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時間が許すのなら、ぜひ、読んでください。長くてごめんね。

 僕は、望遠鏡を通して、彼女に恋をした。

 僕は火星人、彼女は木星人だ。いつものように望遠鏡で、宇宙を眺めていた。そして、彼女を見つけた。
 僕と彼女は出逢った。そして、瞬く間に恋に落ちたのだ。
 何度かデートを重ねた。驚くことはたくさんあった。理解できないこともたくさんあった。受け入れがたいこともたくさんあった。でもそれは、仕方のないことだ。だって、僕は火星人で、彼女は木星人なのだから。僕と彼女は生き方も、持つ文化も違うのだから。
 僕は彼女にプロポーズした。そして、僕たちは結婚した。
 僕たちは地球へ移住し、子どもも生まれた。すると、少しずつ歯車が軋み始めた。
 子供は地球人だ。僕たちも地球人として生きる。
 今まで違うことを理由に受け入れてこられたことが、同じだからという理由で受け入れることができなくなってきた。
 違うとわかっていたときは、あんなに理解しようとしていたのに。
 「どうして同じ地球人なのにこうしてくれないの?」
 「どうして同じ地球人なのにこうできないの?」
 「どうして違う考え方をするの?」

 僕は、火星人でいたほうが幸せだったのだろうか。彼女が、木星人でいたほうが幸せだったのだろうか。

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LOST MEMORIES CⅩⅡ

英人は頷いた。
「ついこの前。人間界に来る前、だが。
だから、イニシエーションなんておかしいんだ。」
「あら、英人くんまだいたの?心配なのはわかるけど、休ませてあげなさい。」
戻ってきてしまった先生。
瑛瑠は驚きすぎて言葉がでない。
英人はすみませんと応え、今度こそ出ようとする。
はっと思う。随身具無しにワーウルフの魔力を浴びてしまうことになるのではないか。それでは、危ない。
ここには無関係の先生がいるため、変な言葉やものの名前は出せない。ということで、名詞の名前は伏せて英人に伝える。
「英人さん!私に貸していただけるのはありがたいですが、あなたが持っていた方がいいと思います!だって――」
「僕は大丈夫。」
何を根拠に大丈夫なんて言っているのだろうか。
「お大事に。」
その言葉と指輪を残して保健室を出ていってしまった。
「英人くん、あなたにゾッコンねえ……若いって羨ましいわ。」
黙って眺めていた先生は、書類を整理しながらそんなことを言った。
さらに取り違えた瑛瑠が、
「自己犠牲に同情してくれたのかもしれません。」
なんて返すものだから、これは前途多難だわとため息をつかれる。
指示されたベッドに入り、先ほどの会話を思い出す。
すでに成人を迎えた英人が、イニシエーションと称されてここへ送り込まれた。もはや通過儀礼でないのは一目瞭然。ついこの前成人を迎えたということは、瑛瑠と年は変わらないだろう。なぜおかしいと知りつつ英人は来たのだろうか。
やはり、今日話したかったと悔しい気持ちでいっぱいになる。瑛瑠の力を認めてくれたから、声をかけてくれただろうに。
お礼を伝えるのを忘れたな,そんなことを思いながら、ふっと目を瞑り、眠りに落ちる。
そして瑛瑠は、夢を見た。

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どしゃぶりのバス停で 18(最終回)

「あの…」
「相葉さん…!?」
言おうと思うと口から言葉が出てこなかった。
でも、そんな私じゃない。
今の私は、そんなのじゃない。
「私は…何回も救われてきました!
一人で落ち込んでいる時、いつも助けてくれるのはあなたでした!
誰も気づいてくれなかったのに声をかけてくれたり、
あなたの小説を読むことによって、私は元気になりました。
あなたのおかげで、私は一人でくよくよ悩んで、夜遅くまで泣かなくなりました!
でも…また、くよくよと泣いている私に戻ってしまうところでした。
何も伝えずに、何も気づかないままあなたとさよならするところでした。」
言わなきゃ。
「ずーっと、ずーっと前から、好きでした!」
君は、ずっとこっちをみていた。
いつも笑顔を浮かべている顔も、今日は表情を吸い取られたみたいだった。
「あのさ」
「はい…」
「俺が別のところに行っても、ずっと俺の小説読んでくれる?」
「もちろん」
そして、笑顔を作って、言う。
わざとらしいのなんて、わかってるよ。
「永遠にファンだよ。西田そうたの正体を知ってるのは、私だけだしね。」
そう言うと、君は笑った。
「俺、大人になって、世界中で読まれるような小説を書く。世界中で存在が知られるでっかい作家になる。
そうなったら…俺、顔公開するから。でも、その前に…また、相葉さんのための小説を書いて、
必ず迎えに行くよ。」
この言葉が聞きたかった。
いや、こんな言葉、聞けるなんて思ったこともなかった。
うれしいけど、かなしい。
当分会えないのだろう。
でも、約束した。
また会える。
ちょっと待つだけだ。
私の初めてで、忘れられない恋は
まだ始まったばかりだ。

バスが来た。
あなたは少し笑って、
「待っててね」
と言った。

そうして、あなたは去って行った。
予定より15分遅いバスに乗って。

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どしゃぶりのバス停で 16

雨が降っている。
今日は、伊藤君が発つ日。
あの時もらった、『君への物語』。
そのあとがきを、気分を紛らわすために読む。
あっ。
「この短編集は、あるひとりの女の人への作品なんです」
「そろそろお別れしちゃうんです、でも、僕はその人が好きなんです」
「きっとその人は気づいていないんです。僕が西田そうただっていうことを」
「こういう時だけ、顔を非公開にしているのを後悔しますよね」…

西田そうたも、こんな気持ちになるのか
私と同じじゃないか。
自然に涙がでて来た。
もう会えないのか…お別れなのか…何も言えないまま。
何気無く見た目次のページ。
…あれ?
愛の証
命のトリック
馬車で追いかけて
三日月にさよなら
本当

あいのあかし
いのちのとりっく
ばしゃでおいかけて
みかづきにさよなら
ほんとう

そして

『君への物語』というタイトル。

…!

まさか…いや…
そういえば最初に伊藤君と西田そうたについて喋った時…
「あれ…?」
「ん?」
「…西田そうた、好きなの?」
「え、うん!!」
あのとき、何か様子がおかしかった。

そして、こないだまで、伊藤君の様子がおかしかったのは…それは…ただ単純に引越しが悲しかったからだけじゃない。
気づいてあげられなかったからだ。

そして西田そうたの作品から孤独が伝わってくるのは、友達ができてもすぐに引越しで分かれてしまう寂しさからじゃないか?

これが偶然だなんて思えない。

雨なんか、どうだっていい。今なら間に合う。走れ!!