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This is the way.[Nero]2

ピタン。ピタン。
既に何の音もしなくなった惡獄層に、雨垂れの音が響く。規則性があるようでない、淡々としたリズムに、ネロは耳を澄ませながら、物思いに耽っていた。と、そこへ遠くから軍靴の音。
カツーン。カツーン。カツーン。
暫くして音が近づいたかと思うと、ネロの独房の扉の前で止まった。
ガンガンガンガン。ガンガンガンガン。
「No.2。起きてるか」
「............」
「開けるぞ」
甲高い音をたてて軋みながら、扉が開いた。看守の、この男は確か、オヴィアスと言ったか。その手には1枚のトレーが乗っていた。
「ボスはようやくお前さんの飯のことを思い出したようだ。さっき許可が出た。あまりがっつくと良くないからゆっくり食べろ」
「...............」
トレーの上に乗っていたのは、二つの乾いた細長いパンと、卵が1つ、水が一瓶だった。カタン、とトレーを床に置くと、オヴィアスはこちらに目を向け、暫く見つめた後、扉を閉めて去っていった。
看守が去ると、ネロはムクリと体を起こし、トレーに手を伸ばした。前回の食事の時よりパンが小さい気がするが、小さなソーセージから卵1つに変わっているのは正直嬉しかった。ネロはパンに手を伸ばすと、先程の看守の忠告など無かったかのように、あっという間に食べてしまった。卵を殻も剥かずに噛み砕き、一息に水を飲み乾した。小さくおくびをすると、ネロは再び体を横たえた。
もう三ヶ月もこんな日々が続いている。一日一度食事があれば良い方で、運が悪いと五日間飲まず食わずなんてあり得ない話ではない。その度に看守は、忘れていると言っているが、この間隔が計画的であることに、ネロは薄々気づいていた。まばらな間隔のせいで、空腹感が増したり、食事を抜く苦痛が酷くなったりするのだった。
それゆえに、下手に空腹にならないため、ネロは必然的に活動をしなくなっていった。常に寝てばかりいると、当然体は衰える。しかし食べないものだから体力を維持する力さえも得られなくなっていた。

1

もののけがたり

夜とも朝ともつかぬ淡い色をいっぱいに湛えた明け六つ、まだ微かに寝息が聞こえる長屋に面した細い路地に若い女の絶叫がこだまする。
女はへたりと地べたに尻もちをつき、片手で口を押さえながら震える体を辛うじてもう片方の手で支えながら後退りしているところだった。
「ひっ、人が…人が死んでっ……!」
女が指差す方には、仰向けに倒れている男がいた。目をかっと見開いているが、ぴくりとも動かない。気付けば背後にはわらわらと人が集まっていた。
「死人か?」「誰か死んだのか?」
「待て、こいつ、息をしている。」
男の鼻に掌をあてると、ゆっくりと呼吸をしていた。瀕死の呼吸、というよりは寝息のようなものだった。
野次馬がざわめく。ひとりの野次馬が言った。
「おい、こいつ、なんだか酒臭くねぇか……?」
そう言ったのはなかでも異常に鼻が良いことで有名な男だった。言われてみれば今更だが、酒臭いような気がする。一瞬の静寂が落ち、次の瞬間には大きな笑いが巻き起こっていた。
「ひっ、ひひっ、なんだぁ酒飲みが酔っ払って寝てただけじゃあねぇか大袈裟な!」
「いやぁーそれにしても、目を開けて寝る輩がいたとは。」
確かにそうである。目を開けて寝る奴なんてそうそういるものではないだろう。しかしこのまま寝かせておくわけにもいかない。
「ほらお前さん、起きな。」
男の脇腹をぽんぽんと叩く。男は余程酔っているのだろう、全くもって起きる気配がない。
しかしその瞬間、不意に男の眼球がにゅるりと一回転した。全員が息を飲む音が聞こえた。
この世のものとは思えない不気味さに空気が震える。

しかしそれ以前にひとつ、気付いてしまったことがある。左目の下の泣きぼくろ。その斜め下の頬についた小さな古傷。
見れば見るほど、その姿形は自分自身ではないか……。