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五行怪異世巡『霊障遣い』 その⑨

平坂と背中合わせに立ち、青葉は彼に呼びかける。
「潜龍さん、あの武者は私が何とかします。腕の方をお願いできますか?」
「お前にどうにかできるのか?」
「ええまあ、恐らくは」
「……こちらでも見てはおくからな。対処しきれないと思ったらすぐに言え」
「了解です」
再び武者の霊に接近し、杖を用いて打ち合う。
(……何かこの落ち武者、見た目よりパワーが無いな?)
小柄で華奢な青葉の倍近い体格の武者の霊だったが、多少力を要するものの、青葉でも十分に攻撃を防げていることに疑問を覚えつつ、隙を見て胴体に打撃を叩き込み、大きく後退させる。
(……やっぱり弱過ぎる。カオル、何か知ってる? カオルに言われて持ち出したものなんだけど)
(んー? ワタシの可愛い青葉、その子は私の妹だよ。銘を〈煌炎〉。私と違って、『怪異を殺す刀』なんだ)
(へぇ……ん?)
「刀ぁ⁉」
武者の霊から距離を取りながら、青葉の口から叫ぶような声が飛び出す。
(そうだよ、ワタシの可愛い青葉。〈煌炎〉はワタシ〈薫風〉と同じ刀匠の打った仕込み杖なんだ)
「そ、そうなんだ……?」
(まあ……抜くのはおすすめしないけど。ちょっぴり危ない子だからさ)
「ふむ……殴り倒す分には大丈夫なんだ」
(だいじょうぶー)
「分かった。取り敢えずこのまま戦おうか」

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Flowering Dolly:釣り人の日常 キャラクター紹介

・カリステジア
モチーフ:Calystegia soldanella(ハマヒルガオ)
身長:137㎝  紋様の位置:右手首の裏側  紋様の意匠:昼顔の葉
白いノースリーブのワンピースと麦わら帽子を身に付けた、黒髪ショートヘアのドーリィ。肌は青白く、目の下には濃い隈ができており、ちょっと心配になるレベルで薄くて細い。開始時点では誰とも契約しておらず、毎日波止場で釣りをしたりコンクリを這うフナムシを眺めたりしていた。
固有武器はサバイバルナイフ。全長約20㎝。使わない。
得意とする魔法は結界術。直方体の結界を張り、結界の境界面に触れたものは反対側の面から出てくる。その特性のお陰で絶対不壊。ちなみにこの効果は内側と外側どちらにも付与できるし付与しないこともできる。結界そのものの強度はジュラルミンくらい。
ビーストにボコボコにされる人間文明を見続けてちょっとヘラってるところがあるので、そんな中で「日常」を諦めない人間を見ると、脳を焼かれて自分を押し売りしてくる。
ちなみにマスターが「日常」を捨てた瞬間、自分とマスターの2人がギリギリ収まる程度の極小結界に2人で閉じこもり、マスターが窒息するまで抱き着いて寄り添っていてくれる。過去の被害者は1人。契約直後、マスターになったからって変に気負った瞬間やられた。理想は契約しても「ドーリィ・マスター」という使命感を意に介さず普段通り生活できる人間。

・砂原さん(サハラ=サン)
年齢:16歳  性別:男  身長:169㎝
とある港町で1人暮らしをしている少年。ビースト出現騒ぎが増えて次々住民が余所に疎開する中、頑なに故郷に居続ける狂人。ちなみに他の家族は全員内陸部に住む親戚の家に避難しました。1人で居残った理由は単に面倒だったから。学校教育は遠隔で課題をやってるので大丈夫。
基本的に毎日無人の漁港で釣りをしながら、海に現れるビーストやそれと戦うドーリィの様子を眺めている。釣果は1日平均0.04匹。
下の名前はちゃんとあるけど、カリステジアにバレるのは何か嫌なので、頑なに言わない。

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五行怪異世巡『霊障遣い』 その⑧

少女はウエストポーチからロリ・ポップを取り出し、包装紙を剥いて歯で挟むように咥える。
「そっちの雑魚のお兄ィさんが雑魚なのはまァ、前提として……そっちのガキは何なの? 見た感じ、霊感すら無いマジモンの雑魚じゃん」
少女から明らかな侮蔑を受けながらも、青葉は努めて冷静に彼女を睨み返していた。
「ところでお兄ィさん。さっき投げたの何? アタシの愛しい悪霊が痛い思いしたんだけど?」
「その言い方……近頃騒がれていた『操られた悪霊』の元凶は貴様か」
「まぁねぇー」
答えながら、少女は屋根から飛び降りた。膝と腰を大きく曲げて衝撃を殺し、ゆっくりと立ち上がる。
「……殺れ、“草分”」
言いながら、少女は右手の親指を下に向けるハンドサインをしてみせた。瞬間、青葉と平坂の周囲の地面から土気色の無数の腕が現れ、2人に掴み掛かる。
しかし、平坂が懐から取り出した鈴を1度鳴らすと、二人の一定以内の距離まで近付いていた腕は一斉に消し飛んだ。
「……は? おいテメー今何をした?」
少女の放つ殺気が一段と濃くなる。
「悪霊に寄られたから追い払っただけだが」
平坂は平然と言い返す。その態度に、少女は苛立たし気に頭を掻きむしり、不意に脱力した。
「そっかー……まァ、ほんのチョピっと削れただけだから良いんだけどさァ……」
少女が右手の中指を立てる。
「やっぱお兄ィさん、アンタ死ぬべきだ」
平坂と青葉に、重く鈍い足音が近付いてきた。
(ん、さっきのか……)
青葉はすぐに音の方に振り向き、今にも刀を振り下ろそうとしていた武者の悪霊の喉元を杖で突いて押し返した。

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Flowering Dolly:釣り人の日常 その⑩

結局、空間は広げてもらえないままバリア内部にて待つこと数分。ようやくいつものドーリィが来て、巨大ウミヘビを海の方まで押し返してくれた。
「ようやく安全になったか……。おいカリステジア、もうバリア解除して良いぞ」
「えー」
「何が『えー』だよ」
「せっかくだし、もう少しだけこのままじゃ駄目ですか?」
「駄目」
「むぅ…………まあ、お兄さんが言うなら……」
ようやく解放され、バリアの壁にもたれていたものだからそのまま倒れる。軽く頭を打った。
「痛って……」
「お兄さん、大丈夫ですか? 治しましょうか?」
「いや大丈、夫……あん?」
ふと、自分の右手首を見る。カリステジアのと同じ場所に、同じ紋様が刻まれていた。
「……あーお前と契約したからか…………これ、銭湯とか入れるのかな……」
「えっ可愛いドーリィと契約した証を見て最初に思うのが刺青判定されるかどうかなんですか?」
「そりゃまあ、そもそも押し売られたものだし。思い入れも何も無ェ」
「そんなぁ」
釣り道具を片付け、立ち上がる。
「あれ、今日はもう帰っちゃうんですか?」
「いや、場所変える。流石にあのウミヘビに粉砕された堤防で釣りは居心地悪いし」
「あっ釣りはやめないんですね」
「まーな。ドーリィが守ってくれるんだろ?」
「っ……! はい! 全身全霊を以て!」
この場所も気に入ってたんだが、壊された以上は仕方がない。新しいポイントの開拓といこうか。

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五行怪異世巡『霊障遣い』 その⑦

「なッ、貴様、待て! 何をする気だ!」
平坂は慌てて後を追うが、青葉の敏捷性には追いつけず、その差は少しずつ開いていく。
やがて二人はその路地の最奥、数軒の民家に囲まれた行き止まりに辿り着き、そこで一度立ち止まった。
「何故逃げた……岩戸の……」
息を切らしながら、平坂は青葉に近付いた。
「私は容疑者の姿を遠巻きとはいえ実際に見ています。協力できるはずです」
「貴様…………分かった。協力はしてもらうが、俺の監視下に置くからな。勝手はさせんぞ」
「はい。それで良いです」
2人が話を付け、表の通りに戻ろうとしたその時、突然、平坂が振り返った。
「? 潜龍さん?」
「……お前、ここに子供が入ってきたと言っていたな」
「はい、言いましたけど……」
「俺は姿こそ見なかったが…………どうやったんだ?」
「何がです?」
青葉の疑問には答えず、平坂はある民家の屋根の上に何かを投げつけた。ほぼ直線の軌道で飛んでいったそれは、硬い金属音と共に弾かれ、地面に落下する。
「……危ないなァー。体力少ない雑魚のくせに投擲力だけは無駄にあるんだから」
屋根の上から、柄の悪いやや幼めの女声が降ってきた。
青葉がそちらに目を凝らす。星明りの下、注意して見ると、屋根の縁に一人の少女が足を組んで腰掛け、2人を見下ろしていた。

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Flowering Dolly:釣り人の日常 その⑨

ウミヘビの方を見る。何度か攻撃を繰り返しているようだけど、本当にこっちには何の影響も無いみたいだ。
「あー……カリステジア」
「はい」
「詳しく説明してくれ」
「はい。私のバリア、6面の直方体の形なんですけど、えっと……」
カリステジアは俺の釣竿に付いていた浮きを外して掌の中で転がしてみせる。
「これを……こう」
奴がそれを真横に向けて投げた。浮きは奴が投げたのと反対方向から、俺達の間に転がって来た。
「こんな感じで、私のバリアの境界面に触れたものは、反対側から出てくるんです。外側と内側、どっちにも適用できるし、通り抜けを起こさないのもできますよ。……と、いうわけで」
奴がまた抱き着いてきた。周りのバリアが狭まったのが触覚で分かる。
「いつものドーリィちゃんが何とかしてくれるまで、私達はこうしてのんびり待っていましょうね」
「それは良いけどまずは離れろや」
「お兄さん……当然ですけど、バリアは広げるほど消耗が激しくなるんですよ? できるだけ狭い空間で密着してた方がお得じゃないですか」
「…………ちなみに、あとどれくらい持つ?」
「お兄さんが寿命を迎えるまでくらいの時間は余裕で」
「ならもう少し広げようなー」
「そんなぁ……」

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五行怪異世巡『霊障遣い』 その⑥

また数分、屋根の上を走り続け、交差点に差し掛かったところで立ち止まり、一瞬の逡巡の後、再び路上に飛び降りる。
その時、一瞬視界にカーブミラーの鏡面が入り、即座にそこに映っていた道に駆け込んだ。
(どうしたの、ワタシの可愛い青葉?)
(見つけた! 『何かを探していない様子の人間』!)
青葉の見つけた人影は、すぐに細い路地に入ってしまったようで、青葉も10秒ほど遅れ、後を追ってその路地に飛び込んだ。
「わっ」
「む……またお前か」
そして、その路地から出てこようとしていた平坂と正面からぶつかってしまった。
「お前……何故ここにいる?」
「じっとしていられなくて……それより、ここに誰かが入って来ませんでしたか?」
「『誰か』……? いや見ていないが……どんな奴だった?」
屈んで目線の高さを合わせながら、平坂が尋ねてくる。
「おそらく私と同年代の子どもです。特に目的も無い徘徊といった感じで歩いていました。『犯人』の可能性が高いです」
「……犯人、だと?」
「はい、『悪霊を操っている』、その犯人です」
平坂は再び立ち上がり、見下ろす形で青葉に相対した。
「おい。お前、あの姉からどこまで聞いた?」
「姉さまからは何も。ただ、不自然に統率の取れた悪霊たちのことは、ついさっき確認しました」
「……そうか。情報提供には感謝する。しかしとにかくお前は帰れ。具体的な危険性も分かっているんだろうが」
「むぅ……」
青葉は頬を膨らませ、帰途につくために振り返った、ように見せかけ、素早く振り向き平坂の真横をすり抜け、路地の奥へと駆けて行った。

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Flowering Dolly:釣り人の日常 その⑧

………………そろそろウミヘビに食い殺されていてもおかしくないと思うんだが、何も起きない。
周囲の様子を確認してみる。周囲の深く抉れたコンクリート、頭上を通る巨大ウミヘビの胴体。俺の胴体に抱き着いて密着してくるカリステジア。座った姿勢のままで曲がっていた膝をとりえず伸ばしてみると、空中で何かに引っかかる。手探りしてみると、どうやら俺達はかなり狭い空間に閉じ込められているらしい。
「んぇへへ…………」
カリステジアがこちらを見上げてくる。奴が徐に持ち上げてみせた右の手首には、朝顔か昼顔の葉っぱみたいな紋様が刻まれている。
「契約完了、です」
「………………カリステジア」
「はい」
「正座」
「はい……」
俺達を閉じ込める空間が少し広がった。カリステジアは俺から少し離れた場所に正座する。
「あのさぁ……契約って双方合意の上で成立するものじゃん」
「そうですねぇ……」
「別に契約すること自体は俺だって全く嫌ってわけじゃねーよ? けどさぁ……こういうのはちゃんと順序踏もうな?」
「お兄さん……! 私のこと、受け入れてくれるんですね……!」
「はいそこ喜ばない。お前今説教されてんの。オーケイ?」
「はーい」
にっこにこしやがって……。何かもうどうでも良くなってきた。一応俺達は安全っぽいし。
「なぁ、このバリア? って割られたりしねーの?」
「あ、それは平気です。通り抜けますから」
「は?」

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Flowering Dolly:釣り人の日常 その⑦

「……ごめん俺契約の押し売りは断れって死んだ婆ちゃんに言われたから……」
「そんなぁ、どうして」
つい勢いで断ってしまった。実際、ドーリィがいれば安心ってのは事実だ。最近はビースト事件の報道も増えてきているわけで、マスター付のドーリィが身近にいれば安全性は一気に向上する。けどなぁ……。
「いやだってお前……なんか、あれじゃん……」
こいつがドーリィだってのが事実だったとして、こいつ個人と契約するのはなぁ……。
「でも私、お兄さんのこと命に代えてもお守りしますよ?」
「お前なのがなぁ……そもそも互いに名前すら知らねえじゃん。信頼も何も無ぇ」
「あ、私お兄さんの苗字知ってます。スナハラさん!」
「サハラな。砂に原でサハラ」
「砂漠?」
「違げえよ。いや字面的にはそれっぽいけど」
「そういえば砂砂漠って『砂』の字が2個連続してて面白いですよね」
「おっそうだな」
「あ、私の名前でしたよね。私、カリステジアっていいます。ハマヒルガオのCalystegia soldanella」
「長げぇな」
「短く縮めて愛称で呼んでくれても良いんですよ?」
「えっやだそんなのお前と仲良いみたいじゃん……」
「最高じゃないですかぁ」
少女カリステジアと言い合っていると、俺達の上に影が覆い被さってきた。
「ありゃ……これは、マズいですかね?」
カリステジアの言葉に見上げると、あの巨大ウミヘビが俺達を見下ろしていた。
ウミヘビが口を開けて突っ込んでくる。同時に、カリステジアが俺を押し倒した。悪いが地面にへばりついただけでどうこうなる話じゃないと思うんだが……。

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五行怪異世巡『霊障遣い』 その⑤

(あの霊たちの動き……不自然だった。あまりにも統率が取れていた)
屋根の上を走りながら、青葉は考える。無数の手の霊が注意を引き、武者の霊が背後を取る。あたかも協力して人間を狩ろうとしているかのようなその様子。ただの悪霊が共生関係を取ることは、基本的にあり得ない。
「……つまり」
(つまり?)
立ち止まり、夜の街を眺める。
「『霊を操る何か』がいる。悪霊退治だけじゃ、駄目なんだ」
(なるほどねぇ……もしかしたらその予想、なかなか鋭いんじゃない? ワタシの可愛い青葉)
カオルの声に頷き、再び駆け出そうとして急ブレーキをかけ、その場にしゃがみ込む。
(ワタシの可愛い青葉、どうしたの?)
(いや……下を姉さまが通るのが見えて……)
(抜け出したのが見つかったら、怒られちゃうかな?)
(どうだろう……どっちにしても、心配はかけちゃうからな……それは避けたい)
(じゃあ、少し待ってから行こうね)
(うん。流石に走り疲れてきてたから、休憩できるのはむしろ助かるよ)
しばし屋根の上に伏せて待機し、物音が聞こえなくなるのを待ってから再び立ち上がる。
「取り敢えず、人の少ない場所を探そう」
(目標は?)
「人間。『何も探していない』人間」

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Flowering Dolly:釣り人の日常 その⑥

ここのところ、1週間くらい連続で釣り場にあの少女がいた。何度やっても逃げ切れないので、奴から逃げるのは早々に諦めた。
「えへへ、お兄さんが私を受け入れてくれて、私は嬉しいですよ」
「受け入れたんじゃねえ、諦めたんだよ」
「こんなにぴっとり寄り添っても許してくれるんだから、どちらでもさして問題ではありません」
俺の左腕にひっついたまま、奴が言う。
「うるせえ離れろ暑苦しい!」
「あれ、おかしいですねぇ。私、体温の低さには自信あったんですけど……」
「………………」
奴はきょとんとした顔で答えた。実際、こいつの肌はひんやりとしていて、正直に言うとかなり快適だが、それを言ったら負けな気がするので言わない。
海面に目を戻したちょうどその時、いつもより近くであの巨大ウミヘビが顔を出した。
「うわぁ、かなり近いですねぇ。50mくらいでしょうか」
少女はやけにのんびりとした口調で言う。
「こっちに注意を向けたら、一瞬でぱくっといかれちゃいそうな距離ですね」
「あ、ああ……これ流石に逃げた方が良いんじゃ」
「いつものドーリィちゃんがきっとすぐ来てくれますよ。ところでお兄さん?」
「何だよ」
呼びかけられて奴の方を見ると、いつの間にか顔をぐい、と寄せてきていた。
「離れろ」
「はーい」
元の姿勢に戻り、奴が口を開いた。
「やっぱり、ビーストの出る海で釣りともなると、いくら向こうが海から出ないと言っても不安ですよねぇ」
「何だ急に」
「そんな時、強くてお兄さんに忠実な護衛の子がいると安心ですよね?」
「何が言いたい」
「やっぱり、ドーリィと契約してると、こういう時も安心して日常が送れますよね?」
「ええい結論だけ言え結論を」
「むぅ、分かりました」
奴は俺の腕から自発的に離れ、その場で立ち上がって両手を大きく広げてみせた。
「ここにフリーのドーリィちゃんがいます。しかもお兄さんと相性バッチリ! 契約のチャンスですよ、お兄さん」

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Trans Far East Travelogue85

俺達を乗せた船が九州沖を離れた頃、夫婦揃って船室の布団に入って早々,嫁が「済州で思い出したけど,日本におる韓国にルーツがある人達のうち多数派が済州島にルーツば持つ話ば聞いたことあるばってん貴方も済州にルーツはあると?」と訊いてきた。「まず,日本にいる韓国系の人の多数が済州にルーツを持つのは本当だけど、韓国の南部地域一帯にルーツを持つ人自体が多く日本にいて,そのうち済州の人も多いってことかな…理由はいくつかあるけど、かつての朝鮮半島は北が資源が豊富で比較的栄えていて,南側は九州に近付けば近づくほど平野から農業が厳しい山あいの土地になる。済州に至っては当時の技術では開発が難しい孤島で火山もあるから,経済的に本土の中部や北部ほど栄えておらず、しかも日本の中でも当時栄えていた北九州に近くて九州へ出稼ぎに行く人がいた。でも、時代が変わって韓国が独立した頃に半島全体の情勢は一気にきな臭くなって、他の地域と違う成り立ちを持つ済州は韓国の敵とみなされて多くの人が亡くなった悲しい時代が過ぎても暫くは貧しくて,日本に船で逃れた人もいて結果的に済州にルーツを持つ人が増えたんだ。俺の親戚は100%本土の人の子孫だから済州出身者はいないんだけど、俺は済州にもルーツあるよ」と返す。すると嫁が「貴方んことばり好きやけんもっと教えて」と言うので種明かしをする。「実は、母さんのお腹の中に俺の命を宿してもらった時に2人は新婚旅行先の済州にいた。でも、俺は日韓関係が冷え込んで日韓両国で差別やイジメと戦った小中の頃、野球を支えに生き延びたのと日本の血も引く東京生まれだから野球が好きな日本人として扱ってくれると嬉しいな♪」と返すと嫁は「貴方は東京ん誇りばい…カッコよかね〜」と言っているが俺はどう反応していいか分からず苦笑する。嫁は泣きそうな表情で「何か変なこと言うた?」と続けるので「東京の誇りって言ってくれるの嬉しいんだけど,カッコ悪いって言われた気が…」と返すと嫁は「ごめん…忘れとった…嫌われてしもたかな…」と泣き出すので「先祖の仇として憎んでいたはずの九州の人に恋して、その人の夫として幸せにしてもらっているから嫌いにはなれないし、君こそ福岡の誇りだよ。生まれてきてくれてありがとう。お陰で幸せ者さ」と本音を伝えて抱きしめながら口付けをすると嫁は泣き疲れたのか俺の腕でスヤスヤと寝息を立てて眠っている。

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五行怪異世巡『霊障遣い』 その④

青葉が疑問に思いながら戦闘の様子を見ていると、少し離れた場所から金属が擦れるような音が聞こえてきた。
そちらに目をやると、具足を身に纏った武者のような悪霊が、刀を引きずりながら霊能者たちの背後に忍び寄っている。霊能者たちは腕の悪霊に集中していて気付いていない。
「っ、危ない!」
叫びながら、青葉は屋根から飛び降り、武者の幽霊に持っていた杖で殴りつけた。
(……あっ、流石に出てきたらマズかったかな……さっさとここから離れよう)
武者の霊の構えた刀に杖を合わせ、押し返しながらその場を離れ、素早く横道に入り込んだ。
「あの落ち武者は……あれ?」
追ってくるであろう武者の霊を警戒して振り向いた青葉だったが、武者は道の前で立ち止まり、先ほどの霊能者たちがいた方をじっと見ていた。
「……来ない?」
霊能者らに向かっていく武者の霊を呆然として見送り、青葉はその場を離れた。
(ワタシの可愛い青葉。あの人たち、助けに行かないの?)
(うーん……私と違って本職の人たちだし、もう不意打ちにもならないだろうし……。それよりもちょっと気になることがあってさ)
(ほう? 気になること?)
再び屋根の上に登り、青葉は夜の街を駆け始めた。

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