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対怪異逃避行:鏡像の怪異 その⑦

(そうはさせるか……! それにテメエの攻略法なら、既に『複数』考えてあるんだよ!)
奴が完全にしゃがみ込み、普通にしていれば目が合わないなんてあり得ないほどに身体を折り曲げた。しかし生憎と、現実の俺と鏡の中の俺の目が合うことは無い。
咄嗟に出したスマホのライトで照らされて、反射光で完全に顔が潰されてるんだからな。ちょっと眩しいが、この程度はコラテラルダメージだ。
「ザマァ見やがれ」
鏡像に中指を立てて校舎を出る。向こうも中指を立てて返した。所詮は反射だ。

「やあ、お疲れ様」
「ん」
校舎を出て数歩、あいつが背後から肩を叩いて労ってきた。間違っても後ろは向かないようにする。また鏡面を見る羽目になっちゃまずいし。
「いやぁ、奴が勝手に動いた時にはもう駄目かと思ったよ」
「あんま俺を舐めんなよ? お前から怪談を聞いては『主人公もこうすりゃ良かったのに』なんて妄想してんだぜ」
「私が君の生存に一役買ってたわけだ。嬉しいことだね」
「身の程を弁えろ元凶」
「はっはっは。ところで奴の出現範囲は、『学校敷地内』だ。校門までもう少しだけ、気を張っていた方が良いと、私は思うね。……そういえば今日は午前中、雨が降ってたね」
「わーかってるって」
用済みになったスマホはうっかりオフになった画面を見ないようにポケットに仕舞って、校舎からは全力で目を逸らして、俺たちは無事に帰途についた。
ちなみにあいつは不法侵入について何のお咎めも無かったらしい。というか侵入を気付かれてもいなかったらしい。たしかに他の生徒や教師の姿は見なかったが、侵入者が全く気付かれず好き勝手歩き回るとか恐ろしいことだよなぁ。

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対怪異逃避行:鏡像の怪異 その⑥

「それでどうするのさ」
「まあ大したことはしないんだが……、普通に『ガラス面から目を背け続ける』、それだけ」
「わあ地味」
「けど、確実だろ?」
「それはそう」
とりあえず下駄箱から靴を取り出し、あいつの方に意識を向けながら出口に向かう。
「……さっきから思ってたんだけどさ。あんまりこっち見ないでよ、照れるじゃない」
あいつが至って平坦な声色で言う。
「つっても、意識を向けておくのにちょうど良いものが無くてなぁ」
「地面でも見てればいいのでは?」
「なるほど名案」
その提案に乗って、足下に視線を移してみる。その時一瞬、出口扉のガラス面が目に入った。でも、できるだけ意識しないようにしてたし目は合っていないはずだから多分セーフのはずだ。

……うん、扉に近付いても手は生えてこないから大丈夫だったんだろう。
目を伏せたままガラス扉を押し開け、目を伏せたまま出口をくぐる。ガラスに映った俺の足が目に入ったが、足しか見えていない現状じゃ、向こうも手は出せない。
(なんせ、そういうルールだったもんなァッ!)
声に出して煽り散らすわけにもいかないので頭の中だけで言いながらその足を見ていると、鏡像に変化があった。
膝を深く折り曲げ、腿、腰、腹と見える部位がどんどん増えていく…………野郎、鏡の中で屈んで、強引に目を合わせてくるつもりか!

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対怪異逃避行:鏡像の怪異 その②

…………さて。
俺は今まさに学校から帰ろうとしているわけなんだが。
今日は部活があったから、帰りがそれなりに遅くなってるわけなんだよ。
で、部室の位置と昇降口の位置を鑑みるに、今まさに俺がいる西階段を降りるのが一番手っ取り早いわけなんだ。
……そして今、ちょうど鏡のかかった踊り場で、昨日あいつから聞いた怪談を思い出してしまった。
「…………まあ、一応。一応、確認ってことで」
スマートフォンで時間を見てみる。18時5分。ギリギリセーフ。
あいつめ、脅かしやがって。そう思いながら再び鏡に目をやった。
鏡に映った俺が、にやりと笑った。現実の俺は異常事態に歯を食い縛っているというのに。
鏡に映った俺が、腕をゆっくりと上げ始めた。現実の俺は何もできず腕を垂らしているというのに。
鏡に映った俺が、鏡面の境界をすり抜けてこっちに腕を伸ばしてきた。現実の俺は……とか言ってる場合じゃねえ!
そう頭では分かっていても、戦場暮らしだったわけでも無い人間が咄嗟に動ける訳も無い。腕はすごいスピードでこっちに迫ってくる。
しかし、鏡像の俺の手が俺の首に届くより前に、現実の俺がそれから逃げようと動こうとするより前に、背後から誰かに足払いを受け、派手にすッ転んでしまった。鏡像の腕は空を切り、現実の俺はそのまま階段を転げ落ちていく。
「……痛え…………」
「やあ、生きてるね。それは良かった。お礼を言ってくれても良いんだよ?」
この声は……。
「……なんでここにいるんだ」
このクソッたれの怪談を俺に教えた、我が幼馴染じゃないか。何だかんだで救われたが、それはそれとして許せねえ。
「不法侵入してきた。堂々としてればバレないもんだね」
「大体、俺がこんな目に遭ってるのはお前があんな話したせいだぞ。どうしてくれるんだ」
「どうもしないよ。まぁ、とりあえずは逃げようじゃないか。付き添いぐらいならするよ?」
「そりゃどーも」
階段を安全に歩いて降りてきたあいつに手を貸してもらい立ち上がり、とにかくこの校舎を脱出するために、階段を更に降り始めた。

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対怪異逃避行:鏡像の怪異 その①

「こんな話を知ってる?」
下校中、偶然出くわしたあいつがいつもの切り出し方で話しかけてきた。こいつがこの言い方をするのは、毎回必ずオカルト絡みの話をするときなんだ。正直飽きてるんだが、とりあえず聞き流すことにして、あいつの話すままに任せる。多分これが一番良いやり方だ。
「学校の七不思議の一つなんだけどね、6時6分に西の階段の踊り場の壁にかけてある鏡を見ちゃいけないっていうの」
「へえ」
「見るとどうなるか、これが分かりやすい。鏡に映った自分が、自分を殺しに来るんだ」
「そりゃ怖い」
「まあ、躱すだけなら簡単なんだよ。そいつは鏡の外に完全に出てくることはできないから」
「そりゃ怖くない」
「いやいや、こいつが恐ろしい代物でさ。たとえその場を逃げ出したとしても、一度現れたら最後、ありとあらゆる鏡面に現れては狙ってくるんだ」
「そりゃ怖い」
「助かる方法は簡単。一度学校の敷地内から逃げ出してしまえば良いのさ。次の日にはもう安全に戻ってるからね」
「へえ」
「……ところでこれ、うちの学校の七不思議じゃ無いんだよね」
「……は?」
「君の学校の七不思議なんだよ」
こいつとは高校に上がってから通う学校が別になったわけだが……何故そんなことを知っているのか。
「つーかなんでそんなこと俺に教えんだよ。明日からどんな気分で学校行きゃ良いんだ」
「何も知らないよりは安全かなー……って」
「季節が悪りィよ季節が……」