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Specter children:人形遣いと水潜り キャラクター②

名前:水潜冰華(ミクグリ・ヒョウカ)
年齢:16歳(高校2年生) 性別:女 身長:157㎝
説明:とある田舎の村に生まれ育った少女。色素の抜けた濃茶色のショートヘアが特徴。明るく人懐っこい性格で、人間・人外を問わず、友好的な相手には簡単に懐く。友達も多い。
5年前に川遊びしていた際に誤って足を滑らせ落水。挙句、川に生息する野生の河童に襲われ、殺されそうになった。その時、ある霊能者に救われ、人工呼吸のついでに河童の血肉を強制的に飲まされ、結果として河童の体質を部分的に獲得した。
河童の血肉を取り入れたためか、河童たちからは群れの仲間として好意的に捉えられるようになり、毎日早朝に川に下りては挨拶するのが日課になっている。
落水事件の後、泳ぎが好きに、かつ上手になってきたが、これは河童を喰ったこととは無関係。高校では水泳部に加入している。実力は県大会でギリギリ入賞できない程度。

霊能力:【河童通臂拳】
能力説明:両腕が肩の内側で1本に繋がっている。そのため、片方を引っ張れば繋がった両腕がそちら側に抜けてしまう。なお、体から抜けた後でも腕の操作は可能だが、見えない場所に腕があると、上手く動きをイメージできずに複雑な操作はできなくなってしまう。
もう一つの効果として、冰華は両手の指で対象の”魂”を引っかけ絡め取り、奪うことができる。この効果は、相手の末端部を狙うほどより多くの魂を奪い取れる(頭部や体幹部よりも、手足などを狙った方がダメージが大きくなる)。

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Specter children:人形遣いと水潜り キャラクター①

名前:豊原蒼依(トヨハラ・アオイ)
年齢:16歳(高校2年生) 性別:女 身長:162㎝
説明:ある街で生まれ育った少女。痩せた体躯、癖っ毛で肩甲骨の辺りまである黒髪、目の下のクマが特徴的。服装は黒い長袖のセーラー服に黒タイツ、スニーカー。
先天的に霊感があり、また固有の才能として、感情を人形の形で切り離し操る能力があった。昔から能力と霊感の才能があったことで、人知れず街に現れる怪異存在たちを祓う活動を続けており、実戦経験はかなりのもの。人形たちは通常時はあまり攻撃力が無いため、補助や妨害目的で利用しつつ、殴る蹴るの格闘戦で怪異を攻撃する。
また、他の霊能者には自分の能力を『喜怒哀楽の感情を人形の形で切り離す』と偽っており、『3体の人形しか使えない』と偽装している。
あまり感情を積極的に発露するタイプではないが、人間、特に霊能力の無い人間は庇護対象と捉えており、穏やかに接するようにしている。ただし相手が霊能者や近い立場の者の場合、遠慮が無くなって年相応のガラの悪さが出てくる。

霊能力:【感情人形】(パッション・ドール)
能力効果:感情を掌大の人形の形で切り離し、自由に使役操作する。人形自体の能力はあまり高くない。人形とはぼんやりとだが五感の共有が可能で、意識を集中させることで人形の見聞きしている情報を取り入れることも可能。
人形として切り離した感情を、能力持続中に蒼依が感じることは無い。また、人形が破壊されても蒼依に直接のダメージは無いが、その後の10分間程度、同じ感情を人形化することはできず、その感情を感じると胸が痛む。
能力の対象にできるのは『喜怒憂思悲恐驚』のいわゆる”七情”。また、すべての感情を切り離してしまうと、抜け殻のようになり再起不能になってしまうため、最低1つは感情を自分の中に残しておく必要がある(実質的に同時に使役できる人形は6体まで)。また、切り離した感情が何であっても、人形の性能に差は無い。
必殺技:《奇混人形》
【感情人形】で召喚した人形を『3体』融合させることで、1体の大型人形に変化させる。奇混人形は蒼依と同程度の体格のデッサン人形のような外見で、身体能力・耐久力ともに極めて高い。また、蒼依の思う通りに形状を変形させることが可能で、武器の代わりに用いることもある。蒼依が一番気に入っているのは三節棍型。

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Specter children:人形遣いと水潜り その⑪

二人は屋外での行動に備えて一度着替え、慎重な足取りで玄関に向かった。引き戸の擦りガラスには、子どもらしき背丈の影が映っている。
(子供? “鬼”は結構大柄だったはずだけど……)
蒼依は冰華の背後に身体を丸めるように隠れ、【感情人形】を3体召喚した。
「だーれー?」
扉の向こうに向かって、冰華が呼びかける。
『ミクグリちゃーん。あーけーてー。顔が入るくらいで良いからさー』
引き戸の向こうの影が答えた。
冰華は背後の蒼依にアイコンタクトを送る。蒼依は顎で玄関の外を指した。影との会話を続けるようにとの意思に、冰華は再び呼び掛けた。
「だからー、誰なのー?」
『あけてよー。腕が入るだけで良いからさー』
声の主は名乗らず、再び戸を開けるよう要求した。
冰華は再び蒼依を見る。蒼依が外を指差し、冰華は再び引き戸に向き直る。
「もしかして、ササキちゃん?」
『そうだよー。だからあけてー。指が入るだけで良いからさー』
「この村に、『ササキ』なんて家無いよ? 高校の友達にもいないし」
蒼依は思わず冰華を見上げた。
(冰華ちゃん⁉ 何て度胸だよ……⁉)
蒼依は人形3体を右手の上に呼び寄せ、いつでも攻撃に移れるよう身構える。
『あけてー。爪の先が引っかかるくらいで良いからさー』
引き戸に移る影は、いつの間にか異常に背丈が伸び、朧げなシルエットは灰白色に変化していた。
冰華は一度、蒼依に視線を移す。蒼依は無言で頷き、深く腰を落とした。
「……良いよー。爪の先なんて言わず、全身通るくらい開けてあげる」
冰華は蒼依の後ろに隠れるように後ずさり、精一杯腕を伸ばして引き戸に手をかけた。
「ただし……」
勢い良く扉を開くのと同時に、蒼依が屋外に向けて飛び出した。
「こっちの『全身』のことだけどね!」
(……《奇混人形》!)
右手の中の3体の小さな人形が溶けるように混ざり合い、蒼依の手の中で一振りの曲刀に変化する。シルエットの首の辺りを目掛けて振るわれた初撃は、相手の大きく身を屈めた回避動作によって対処された。

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Specter Children:人形遣いと水潜り その⑩

その日の夜、2人は入浴と夕食を終え、冰華の部屋でのんびりと休んでいた。
「冰華ちゃん、寝間着貸してくれてありがとうね?」
「気にしないでー」
「冰華ちゃん、寝間着は結構緩いの着るタイプなんだね。おかげで割とぴったり」
「普通じゃない? パジャマってゆるっとしたの着るものだと思うんだけど。っていうか蒼依ちゃん、手足長いよねー。モデルさんみたい、羨ましいなー」
冰華が剝き出しの蒼依の前腕に触れ、掌を滑らせる。
「こういうのは『蜘蛛みたい』っていうんだよ」
「良いじゃん蜘蛛。益虫だよ?」
「ポジティブだなぁ……」
時刻が午後11時を回った頃。2人が就寝準備を整えていたところ、冰華の母親が声をかけてきた。
「冰華ー? お友達が来てるけどー」
「え? うん分かったー。今行くー」
立ち上がろうとした冰華の肩を、蒼依が無言で掴んで引き寄せた。
「わぁっ」
「……冰華ちゃん」
蒼依はやや俯きがちだったものの、ただならぬ気配は冰華にも感じ取れた。
「えっ何蒼依ちゃん」
「冰華ちゃんには、『夜中にアポなしで家に尋ねてくる友達』がいるの?」
「えっ、いやそれは、…………!?」
蒼依の問いに、一瞬遅れて冰華の気付く。
「い、いや、ほら……もしかしたら、河童のみんなかも……?」
冰華の目は泳いでおり、その言葉があり得ない可能性であることは明白だった。
「……冰華ちゃん、出よう。私も行くから」
「えっ、いいの?」
「もしかしたら、ヤツかもしれないから。ここでぶつかれるなら好都合」
「……分かった。何かあったら守ってくれる?」
「うん」
2人は足音を殺し、揃って部屋を出た。
「……あ、待って冰華ちゃん」
「何よ蒼依ちゃん」
「セーラー服に着替えてからで良い?」
「……カッコつかないなぁ」
言いながら苦笑し、冰華は溜め息を吐いた。

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Specter children:人形遣いと水潜り その⑨

「割とガチでヤバいやつじゃん!」
「だから最初に言ったじゃん『殺しに来た』って」
「……そういや言ってたね」
水際に並んで座り、二人は話し合う。集まっていた河童たちは、既に蒼依からの情報をもとに捜索のため散開していた。
「そういえばさぁ、蒼依ちゃん」
「何よ冰華ちゃん」
「子供さらうような凶悪な妖怪が、なんで子供の少ないド田舎にいるの?」
「いや知らないけど。隠れ場所多いからとか?」
「絶妙に頼りない……」
「仕方ないじゃんまだ高校生だぞ?」
しばらく意味の無い雑談を続けた末、二人はどちらともなく立ち上がった。
「取り敢えず……村戻るかぁ」
「何か手がかり無いかなぁー」

結果として、二人は何の成果も得られなかった。農作業の合間に休む老人、商店を利用する大人たち、村の数少ない子供たち、およそ出会えたすべての人間に、蒼依が『自由研究の一環で伝承について知りたい』という体で尋ねたものの、有用な情報は一切なかったのだ。
「……ダメだったねぇ」
「まぁ、仕方ないよなぁ……」
水潜家に帰還した二人は、冰華の自室に入ると揃ってベッドに身を投げ出した。
「疲れたぁ……蒼依ちゃん、今夜はうちに泊まる?」
「えー、あんま迷惑かけられないよ」
「大丈夫だよ、お母さんも蒼依ちゃんのこと気に入ってるし。蒼依ちゃん礼儀正しいんだもん」
「んー? いやぁ……まぁほら、いきなりお邪魔したわけだしねぇ……」
「めっちゃ良い子じゃん。……あ」
「何よ冰華ちゃん」
蒼依の問いかけに、シーツに手を付き、冰華が勢い良く身体を起こす。
「いやマジに何その勢い……」
「ねぇ蒼依ちゃん。今朝初めて会った時の話なんだけどさ」
「ん?」
「蒼依ちゃんの登場の仕方、変じゃなかった? 木から落ちたみたいな落としてたけど」
「あー……それは普通に、昨日の夜この村に着いて、宿も無いし適当な木の上で寝ただけだけど」
答えた瞬間、冰華が素早く蒼依を押し倒した。
「やっぱり今日はうちにお泊りしてもらいます!」
「……なんで?」
「オニがいるかもしれない危ない夜に、友達を外に置いておけるわけ無いでしょ!」
冰華に見下ろされながら蒼依は目を泳がせ、逡巡の末に、観念したように溜息を吐いた。
「あー……うー……うん。分かったよ、分かったから……」

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Specter children:人形遣いと水潜り その⑧

水面の半球状の物体は、続々とその数を増し、じわじわと川辺の二人に接近してくる。
蒼依がよく観察してみれば、藻のような頭髪と頭頂部に剥き出しになった白い皿、髪の下に隠れた鋭い両目、濁った黄色の平たい嘴などが見られる。
(マジでちゃんと河童なんだなぁ……)
蒼依が興味深げに観察している横で、冰華はしゃがみ込み、河童たちに呼びかけた。
「ねぇみんな。私たちね、鬼を探してるの、オニ」
両手の人差し指を額の前で立てながら言うと、河童たちは互いに顔を見合わせる。
「それっぽい生き物、見てない? 何か心当たりがあったら教えてほしいな」
河童の1体が僅かに沈み込み、口元の水面に小さな泡沫が浮かび上がる。彼らにとっての『言語』である。
「うーん……たしかに、探すの手伝ってもらえたら嬉しいけど」
小さな泡が4つ、立て続けに弾ける。
「良いの? じゃあ、お願いしようかな」
「ねぇ冰華ちゃん、何言ってるか分かるの?」
横入りしてきた蒼依に冰華は頷き、更に尋ねる。
「ねぇ蒼依ちゃん。鬼の見た目について、もっと詳しく分からない?」
蒼依は俯いてしばらく考え込み、口を開いた。
「聞いた話によると……背丈は多分2mいかないくらい。あと、爪が長いらしい。詳しい情報までは、ごめん。……あぁそうだ」
「どしたの蒼依ちゃん?」
「冰華ちゃん、村で子供が消えたりしてない?」
「そもそも子供が少ないかな」
「アイツについて聞いたことがもう一つ。アイツは、『子供を攫う』らしい」

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Specter children:人形遣いと水潜り その⑦

およそ2時間後、冰華の予想より遅く帰ってきた母親に出かけることを伝え、二人は村に繰り出した。
「そういえば蒼依ちゃん、この村に、その……鬼? がいるんだっけ? なんでそんなの分かるの?」
「そこそこ信用できる筋からの情報」
「何かかっこいい。どこにいるの?」
「そこまでは……少なくとも、この山のどこか」
「広いよ。人手いる?」
「めっちゃ欲しい」
「分かった! じゃあこっち来て」
冰華の案内で訪れたのは、早朝二人が出会った川辺だった。
「ここで、みんなに手伝ってもらいます!」
「……河童に?」
「うん」
冰華は大きく息を吸い込み、口元に手のメガホンを当てた。
「みぃーんなぁーっ! 来ぃーてぇー!」
残響に応え、水面に複数の波紋が浮かんだ。
「……冰華ちゃん?」
「ん?」
「この川、結構深いわりに滅茶苦茶水きれいだよね」
「そうだね。良い場所でしょ?」
「うん。河童……いるの? 姿見えないけど」
「いるよー。河童は水泳上手いから、隠れるのも得意なんだよ。ほら、ちゃんと波紋が出てるでしょ」
「姿が無いのが怖いんだけど」
二人が話していると、波紋の一つを突き破り、緑色の半球が水面に現れた。
「ほら出てきた」
「うっわマジじゃん。初めて河童の本物見た」

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Specter children:人形遣いと水潜り その⑥

部屋の外から、冰華の母親が呼びかける。曰く、用事があって家を出るため、留守番を頼むとのこと。
「りょーかい」
冰華が答えると足音が部屋から遠ざかり、やや時間をおいて玄関が開き、また閉じた。
「……じゃ、私も鬼探しに行くから」
「あ、待って。私も一緒に行く!」
蒼依に続いて立ち上がった冰華の頭に、蒼依の軽いチョップが刺さった。
「痛いっ」
「さっき留守番頼まれてたでしょうが。親の言うことはちゃんと聞きなさいな。せっかくいい親御さんなんだから」
「でも……蒼依ちゃんのこと手伝いたいし……」
「危ないんだよ? あんまり無理しないで」
「危ないのは蒼依ちゃんも一緒じゃん」
「いやまぁほら、私は慣れてるから」
「それなら私はこの辺一帯に慣れてるよ? 土地勘!」
「……なんでそんなについて来たがるの」
「えー……お友達だから? あと面白そうだし」
「おいコラ冰華ちゃん」
「それに! 私だってそんなに弱くないんだよ!」
両腕で力こぶを作るジェスチャーをする冰華に、蒼依は溜め息を吐いた。
「……冰華ちゃんのお母さん、どれくらいで帰ってくると思う?」
「1時間くらいかな?」
「じゃ、その後出ようか。それまで、この村と周りのこと教えてよ」
「やったっ。私に分かることならなんでも聞いて!」
「うん。頼りにしてるよ」
「あっ、一応今のうちに番号交換しておこ? 何かあった時に便利だし」
冰華がスマートフォンを顔の前で軽く振った。
「スマホ持ってたんだ……」
「さすがに田舎舐めないで?」

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Specter children:人形遣いと水潜り その⑤

「おい何だその反応は。あんた人間でしょうが」
蒼依の怪訝な視線に、冰華はぎこちなく顔を背ける。
「な……何でもないよ……? あははァ……」
「おうコラ正直に吐けぃ。モチモチするぞ」
2体の【感情人形】が姿を現し、冰華の顔に飛びついて彼女の両頬をもみくちゃにする。
「あひゃひゃひゃ、やめてやめてー!」
【感情人形】たちと蒼依本人に組み伏せられた冰華は、息を吐き出し両手を投げ出した。
「こ、降参降参……」
「で?」
「私……友達に妖怪がいるの」
「種は?」
「河童」
「河童もいたの?」
「えっ、標的じゃなかったの? 私、この辺の妖怪で思い当たるのそれだけなんだけど……」
「ちなみに送り狼も道中にいたよ」
「世界は広いねぇ……」
蒼依が身体の上から退いたことで、冰華も起き上がる。
「ねぇ蒼依ちゃん……私の友達、殺さない?」
冰華の不安げな問いかけに、蒼依は人形の1体を冰華の頭に乗せながら答えた。
「河童のこと? 河童たちの前科は?」
「一番新しいのだと、私が襲われた時のことくらいかなぁ。大体5年くらい前? それ以降は、特に悪さしてる河童はいないかな」
「……自分を殺しかけた奴らと、友達? 妙だな……」
「私を襲った河童以外はみんな優しいよ?」
「うーん純粋」
「わーい褒めてもらった。それで? 蒼依ちゃんのターゲットって何者?」
「あーうん。何か、何かしらの鬼らしいよ。角も生えてるって」
言いながら、蒼依は両手の人差し指を立てて額の前に当てた。

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Specter children:人形遣いと水潜り その④

朝食を済ませた二人は、冰華の私室でしばしの食休みをとっていた。
「それで? 蒼依ちゃんはなんでこの村に来たの?」
「んー? んー…………これ言っていいやつかなー……」
「何、犯罪?」
「合法。っていうか現行法で多分裁けないやつ」
「つまり倫理的にはアウトなんだ」
「私はセーフだと思ってるよ」
「ふーん? まぁ正直に言いなよ」
「うーん……」
蒼依は言い淀みながら頭を搔き、髪の毛の中から掌大の人型ぬいぐるみを取り出した。
「斬新な髪留めだね?」
「違うわ。ほら」
人形を掌に載せたまま、それを冰華の眼前に差し出す。冰華がそれを見つめていると、人形はひとりでに動き出し、蒼依の掌に両腕の先端をつき、もたもたと立ち上がった。そのままバランスを崩し、床上に落下する。人形は数瞬震えた後、再び立ち上がり蒼依の肩までよじ登った。
「わぁすごい玩具。都会の流行り? 可愛いねぇ」
「……まぁ、うん」
目を伏せた蒼依に、冰華は堪えきれず笑いを漏らしてしまう。
「あははっ、ごめんごめん! 冗談だよ冗談! ちゃんと『視えてる』から!」
その言葉に、蒼依はきょとんとした表情を見せた。
「それ何? 式神的なやつ? 幽霊?」
「……えっと……私の『感情』を材料にした…………何か、そういうヤツ」
「へー。感情って、喜怒哀楽みたいなやつ?」
「うん。感情を1個ずつ切り離して、人形の形で動かすの。名付けて【感情人形】」
「わぁかっこいい。その人形、強いの?」
「弱いよ」
「弱いんだ」
蒼依が人形を指先でつまんで放り投げると、そのまま空中で溶けるように消滅した。
「……それで? 蒼依ちゃんなんでここに来たんだっけ?」
「あぁうんその話ね」
一瞬口をつぐみ、息を吸って再び口を開く。
「妖怪を殺しに来たの」
淡々と放たれたその言葉に、冰華は硬直した。

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Specter children:人形遣いと水潜り その③

改めて自己紹介をし直した二人は、河原から集落への道筋を並んで歩いていた。
「豊原さん」
「何?」
「蒼依ちゃんって呼んで良い? 同い年だし」
「駄目。あんたのことも冰華ちゃんって呼ぶよ?」
「良いよ?」
「とにかく駄目。私が恥ずかしいから」
「おっけー蒼依ちゃん」
「おいコラ冰華ちゃん」
ぐだぐだと話し続けるうち、二人の歩みは集落に到達していた。
「それで蒼依ちゃん? なんでこの村に? 自然豊かなだけで何もないよ?」
「んー……旅行?」
「ろくな荷物も持たず、この季節に暑苦しい冬服で?」
「だってこの辺標高高いじゃん。あと長袖なら草で肌切る心配も無いし」
「なんで制服?」
「別に良いじゃんか。私ファッションセンス無いんだよ」
「じゃあ今度一緒にお洋服買いに行こうね。私あこがれだったんだ、お友達とお買い物に行くの」
「別にいいけど、一番近い服屋までどれくらいかかるよ?」
「片道2時間?」
「重いって」
二人は水潜家の前までやって来る。
「取り敢えず上がりなよ。朝ごはん食べよう?」
「良いの?」
「良いの」
「じゃあ……まあ、うん。お言葉に甘えさせてもらおうかね」
手招きする冰華の後に続いて、蒼依は引き戸の玄関をやや猫背気味にくぐった。

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Specter children:人形遣いと水潜り その②

明くる早朝、午前5時前。既に明るくなっていた空の下、村に住む少女が一人のんびりとした足取りで散歩していた。
集落の総面積のうち半分ほどを占める畑では、何人かの老人が農作業に従事している。彼らに軽く会釈しながら、少女は慣れ切った経路を迷いなく突き進む。
少女は集落範囲を外れ、獣道を抜け、ごつごつとした礫の転がる河原に下りた。
水際まで歩み寄り、瞑目して一つ深呼吸する。朝のまだ涼しい空気と流水の清浄な匂いで肺を満たし、再び目を開く。
「おはよーございまーすっ!」
口元に手でメガホンの形を作り、水面に向けて呼びかける。それに応えるように浮き上がる波紋や泡沫に、少女の顔は綻んだ。
次の呼びかけをどうしようかと考えていたその時、少女の背後でガサリ、と枝葉を折るような音が立った。
「うえっ⁉」
咄嗟に振り返り、ガサガサと動いている茂みを恐る恐る覗き込むと、ひと際大きな音と共に、その中から一人の少女が立ち上がった。
「うげ……屋根だけじゃなく落下対策も用意しとくべきだったな……寝相は良い方だったんだけど……」
「だ、誰?」
木の上から落下してきたと思しき冬用制服の少女はそう尋ねられ、ようやく顔を上げた。
「うおっ、第一村人。ども、豊原です」
「豊原サン……私は水潜です」
「ミクグリ=サン? あぁうんよろしく」
「……ねぇ豊原さん」
「何?」
「肩にイモムシ乗ってる」
「えっ嘘⁉」
水潜と名乗った少女、水潜冰華が指差した左肩を、豊原と名乗った少女、豊原蒼依は慌てて払った。

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空想少年要塞都市パッセリフォルムズ:告鳥と悪霧 キャラクター③

アヴェス:ガッルス・ガッルス
モチーフ:セキショクヤケイ(Gallus gallus)
年齢:16歳  身長:170㎝
所属カテルヴァ:以津真天
説明:対大型敵対存在特攻先遣部隊“以津真天”のメンバー。トウゾクカモメ先輩より誕生日が4か月ほど遅い。仲間がいないと何もできないクソザコ。逆に言うと仲間がいるととても怖い。今回は残念ながら登場しませんでした。
レヴェリテルム:フェロクス・プエル(Ferox puer) 語義:野生児
説明:変形コンパウンドボウと蓋付矢筒。矢のストックは24本。一度に6本まで同時に矢を番えることが可能で、射出した矢は極細の導線で右手と繋がり、導線伝いに自由に操れる。複数本を同時に装填する際は、弦に専用装填補助具を取り付け、そこに矢を並べる必要があるので、連射は無理。一度射出してしまえば、いくらでも好き放題できるんだけどねぇ。

アヴェス:エクトピステス・ミグラトリウス
モチーフ:リョコウバト(Ectopistes migratorius)
年齢:7歳  身長:120㎝
所属カテルヴァ:迦陵頻伽(非公式)
説明:とある研究者の手によって密かに生み出された、本来禁じられているはずの『女性のアヴェス』。感情の不安定さを爆発力として発揮してくれることを期待されているようだが、教育不足のせいで随分と好き放題しているようで。ちなみに“迦陵頻伽”は彼女を生んだ研究者が便宜的に彼女に与えた所属先であり、彼女以外の構成員は存在しない。
レヴェリテルム:プリンセプス(Princeps) 語義:支配者
説明:大量のナノマシン。アリエヌスの体内に侵入し、操り人形のように支配する。最終的には侵入したナノマシンはアリエヌスを体内から破壊する。ちなみにナノマシンの総量は大体、大型アリエヌス10万体を同時に支配してもまだ余る程度。普段は周囲のありとあらゆる『隙間』に潜ませ、自らに追随させている。

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Specter children:人形遣いと水潜り その①

8月中旬。時刻は18時過ぎ。“逢魔時”とも呼ぶべき薄暗がりの中、とある山間の集落に続く未舗装の細い道路を、一人の少女が歩いていた。
その集落に住む数少ない少年少女たちの通っているいずれの中学・高校の指定制服とも異なるデザインの、黒い長袖のセーラー服に身を包んでいながら、僅かに露出した素肌には汗の一筋も流しておらず、人界から隔絶しているかのような奇妙に仄暗い雰囲気を漂わせている。
少女は厚いスニーカーで石ころや木の根を踏み越えながら、歩調を乱すことなく歩き続けていたが、集落が目視できる距離にまで到達すると立ち止まり、溜め息のように長く細く呼気を吐き出した。
「……思ったより、距離あったな。タクシーでも使えば良かった」
その場で両脚を上げ下げしながら疲労を誤魔化していた少女は、不意に背後の木々の奥に広がる暗闇に目を向けた。
「ふむ…………“怒”」
呟いて少女がスカートのポケットから取り出したのは、掌に収まる程度の小さな人型のぬいぐるみだった。ジンジャーブレッドを立体的に膨らませたような、クリーム色の人型の頭部には、単純な丸型の小さな両目と半月型の大きく笑ったような口だけが縫い留められている。
「行っておいで」
少女が手の中に囁きかけると、人形は小さく震えながら立ち上がり、短い両腕で力こぶを作るようなジェスチャーを決めると威勢よく地面に飛び降りた。そのまま少女が元来た方向へ短い脚を精一杯回して走り、地面に盛り上がった木の根に阻まれあっさりと転倒した。
次の瞬間だった。暗闇の奥から風のように現れた大型の野犬のような生物数頭が一瞬にして人形に飛び掛かり、鋭い牙と爪によって無数の繊維片へと解体されてしまった。
破壊された人形の残骸が少しずつ崩れて消滅する様子を眺めながら、少女は溜め息を吐いて道端の木の根元に慎重に座り込んだ。
(……送り狼、かぁ…………。何か途中から気配がついて来るとは思ったけどさぁ……)
木の幹に寄りかかる少女の周囲を、送り狼たちはしばらくうろついてから、小さく鼻を鳴らして再び闇の奥へと消えた。
「……ま、あの村までの安全は担保されたってことで」
少女は立ち上がり、服に付いた土埃を手で払うと、再び集落へと歩き出した。

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空想少年要塞都市パッセリフォルムズ:告鳥と悪霧 キャラクター②

アヴェス:ピトフーイ・ディクロス
モチーフ:ズグロモリモズ(Pitohui dichrous)
年齢:12歳  身長:152㎝
所属カテルヴァ:以津真天
説明:対大型敵対存在特攻先遣部隊“以津真天”の新入り。戦績は上々。最近の悩みは前歯が抜けてしまったこと。ご飯が食べにくい。大人になりたくないので、立派に戦って殉職したい。
レヴェリテルム:ソルス=ヴェネヌム(Solus venenum) 語義:唯一の毒
説明:口を開けた毒蛇を模した、全長3mほどの金属製の杖。首が自由に動き、顎も開閉する。内部に仕込まれた腐食液を毒牙部分を通して射出可能で、相手に食いつかせてから注入すれば確実にぶつけられる。何故か火炎放射も可能。舌下の穴からぶわって出る。特に意味も無く目も光る。思いの外やりたい放題。

アヴェス:ステルコラリウス・ポマリヌス
モチーフ:トウゾクカモメ(Stercorarius pomarinus)
年齢:16歳  身長:173㎝
所属カテルヴァ:以津真天
説明:対大型敵対存在特攻先遣部隊“以津真天”の副隊長。高校生なので結構忙しい。一番の年上なので何かと頼られがちだが、他人のサポートはかなりド下手クソ。1人で戦うか、周りが合わせてくれるのが一番やりやすい。
レヴェリテルム:ポラリス=カエルム(Polaris caelum) 語義:極地の空
説明:長さ150㎝程度の短槍と、縦横150㎝×45㎝程の大盾。大盾は浮遊させ、飛行ユニットとして利用可能。小型無誘導ミサイルも撃てる高性能大盾。短槍の方は馬上槍形態と大刀形態に変形可能。短槍形態は投擲、馬上槍形態は刺突、大刀形態は斬撃の威力をブースターユニットによって強化可能。更に、大刀形態の武器と大盾を変形合体させることで、大型戦斧にもなる。

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空想少年要塞都市パッセリフォルムズ:告鳥と悪霧 キャラクター①

アヴェス:カズアリウス・カズアリウス
モチーフ:ヒクイドリ(Casuarius casuarius)
年齢:15歳  身長:165㎝
所属カテルヴァ:以津真天
説明:対大型敵対存在特攻先遣部隊“以津真天”のリーダー。好戦的だがその暴力性はアリエヌスにしか向かないので意外と安全。ただ、戦闘時の様子が恐ろし過ぎるので、よそ様からは怖がられている。趣味は対戦型ゲーム。
レヴェリテルム:カルチトラーレ=ウングラ(Calcitrare ungula) 語義:蹴爪
説明:両脚の膝近くまでを覆う脚甲。爪先と踵部分にはブレードが、両足裏と脹脛にはブースターが仕込まれており、爆発的加速を乗せた蹴りでブレードを叩き込む。ブースターを利用することで、短距離の飛行も可能。ブレードを格納することで打撃武器として使ったり、ブースターの出力を射程武器(エネルギー砲)として利用することも可能。『足を覆っている』こと以外に欠点が無い。

アヴェス:サジタリウス・サルペンタリウス
モチーフ:ヘビクイワシ(Sagittarius serpentarius)
年齢:14歳  身長:158㎝
所属カテルヴァ:以津真天
説明:対大型敵対存在特攻先遣部隊“以津真天”の一員。密かな自慢は『両利きなこと』。どちらから攻められても同じように受け、押し返せる対応力の高さが売り。
レヴェリテルム:チェレリタス=フルグル(Celeritus fulgur) 語義:雷速
説明:一節辺り約1mある、大型三節棍。各節部分は鎖状に変形可能で、疑似的二刀武器や鎖付き武器としても扱える。また、各節は部分的に側面を刃状に変形させられる。

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夏休み 1 「あたり」

昔から運はいい方だった。
「おお、またあたりかぁ!良かったな!」
そんな話をしたのも一度や二度ではない。
ところがここ最近は別な方向に「あたり」が出ている気がする。
例えば、嫌な仕事にあたる、夕飯の刺身にあたる…何でなんだと思いながら過ごしていた。
おかしい。運は良かったはずなのに。
今までの皺寄せがきているとでもいうのだろうか。
何だかもやもやしつつも、誰に相談もできずにいたが、今日の一件で友人に相談することを決めた。
今朝出かけようとしたところ、バン!と音がして、頭頂部に軽く痛みを感じた。
振り返ると、足元にノートが落ちていた。どうやら上の階で落とした奴がいるらしい。
証拠に、数秒後には小学生くらいの子供が慌てて出てきて、頭を下げながら謝罪された。
これだけなのだが、この一件はかなり危機感を覚えた。
もし、これがノートじゃなかったら。…例えば植木鉢とかだったら。
自分は、間違いなく死んでいただろう。
そう感じて、その場で友人に電話した。
友人は黙って話を聞いていたが、途中から様子がおかしくなった。
「それって、親に相談したりしてないよな?」
「え、してないけど?」
「わかった。今から迎えに行くから、何があっても親には言うな。絶対!」
そこまで言って電話は切れた。
その後、車で迎えに来た友人は顔面蒼白だった。
「お前さ、『アタリ様』って覚えてるか?」
「え、あの祠?確か子供の頃に取り壊されてなかった?」
「そうそれ。アレの解体やったの、お前の父ちゃんなんだよ。地元のお坊さんとかの反対押し切って取り壊してさ。でもお前の両親はピンピンしてるし。もしかしてとは思ったけどまさか…」
友人曰く、アタリ様の祟り?らしい。
初めこそいいことがあるが、どんどん悪い方向へ進んでいくという。そして親はその呪いを子供、つまり自分に押し付けたのだと。その日はそのまま友人とお祓いを受けた。今は何事も無く過ごしている。
しかし、両親は違ったようだ。お祓いの日、ちょうど事故の電車にあたって大怪我をした。
留守電には「何で、お前があたっていれば」と恨み言が届いたが、今はどうしているだろうか。

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空想少年要塞都市パッセリフォルムズ:告鳥と悪霧 その⑩

「見えたぜェ、リーダー後輩。お前の上げた“狼煙”がよォ……」
粉塵の舞い上がる中から、刺々しい声が楽し気に響く。
「それで? コイツをブッ殺せば良いのか? 遅刻した分働くぜェ……!」
薙ぎ払いが粉塵を吹き飛ばす。高校制服姿のアヴェスが、大盾と大刀で武装して立っていた。
「よく来てくれたぜゾッさん。テストの出来はどうだった?」
「現文駄目だった!」
「ドンマイ! じゃあ頼む!」
「りょーかいィ」
“ゾッさん”と呼ばれたアヴェス、ステルコラリウス・ポマリヌスはレヴェリテルムを変形合体させ、一つの大型戦斧を完成させた。
「叩き斬れ……“Polaris caelum”!」
全長約3mもあるそれを大きく振りかぶり、大型アリエヌスの正中線に照準を定める。
「せェー…………のォッ!」
渾身の振り下ろしが炸裂する。その破壊力はアリエヌスが構えていた両腕を破壊し、剣圧の余波を体幹部にまで到達させ、その巨体を完全に両断した。
「ふゥー……大型アリエヌス何するものぞ。俺が本気出しゃぁこんなモンよ」
レヴェリテルム“ポラリス=カエルム”の合体機構を解除し、ポマリヌスは研究者とクミを睨みつけた。
「で? 何なのお前ら。マッドサイエンティスト?」
「似たようなものだね」
研究者の男が答える脇でクミが片手を振り上げると、大型アリエヌスの残骸から黒い霧が吹き出し、彼女の足下に吸い込まれて消えた。
「うおっ、何あれ」
「ゾッさん。あのおチビちゃん、アヴェスらしいぜ」
カズアリウスの言葉に、ポマリヌスはカズアリウスとクミを交互に見た。
「えっマジで? 女の子じゃん」
「あのマッドが作ったんだとよ」
「マぁジか。ガチマッドじゃん。通報したろ。……帰してくれるならの話だけどな」
ポマリヌスが短槍を握りしめ研究者の男を睨む。しかし、男はけろっとした表情でビデオカメラをしまい、アヴェス達を追い払うように手を振った。
「帰ってくれて構わないよ。君達には感謝しているんだ。恩には報いるのが信条でね。帰った後は好きに通報してくれて構わないよ。どちらにしろ、私の研究に大きな支障は無いからね。さぁ帰った帰った。良い日を過ごしておくれ」
研究者の男とクミが手を振って送り出す中、4人のアヴェスは釈然としない感情でエレベーターに乗り込んだのだった。

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百舌鳥と愉快な仲間たち_1

「あ゛ーっ!!また引っかかった!!また検診か!週に何回やれば気が済むんだよ!!」
冷房の効いた部屋にブケファルスの大声が響く。
「くっそ…面倒くさい…お前もそう思うよな?俺が検診のときお前留守番だぞ?」
ブケファルスはケースに入った自分のレヴェリテルムに激しく同意を求めた。昔からブケファルスには自分のレヴェリテルムと会話しようとする癖があった。
ピンポーン
突如部屋のインターフォンが鳴る。
「…ん?」
扉を開けると、少年が3人。左は髪のつんつんした不良っぽい容姿で、真ん中は小さくて目が大きく、右は大きく妙に居心地悪そうにしている。
「よぉ!あっ違ぇ、初めまして!」
「僕たち、ドムスの方から君に会ってって言われたんだ。ラニウス・ブケファルスだよね?」
「…その、突然すみません…」
突如左から順に三者三様すぎる挨拶をくらい、ブケファルスは大いに戸惑った。
「えー…えっと…とりあえず、上がるか?」
三人は互いに顔をみやる。
「マジで!?よっしゃお邪魔します!」
「やったね!冷房がこっちまで届いててさっきから涼しかったんだー」
「ええ…そんな無遠慮な…あっお邪魔します」
ブケファルスにとって、初めての同期との交流である。

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空想少年要塞都市パッセリフォルムズ:告鳥と悪霧 その⑨

「ビク太郎、ズー坊。お前らの出る幕は無ぇ。大人しく下がってろ」
カズアリウスの指揮で、他の2人は後退した。
「おや、君のような雑魚一人で相手するつもりかい? 思い上がるのはやめた方が良いと思うがねぇ」
研究者の男が揶揄うように言う。
「うるっせ。馬鹿にすんなよ? これでも“以津真天”のアタマ張ってんだ。1つ、俺の本気ってやつを見せてやるよ。アリエヌス壊されて泣くなよ?」
「確約はできないね。本当にそうなったなら、嬉し泣きするかもしれない」
「ほざけ」
そう吐き捨て、カズアリウスは彼のレヴェリテルム“Calcitrare ungula”を変形させた。変形機構が起動し、踵部分に長さ20㎝程度の折り畳み刃が展開する。
「……随分と短い刃だ。大型を相手するには力不足だろう?」
「そうかもな。まァ食らって判断しやがれ」
足裏のブースターを起動し、カズアリウスはアリエヌスの頭頂より高く飛び上がると、右脚を伸ばしたまま足裏が直上を向くほどに振り上げた。
「蹴り殺せ――」
ブースターを再点火し、振り下ろす動きを超加速して、アリエヌスの脳天目掛けて踵落としを叩き込む。
「Calcitrare ungula”ァッ!」
ブースターからは凝縮された高火力エネルギー砲が放たれ、それを推進力としてアリエヌスが盾のように構えた腕に踵のブレードが突き刺さる。勢いは衰える事無く蹴撃が完全に振り抜かれ、腕の一部を大きく抉り抜いた。
「……なるほど、なかなか悪くない威力だ。ブースターの出力断面積を敢えて絞ることで、威力密度を上げているわけか。……だが、大型の敵を相手にするにはあまりに小規模過ぎるな」
研究者の言葉に、カズアリウスはニタリと笑う。
「別に良いんだよ。端ッからそいつ殺すことなんざ狙ってねェからな。“以津真天”が何を目的にした部隊だと思っていやがる」
カズアリウスは空間天井を指差す。ブースター役のエネルギー砲は天井を貫き、地上にまで貫通していたのだ。
「『大型相手の時間稼ぎ』だぜ。俺の仕事はもう終わったんだよ」
地上から爆発的破壊音と振動が伝わり、天井を揺らし小さな瓦礫片を落とす。
「選手交代だ。“うち”の最高火力を見やがれこの野郎」
カズアリウスが言ったその瞬間、天井が粉砕され、一つの影が飛び込んできた。

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空想少年要塞都市パッセリフォルムズ:告鳥と悪霧 その⑧

アリエヌスの拳が、3人に向けて振り下ろされる。
「クソが! “カルチトラーレ=ウングラ”!」
カズアリウスの履いていた金属製脚甲の脹脛に仕込まれた加速用ブースターが一斉に起動し、超高速の蹴りが拳を迎撃する。
「この……ッ! だらあァッ!」
ブースターの出力を上げて跳ね返し、足裏の噴射機構からエネルギー砲を撃ち出して反撃する。
「この野郎ォ……俺のレヴェリテルム“Calcitrare ungula”は、ただの機動用ブーツじゃねェぞ」
カズアリウスが右脚を上げ、足裏をアリエヌスに向ける。
「出力を調整すれば、こうしてビーム兵器にもなれる」
研究者の男はビデオカメラを構え、戦闘の様子を撮影観察していた。
「なるほど。しかしまぁ……可哀そうな能力だね。その”蹴爪”という名のレヴェリテルム……その程度の出力で得られる機動力は、レヴェリテルムの標準性能で得られるだろう?」
「うっせ、俺ぁこいつが一番性に合ってんだよ。大体、動力も翼も無しに空飛べるわけ無いだろうが。常識でものを言え常識で」
「始めて見たね、『常識』なんてものを語るアヴェスは。君達は想像力の傀儡だろう?」
「生憎と人格もありゃ教育も受けてきた生命体だ。そこまで目出度い脳味噌はしてねぇよ」
「興味深いな。これからも実験に協力する気は?」
「お断りだ!」
“カルチトラーレ・ウングラ”の足裏から放たれたエネルギー砲を、アリエヌスの腕が受け止めた。ビームは腕部装甲に弾かれ、ダメージを与える事無く内壁に衝突して終わる。
「出力はあまり高くないのだね?」
「高くある必要が無いからな」

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生まれ変わって撞波再くん

ガンガンガンガン…
はぁはぁと僕は息をしながらもこの長い鉄でできた階段を登っていく。
ふと顔を上げると陽の光が入ってくる。さっきまで雨が降っていたのになと思いながら最後の階段を登る。
〜第一章〜
 ここは、この街にある結構高めのビル、と言ってもどこもかしこも錆びていて、誰もいないので時々空き巣が入ることもあるのだが、ここにはもう一つ噂があるそれは、「自殺の名所」とも呼ばれている。
僕は大空 撞波再(おおぞら つばさ) 17歳。家は母子家庭だったけれど小学生の頃突然母は姿を消してしまった。そこからはおばあちゃんの家で過ごしている。
僕は、屋上のはじまで行きふと下を見下ろした。
…やっぱり高いなぁ
でも、こんなバカみたいな世界と今日でおさらばできるんだと思うと、もう何も考えられなくなった僕は目を閉じた。
この世界で最後に言うことは?
…バカだな。こんなこと聞いても対して答えることがないのに。
まぁ、一つ思うとしたら…。
母さんにもう一度会いたかったよ。おばあちゃん今までありがとう。
僕は最後にこう思い、飛び降りることにした。
って言っても高いなぁ。本当に飛び降りたら死ねるのかな?
あぁ覚悟が決まんない。ここで出てくる僕の優柔不断はクソみたいだ。
さっさと死ねるんだぞ、次の地平線へ飛んでいけるんだぞ。さぁ、早く降りろ!
「これでもう、何も感じない そんなこと思っていませんか?」
「うわぁぁぁぁぁ!」
声が聞こえた。そんなはずはない。だって足音もしなかったから。
僕はぎこちなく後ろを向く、そこには綺麗な瞳をした男の子が立っていた。