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Daemonium Bellum:Angels Lapsus Ⅰ

太陽が高く上った昼下がり。
人里離れた森の片隅に小さな屋敷がある。
その屋敷の一角にある部屋で、机に伏している者がいた。
「…おーい」
起きて、と揺すられるが、その人物は顔を上げる気配はない。
「起きないの~?」
暫く揺すって、やっとその人物は顔を上げた。
「何か用?」
無理やり起こされた事に不服そうな顔をしながら、その人物は傍に置いておいた眼鏡を掛ける。
「やっと起きましたね」
ずっと揺すっていた人物はうれしそうな顔をする。
「ねぇ”ぼす”…外へ出ましょうよ?」
「断る」
”ぼす”と呼ばれた人物は、間髪入れずにそう行った。
「だってめんどくさい」
「そんな事言われても」
ずっと室内にいたら身体に悪いですよ~と金髪の人物は”ぼす”を揺する。
やめなさい、と言いながら”ぼす”と呼ばれた人物は相手を諫めた。
「どーせ、天使共がわたしを探しているから、外に出たって…」
襲撃されるくらいならここにいた方がマシ、と”ぼす”と呼ばれた人物はそっぽを向いた。
えー、と金髪の人物は不満そうな顔をする。
「もし天使に遭遇してもボクやアモンがどうにかするから大丈夫だよー」
だから外に出よーと金髪の人物は”ぼす”の腕を引っ張る。
ちょっとベベ…と”ぼす”は嫌そうな顔をした。
すると部屋の入口から声が飛んできた。

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信仰

長い夢から醒めた後はいつも
決まって酷く喉が渇いている
脂汗と頬に張り付く髪は
生きることの次に不快だ
白い壁に回る幻影
聖母に抱かれた赤子の顔は何処へ?
首に巻き付いた臍の緒は
未だ取れないままでいる
動けば動くほど喉を締め付けるそれは
一体何の呵責だと言うのか
窓辺に生けた花は苦悩の色をしている
痛覚は何に似ていたか
皮膚に纏わり付いた瘴気を
振りほどくことも出来なくなってしまった
ただ段々と染みついて
いずれ私を腐敗させる
その血肉を水に溶かして
もう一度女の身体から生まれてこようか
気の狂いそうな脈動と
うだる体温をもう一度、もう一度

悄然とした雨の夜を見下ろして
火に集い羽を燃やす蛾は
笑えるほどに私に似ている
いいかいその絶望も悲哀も
誰が与えた訳でも無いのだ
ひとりの男が口元を歪めながら
耳元でずっと囁いている
病院のような礼拝堂に埃は舞って
純潔の乙女は花弁を飲み込んだ
焼け爛れた喉の痛みに耐えながら
冷たい無機質を嚥下する
一切の余白を許さずに刻まれた文字
懺悔によって殺された善良な人間
これが神だと言うのなら
これが正義だと言うのなら
背徳によって救われる命もあるだろう
美などこの世には無いのだ
お前の瞳は何も見てはいないのだ
肉体ばかりがひとりで生きて
私を置いて彷徨っている


嗚呼、昔誰かが言っていた

人の血の赤いのは、昔林檎を食べたからだと