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或る探偵たちの賭け事

私は私立探偵をやっている者だ。といっても、大抵はペット探しや不貞調査ばかりで、小説や漫画に出てくるような事件の捜査などはしたことがないが。
余り知名度も無いので、基本暇で、行きつけの喫茶店で同業の友人とだらだらしていることが多い。
今日もそうしていたのだが、突然友人がこんな提案をしてきた。
友人「推理勝負しようぜ!」
私「どんな風に?」
友人「ほら、窓の外にいるあの人が、何をしているのか当てるんだよ」
見てみると、なるほど確かに、若い女性が明らかにそわそわしながら立っている。誰かを待っているようだ。ファッションに疎い私にも、相当めかし込んでいるのが分かる。
友人「負けた方が会計持つってことで」
私「了解」
友人「俺から言うぞ。ありゃあ十中八九、待っているのは恋人だな。あんなにお洒落して、それ以外に考えられないね」
私「そうだな…。あれは多分、待ってるのは同性の友人だな。見たところ大学生ほどのようだが、学校が違うか何かで、中々会えないんだろう。それであんなにそわそわしてるんだ。相当親しいんではないかな?その友人とは」
結果は…友人が私に奢ることになった。
友人「なんで分かったんだ?あんな考え普通思い付かないぞ」
私「まさか適当に言った答えが当たってしまうとは」
友人「え…?」
私「何?」
友人「賭けをしてる場で、適当答えたっていうのか…?」
私「適当言った方が何故かよく当たるんだよ」
友人「理不尽だ…」

5

なぞなぞリスペクト

「遅くなりました!!」
 観音寺隼人は、車から慌てて降りると、先に待っていた先輩刑事に頭を下げた。五十嵐剛。規律にはめっぽう厳しいので有名だ。
「遅い!もう七分も遅刻だぞ!」
「すっ、すいません!」
「…まあいい。事情聴取だ。いくぞ」
 凄まじく早い五十嵐の徒歩に、観音寺は必死でついていく。
 今回のガイシャは、上殿敬子、四二歳主婦。場所は自宅のリビングで、何者かによって後頭部を殴られた後に失血死。争った形跡はなく、現場からは犯人を特定できるものは何も見つからなかった。死亡推定時刻は、昨日一月一三日午後7時頃。目撃証言もなく、捜査は非常に難航していた。
 今回事情聴取を取るのは、ガイシャの夫である上殿凛太郎、四五歳会社員。近隣の住民によると、最近あまり中は良さそうには見えなかった、とのこと。

 以下が事情聴取の様子だ。
「上殿さん。あなたは昨日の午後七時頃、どこにいらっしゃいましたか」
「刑事さん、まさか私を疑っているんですか?!」
「いえ、あの、この質問は皆さんにお答えいただいているものでして…」
「…ふん。まあ、良いですけどね。じゃあお答えしますよ。私は確か、まだその時空の上でした」
「…空の上、ですか」
「ええ。私はここ二週間休暇をとってオーストラリアに旅行に行っておりまして、昨日の夜十時にやっと帰国したんですよ。そしたら、まさか妻が、あんな目にあっているなんて…」
「そうでしたか。それはお気の毒に。ところで、オーストラリアでは何をなさっていたんですか?」
「別に、観光ですよ。色んな所を見て回りました」
「良いですねー、オーストラリア。僕もいつか行ってみたいものです。何が一番良かったですか?」
「やっぱり海ですかね。一月なんでちょっと寒かったですけど、夕日の沈んでいく様は圧巻でしたよ」
「そうでしたか。それでは一応確認を取らせていただきます。ご利用になられた旅行会社はどちらでしたか」……

 その後、旅行会社などに問い合わせてみたが、上殿氏がオーストラリアに行っていたことは確からしい。これは難しい事件になるぞ…。そんな話を五十嵐刑事にすると、
「おい、何をぼさっとしているんだ。どう考えてもその凛太郎ってやつが怪しいじゃないか」

3

エドヴァルド・ムンクにささぐ

 ムンキーな気分だったので会社を休んだ。嫌味を言われたが平気だ。なぜなら上司は社会制度、社会的慣習に従順な権威に弱い自分の頭でものを考えられない他者の心を想像することができないモンキーだから。
 わたしはモンキーではない。人間には好きに休みを取る権利がある。このところ、疲労により、脳の一部しかはたらかなくなっていたのだ。脳の一部しかはたらかないとどうなるか、視野狭窄になる。
 人間は脳の機能低下により神経が過敏になったり、感受性が鋭くなったりする。情動脳の抑制がゆるくなるため、情動脳にたくわえられた記憶にアクセスしやすくなる。遠いむかしのことをくよくよしたり。いつまでも嫌味を言われたことを気に病んだり。
 すべての精神疾患は脳の一部だけが活性化することによって生じる。脳全体が活性化しなければ精神疾患は治らない。仕事とは常に距離をとっていたい。でないと本格的に頭がおかしくなってしまう。そろそろスーパーが開く時間。ビールと、韓国海苔と、チーズとキムチを買おう。今日は一日、動画を見るのだ。
 スーパー行ってついでに日用品買って帰ってタブレット、テーブルに立ててとりあえず旅番組チョイスしてソファーに座って韓国海苔でカマンベールチーズ巻いて食べてたら悪魔が現れた。わたしの母の姿で。
「お母さんだよ〜」
「さっさと消えてください。わたしは動画を見るのです」
「そんなだから彼氏ができないのよ。同僚の男の子とLINEの交換とかしてるのかしら。してるわよね。ほらあなたにしつこく言い寄ってきてるあの人、何ていう人だったかしら。とりあえずチャットでもしてみたら?」
「……わたしは暇つぶしに好きでもない男の人とチャットするような志の低い人間ではないので。ではさよなうなら」
「あなた会社休みすぎなんじゃないの〜」
「わたしは奴隷ではありません。日本人は先進国の住民であるにもかかわらず、主体性がないのです。わたしはわたし。わたしのことはわたしが決めます。そもそもあなたはわたしにアドバイスできるような就労経験などないでしょう」 
 つい本当の母には言えないことを言ってしまう。  
 わたしの母は幸せである。なぜなら向上心がないからである。向上心がないのは足りないからである。
 向上心があるから人は病む。母は病まない。

1
2

思い出した、僕は死んだんだった。

僕はふと目を覚ました。
別に寝すぎたという感覚は無いし、目覚まし時計が鳴ったというわけでもない。
ただ、本当に自然に目が覚めた。
あまりにも自然すぎて、朝が弱い僕は不信感さえ感じてしまった。
スマートフォンのボタンを押すと、まず目に入ってきたのは破顔した彼女。
僕はそれを見た瞬間、布団を投げ捨て、タンスから服を引っ張り出す。ああ、これじゃない。こっちの組み合わせの方が良いだろうか。

やっと着替え、髪をとかして、ご飯も食べずに家を飛び出した。
ご飯なんて食べている場合じゃ無いだろう?
愛用の自転車に飛び乗り、全速力でペダルを踏む。ああ、信号待ちなんてもどかしい。
やっと彼女の家の前に着いたとき、僕は息も切れ切れだった。息を一気に吸おうとしてむせる。
心臓の音が身体中に響き渡っているみたいだ。

呼吸が落ち着いてきた僕は、彼女の家の前に立つ。そうだ、彼女に連絡をしていなかった。仕方ない。今は家の中にいるだろうか。
2階の彼女の部屋を見上げると、電気がついていない。もしかして、今はいないのか。

インターホンを押す。数秒の静寂────
あれ、しっかり押したはずなのに。
今度は力を込めてしっかり押す。
また、インターホンは鳴らない。
インターホンが壊れているのか?

ふと、もう一度彼女の部屋を見上げる。


───思い出した、僕は死んだんだった。

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無題

コートを着て、リュックを背負って、夜の散歩と洒落込もうか。
時は11月下旬の18時。まだまだ時間はある。
リュックには財布とカロリーメイト。コートのポケットにはスマートフォンとペンライト。
充電は89%。まだまだ大丈夫。
少し遠くに足を伸ばそうと、出鱈目な方向に歩いてみる。フードを被り、ポケットに手を突っ込んで反抗期を気取ってみたりして。途中の自販機で買ったカイロ代わりの温かい缶コーヒーを左手に持ち、空を見上げながらぶらぶら川沿いを進んでいく。
時間は?18時22分。まだ時間はある。
冬の澄んだ空気が星空を美しく映し出す。
オリオン座があそこだから、多分この辺が牡牛座かな?
写真に撮ろうと思ったけれど、スマートフォンではいささか画質が悪かったようだ。
時間はどうだ。18時35分。まだ大丈夫。
思いつきで駅の方へ行く。街が明るいのが良いね。
缶コーヒーは冷めてしまった。酸化しなければ冷めたコーヒーも悪くないな、なんて思いながらそれを飲み干し、きちんとゴミ箱に捨てておく。
時間は?もうすぐ7時か。そろそろ帰ろう。
帰り道、この景色を立方体に切り出したら楽しいだろうな、なんて想像する。街の灯りと星灯り。きっと素敵なジオラマだ。