないよ」
2人の口上が終わるのとほぼ同時に、エベルソル達の勢いが増す。しかし、それは少年タマモノマエが後ろ手で用意していた光弾の弾幕に押し戻される。
「せっかく頭数持ってきたのはご苦労。きっと裏とかも攻めてるんだろ? まあそっちは俺らの数倍強ェ奴らが控えてるからなー……『通れねェ』じゃ済まないンだろーなァ、諦めて俺ら殺しに来た方がきっと得だぜ破壊者共」
一定のペースで撃たれ続ける光弾に、エベルソルはひとまずの標的をタマモノマエに変更した。その瞬間、ソレらの横から別の光弾が直撃する。
「うっわぁ……ロキお前、今のは大分ずるいなァ……」
「それが私達のやり方じゃないの、タマモ?」
フヴェズルング、ロキはきょとんとした顔で問い返す。
「……それもそうか。じゃあもうチョイ上げてくかァ」
タマモノマエ、タマモは残忍な笑みを浮かべ、エベルソルらに向き直った。

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少年少女色彩都市【7】

少年がヴァイオリンに弓を静かに当てる。音楽に対する知識があまり多いとはいえない叶絵は、その様子を呆然と眺めていたが、やがて少し後ずさりした。
「すぅ…」
少年の息遣い。まわりの音が消える。エベルソルは身体中からなんだか分からない液体を垂れ流しながら困惑したように身を捩る。息の詰まるような静寂が叶絵まで緊張させる。
「…Preludio」
少年の呟きが音のない空間に響いた。
(プレリュード…?前奏曲のこと…だよね?)
少年が優美な動作で弓を引き始める。ヴァイオリンから上品な音色が溢れた瞬間__エベルソルが変形した。潰れた缶を連想させるその肉塊の天辺からは、汚い液体が噴出する。
「ひっ…!」
叶絵の足元までそれは飛び散り、少年にもいくらかかかっていたが、彼は気にせず演奏を続けた。エベルソルは変形を続ける。断末魔一つあがらない。液体を噴出し続け、呆然とする叶絵の目の前で干からびたミイラと化してしまった。
「ふぅ…」
心底疲れたようなため息が少年の口から漏れる。
「…どうにかなったみたい。あんま骨のある奴じゃなかったけど、疲れたな…」
「い、今の…」
言葉を失う叶絵に、少年はにっこり微笑んでみせた。
「知りたい?」

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少年少女色彩都市・某Edit. Agitation & Direction その①

彩市立市民文化会館。芸術都市である彩市のおよそ中央に位置するこの施設は、敷地内に大ホール3か所、小ホール5か所、展示室4か所を有し、隣に建設されている美術館と並んでこの市を『芸術都市』たらしめる象徴の一つとして、市内外から親しまれていた。
その正面入り口の前に、2人の人影。
「俺さァ、年末の雰囲気って好きなんだよ。ただの冬の日を『1年の終わり』に託けてどこもかしこも面白ェイベントやるだろ?」
人影の片方、ストリート風普段着の少年が相方に話しかける。
「うん、それで今日もたしか……第3大ホールだっけ。『第九』の演奏会やるっていうのは」
学校制服とコートに身を包んだ少女がそれに答えた。
「そそ。こんなデケエ『芸術』があってよォ……あの文化破壊者どもが来ねェわけが無ェンだ」
「だから私達含め、11人も警備に当たってるんだもんね」
「いやァー、俺は心配ですよ。こんなに1か所に集めたら他の守りが薄くなっちまう」
「けど敵も多分ここに集中するよ?」
「いやァー……? 芸術は意外とどこにでも転がってるモンだぜ?」
「まあ、そうだけども」
少女がポケットからスマートフォンを取り出し、時計を確認する。
「……そろそろ変身しとく?」
「だな、『向こう』も準備万端って感じだ」
少年が指差した先には、無数のエベルソルが市民会館に接近する姿があった。

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少年少女色彩都市 act 5

肉塊がその身体を地上の2人に叩きつける。しかし、それは少年がガラスペンで描いた障壁に防がれた。
「っ……やっぱり、結構重いな」
障壁には深く放射状の罅が入っており、一撃を防ぐのが限界であることは明白だった。
「君、早く逃げるんだ。防ぐだけなら何とかできるから」
少年に促されるが、叶絵は怪物の襲撃のショックからか座り込んだまま動かない。
「ああもう、早く逃げるんだよ!」
少年に手を引かれて漸く正気に戻り、肉塊が次の攻撃を放つ直前で、2人は怪物の真下から脱出した。直後、少年の生成していた障壁が粉砕され、肉塊が頭部を地面に叩きつける。
「危なかった……。良いかい、君。今すぐここから逃げて、家に帰るんだ」
「え、いやでも……」
「エベルソルの前で民間人連れて何やってるの?」
2人の会話に、突如薄紫のワンピースの少女が割り込んできた。
「⁉ な、何故ここに……⁉」
少年のことは無視して、少女は叶絵に軽く片手を挙げて挨拶した。
「しかし君、日に2度もエベルソルに遭遇するなんて一周回って逆にラッキーなんじゃない? 今すぐコンビニに行って一番くじ引くのをお勧めするよー。今ねぇ、私の好きなアニメの一番くじやってるんだー」
肉塊のようなエベルソルが近付いてくるのを、少女は片手に引きずっていたヘドロの塊のようなエベルソルを投げつけて牽制する。
「ねえ君、私の助け、あった方が良い?」
少女が少年に尋ねる。
「え、あ、ああ、できればお願いしたいけど……」
「そんな答え方できる余裕があるなら、まだ余裕そうだね」
「えっ」
少女はヘドロ塊のエベルソルを再び拾い、肉塊エベルソルの脇を通り抜けた。
「ぐっどらっく、若きリプリゼントル。本当に駄目そうだったら助けてやるから、せめて私がこいつを片付けるまでは頑張るんだよ」

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厄祓い荒正し Ep.1:でぃすがいず その①

割れた床板の下に手を突っ込んで、しばらく床下を探る。目的の感触が触れ、すぐにそれを床の上まで持ち上げた。
「……見つけた」
お目当ての品、この神社がまだズタボロ廃神社じゃ無かった頃にお神酒として奉納された、半升入りの清酒の瓶。瓶・中身共に状態良しと目視で確認し、栓を開ける。
端の欠けた猪口を2枚、床の上に並べる。1枚を目の前に、もう1枚を、まるで誰かと対面しているかのように奥に。
お神酒をそれぞれの猪口に注いでいく。奥の猪口、こちらの猪口の順番で。瓶には再び封をして、また床下に隠す。
それから、またお神酒の前に胡坐で座り、こちらの猪口を取り上げ、中身を一息に飲み干した。
日本酒特有の気持ち悪い甘味と喉を焼く感触に思わず顔を顰めたが、我慢して飲み込み、猪口を床にタン、と置き、あちらの酒器を見る。
「……やっと出てきた」
あちらの酒器を持ち上げ、中身を吞むでも無くしげしげと見つめている異形の怪物……この神社の御祭神に、溜め息を吐いた。
「良ィーい酒だァ……旨かったべや?」
「無理な味だった」
「ウッソだァー。だってこんなン、香りだけで旨ェだろーがよィ」
「ならさっさと吞んでくださいます? せっかく神様呼ぶために苦手なの我慢したんですから」
「ウイウイ」
細長く節くれだった指3本で摘んでいた酒器を口元に持っていき、神様はすい、とお神酒を飲み下した。
「ッ…………はァー……! やッぱ旨ェなァ、人間サマが神社に納める酒はよォ」
「あれが旨いぃ? 理解できない……」
この神様は、いつも人間のことを指す時に、『人間サマ』と“様”付けで呼んでいる。神様なんだから、もっと偉そうにしても良さそうなものなのに。以前それについて尋ねた時はたしか……。

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CHILDish Monstrum:或る離島の業務日誌 その⑧

「じゃね、おじさん。もう帰っていいよ。私はおじさんの魔剣作るから」
魔剣? 作る? キュクロプスの能力に関係することなのだろうか。これから関わっていく以上、知っておいた方が良いだろう。この機に尋ねることにする。
「魔剣? 君の能力か?」
「ん。私の能力、『魔剣の鍛造』。島のみんなも全員持ってるよ。おじいちゃんにもあげたの。たくさん」
「悪いけど、私は剣なんか使った事……」
「別に、剣になるとは限らないよ」
「『魔剣』なのに、かい?」
「ん」
微妙に話が飲み込めない。首を傾げていると、キュクロプスが話を続けた。
「『魔剣』っていうのは、別に剣だけじゃない。武器でも何でも無いこともある。分かりやすく言うなら、『魔法のアイテム』みたいなもの。その辺のモンストルムの特殊能力にも負けない不思議な力を持った道具類。その人専用の最高の相棒。それを私は『魔剣』って呼んでる」
説明しながら、キュクロプスは『作業場』に続いている方の扉に向かっていた。
「次、いつ来るの? 私、3日は作業場から出てこないよ」
「あ、ああ……それじゃあ、3日後の12時頃、また来よう」
「ん。じゃね、おじさん」
最後にこちらに手を振って、キュクロプスは作業場への二重扉をくぐり、あちらへ籠ってしまった。

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CHILDish Monstrum:或る離島の業務日誌 その⑦

時々考えるように虚空に目を泳がせながら、キュクロプスは2分ほどかけてメモを完成させたようだった。
「これくーださい」
メモ帳のページを破り、こちらに差し出してくる。ページを受け取り、内容を確かめる。
『牛革3頭分、鋼鉄400㎏、合成ゴムロール10m、プラスチック75㎏、和紙1m四方、アルミニウム10㎏、銅線200m、インバーダの硬質な外皮または甲殻用意できるだけ、インバーダの羽毛用意できるだけ、インバーダの爪または牙用意できるだけ、米5㎏、鶏胸肉300g程度、キャベツ1玉、醤油1L、食器用洗剤1本、歯ブラシ2本、ペット用ウサギ1羽』
後ろの方は食品や日用品だ。1人でこんな場所に暮らしているわけだから、生活支援に必要なのは分かる。しかし、前半の大量の素材の要求は、キュクロプス1人の需要にしてはあまりに多すぎる。まるで工場か業者の発注ではないか。
1度、自分の手帳を確認する。

・キュクロプスが欲しがった物は可能な限り提供すること
・特に工業素材やインバーダの遺骸は絶対に入手すること
・ペットの要求は断ること(長期間作業にかかりきりになることが多いキュクロプスには面倒を見られない)

「……ウサギ以外は次来た時に」
「ざんねん」

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CHILDish Monstrum:或る離島の業務日誌 その⑥

キュクロプスは迷いない足取りで村落の中を突き進み、一軒の民家に扉をノックすることも無く入っていった。
キュクロプスの後を追ったものか、しかし不法侵入するわけにもいかないと逡巡していると、数分ほどしてまたキュクロプスが出てきた。
「あ、キュク……」
キュクロプスは、まるで私のことが見えていないかのように横を素通りして、またどこかへ歩き出した。
目的地はまた別の民家のようだった。そこからも数分ほどして出てくる。そしてまた別の民家へ。
それを何軒か繰り返し、また島民と交流して、作業場のある丘陵に引き返していった。
帰りは、行きで通ったのとは反対の斜面を登る。そちら側は、一面に何かの果樹が植えられていた。
住居に帰ってから、キュクロプスはまず小屋の方に入っていった。一瞬迷ったものの、後を追って中に入る。
扉を閉じて振り返ると、目の前にキュクロプスが立っていた。手には紐状の道具を持っている。
「おじさん、動かないで」
「は、はい」
いやに重い声色に、身体が強張る。
キュクロプスが持っていたのは、巻き尺だった。それを私の身体の至る所に当て、どうやら私の身体の採寸をしているらしい。
「…………ん」
終わったようで、キュクロプスは一度私から離れ、テーブルの上のメモ帳に何かを書き始めた。

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CHILDish Monstrum 参加作品の誕生秘話やコンセプトその他①

〈アウトロウ・レプタイルス〉
誕生秘話
大昔、何かにアウトプットするという発想も無かった時代、ナニガシさんが脳内に設定だけ考えていたキャラクターが、今回の企画にめちゃくちゃ合致していたので使ってあげようと思いまして。
Q,サラマンダーってレプタイル(爬虫類)じゃなくね?
A,細けえ事ァ良いんだよ。
Q,ラムちゃん不死身すぎない?
A,ちゃんと死ぬよ。外的要因で殺すのはちょっと難しいけど、魂や生命を直接抜き出せば死ぬんじゃない? 不死身なのは肉体だけだし。
Q,ククルカン(ケツァルコアトル)って神様じゃ……。
A,外見は翼のあるヘビさんだしセーフセーフ。

〈水底に眠る悪夢〉
誕生秘話
カナロアって神様がいるんですよ。ハワイの神様で、魔術が得意で、外見はタコさんなの。「タコ」「魔術」「神様」何かを思い出す特徴ですね。
そう、偉大なるクトゥルフですね。神様が条件的にセーフかは分からなかったんですが、クトゥルフはどうも、一神話生物がアホほど高齢になった結果神格扱いされるレベルになった個体という説があるらしいのです。じゃあカナロアもセーフやろ()ってことで。
そんな感じでできたお話です。
Q,何故カナロアが“ロード”?
A,龍王。ググれ。
Q,何故クトゥルーが“リトル”?
A,ク・リトル・リトル。

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視える世界を超えて エピソード5:犬神 その⑦

「犬神ってモグラみたいな姿してたんですね」
「まあ、名前からは想像しにくいよねェ」
「……そういえば、なんで犬神が憑いてると土が操れるようになるんです?」
そう問うと、種枚さんは足を止め、顎に手をやってしばらく考え込んだ。
「……これは完全な私の想像なんだけど、それで良ければ」
「お願いします」
種枚さんは再び歩き出し、話し始めた。
「まず君、そもそも犬神がどうやって作られるのかは知っているかい?」
「知りません。そもそも作れるものなんですか?」
「ああ。犬神は呪術的な方法で人工的に生み出すことのできる怪異だ。その製法にはいくつか伝承があるんだけど……その一つが、生きた犬の首から下を地面に埋めて、飢えさせるってものなんだよ。その後ももう少し工程が挟まるけど、そこは大して問題じゃない」
「はあ」
「犬神は生前、土の中で身動きを取れず死に向かう苦痛を味わう訳なんだ。つまり、あの生き物はあらゆる怪異の中で、実体験として最も『土壌の恐ろしさ』を知っているんだよ。それが関係しているんじゃあないかな、って」
「なるほど……?」
話しているうちに、駅に着いた。
「ああ、君は返ってくれて良いよ。私は徒歩で帰るから」
「……さいですか。では、失礼します」
当然のようにとんでもないことを言う種枚さんに会釈して、改札を通った。

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CHILDish Monstrum:迦陵頻伽

モンストルム”ヨグ=ソトース”の肉体生成がようやく終了した。
管理モニタから目を離し、大きく伸びをして凝り固まった身体を解してから腕時計を見る。午前7時過ぎ。これで三徹目か。
流石に一度仮眠を取ろうとデスクを立つと、部屋の外からアコースティックギターの音が近付いてきた。
「……む、カリョウビンガか。ちょうど良い」
そう呟くのとほぼ同時に、モンストルム”カリョウビンガ”が研究室に入ってきた。
カリョウビンガ。仏教上の霊鳥の名を持つモンストルム。私の『研究室長』という立場と権力を濫用……もといほんの少し活用して作成した、非戦闘用モンストルム。『あらゆる楽器と音楽技法を扱う』能力を持つ、華奢で小柄な少女のような人間態の、可愛らしい演奏人形だ。別に外見は私の趣味では断じて無い。ただ単に生成コストが低く見た目に圧迫感が無いからそうしているだけだ。現在は『研究室の護衛』の名目で自由に歩き回らせている。
と、カリョウビンガが部屋に入ってきた。
「おはようございます、作者さん」
「やあ、カリョウビンガ。今日はギターかい?」
「はい。……作者さん」
「何だい?」
カリョウビンガは何も言わずにこちらをじっと見つめ返している。
「カリョウビンガ?」
「…………」
「どうしたんだ、私の可愛いカリョウビンガ?」
「何でも無いです。そうだ、新曲を作ったのです。子守歌にどうですか?」
「良いね、ちょうど仮眠を取ろうとしていたんだ」
カリョウビンガと連れ立って、仮眠室に移動する。カリョウビンガがプレイヤーにCDを入れて、再生ボタンを押した。流れてきたのは、アップテンポでロック調の音楽だった。2分半ほどでその曲は終了した。
「……うん、良い曲だったよ。しかし驚いたな、デスク・トップ・ミュージックと歌声合成ソフトまで使いこなすとは」
「作者さんが創ったカリョウビンガですから。それでは、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
カリョウビンガはぺこりと頭を下げ、仮眠室を後にした。