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rainyday

日は傾いて見る間に輪郭を溶かす
慌ててなにもかも袖の中隠そうとしても
薄暗さは動きを奪いとり
そっくりまるごと止めてゆきました
なにも目には映らなくて
瞼を閉じても開けても暗闇ばかり
きっと私が涙を流していても
自分ですら気付くことはないでしょう

なにも見る必要なんてない
暗闇と錯覚に蝕まれるのをひしひしと感じながら
手探りで空気をかき回す
なにもかも無意味な空間を

限りなく夜に流れた夕暮れに
車のヘッドライトが雨に反射して
止めどなく落ちる雨粒を見るのが好きだと
いつかあなたは言った
なにも考えなくて済むのだと

アスファルトに刹那触れて
ゆっくりゆっくり飛び散った破片
反射する光もないままに
忘れたようについてきた音を嗤う

なにをしていても離れないのです
このまま人間として生きていけなくなるのではないかと思うほどに
脳裏に焦げ付いて離れないのはあなた
写真に映ったあなたはきっと虚像
この手に感じた感触さえ信じられないのです

rainyday

ヘッドライト照らされた雨粒
どんなに目で追っても終わらない
それでもとめどなく溢れてくるのはあなたの影

rainyday

あなたがいなければなにも成り立たない
こんなときに気づいても
もう少しだけ
もう少しだけ早く教えてくれれば良かったのに

神様

すっかり暗闇に包まれてしまった
今も雨は降っているのでしょうか





1

もののけ

 酔って帰宅し、玄関に倒れ、猫が死にかけのゴキブリをもてあそんでいるのをぼんやりながめた。果たして俺は生きているのか死んでいるのか。
「この世は本当に存在しているのか。すべては幻ではないのか」
 俺はつぶやいた。すると、「人間は外部を知覚し、考察を加えることによって現実をものにするのだ」という声が部屋のどこからかきこえた。
「誰だあんたは」
 俺は転がったままたずねた。
「この世ならざるものとでも言っておこう」
 声のするほうに目を凝らすと、着物姿の、人間に似ているが人間ではないと思われるたぐいのものがこちらを見下ろしていた。
「なるほど。急に目の前に現れるなんてまさにこの世のものとは思えない」
 俺は起き上がり、流しの水道からじかに水を飲んだ。
「さっきからいたよ。急に現れたように感じたのはお前がぼうっとしているからだ。鍵ぐらいかけておけ」
「べつにもう。どうでもいいんだ」
 俺はそう言って口をぬぐい、座り込んだ。
「ずいぶん病んでいるようだな」
「いまを生きているという実感がないんですよ」
「若者なんてだいたいみんなそんなものだろう」
「そうかな。でも、病んでいるんです」
「いま生きているかどうかなんてどうでもいいではないか。人間は未来を志向する生きものだ。樹木を傷つけて一定時間経過後、染み出してきた樹液を食すサルなどもいるが、人間の未来志向にはおよばない」
「未来なんて不確かなものですよ。妄想の産物でしかない」
 俺がそう言うと、すり寄ってきた猫をなでながらこの世ならざるものが言った。
「人間は現実より妄想依存型なのだよ。確かないまより不確かな未来。人間はパンによってのみ生きるのにあらず、妄想の力によって初めて人間として生きる。幻を生きるのが人間なのだ。お前はいまでさえ幻と感じている。完璧だ」
「よくわからないけど、少し希望がわいてきました」
「正月休み、あるんだろ。ちょっと遠出してみたらどうだ」
「はい。久しぶりにツーリングに行ってみようと思います」
 数時間後、高速道路の中央分離帯で俺は血を流してうめいていた。見上げると、あの、この世ならざるものが、笑顔で立っていた。こういうのをもののけというんだろうな、と薄れゆく意識のなか、思った。

5

雪が、落ちてゆく。

                   ゆ       こ
                    き      の
                     が     ゆ
                     ひ     き
                     と     が
                    ひ      お
                   ら       ち
                           き
                           る
                 ゆ         ま
                き          え
                が          に
                ふ
           あ     た
           な      ひ
           た       ら
           に
           あ
           い         ゆ
           し         き
           て         が
           る        み
           と       ひ
                  ら     つ
                        た
                        え
               ゆ        ら
               き        れ
               が        る
                よ       だ
                 ん      ろ
                  ひ     う
                   ら    か



                あ    わ
                な  と た
                た    し